東南アジア三ヶ国歴訪は習近平氏が中国の不人気を確認する旅だった。
<何のための東南アジア歴訪
2月にトランプ政権が10%の対中関税を発動して以来、対米交渉はせず、抗議と対抗措置を打つだけという強気姿勢を続けてきた中国の習近平国家主席が、4月9日、追加で145%にまで関税を引き上げられたことを受けて、とうとう動き出した。もちろん、より強気の行動である。
4月11日公開の「習近平、無策と無謀の結果が大誤算…!トランプ関税125%がもたらす『中国経済の絶望』」で既に解説したように、習主席は、国内の政治抗争で劣勢に立たされており、国内向けにも「強い指導者」をアピールするために対外強硬姿勢を示さねばならない事情がある。だが、それだけでは、結局、習主席の独りよがりに終わることになる。
4月14日から18日までの5日間、習主席はベトナム・マレーシア・カンボジアの東南アジアカ国を歴訪した。今年に入ってからの習主席の初めての外遊である。史上最大規模の米中貿易戦争が勃発し、この3カ国も米国の相互関税発動(90日間休止)の対象となっている。習主席と中国の最大の外交目標はすなわち、訪問先の国々と抱き込んでトランプ政権の相互関税政策に共同で対抗し、「対米共闘体制」の構築を目指すことであった。
習主席は歴訪先の各国で、トランプ政権による相互関税の発動を「一方的ないじめ行為(覇凌行為)」だと非難した上で、各国に、共同で反対・対抗するよう呼びかけた。
習主席はまた、トランプ関税を「一国主義(単辺主義)」、「覇権主義」だと決めつけ、それに対して「多国間主義」と「自由貿易体制の堅持」を持ち出し、対立軸を明確にした上で各国との共闘戦線作りに強い意欲を示した。
しかし、習主席の歴訪に関する人民日報の公式報道を読み込んでも、習主席の「共闘呼びかけ」に対して3カ国は概ね冷淡にして曖昧な態度を取っていることが分かるのである。
石 平(評論家)氏の「また習近平の一人芝居…「トランプ関税」共闘を訴える東南アジア3ヵ国歴訪が「空振り」に終わった納得の理由」と題する論評を取り上げる。
2月にトランプ政権が10%の対中関税を発動して以来、対米交渉はせず、抗議と対抗措置を打つだけという強気姿勢を続けてきた中国の習近平国家主席が、4月9日、追加で145%にまで関税を引き上げられたことを受けて、とうとう動き出した。もちろん、より強気の行動である。
4月11日公開の「習近平、無策と無謀の結果が大誤算…!トランプ関税125%がもたらす『中国経済の絶望』」で既に解説したように、習主席は、国内の政治抗争で劣勢に立たされており、国内向けにも「強い指導者」をアピールするために対外強硬姿勢を示さねばならない事情がある。だが、それだけでは、結局、習主席の独りよがりに終わることになる。
4月14日から18日までの5日間、習主席はベトナム・マレーシア・カンボジアの東南アジアカ国を歴訪した。今年に入ってからの習主席の初めての外遊である。史上最大規模の米中貿易戦争が勃発し、この3カ国も米国の相互関税発動(90日間休止)の対象となっている。習主席と中国の最大の外交目標はすなわち、訪問先の国々と抱き込んでトランプ政権の相互関税政策に共同で対抗し、「対米共闘体制」の構築を目指すことであった。
習主席は歴訪先の各国で、トランプ政権による相互関税の発動を「一方的ないじめ行為(覇凌行為)」だと非難した上で、各国に、共同で反対・対抗するよう呼びかけた。
習主席はまた、トランプ関税を「一国主義(単辺主義)」、「覇権主義」だと決めつけ、それに対して「多国間主義」と「自由貿易体制の堅持」を持ち出し、対立軸を明確にした上で各国との共闘戦線作りに強い意欲を示した。
しかし、習主席の歴訪に関する人民日報の公式報道を読み込んでも、習主席の「共闘呼びかけ」に対して3カ国は概ね冷淡にして曖昧な態度を取っていることが分かるのである。
