対外投資国家を目的としてはならず、対外投資額の増はモノ造り国家の結果としてのものであり続けるべきだ。
日本も米国並みの投資国家になるべきとの考えには賛成できない。なぜなら投資はごく一部の人にしか所得をもたらさないからだ。国民が等しく職を得、所得を得て健全に生活するためにはモノ造り国家であり続けなければならない。
昨年末の対外投資総額は約662兆円で対外債務を差し引いた対外純資産は296兆円で世界一の対外資産を有する国家だ。しかもその額は世界第2位の中国の2倍に達している。しかしだからといって、日本が世界の投資国家になるべきとは思わないのは前段で述べた理由からだ。
米国はかつて対外投資純資産第1位の国だった。しかし現在では世界一の対外債務国でその額は純負債額で260兆円に達している。
その米国内企業の一つに過ぎない「格付け会社」が日本をAとし、中国をAA-とし、日本よりも中国の方が一段階上としている。そして更に韓国をAAと中国よりも一段階上と評価している。摩訶不思議なランク付けであることは一目瞭然で、格付け会社の格付けが極めて「政治的」であることは歴然としている。
ただ米国は膨大な対外債務の大半は米国債で、対外投資額は株式投資などの「運用」によるものだ。よって対外債務に対する支払額は小さく、対外投資額から生じる所得が上回っている。
そうした米国型国家モデルを日本も踏襲してはどうかという評論家がいるが、日本は国際通貨の発行国ではない。日本が米国型の「投資国家」になりえないのは明らかだ。日本が米国の真似をして大量の円を増刷して世界に投資すれば円価格は暴落するだろう。
日本はあくまでも「貿易立国」を堅持して、国内においては「殖産興業」の政策を取り続けるのが賢明な生き方だ。国債投資のマネーゲームに決して興じてはならない。安倍政権が日本の株式市場の安定的な高止まりの誘惑に駆られて、年金基金や郵政貯金を株式投資へ投じるのではないかとの憶測が流れているが、飛んでもないことだ。
日本は米国の意に逆らえない立場にある。残念だが、米軍基地の国内配備を見る限り、日本は独立国家とは言い難い。この瞬間にでも米国が日本を占領しようと決意すれば、首都圏に展開する米軍による日本中枢機関の軍事制圧を日本の自衛隊が防御することは不可能だ。
日本が米国型の投資国家になろうとすれば通貨による世界支配を日本が目指していると米国の投資会社はみなすだろう。かつて宮沢内閣時代に円によるアセアン経済圏を構築しブロック化しようとして米国の逆鱗に触れたことがあった。
それ以来、日本は円による地域経済圏すら構築しようとはしていない。つまり日本国の通貨による支配を試みない限り、国際投資市場という博奕場の胴元は世界通貨発行国の米国だ。博奕は常に胴元が儲かる仕組みになっている。日本政府が国民の資産たる年金基金や郵政預金をたとえ日本の株式市場とはいえ、博奕場へ投じることは米国のハゲ鷹投機家たちに餌を投げ与えるのと同じ結果になるのは火を見るよりも明らかだ。
アベノミクスという実態不明な通貨現象と株式市場の動向に、国民の資金を投じてはならない。また日本が米国並みの1%の大金持ちと99%の貧困層とに2極化する社会になることを日本国民が総じて望んでいるとも思わない。
日本は堅実にモノ造りに汗を流し、明治以来の「貿易立国」を目指す姿勢を堅持すべきだ。