トランプ関税の「落としどころ」は。

<東アジアで関税が製造業の基盤作りに役立った事例はあるが、そもそもの前提がアメリカと異なっていることにトランプは気づいていないようだ>

 トランプ米大統領が「相互関税」を発表したことを機に、アメリカでは関税が自国にもたらし得る深刻な悪影響が議論されている。1930年のスムート・ホーリー法の失敗など過去の経験も引き合いに出される。
 一方で東アジアには、製造業の強固な基盤を築くために関税をうまく利用してきた歴史がある。しかし東アジア(特に韓国)で成功したやり方と、トランプ政権が取ろうとしている手法には重要な違いがある。
 まず、韓国の関税は「非対称的」なものだった。輸出産業として促進しようとした家電製品などの消費財には高関税を課したが、製造業に必要な機械などの資本財には低い関税を適用した。この非対称の関税と低賃金の組み合わせがなければ、韓国は低コストの製造拠点という地位を確立できなかったかもしれない。
 それに対して、アメリカは既に労働コストが高い。そこに幅広い品目を対象とした高関税が加われば、事業を行う上でコストが極めて高くつく国になる。事実、一部の韓国企業はコスト高に耐えかねて、アメリカに新工場を設立する計画を断念したと報じられている。
 トランプ関税は国内の製造業に対外直接投資(FDI)を呼び込むどころか、その妨げになっているのだ。米政権は国別の関税率を算出する際、FDIを考慮する必要がある。貿易赤字から対象国のFDIを引けば、FDIが多いほど関税は低くなる。
 とはいえ、関税自体はパズルの一部でしかない。韓国で製造業の基盤を築いた戦略におけるもう1つの重要な要素は、金利の抑制と製造業向けの低金利融資の割り当てだ。民間投資が確実に製造業に流れるようにしたのだ。
 アメリカの場合、たとえ低金利を維持し、製造部門により多くの資金が流れるようにしたとしても、製造部門の長期的な競争力を確保するのは容易ではないだろう。だが韓国は閉鎖的ともいえる金融システムと、政府の厳しい監視下にある「財閥」が支配するビジネス環境を活用することによって、これを確保した。
 家族企業である財閥は、長期的な視点を持つ傾向がある。韓国政府は、財閥が国内市場の保護によって得られた余剰利益を長期的な固定資本投資に充てるようにし、一方で金融部門にも長期的なアプローチを促した。これにより現代自動車のような大企業はその利益を、より安価で優れた自動車を国内市場向けに生産するための投資に振り向け、自国には高賃金の雇用を創出することができた。韓国の消費者は関税導入の初期段階では自動車価格の高騰に直面したが、時間がたつにつれて大きな恩恵を受けるようになったのだ。
 しかし株主資本主義が支配するアメリカでは、企業の利益は株主に還元されることが多い。金融主導で短期的な思考を取りがちなアメリカの経済システムの中で、関税による保護によって企業にもたらされる余剰利益が製造業への長期的な投資につながるとは考えにくい。
 トランプ政権が製造業の再建に本気で取り組むなら、特定の部門に焦点を絞り、政策的手段を使って必要な資源のコストを引き下げ、場合によっては直接投資を行うべきだ。それによって、経済と安全保障の両面に重要な利益をもたらす知識集約型の産業を育成できるかもしれない。
 トランプ政権が現在のアプローチに固執すれば、アメリカは製造業大国になれないだけではなく、貿易相手国を遠ざけ、国際的な信頼性を失い、世界の安定を脅かすことになるだろう。そのとき一番得をするのは、トランプが「最大の敵」と位置付ける中国だ>(以上「Newsweek」より引用)




米製造業を衰退させ対米投資を妨げるトランプ関税...最後に笑う「あの国」とは」と題してグン・リー(ソウル大学特別名誉教授・経済学)氏がトランプ関税を「米国ファースト」の観点から批判している。
 それは長期的な観点から自国製造業を育成することにトランプ関税は資するのか、という批判だ。トランプ関税は貿易相手国別に「相互間税」を課すとしている。その場合、相手国の輸入品が高価格になり、同業者が米国内にいれば貿易相手国の製造業に打ち勝つことが出来るだろう。

 だが、元々製造業そのものが存在しなかった場合、ゼロから起業しなければならない。当然ながら初期投資をはじめ、製造に必要な部品や素材を供給する協力企業も米国内になければならない。なぜなら部品や素材を貿易によって調達するならトランプ関税を課されるからだ。
 つまりトランプ関税は、そもそも「米国ファースト」に向けた政策になり得ないし、米国の貿易赤字をゼロにするための政策にもなり得ない。ただただトランプ氏が留飲を下げるだけだ。その代わり、貿易輸入品の高騰というインフレ要因になる。そうしたマイナスが大きく現れる、と市場も読んで米国景気の先行き不安から株価や米国ドルが下落している。

 そうした点ではまさにグン・リー氏の論評通りだが、「最後に笑うのはあの国だ」のくだりに関しては論を異にする。グン・リー氏は「トランプ政権が現在のアプローチに固執すれば、アメリカは製造業大国になれないだけではなく、貿易相手国を遠ざけ、国際的な信頼性を失い、世界の安定を脅かすことになるだろう。そのとき一番得をするのは、トランプが「最大の敵」と位置付ける中国だ」と結論付けているが、中国は最も必要とする半導体を手に入れる道をトランプ関税により断たれる。なぜなら依然として米国は半導体関係では強国だからだ。
 半導体を失えば、中国の先端製品製造も止まる。スマホは云うに及ばず、外国輸出攻勢をかけているジェット戦闘機などの最新兵器も製造できなくなる。もちろん製造拡大を急いでいるミサイルや攻撃ドローンも半導体は欠かせない。

 そして推測の域を出ないが、トランプ関税は対中デカップリング策の手段であって、他の貿易相手国に対しては最終的に「相互間税」のハードルを低く設定するか、あるいは相手国の非関税障壁の撤廃を条件に米国も撤廃するのではないだろうか。
 つまりトランプ関税は対中デカップリングを世界各国に知らしめるための広報手段だった、と見るべきではないだろうか。米国は自由主義国であり、政治家は選挙を気にしないわけにはいかない。選挙の前の物価高騰や景気悪化などは政権を司る者に取ってタブーだ。そうした常識をトランプ氏も持ち合わせている、と考えるべきだろう。中間選挙で勝たなければ残り二年間はレームダックとなり、ホワイトハウスに引き籠らなければならなくなる。それは派手好みのトランプ氏にとって死ぬほど辛いだろう。だから、トランプ関税はブラフだと、私は云うのだ。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。