トランプ関税の敗者は米国だと舛添氏は云うが。
<トランプ大統領の関税攻勢に世界が翻弄されている。アメリカの同盟国であるヨーロッパや日本、そしてアメリカのライバルの中国は、どう対応するのか。
「トランプの対中関税「145%」が失敗に終わるこれだけの理由…中国よりもアメリカに影響か」と題する論評を掲げて、親中派舛添 要一(国際政治学者)氏は意気軒高だ。しかし私がトランプ関税は中国を世界からデカップリングする手段だと論じたことと、舛添氏が米国への影響が甚大で、米国が自ら蒔いた種を刈ることになる、と予測するのと、どちらが正しいか、それほど時を待たずして結果が出るだろう。
トランプの関税攻勢
アメリカは、中国からの輸入品に145%の関税を課し、報復として、中国はアメリカからの輸入品に125%の関税措置を実行する。世界第一位と第二位の経済大国間の関税戦争である。
中国は、これ以上はもうアメリカの相手はしないと突き放した。
EUは、20%の相互関税は90日間猶予されたものの、10%の相互関税や鉄鋼・アルミニウムや自動車に対する25%の関税は維持されたままである。日本も、EUと同じような状況にある。
石破首相は、赤沢経済再生大臣を対米交渉の責任者に抜擢し、アメリカに派遣する。トランプとどのような「ディール(取引)」をすれば、相互関税の復活を阻止できるのか、明確な方針は決まっていない。
EUもまた同様で、報復関税の実施を一時保留した。ヨーロッパは、安全保障も経済もアメリカに依存しすぎていたことを反省している。安全保障では、防衛費を増やして、アメリカ抜きでもヨーロッパを守る体制を築こうとしている。フランスは自国の核の傘をヨーロッパ全体に広げようとしている。
経済についても、アメリカとの相互依存関係を弱める方向で動き始めた。
では、日本はどうするのか。イギリスやフランスのように核を持っていないし、NATOのように多数の国が参加する集団安全保障機構に加盟しているわけでもない。自立を目指すヨーロッパとは対称的に、日本は対米従属関係を維持していくしかない。アメリカへの従属路線維持が唯一の選択肢である。
トランプの関税がきちんとした経済理論に基づくものではなく、極めて政治性の強い施策である。世界経済を収縮させるし、物価高などアメリカ国民にも多大な負担を強いることになる。
通貨(ドル)、株、債券のトリプル安を引き起こし、慌てたトランプ政権は、相互関税の90日間停止を決めた。とくに、国債価格の下落は、長期金利を上昇させ、アメリカの威信の低下につながるため、急遽方針を転換したのである。
さらに、4月11日には、スマホなど電子機器類を相互関税の対象から外すことを決めた。これらの機器は、中国からの輸入に大きく依存しており、相互関税を実施すれば米国内での価格が高騰する。そうなると、アメリカ国民の不満が高まって、トランプ政権の支持率が低下するからである。まさに、勝手気ままな政治的な関税火遊びである。
ところが、13日、トランプは、スマホなどの電子機器の関税をやめるわけではなく、相互関税とは別の関税をかけると、また態度を変えた。ラトニック商務長官によると、1、2ヵ月以内に、半導体を対象にした新たな関税を導入するという。
中国に対しては、協議に応じる姿勢を見せず、報復関税で応じたということで、100%を超える関税を課したのであるが、中国はどう対応するのだろうか。
中国は周到に準備
私は、昨年末に訪中し、習近平政権の幹部(政治局員)たちと議論したが、彼らは、大統領選挙でのトランプ勝利を予想して、1年前から周到な準備を進めていたという。
第一に、対米輸出比率を引き下げる努力である。中国の輸出に占めるアメリカの比率は、2017年の16.4%をピークに、2024年には11.2%にまで低下している。このように、対米依存度を減らしている。2023年の対米輸出額は4272億ドルと、前年比で20.3%も減っている。
第二に、中国は、アメリカからの攻勢になれているし、耐えることも知っている。
スマホなどを製作する先端企業、ファーウェイ(華為)は、女性の副社長が身柄を拘束されたり、アメリカ市場から締め出されたりするなどの苦労をしたが、アメリカに頼らないという自立精神で巻き返しをはかり、見事に再生した。そして、スマホで世界最先端を行くのみならず、自動車分野にも進出している。
その同じ流れが、AIのディープシークである。中国の大学でのみ学んだ若者たちが、優れたAIを、しかも破格の安い開発費で完成させたのである。
