いよいよ窮地に追い詰められたプーチンは逃亡するのか。

<2022年10月8日に起きたクリミア大橋の爆発事件に対し、ロシアはウクライナ市街地に連日ミサイルを撃ち込むという残忍な報復攻撃を行った。しかし攻撃は日を追うごとに先細りになり、逆に戦力不足を露呈する結果に終わった。
 加えて、ウクライナは交渉を拒否、先進7カ国(G7)もロシアに対して一層の対抗姿勢を打ち出し、包囲網を狭めた。これによりプーチン氏には、苦境の戦局を打開するための有効な手立てが軍事的にも外交的にもほとんどなくなってきたと言える。

小規模で終わったロシアの反撃
 2022年10月10日から始まったロシアの報復攻撃は、首都キーウをはじめウクライナ全土を対象に行われた。使われたのは、高精度巡航ミサイル「カリブル」や対空用から対地用に変更されたS300などのミサイルと、「カミカゼ」と呼ばれるイラン製の攻撃用ドローンだ。
 10月10日にはミサイル84発、イラン製の攻撃用ドローン24機を撃ち込み、キーウでは2022年2月の侵攻開始時以来最大規模の攻撃となった。しかしその後は日を追うごとにミサイル、ドローンの攻撃数が減っていった。ウクライナ側によると、10月11日にはミサイルとドローンを合わせて28発と大幅に減少した。10月12日には散発的な攻撃はあったもようだが、ウクライナ国防省が数字を出さないほどの小規模だった。
 これは、今年の夏以降指摘されていたロシアのミサイル不足を端的に露呈したものとみられている。西側の経済制裁によって、米欧の精密部品が輸入できなくなったため、主力ミサイルの生産ができなくなり、ロシア軍はミサイルの補充が難しくなっていた。
 事実、今回の報復攻撃以前からロシア軍は、攻撃に使うミサイルを明らかに節約しているとみられていた。2022年8月初めにクリミア半島のロシア軍基地がウクライナのパルチザン攻撃によって初めて攻撃された際も、これに対するミサイルによる報復攻撃の規模はウクライナが想定していた規模より、相当小さかった。
 今回、爆発炎上事件が起きたクリミア大橋は、2014年のクリミア強制併合が成功したシンボルとして、プーチン政権が2019年に完成させた国家的な重要インフラだ。開通時にプーチン氏は自らトラックを運転して橋を渡るデモンストレーションをしており、「プーチンの橋」とも呼ばれている。ウクライナ側は爆発炎上事件への関与を認めていないが、プーチン氏にとって面子を潰されたという意味では、クリミア基地への攻撃以上の屈辱となった。
 プーチン氏としては、国内向けには大規模な報復を実行したことで、ロシア国民に対し「戦果」を久々にアピールする狙いがあったとみられる。同時にウクライナ向けとしては、多くの市民を殺傷するとともに、発電所などのエネルギー関係のインフラを破壊することで国民の抗戦意欲を削り、停戦交渉に応じるよう圧力を掛ける狙いだったとみられている。
 しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は報復攻撃開始直後に出した声明で、2014年のクリミア併合時にロシアに奪われた全領土の武力奪還を目指すことを改めて表明し、ロシアとの交渉を拒否する立場に変わりがないことを強調した。
 またゼレンスキー大統領を招いて緊急首脳会合をオンラインで開催したG7も10月11日、プーチン政権に対して厳しい姿勢をとり、ウクライナへの軍事支援をさらに強める立場を打ち出す声明を発表した。