和せど同ぜず
人民日報が報じたところでは、トー・ラム・ベトナム共産党書記長との会談で、習主席は「一方的ないじめ行為(覇凌行為)に共同で反対し、自由貿易体制とサプライチェーンの安定を守らなければならない」と語った。だが、それに対し、トー書記長は「ベトナム側は中国と連携し、多国間主義を堅持し、国際貿易のルールを守りたい」と応じたという。また、習主席はファン・ミン・チン・ベトナム首相との会談では「共同で覇権主義、一国主義、保護主義に反対すべきだ」と述べたのに対し、ファン首相は「共同で多国間主義と国際秩序を守りたい」と返答しただけだった。
ここでのポイントは、ベトナム側は中国との連携や「多国間主義の堅持」などを表明しておきながらも、「いじめ行為への反対」や「一国主義への反対」というような強い表現を避けて、「反米色」を意図的に出さなかったことである。
そして人民日報の報道では、アンワル・イブラヒム・マレーシア首相との会談では習主席は、「団結してデカップリングと関税の濫用をボイコットすべきだ」と、かなり露骨な対米共闘を呼びかけたのに対し、アンワル首相は「われわれは一方的に関税をかけるようなやり方に賛成せず、中国と協力してリスクに対処していきたい」と応じた。つまりマレーシアは、米国の相互関税発動に対して「反対」ではなく、「賛成しない」という弱い言葉で態度を表明する一方、習主席からの「ボイコット」の呼びかけを完全に無視している。
最後、フン・マネット・カンボジア首相との会談で習主席は、「あらゆる一方的ないじめ行為に反対し、真の多国間主義を堅持しなければならない」と述べたのに対し、フン首相は、「中国はリーダーシップを発揮し世界の安定維持に寄与している。カンボジアは中国と協力し、両国の共通した利益を守る」と応じたという。やはりここでも、カンボジアは中国を持ち上げて習主席を喜ばせながらも、米国を敵に回すような表現を極力避けていることが分かる。
人民日報が報じたところでは、トー・ラム・ベトナム共産党書記長との会談で、習主席は「一方的ないじめ行為(覇凌行為)に共同で反対し、自由貿易体制とサプライチェーンの安定を守らなければならない」と語った。だが、それに対し、トー書記長は「ベトナム側は中国と連携し、多国間主義を堅持し、国際貿易のルールを守りたい」と応じたという。また、習主席はファン・ミン・チン・ベトナム首相との会談では「共同で覇権主義、一国主義、保護主義に反対すべきだ」と述べたのに対し、ファン首相は「共同で多国間主義と国際秩序を守りたい」と返答しただけだった。
ここでのポイントは、ベトナム側は中国との連携や「多国間主義の堅持」などを表明しておきながらも、「いじめ行為への反対」や「一国主義への反対」というような強い表現を避けて、「反米色」を意図的に出さなかったことである。
そして人民日報の報道では、アンワル・イブラヒム・マレーシア首相との会談では習主席は、「団結してデカップリングと関税の濫用をボイコットすべきだ」と、かなり露骨な対米共闘を呼びかけたのに対し、アンワル首相は「われわれは一方的に関税をかけるようなやり方に賛成せず、中国と協力してリスクに対処していきたい」と応じた。つまりマレーシアは、米国の相互関税発動に対して「反対」ではなく、「賛成しない」という弱い言葉で態度を表明する一方、習主席からの「ボイコット」の呼びかけを完全に無視している。
最後、フン・マネット・カンボジア首相との会談で習主席は、「あらゆる一方的ないじめ行為に反対し、真の多国間主義を堅持しなければならない」と述べたのに対し、フン首相は、「中国はリーダーシップを発揮し世界の安定維持に寄与している。カンボジアは中国と協力し、両国の共通した利益を守る」と応じたという。やはりここでも、カンボジアは中国を持ち上げて習主席を喜ばせながらも、米国を敵に回すような表現を極力避けていることが分かる。
