トランプ氏の様々な提案は米国が自由主義諸国の盟主を降りる予告なのか。

トランプへの報復見せる欧州
 トランプ大統領は前政権時代から、北大西洋条約機構(NATO)脱退を示唆するなど、欧州同盟諸国に対する批判を繰り返してきた。だが、「トランプ2.0」がスタートして以来、それがさらにヒートアップしてきている。
 今回大統領は就任早々に、「グリーンランド買収」構想を打ち上げ、デンマーク国民の怒りをかきたてたほか、ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、プーチン大統領の肩を持つ一方、ウクライナのゼレンスキー大統領批判を行い、西欧諸国に波紋を広げた。
 また、バンス副大統領が去る2月14日、米欧間の安保対話「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)で行った激しい欧州批判にも各国が一斉反発するなど、米欧間の対立を一層深める事態となっている。
 とくにバンス氏は同会議席上、「欧州にとっての最大のチャレンジは、(ロシアなど)外的脅威ではなく、欧州の内部的民主主義体制の劣化だ」「欧州諸国は、米国と共有する核心的価値観から遊離している」「欧州における選挙制度、市民権の実態、言論の自由は憂慮の対象」などと高飛車な批判を繰り返した。
 これに対し、ショルツ独首相がただちに「内政干渉は断じて許しがたい」と猛反発したほか、出席したフランス、イタリア、フィンランド各国外相も一斉に、バンス批判のコメントを発表した。英BBCはニュース解説で「バンスの居丈高な欧州批判は、安保面のみならず、文化、社会面にまで踏み込んでおり、米欧間亀裂の深刻さの象徴だ」と報じた。
 さらにバンス氏の対欧軽視姿勢は、その後のホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)における対イエメン反政府勢力攻撃作戦に関する事前協議の際にも明らかにされた。
 米誌「The Atlantic」編集長が暴露したもので、協議の中でバンス氏は「欧州諸国の利益確保のためにわが国納税者の浄財を使いたくない」「欧州諸国は貿易の40%をスエズ運河の安全通航に依存しているが、わが国はたったの3%だ」などとして、米国による外国紛争関与への懐疑的姿勢を打ち出した。
 その後も、3月に入り、トランプ政権は日欧はじめ各国に対する突飛な関税措置を相次いで打ち出し、経済、金融面で世界を大混乱に陥れている。このうち欧州諸国に対しては、先月、一律20%課税が打ち出された。
 これに反発した欧州連合(EU)は去る9日、ただちに蔵相会議を開催、報復措置として同月15日から対米製品に対する20%の「相互関税」措置を発動することを決定した。トランプ政権に融和的姿勢を見せているハンガリーを除く26カ国がこれを支持した。
 この新たな対米関税は、とくにフロリダ、ジョージア、アラバマといった共和党支持基盤の各州から出荷される鶏肉、米、フルーツ、トウモロコシ、繊維製品、二輪車、電気器具などの産物、製品を主な対象としており、“対トランプ報復”の色彩を濃くしている点に特徴があった。
 その後EUとしては、トランプ政権が中国以外のほとんどの国に対する追加関税の「90日間停止」を発表したのを受けて、報復課税を当面見合わせたが、今後、米側の出方次第では、「相応の対応措置をとる」との強気の姿勢を崩していない。

ロシアの思うツボに
 さらに、欧州諸国の中では、「汎大西洋関係(trans-Atlantic relationship)の終焉」論さえ出始めている。イタリアのナタリエ・トッチ「国際問題研究所」所長は、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで「米欧は大戦後、永年にわたり安保、経済面含め信頼と安定した相互依存関係に支えられてきた。しかし、トランプ政権は一方的に欧州との関係を棄損しつつあり、相互信頼も劣化している」と警告を発している。
 また、EU安全保障関係者の間では、「もはや米国は信頼できる同盟国ではなく、“離婚”もやむを得ない」との悲観論も台頭しつつある。EUが今年に入り、防衛力強化めざし加盟国全体として8650億ドルの追加支出方針を打ち出したのも、こうした流れに沿ったものだ。
 しかしその一方で、米軍事力抜きでの独自防衛能力にも限界があることは、ウクライナ戦争ひとつとっても明白だ。
 ロシアのウクライナ侵攻以来、現在に至るまでの米国の対ウクライナ軍事、経済両面の支援総額は1828億ドル(米国防総省データ)に達しているのに対し、EU全体の支援総額は1450億ドル(EU事務局公表)となっており、もし、米国が完全に援助を停止した場合、欧州単独ではウクライナを支えきれず、戦況は劇的にロシア側に有利となることは目に見えている。米欧の離間加速は、まさにロシア側の思うツボだ。
 また、欧州諸国の間では、英国のリーブス財務相が去る9日、インドのシタラマン財務相との会談で、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を加速させるなど、米国以外の国との自由貿易協定締結の動きが活発化しつつある。
 しかし、EUや英国にとって、米国は依然として最大輸出国であることに変わりはなく、今後も米欧離反は賢明な選択とは言い難い。

