発動機の収集を始めた友人。
どういうわけか友人が発動機に憑りつかれたかのように集め始めた。それで何かを動かすというのではなく、農家の納屋で眠っている鉄屑のような発動機を譲り受けて貰って、自宅の庭で整備して回して遊んでいる。
変な趣味だな、と言うと、全国的なブームだという。好きな人は百台以上も収集して整備して回して楽しんでいるというから驚きだ。友人も既に収集台数は十台を越えている。
確かに記憶の中で発動機は活躍している姿が鮮やかに残っている。稲刈りの終わった田に発動機を据えて脱穀機を幅広ベルトで回していたのを覚えている。
他にも田の灌漑に発動機を回してベルトでポンプを回して小川から水を汲み上げていた。ポンポンという軽快な音がして、3.5馬力程度の動力で結構長時間働いていた。ピストンの上の冷却用の水ダンクから湯気が上がっていた。
この時期には麓の空き地に据えた発動機の動力で帯鋸を回して材木を挽いていた。その友人は私より数ヶ月年上だが、去年脳梗塞を患ったばかりだ。幸いにも自覚症状が出てすぐに救急車で病院へ搬送されたため、脳梗塞による障害はほとんど出ていない。
もっとも今も定期的に懸命のリハビリを続けているという。その脳梗塞で入院しているうちに発動機に愛着を持つようになったという。何がどのような切っ掛けになるは判然としないが、長くはない人生の余生で何かに狂ってみるのも悪くはない、と思わされた。