トランプには反対でも中国と共闘を組むつもりはない
習主席は至る所で「いじめ行為(覇凌行為)」という際どい表現を用いて痛烈な米国批判を展開しているのに対し、彼と会談した各国首脳の口からはそれが吐かれることは一切なく、各国の中国との共同声明においてもこのような表現は全く出てこなかった。
また習主席からの、米国の「一国主義、覇権主義」に対する「共闘呼びかけ」に対しても、各国の反応は習主席の熱意との間にかなりの温度差があった。これは、会談に関する中国側の公式発表からもよく分かる。
習主席は「一方的ないじめ行為に共同で反対」との旗印を掲げて意気揚々と東南アジア3カ国に乗り込んで、「対米共闘戦線」の構築を企んでいたが、結果的には、その「旗印」自体が3カ国に完全無視されただけでなく、米国の相互関税への反対姿勢の強さにおいては、中国と3カ国との間に明確な温度差のあることが逆に明らかになったのだ。
3カ国に対し、対中国ほどではないにせよトランプ関税が引き上げられたのは、中国からの迂回輸出を阻止する目的がある。トランプ関税が中国を主要な標的にしているとすれば、中国と一心同体と見られることは米国からのさらなる制裁を招く可能性もある。
結局、3カ国のいずれも米国から大きな貿易黒字を稼いでいるから、誰も「大の得意様」の米国と敵対することはしたくない。世界中のほとんどの関係国と同様、3カ国はむしろ、米国との交渉で相互関税の引き下げを大いに期待している。中国の「経済属国」となっているカンボジアでさえ、やはり中国との対米共闘を極力避けたい。習近平中国に付き合って米国と徹底的に喧嘩するような国はどこにもないのである。
そういう意味では、習主席の「対米共闘戦線結成」は最初から徒労に終わる運命なのである>(以上「現代ビジネス」より引用)
習主席は至る所で「いじめ行為(覇凌行為)」という際どい表現を用いて痛烈な米国批判を展開しているのに対し、彼と会談した各国首脳の口からはそれが吐かれることは一切なく、各国の中国との共同声明においてもこのような表現は全く出てこなかった。
また習主席からの、米国の「一国主義、覇権主義」に対する「共闘呼びかけ」に対しても、各国の反応は習主席の熱意との間にかなりの温度差があった。これは、会談に関する中国側の公式発表からもよく分かる。
習主席は「一方的ないじめ行為に共同で反対」との旗印を掲げて意気揚々と東南アジア3カ国に乗り込んで、「対米共闘戦線」の構築を企んでいたが、結果的には、その「旗印」自体が3カ国に完全無視されただけでなく、米国の相互関税への反対姿勢の強さにおいては、中国と3カ国との間に明確な温度差のあることが逆に明らかになったのだ。
3カ国に対し、対中国ほどではないにせよトランプ関税が引き上げられたのは、中国からの迂回輸出を阻止する目的がある。トランプ関税が中国を主要な標的にしているとすれば、中国と一心同体と見られることは米国からのさらなる制裁を招く可能性もある。
結局、3カ国のいずれも米国から大きな貿易黒字を稼いでいるから、誰も「大の得意様」の米国と敵対することはしたくない。世界中のほとんどの関係国と同様、3カ国はむしろ、米国との交渉で相互関税の引き下げを大いに期待している。中国の「経済属国」となっているカンボジアでさえ、やはり中国との対米共闘を極力避けたい。習近平中国に付き合って米国と徹底的に喧嘩するような国はどこにもないのである。
そういう意味では、習主席の「対米共闘戦線結成」は最初から徒労に終わる運命なのである>(以上「現代ビジネス」より引用)
石 平(評論家)氏の「また習近平の一人芝居…「トランプ関税」共闘を訴える東南アジア3ヵ国歴訪が「空振り」に終わった納得の理由」と題する論評を取り上げる。