したたかな中国の動き
 いずれにしても、自由民主主義陣営が今、直面する最大の問題は、こうした点も含めグローバルな戦略観がほとんど欠落したトランプ政権の近視眼的“ディール外交”であることに変わりはない。
 大統領が繰り返し「NATO脱退」をほのめかし、欧州諸国や日韓両国など同盟諸国の防衛努力に強い不満を表明してきたのも、すべてが金銭的打算に基づいたものであり、自由主義陣営の結束、民主主義の価値などは常に後回しにされてきた。
 それは去る1月20日、国民向けに90分近くにわたり行った「大統領就任演説」の中に、同盟諸国との連帯、関係強化については一言も言及がなく、自国の「黄金時代到来」に向けた米国第一主義の説明に終始したことにも端的に示されている。
 加えて、無視できないのが、いびつなトランプ外交で生じ始めた米欧離間の流れに対応した中国の動きだ。
 習近平国家主席は今月14日、トランプ政権の相互関税発動後、間髪入れず初の外遊先としてベトナム、マレーシア、カンボジアの東南アジア3カ国歴訪に乗り出した。それぞれベトナムは46%, マレーシア24%, カンボジア49%の米国関税の対象国となっており、中国にとって関係テコ入れで恩を売る絶交の機会だ。
 まさにアンソニー・ブリンケン前国務長官が、去る9日、NBCテレビ・インタビューで「現政権の近視眼的アプローチは、協力して問題に対処すべき同盟・友好諸国を米国から遠ざけるだけでなく、中国に近づけている」とまさに警告した矢先だった。
 軍事面でも、中国は今月初め、台湾海峡で「封鎖能力」を検証するための軍事演習、東シナ海での長距離実弾射撃訓練、主要な港湾、エネルギー施設を模擬目標とした精密攻撃の演習など、第2次トランプ政権発足以来、最大規模といわれる示威行動に乗り出しており、今後、トランプ外交が引き起こす国際情勢の混乱を契機に、中国側の挑発的行動にさらに拍車がかかることも予想される。

日本にとっても大きな懸念
 さらに、欧州の米国離れは、日本のアジア太平洋外交にとっても、懸念材料だ。
 岩谷毅外相が去る3日、ベルギー・ブリュッセルで開かれたNATO外相会合に出向き、インド太平洋への「NATO関与強化」をあえて訴えたのも、①トランプ政権下の米国がNATOを軽視しつつある②米国以外のNATO加盟国はロシアの脅威拡大に備え自国防衛能力強化を迫られている③このため今後、英仏独など欧州主要国による対アジア関与が減退しかねない――などの懸念が背景にある。
 日本にとって、増大する中国の脅威に対処するには、米国のみならず「法の支配」や「自由主義経済」の価値観を共有する欧州諸国との関係強化も不可欠だが、米国が対外コミットメントを縮小し、その上にNATO自体もインド太平洋への関与に余力がなくなるとすれば、地域安保は重大な局面を迎えることになりかねない。
 一方、米国にとっても、日欧同盟諸国との関係悪化はけっして歓迎すべきことではない。“唯我独尊”のトランプ外交は根本的に間違っていることは誰の目にも明らかだ。
 この点で、バイデン前政権下で国務副長官を務めたアジア通のカート・キャンベル、同国家安全保障会議(NSC)中国・台湾担当副部長だったラッシュ・ドーシ両氏が最新の「Foreign Affairs」(5-6月号)に寄稿した共同論文は注目に値する。
 両氏は「中国過小評価—なぜ米国は北京の永続的優位性を帳消しにする同盟協力拡大の新戦略が必要か(Underestimating China―Why America Needs a New Strategy of Allied Scale to Offset Beijing’s Enduring Advantages)」の表題の同論文の中で、中国が人口、巨大市場、工業生産能力、IT・ハイテク先端技術開発の急速な発展、軍事力近代化など、量および質両面で「永続的優位性」を保持していることを率直に認めた上で、米国としては、これと対抗するためには、①米国単独での能力には限界がある②とくに「量=scale」の面で、共通の価値観に基づいたアジア・欧州同盟・友好諸国の強靭な結束と一体化による対処が不可欠――などと、具体的事例や数値を駆使して詳しく論じている。
 ただ、「アメリカ・ファースト」に固執し続け、同盟諸国の動揺や混乱をまったく意に介さないトランプ大統領が果たして、こうした警鐘に耳を貸すかどうかは、甚だ疑問と言わざるを得ない>(以上「Wedge」より引用)




米トランプ第二次政権発足以来、米欧間での応酬がエスカレートしつつある。だが、対立の深刻化は、中露両国を利するばかりか、日本外交にとっても痛手となりかねない。」と題する斎藤 彰 (ジャーナリスト)氏の論評には賛同しかねる。
 なぜならトランプ氏独特のブラフをマトモに受け止めているからだ。世界各国を相手に数十%もの関税を課す、というのは狂気の沙汰だ。いかにトランプ氏がイカレているとしても、米国大統領になった人物だ。ある程度の常識を弁えている、と考えるのが普通ではないか。