アメリカに頼らずに、自立する、それこそが中国の方針となっている。中国は、2015年5月に「中国製造2025」という産業政策を発表した。それは、中国が2025年までに世界の製造強国となることを目標にしたもので、高速鉄道、EV、ドローン、リチウム電池など多くの分野での開発を掲げた。
この政府によるハイテク分野の振興計画は、目標をほぼ達成している。そして、関税や制裁は、中国を抑え込む効果が全くなかったことを示したものだと、中国は豪語している。
貿易品目で見るとアメリカが不利
第三に、貿易品目を見ると、関税戦争は、中国よりもアメリカに影響が大きいことが分かる。
中国は、アメリカから大豆、トウモロコシ、飛行機、石油・天然ガス、集積回路、半導体、自動車などを輸入している。しかし、中国は国産航空機を量産し始めており、ボーイング社などへの依存を減らしている。また、石油の輸入は、ロシアからの輸入が第一位であり、アメリカからは10位にすぎない。さらに、中国の自動車は約6割が国産であり、アメリカ車は6.0%のみである。
一方、アメリカは、中国からパソコン、スマホなどの電子機器、リチウム電池、コンテナ、照明器具、玩具などを輸入している。スマホなどの相互関税を止めたように、アメリカへの打撃が大きい。また、玩具はほぼ中国製であり、関税によって価格が上昇すると、子どもたちの誕生日やクリスマスに際しての出費が嵩むことになり、アメリカ国民の不満が高まるであろう。
以上、三つの理由から、高率の対中関税は長続きするものではない。
軍拡と多角的外交
アヘン戦争以来、列強に苦しめられてきた中国は、1949年に中華人民共和国を建国した。この屈辱の100年の前は、中華帝国は世界一の大国であった。
建国100年の2049年には、中国を世界一の大国に再興することが習近平の夢である。
そのためには、経済、技術で世界に抜きん出ることが肝要である。そして、軍事でも強国にならなければならない。
中国は、凄まじい勢いで軍備を拡張している。核兵器の数では、アメリカやロシアが約6千発を保有しているのに対し、中国は500発であるが、急速に核兵器の数を増やしている。また、通常兵器についても、航空母艦の建造など、アメリカに追いつこうとしている。
さらに、外交戦略でも、一帯一路構想のように、多角化を図っている。トランプの関税攻勢に困惑している世界中の国々がアメリカへの反感を強めている。それに乗じて、中国は親中国の国を増やそうとしている。
習近平は、4月14〜18日に、ベトナム、マレーシア、カンボジアを訪問する。トランプが課す相互関税は、ベトナム46%、マレーシア24%、カンボジア49%である。中国は、ASEAN諸国を取り込もうとしているのである。
したたかな外交もまた、中国が世界一になるための戦略である>()以上「現代ビジネス」より引用)
アメリカは、中国からの輸入品に145%の関税を課し、報復として、中国はアメリカからの輸入品に125%の関税措置を実行する。世界第一位と第二位の経済大国間の関税戦争である。
中国は、これ以上はもうアメリカの相手はしないと突き放した。
EUは、20%の相互関税は90日間猶予されたものの、10%の相互関税や鉄鋼・アルミニウムや自動車に対する25%の関税は維持されたままである。日本も、EUと同じような状況にある。
石破首相は、赤沢経済再生大臣を対米交渉の責任者に抜擢し、アメリカに派遣する。トランプとどのような「ディール(取引)」をすれば、相互関税の復活を阻止できるのか、明確な方針は決まっていない。
EUもまた同様で、報復関税の実施を一時保留した。ヨーロッパは、安全保障も経済もアメリカに依存しすぎていたことを反省している。安全保障では、防衛費を増やして、アメリカ抜きでもヨーロッパを守る体制を築こうとしている。フランスは自国の核の傘をヨーロッパ全体に広げようとしている。
経済についても、アメリカとの相互依存関係を弱める方向で動き始めた。
では、日本はどうするのか。イギリスやフランスのように核を持っていないし、NATOのように多数の国が参加する集団安全保障機構に加盟しているわけでもない。自立を目指すヨーロッパとは対称的に、日本は対米従属関係を維持していくしかない。アメリカへの従属路線維持が唯一の選択肢である。
トランプの関税がきちんとした経済理論に基づくものではなく、極めて政治性の強い施策である。世界経済を収縮させるし、物価高などアメリカ国民にも多大な負担を強いることになる。