習近平氏の東南アジア三ヶ国歴訪の成果がなかったのは訪問に出かける前から分かっていたことだ。なぜなら、東南アジア諸国は散々中国禍に見舞われているからだ。今さら「団結してトランプ関税に対抗しよう」と持ち掛けられても即座に「イエス」と返答するはずがないからだ。
ことにベトナムは南シナ海の領有権問題で中国とは衝突紛争さえ起こした間柄だ。その際、ベトナムの警備艇は沈没させられている。マレーシアは全人口の20%以上を中国人が占めているが、彼らは習近平氏に忠誠を尽くす中国人とは言い難く、むしろ自由を求めて中国の地を去った人たちだ。カンボジアは貿易・投資の両面で最も重要な戦略的・経済的パートナーだ。 今後も安定的に資金、技術、ノウハウの提供を期待できる唯一のビジネスパートナーとして期待を寄せる。 その一方、中国にとってカンボジアは、ASEANにおける「橋頭堡(ほ)」、また一帯一路政策のパートナーとして重要な位置を占めている。そのため習近平氏は三ヶ国歴訪の中でカンボジアに最も期待していただろうが、フン・セン大統領やフン・マネット首相は習近平氏に色よい返事をしなかった。
その理由はベトナムなどと同様にカンボジアもトランプ関税90日間の猶予期間を適用され、対中強硬姿勢とは一線を画しているからだ。しかもカンボジアは従来から親日国で、日米交渉の成り行きを見守っている。そのため習近平氏の「対米共闘戦線結成」提案に乗るわけにはいかなかった。
かくして、習近平氏は失意のうちに東南アジア三ヶ国歴訪から帰国した。彼を待ち受けているのはトランプ関税による事実上の対米貿易停止だ。その影響は甚大で、海上輸送の90%が止まったと云われている。日本のマスメディアは中国の対米輸出割合は全貿易の14%程度だから中国経済に大した影響はないと報じているが、一時トランプ政権下の貿易制裁により、中国は対抗措置として対米迂回貿易網を構築していた。
その最たるものが香港であり、メキシコであり東南アジア諸国だ。しかしトランプ氏はそうしたことは百も承知で、直接中国からの輸出貿易物資のみならず、中国船籍だけでなく中国製船舶の港湾使用料を引き上げた。もちろん迂回貿易も潰しにかかり、ことにベトナムは中国の迂回貿易要請に断固として乗らなかったようだ。
未確認情報では中国内で五万人規模のデモが起きたという。いや、デモというよりも暴動というべきか。当局は警察隊で対処しようとしたようだが、パトカーに火炎瓶を投げられて炎上する事態に到り、公安警察を大量動員して鎮圧したようだ。
例によって厳格な情報統制により正確な場所やデモの経緯は判然としないが、民衆は反習近平を叫んでいたという。しかし外国投資が撤退し、外国企業が相次いで引き上げ、そしてトランプ関税により日用雑貨を製造していた零細中小企業が操業停止すると、ついに中国民の多くが収入の道を断たれて飢え始めた。しかし、そうした絶望的な中国民の現状を日本のマスメディアは全く報道しない。おそらく日本だけではなく、国際的に中国の飢餓地獄寸前の状況は配信されてないのだろう。習近平氏は絶望的な気持ちで三ヶ国歴訪の旅を過ごしていたのか、同行した習近平氏の娘が「父は引退するつもりだ」と漏らしたという未確認情報まである。
習近平時代はいよいよ終焉を迎えているようだが、その後の中国が迎えるのは全土に広がる飢餓地獄と暴動ではなく、速やかな民主政権への政権移動であって欲しい。統制経済は限りなく腐敗し、ついには国家崩壊を迎える、という壮大な実験はソ連の崩壊で人類は経験している。その追体験を中国は行っているだけだ。これほど愚かなことはない。速やかに民主化すべきだが、中国共産党が利権に塗れて蓄財して来た成功体験の夢を追い続けるうちは、中国民が飢餓地獄の鳥羽口に立たされている実態が見えないのだろうか。そうだとしたら、中国の明日は国内大騒乱があるだけだ。