 しかも一年後に実施される中間選挙で勝利したいと願っているなら、米国民の支持を得られない政策に政権の命運を懸けるとは思えない。トランプ関税をめぐっては、多分にトランプ氏の思い違いがあるようだ。
 たとえば、フォードが米国から海外へ生産拠点を移転すると経営判断した。これにトランプ氏は激怒したようだが、フォードの自動車製造には実に60%も外国で製造された部品の輸入が欠かせない、ということをトランプ氏は知らなかったようだ。例えばEV車製造でもリチウム電池は殆ど輸入に頼っているし、電流制御装置も輸入に頼っている。ガソリン車ならエンジンやトランスミッションなどは外国からの輸入に頼っている。つまりフォードの独自開発力が格段に落ちて、本来の製造業とはかけ離れた「組立工場」に成り下がっていた。

 米国の製造業復活をトランプ氏は目指して「米国ファースト」を掲げたが、長年にわたる「国際分業」により米国内の技術開発力や研究開発力までが外国へ移転してしまったいた。だからトランプ氏がラストベルトの製造業の再生を目指すなら、製造業そのものにテコ入れしなければならなかった。単に安い外国製品をトランプ関税で堰き止めても、米国内に製造業の萌芽すらなければ、まずは製造業の起業から支援しなければならない。
 そこで大事になってくるのは日本の製造業だ。米国と同盟関係にある日本には製造業の基礎となる精密部品を中小零細企業が頑なに守り続け、現在も国内外の大企業に精密部品を供給している。米国は対日関税をゼロにして、日本と米国の貿易障壁をすべて取り払って米国内の製造業に日本国内の製造業と同等の価格で部品供給できるようにすべきだ。

 かつてドイツも精密部品供給の国際的な基地だったが、中国に製造企業を大幅に移転させた結果、ドイツ国内の技術開発力や研究開発力が以前よりも落ちてしまった。だから世界を席巻したベンツやポルシェといったドイツの花型企業すら凋落してしまった。そして中国から製造企業を国内にUターンさせようにも、それが思うに任せなくなっている。ドイツはもう一度ゼロからスタートするつもりで、ドイツは製造業の基礎からやり直すつもりで政府と民間が力を合わせて難局を乗り切らなければならない。元々ドイツには日本の「匠」と良く似たマイスターがいた。彼らの技を蘇らせればドイツは間違いなく復興する。ただ「みどりの党」といった意識高い系の左派活動家に惑わされなければ、という条件が付くが。

 斎藤氏は中国をシタタカだと表現しているが、具体的に何を以てシタタカだというのだろうか。ただ外国の知的財産を奪い、声高に「我が意」を叫んでいるだけではないか。実際に中国の科学技術の程度がいかほどかは2025年4月19日に北京で21体のヒューマノイドロボットによるハーフマラソンが行われたので、それを見れば一目瞭然だ。それは様々な動画でyou tubeにアップされているから、是非ご高覧のほど。
 確かに米国半導体産業などが必要とするレアメタルは中国によって握られている。だからレアメタルを取引材料として中国が米国に譲歩を迫のは火を見るよりも明らかだが、かつて日本が中国からレアメタル制裁を受けたときに、日本は中国のレアメタルを必要としない新技術を開発している。トランプ氏は中国にナキを入れるか、日本に縋りつくか、どちらかの選択肢しかないが、まさか中国にナキを入れることはないだろう。

 ただトランプ政権は世界の覇権国家として、余りに小さなことに拘泥して大きな利益を失おうとしている。ことにバンス氏は酷い。「欧州諸国の利益確保のためにわが国納税者の浄財を使いたくない」「欧州諸国は貿易の40%をスエズ運河の安全通航に依存しているが、わが国はたったの3%だ」などといった発言は米国の品位と尊厳に関わる。
 米国が自由主義諸国の盟主の座を降りる、というのなら、米国が好き放題に使っている国際基軸通貨発行国の座を降りるべきだろう。国連本部もニューヨークから欧州へ移すべきだろう。それらのみならず、米国が発展してきた米国基準の国際的な制度を根本から見直すことにすべきだろう。それでもトランプ政権を米国民は支持するというのだろうか。

 いかに米国と雖も、米国一国だけで成り立つものではない。国際的な協力と協調関係によって成り立っている。しかも、その協力と協調関係において、自由主義諸国と独裁国家との間には明確な乖離がある。トランプ氏がプーチン好みのウクライナ停戦案をゴリ押しするなら、自由主義諸国の方からトランプ案を拒絶するしかない。
 先の大戦の教訓から「軍事力を背景とした国境線の変更を認めない」とする原理を決して歪めてはならない。それを認めたなら、プーチンは今世紀のヒトラーとなって全欧州へ攻め込むだろう。トランプ氏の停戦協議は現代のチェンバレンを演じているだけだ。トランプ関税といい、トランプ氏は先の大戦以後に自由主義諸国が営々として築いて来た国際秩序を一瞬にして崩壊させるものでしかない。そうしたバカげたトランプ氏の提案はすべてトランプ流のブラフであって、実は自由主義諸国に自由のコストについて考えて欲しい、という提案に過ぎなかった、とブラフの手の内を明かして欲しいものだ。

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