明治「殖産興業」立国精神の復活を。

 安倍氏の出身県はかつて長州藩と呼ばれていた。現在の長州藩が成立したのは江戸初期、関ヶ原の合戦後のことだ。
 関ヶ原で西軍に付いた毛利輝元は総大将に担ぎ上げられたが徳川家康の東軍に敗れた。本来ならば首を刎ねられ領地没収の処置をとられても仕方のないものだったが、毛利軍の小早川や吉川などの寝返りにより勝利を得たことから、徳川家康は毛利120万国を滅ぼすのではなく、防長二州36万9千石に押し込める措置を取った。

 当然、領地が1/3以下になれば2/3以上の家臣に暇を出さなければ藩財政は成り立たない。毛利輝元は断腸の思いで多くの累代の家臣に暇を言い渡した。しかし彼らは「無禄にても宜しゅう御座います」と言って防長二州へついて来た。
 毛利輝元はその様を見て家臣に満足に禄を与えられない者に藩主たる資格はない、と思って黒田如水に領地返上の申し出の仲介を依頼した。しかし徳川家康は毛利輝元の申し出を撥ね付けた。毛利氏は軍勢を差し向けるまでもなく逼塞のうちに滅亡するだろうと考えた。

 実際に毛利長州藩は逼塞した。本家筋に忌避されて盥回しのようにお鉢が回って18代藩主毛利敬親が18歳にして家督存続した当時は銀八万貫の借財に藩財政は破綻したも同然だった。
 毛利敬親は藩主に就くや当時江戸用談役という閑職に追いやられていた元明倫館教授の村田清風を政務役に抜擢した。毛利敬親は村田清風が閑職に追いやられた直後に藩政立て直しの建白書を上申していたのを知っていた。それは4年も前のことだったが、当時の重役は建白書を顧みることなく未決文書として文書箱で埃に塗れていた。

 56歳の村田清風がまずやったことは年貢収入の37年分に及んでいた借財の37年間の棚上げだった。当然貸し付けていた商人たちは怒り、江戸へ参勤交代で大坂までやって来た毛利敬親の借財の申し出を拒否し、露銀の調達に窮した毛利敬親の大名行列が一月以上も大坂で足止めされるという大失態を満天下に晒したこともあった。
 しかし毛利敬親は村田清風のやり方を支持し、商人と結託した重臣たちの讒訴や中傷に耳を貸さなかった。自らも華美を戒める村田清風の進言を受け入れ、生涯綿服で過ごしたという。

 村田清風の藩政立て直しの真骨頂は「殖産興業」にあった。いわゆる四白政策と呼ばれる紙、塩、米、蝋の生産奨励・拡大策だった。紙と蝋の生産は雑木林の雑木と見なされていた三又コウゾウや櫨などを産業材化することによる山の手入れと、コメの生産拡大による開墾や治水による里山などの整備を同時に果たした。塩の生産は海岸部の塩田開発による荒れ地の生産拠点化をもたらした。同時に領地内の住民に働く場を提供し、領民の所得を増加させた。
 村田清風の改革の本領は殖産興業による製品の交易を藩が独占したことだ。瀬戸内海の三関と呼ばれる上関、中ノ関、下関に会所を設置し藩役人が詰めて関税を徴収した。それにより幕末の軍備と軍事行動に必要な潤沢な蓄財と藩財政を可能にした。

 しかし村田清風登用の副産物も大きかった。村田清風は郡奉行格の出自だった。家禄は僅かに25石、任を得て赴任すると役高を加算されて50石とされたが、それでも下級武士に過ぎない。その下級武士が学識があれば登用される、という前例を毛利敬親は藩に示したことになる。それにより学問熱が長州藩全域に疫病のように蔓延した。
 そうした環境のもとに吉田寅二郎は学問という溶液で純粋培養された。毛利敬親は天才児の出現に喜び、僅か六歳で吉田寅二郎を召し出させて、兵書を御前購読させている。その吉田寅二郎が松本村の百姓家同然の家で「松下村塾」という私学を開き身分に拘らず近所の子弟の教育を行った。

 私は何が言いたいのか。安倍氏は山口県を選挙区にしている。彼は郷土の二百年にも満たない過去の歴史に疎いのだろうか。毛利敬親は「殖産興業」を政策の基本に据えて、領民を富ませて商人の既得権益を召し上げた。安倍氏は国民から消費増税により搾り取り、商人には法人減税でおもねている。まさしく毛利敬親の逆立ちをやっている。
 国を富ますとはどういうことをすれば良いのか、新自由主義者やグローバリゼーションの仇花のような経営者たちに耳を傾けていてはこの国は立ち行かなくなる。彼らは国境のない国際投機金融の中で生きている。国民よりも投機資金、国家よりも国境なき投機機会の獲得が彼らの最大の眼目だ。

 1%対99%の戦いは佳境に達している。国民は労働力を提供する機械の一部品と見なされ、家族経営などという日本の美風が失われて既に久しい。その行き着く先にあるのは国民の貧困と人心の荒廃だ。
 国庫の借財を論うのは官僚たちの罠に過ぎない。まずは国民の生活が第一に政治を行うべきだ。「殖産興業」と経営者に阿ることとは別物だ。労働分配率を下げる法人に減税をして何になる。高い法人税を支払うぐらいなら社員に還元しよう、と思わせるぐらい高率の法人税を課すべきだ。それで海外へ移転する企業は石を持て追放するぐらいの気概で臨むべきだ。企業は地域社会と労働者と資本家のためにある。投機家たちの餌食ではない。安倍氏は毛利敬親の叡智に学ぶべきだ。


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