通貨(ドル)、株、債券のトリプル安を引き起こし、慌てたトランプ政権は、相互関税の90日間停止を決めた。とくに、国債価格の下落は、長期金利を上昇させ、アメリカの威信の低下につながるため、急遽方針を転換したのである。
さらに、4月11日には、スマホなど電子機器類を相互関税の対象から外すことを決めた。これらの機器は、中国からの輸入に大きく依存しており、相互関税を実施すれば米国内での価格が高騰する。そうなると、アメリカ国民の不満が高まって、トランプ政権の支持率が低下するからである。まさに、勝手気ままな政治的な関税火遊びである。
ところが、13日、トランプは、スマホなどの電子機器の関税をやめるわけではなく、相互関税とは別の関税をかけると、また態度を変えた。ラトニック商務長官によると、1、2ヵ月以内に、半導体を対象にした新たな関税を導入するという。
中国に対しては、協議に応じる姿勢を見せず、報復関税で応じたということで、100%を超える関税を課したのであるが、中国はどう対応するのだろうか。
中国は周到に準備
私は、昨年末に訪中し、習近平政権の幹部(政治局員)たちと議論したが、彼らは、大統領選挙でのトランプ勝利を予想して、1年前から周到な準備を進めていたという。
第一に、対米輸出比率を引き下げる努力である。中国の輸出に占めるアメリカの比率は、2017年の16.4%をピークに、2024年には11.2%にまで低下している。このように、対米依存度を減らしている。2023年の対米輸出額は4272億ドルと、前年比で20.3%も減っている。
第二に、中国は、アメリカからの攻勢になれているし、耐えることも知っている。
スマホなどを製作する先端企業、ファーウェイ(華為)は、女性の副社長が身柄を拘束されたり、アメリカ市場から締め出されたりするなどの苦労をしたが、アメリカに頼らないという自立精神で巻き返しをはかり、見事に再生した。そして、スマホで世界最先端を行くのみならず、自動車分野にも進出している。
その同じ流れが、AIのディープシークである。中国の大学でのみ学んだ若者たちが、優れたAIを、しかも破格の安い開発費で完成させたのである。
アメリカに頼らずに、自立する、それこそが中国の方針となっている。中国は、2015年5月に「中国製造2025」という産業政策を発表した。それは、中国が2025年までに世界の製造強国となることを目標にしたもので、高速鉄道、EV、ドローン、リチウム電池など多くの分野での開発を掲げた。
この政府によるハイテク分野の振興計画は、目標をほぼ達成している。そして、関税や制裁は、中国を抑え込む効果が全くなかったことを示したものだと、中国は豪語している。
貿易品目で見るとアメリカが不利
第三に、貿易品目を見ると、関税戦争は、中国よりもアメリカに影響が大きいことが分かる。
中国は、アメリカから大豆、トウモロコシ、飛行機、石油・天然ガス、集積回路、半導体、自動車などを輸入している。しかし、中国は国産航空機を量産し始めており、ボーイング社などへの依存を減らしている。また、石油の輸入は、ロシアからの輸入が第一位であり、アメリカからは10位にすぎない。さらに、中国の自動車は約6割が国産であり、アメリカ車は6.0%のみである。
一方、アメリカは、中国からパソコン、スマホなどの電子機器、リチウム電池、コンテナ、照明器具、玩具などを輸入している。スマホなどの相互関税を止めたように、アメリカへの打撃が大きい。また、玩具はほぼ中国製であり、関税によって価格が上昇すると、子どもたちの誕生日やクリスマスに際しての出費が嵩むことになり、アメリカ国民の不満が高まるであろう。
以上、三つの理由から、高率の対中関税は長続きするものではない。
軍拡と多角的外交
アヘン戦争以来、列強に苦しめられてきた中国は、1949年に中華人民共和国を建国した。この屈辱の100年の前は、中華帝国は世界一の大国であった。
建国100年の2049年には、中国を世界一の大国に再興することが習近平の夢である。
そのためには、経済、技術で世界に抜きん出ることが肝要である。そして、軍事でも強国にならなければならない。
中国は、凄まじい勢いで軍備を拡張している。核兵器の数では、アメリカやロシアが約6千発を保有しているのに対し、中国は500発であるが、急速に核兵器の数を増やしている。また、通常兵器についても、航空母艦の建造など、アメリカに追いつこうとしている。
さらに、外交戦略でも、一帯一路構想のように、多角化を図っている。トランプの関税攻勢に困惑している世界中の国々がアメリカへの反感を強めている。それに乗じて、中国は親中国の国を増やそうとしている。