G7もウクライナへの支援を強める
 この声明のポイントとしては、①プーチン氏を名指して「戦争犯罪」の責任を取らせることを明確にしたこと、②全領土の武力奪還を目指すゼレンスキー大統領の方針を支持する姿勢をより明確に打ち出したことの2点にある。
 とくに②に関して声明は、「国際的に承認された国境内でのウクライナの領土の一体性と主権を完全に支持する」と表明した。2022年9月23日にG7が出した前回の首脳声明が「領土の一体性を維持するウクライナの必要性を支持する」としていたのと比べると、「国際的に承認された国境内」を盛り込んだのが新しい点だ。
 これは、2022年9月末の「住民投票」を経てロシアが併合を宣言したウクライナの東・南部4州に、クリミア半島を合わせた全併合領土の回復を支持することをより明確化したものだ。
 ウクライナは全領土奪還の方針について、2022年8月末の反攻作戦開始前、すでにアメリカのバイデン政権との間では合意していたが、今回G7もウクライナに同調したことになる。これまでロシアとの対決姿勢において、アメリカやイギリスとは異なり、ドイツやフランスに対して不信感を抱いていたゼレンスキー政権は、両国との溝をかなり埋めたことになる。
 同時にこれは、領土や占領地に関してロシア、とくにプーチン政権との交渉を拒否するとしているゼレンスキー大統領の方針をG7として事実上支持することを意味するものだ。
 一方で、この声明内容はプーチン政権にとって大きな打撃となった。プーチン氏は、ロシアとの交渉のテーブルに着くことを拒否しているウクライナの頭越しに、アメリカなどとの間で交渉による何らかの妥協を狙っているからだ。
 インドネシアで2022年11月に開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて、現地でのアメリカ・ロシア首脳会談の開催にロシアが前向きなのもこのためだ。しかしバイデン大統領は10月11日、会談に否定的な考えを示して冷水を浴びせた。アメリカはこれまでも、「ウクライナの頭越しに同国の運命について第三国と協議することはない」とゼレンスキー政権に約束している。
 さらにロシアは、国連でもこれまで以上の孤立を味わうことになった。国連総会(193カ国)が10月12日の緊急特別会合で、ウクライナ東部・南部4州の一方的な併合宣言を「無効」だとする非難決議案を143カ国の賛成で採択した。決議案は欧米諸国や日本などが共同提案したもので、ロシアなど5カ国が反対、中国やインドを含む35カ国が棄権した。

ウクライナへの軍事支援を強めるG7各国
 総会決議に法的拘束力はないが、侵攻直後に141カ国が支持したロシア非難決議を上回る賛成票を得たことになる。ウクライナ領土の併合拡大に対する国際社会の反発を印象付けたものだ。
 先述したG7声明を受け、G7各国はウクライナへの軍事支援でもこれまでより大きく踏み込んだ。バイデン政権はウクライナへの高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」の供与を急ぐ意向を示した。このシステムはワシントンのホワイトハウス防衛にも使われているものだ。今回のロシアの報復攻撃を受け、ウクライナへの軍事支援の質が一歩高まったことを象徴する。キーウなどにウクライナ軍は航空機を対象とした防空システムを保有しているが、対ミサイル防衛システムはこれまで保有していなかった。
 さらにドイツも、ウクライナに防空システム「IRIS-T」4基を供与する方針で、最初の1基をすでに渡したとされる。これまで軍事支援に消極的だったフランスも動き出した。マクロン大統領は2022年10月12日、防空ミサイルシステムを数週間のうちに供与すると明らかにした。供与されるのは短距離対空ミサイル「クロタル」とされている。
 さらにすでに18基を供与した自走砲「カエサル」を6基追加すると表明した。北大西洋条約機構(NATO)も今後、ウクライナへの追加軍事支援を決める予定だ。
 武器供与以外でも、ウクライナ軍はイギリス特殊部隊(SAS)からさまざまな訓練を受けている。SASは旧ソ連軍以来の兵力消耗型の戦法を続けるロシア軍を圧倒する最新の弾力的な戦術をウクライナ軍にもたらしている。キーウの軍事筋は「事実上のウクライナ軍のNATO加盟が実現している」と指摘している。ウクライナのNATO加盟に反対して侵攻を始めたプーチン氏にとって、皮肉な結果になった。
 戦場でもロシア軍は、ウクライナ軍の反攻作戦に押されている。火力面でまだウクライナ軍を上回る東部ドネツク州では、ロシア軍が抵抗を続けて激戦となっているが、東部ルガンスク州や南部ヘルソン、ザポリージャ両州ではウクライナ軍が奪還地域を拡大している。
 反攻作戦の次の標的であるクリミア半島をめぐっては、すでに一部ロシア部隊がクリミア大橋経由ではなく、南部ザポリージャ州に北上して撤退する動きが出ているという。
 ウクライナ軍は反攻作戦開始に当たり、2022年の冬が終わるまでの短期戦で勝利を目指している。本格的な冬を前に、ウクライナの軍事筋は東部を除いて、南部2州やクリミアでは冬季でも攻撃は可能としている。
 同時にウクライナ側はロシア軍兵士に投降を呼び掛け、銃を置かせる作戦を展開している。作戦は「私は生きたい」と名付けられ、ロシア軍兵士の動揺を誘っている。前線の兵士のみならず、「部分的動員」で従軍が決まった男性や兵士の家族からもホットラインに電話が来ているという。
 このように、プーチン政権は軍事的にも外交的にも打つ手がなくなりつつある。米欧はコーナーに追い詰められた感が濃いプーチン氏が、小型核兵器の使用に踏み切る恐れがあると警戒している。バイデン大統領は2022年10月11日の米CNNテレビとのインタビューで、プーチン氏が「核を使わないと思う」と述べて牽制した。しかしその一方でプーチン氏について「理性的な政治家」と述べて、懐柔も図った。

