「造林分収契約」は80年だが、
農地や山林などの相続手続きを行っていない人たちが28万人に上ると言っているが、実際はそんなものではない、というのが地方に暮らす者の実感だ。
子供たちが都会へ去り取り残された独居老人が亡くなって、後見人が定めてなく、もちろん遺言状もなく、葬儀が終わると挨拶もそこそこに子供たちは都会へ忙しく帰って行くのを何度も見ている。
農地や山林だけではない、宅地や家までも相続手続きがなされないまま放置されているのも珍しくない。中山間地では家屋敷ですら処分するのに買い手がつかないのは普通のことで、いい年をした子供たちも相続登記などの費用や税負担が新たに生じるのを恐れて手を付けようとしない。
田畑はたちまち荒地となり江戸時代以前の山へと戻り、山林は蔓が伸び放題に荒れ果てる。そうしてはならないと行政も手を入れようとするが、なかなか棚田の耕作を引き受ける酔狂者は現れない。
山林に関しては「造林分収契約」を締結するように森林組合が不在地主を説いて回り、かなり手入れが行き届くようになっているが、契約期間80年満了時にどうなる事やら先行きは真黒だ。
土地登記だけではない。登記簿に関わる各種権利に関しても整備しなければならないだろう。その最大事が「仮登記」の時効だ。登記簿記載事項も最大20年で時効を迎えて、債権者の抹消登記もできるが、所有権移転仮登記に関しては時効はないとされている。
登記簿に記載されている所有者が昭和初期に亡くなっていれば、その当時に記載された抵当権は抹消できるが、仮登記は時効が適用されず抹消できないため、しかるべき手続きを踏まなければならないことになる。
そして鼠算的に増える相続人の同意を得ることが相続登記を困難にさせている。昭和40年か50年代に亡くなった人の土地登記を切り替えようとしても、すでに印鑑を揃えなければならない相続人が30人を超えるのは珍しくない。しかも全国各地に散らばっていることも良くあることだ。土地に高値が付く都会ならいざ知らず、田舎の農地や山林の登記の切り替えに全国を訪ね歩いて相続人から印鑑と印鑑証明をもらうのがいかに困難か、容易に察しがつくだろう。
土地は公序良俗に反しないで10年以上所有していれば土地登記を切り替える権利が生じるとされている。それなら登記簿上の所有者が死亡して20年経過後も登記簿が変更されていない土地に関しては自動的に国のものになるとでもしなければ、いつまで経っても整理はつかないだろう。しいては公共事業の妨げにならないとも限らず、仮登記のまま20年以上も放置されている登記簿の扱いも含めて、速やかに国会は議論して結論を出すべきだ。