習近平は、4月14〜18日に、ベトナム、マレーシア、カンボジアを訪問する。トランプが課す相互関税は、ベトナム46%、マレーシア24%、カンボジア49%である。中国は、ASEAN諸国を取り込もうとしているのである。
したたかな外交もまた、中国が世界一になるための戦略である>()以上「現代ビジネス」より引用)
「トランプの対中関税「145%」が失敗に終わるこれだけの理由…中国よりもアメリカに影響か」と題する論評を掲げて、親中派舛添 要一(国際政治学者)氏は意気軒高だ。しかし私がトランプ関税は中国を世界からデカップリングする手段だと論じたことと、舛添氏が米国への影響が甚大で、米国が自ら蒔いた種を刈ることになる、と予測するのと、どちらが正しいか、それほど時を待たずして結果が出るだろう。
確かに全米で反トランプデモが行われているが、それは自由な国ならでの政治批判の表れだ。中国でもそうした反習近平デモが各地で起きているが、武装警官隊に鎮圧され、メディアに登場することは滅多にないし、SNSへの書き込みも直ちに削除されているから人の目に触れることは極めて少ない。
だが、実際に未確認情報として中国内から書き込まれるネット情報を見れば、中国社会は末期的様相を呈している。ことに陸上トラック輸送がマヒ状態に陥り、新車販売どころか数千台ものトラックが全国各地の広場に放置されている。
それは陸送物資の不足というより、例えば天津から北京までトラック輸送するのに30万円も経費が掛かるが、それに見合うだけの運賃が手元に入らないため、働くだけ赤字になるためトラック運転手を諦めたというのだ。なぜ30万円もかかるかというと、国道ですら省境はもとより町境にも検問所が出来て、好き勝手に警察が「通行料」や「罰金」を徴収するからだという。なぜそうしたことになるかというと、警察官がマトモに給料を貰っていないからだという。つまり中国はもはや法治国家の体をなしていないのだ。
確かに米国はレアアースの大半を中国に依存している。トランプ関税で対中貿易は既に止まっているから、米国内でレアアース不足による問題が顕在化しているのだろうが、そうした報道は今のところマスメディアに登場していない。
他の日用雑貨などは無理して中国から輸入する必要はない。中国も安価にして荷が嵩張る日用雑貨に多額の関税を払ってまで輸出するメリットはない。そのため米国向けのコンテナが中国各地のコンテナ埠頭に山と積みあがっている。米国向け日用雑貨を製造していた中国内の中小零細企業は既に倒産の嵐に見舞われている。
中国はトランプ氏が狂ったようにトランプ関税を世界各国に宣言した時、好機到来と捉えた。対中デカップリングではなく、米国自らが米国を世界からデカップリングする、と見た。だから直ちにEU諸国や日本に王毅氏など政府高官を派遣して関係改善を図ろうとした。ことにEVを集中豪雨的に輸出して顰蹙を買い関係が悪化していたEU諸国との関係改善を試みた。
しかしEU諸国は中国の誘いに乗らなかった。日本は石破自公政権そのものが親中派政権でどうにでもなると考えているのか、日本国内に貿易会社を設立して、日本を経由地として米国に輸出しようとする中国企業が日本で法人設立しているのを放置している。そのことが日本に災いをもたらすのは火を見るよりも明らかだが、日本政府は中國人による土地購入はもとより、法人設立まで野放し状態だ。
舛添氏はトランプ関税は失敗に終わる、と予言している。しかし恐らく現実は中国経済崩壊を速める方向で作用するだろう。トランプ関税は最終的に米国消費者が負担することになるが、その前に対米輸出国商品の値上がりにより輸出が止まり、対米貿易黒字を手にすることが出来なくなる。中国の対米輸出は表向き貿易輸出の14%程度だが、それは迂回輸出を含んでいない。
対米迂回輸出はメキシコや香港、さらにはベトナムなど東南アジア諸国からも行われている。だから中国から米国へ輸出される貿易額の実数はなかなか把握できない。しかしトランプ関税以後、中国内トラック運送の90%近くが止まった、という事実は重い。外国企業の多くが展開していた広州や深圳が深刻な不況に見舞われているのはトランプ関税以前からだが、今に到って上海や北京にも火が消えたように不況の波が押し寄せている。オフィスビルの空室率が50%を上回り、飲食テナントの空室率は70%以上と絶望的な数値を示している。もはや中国経済は終わっているが、舛添氏にはその現実が見えないようだ。