「キューバ危機」型の収束も難しい
 核をめぐるアメリカとロシア間の危機と言えば、1962年のキューバ危機という前例がある。このときは、アメリカとソ連両国指導者がメッセージのやり取りをし、最終的にアメリカがトルコに配備しているミサイルを撤去するという妥協案を提示。これを受け、ソ連がキューバからのミサイル撤去に応じるというギリギリの取引によって戦争を回避した。
 今回はアメリカ政府がクレムリンに対し、核使用の場合は極めて強い報復措置を取ると警告している。キューバ危機のような水面下での事態打開の模索が始まっている可能性も否定できない。しかし、当時と比べ、軍事面での両国の力関係がアメリカ優位に大きく傾いている現状を考慮すれば、バイデン政権が何らかの譲歩をする可能性は低いと筆者はみる。
 仮に戦術核を使ったとしても、アメリカの強力な反撃によってロシアが敗北に追い込まれるのは確実だろう。その意味で、プーチン政権が軍事的に逆転勝利する可能性はほとんどゼロと言っていい。
 一方で、国家存亡の危機時には核を使用するとしてきたプーチン政権が核による行使に踏み切らずに、このまま軍事的に追い込まれ続ければロシア国内で強硬派から批判を受け、権威失墜は避けられないだろう。プーチン氏は軍事・外交的にほぼ「詰んだ」状態と言える>(以上「東洋経済」より引用)




 吉田 成之( 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長)氏が「軍事・外交の両面でほぼ「詰んだ」プーチン大統領核を使っても使わなくても国内外で窮地に」と書くまでもなく、プーチンが窮地に追い詰められているのは誰の目にも明らかだ。一昨日の段階で1ドル120ルーブルに下落しているし、中国もインドも西側諸国の制裁を嫌ってロシア原油の買取を行わなくなっている。
 北朝鮮軍1万5千人を戦争に投入したが、既に全滅したのではないかとの報道から、金正恩氏が激怒しているという。これ以上の「人的支援」を北朝鮮が行うのは不可能だろう。ロシアに深入りすると金正恩氏の独裁体制が揺らぎかねない。

 またシリアのアサド政権が崩壊したのもプーチンにとっては痛い。地中海に睨みを利かせていたシリアのロシア海軍基地が使えなくなり、シリア国内のロシア陸軍基地も使えなくなっているようだ。
 これまで中東の戦火をイランと手を携えてプーチンも支援してきたが、思いの外イスラエル理反撃が激しく、頼みのヒズボラが手を上げてしまった。そうなると、イランもロシア支援どころの騒ぎではなくなる。中国も習近平氏の独裁体制が揺らぎ、国内騒乱の様相を呈しつつある。既に人民解放軍などの軍部は習近平氏のコントロールが効かなくなっているようだ。

 来年1月20日にトランプ氏が米国大統領に再任する。それまでにプーチンは少しでも占領地域を広げたいところだが、却ってウクライナがロシア領内に攻め込み、首都モスクワも攻撃目標になっているという。ロシア市民の人心攪乱を狙ってのものだろうが、プーチンにとってモスクワすらも安全なところでなくなったわけだ。
 最終的に戦況打開のためにプーチンが核兵器を使用するのではないか、と心配する向きもあるようだが、二重の意味でそれはあり得ない。一つは国際社会の猛烈な批判を浴びることにより、プーチンは自らの亡命先を失うことだ。今一つはロシア国民の「失望」を招き、プーチン離れが起きることだ。

 ロシア国民には内なるツァーリズムがあるという。偉大なる指導者にすべてを委ねる、という私たちには理解不能だが、ロシア国民はツァーが統治する、絶対的なツァーを支持する、という絶対者信仰だ。だから狂気じみた独裁者がロシアには出現する。ドイツでは一人の絶対的な独裁者の登場でコリゴリだが、ロシアには繰り返し絶対的な独裁者が出現する。
 プーチンの支持率が80%を超えるのは、あながち野党政治家排除やプーチンへの投票の強制だけではない、というから驚きだ。しかしツァーとして全面的に信頼していた人物がが絶対的な「現人神」ではない、と判明した段階で、その人物はたちまち排除される運命にある。プーチンが「現人神」から殺害されるべき人物に転落する瀬戸際にあるのではないか。それこそロシア国民に聞かなければならないが。

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