今年のノーベル経済賞は「身の回り」経済の研究。
< スウェーデン王立科学アカデミーは 10 月 14 日、今年のノーベル経済学賞をマサチューセッツ工科大学( MIT )のエステル・デュフロ教授とアビジット・バナジー教授、ハーバード大学のマイケル・クレマー教授に授与すると発表した。ランダム化比較試験( RCT )を用いて、世界の貧困問題を緩和するために有効な方策を明らかにする手法が評価された。 デュフロとバナジーは、 MIT の貧困対策研究所の共同創設者。クレマーも同研究所の論文にたびたび共同執筆者として名を連ねてきた。 46 歳のデュフロは、 1969 年の第 1 回受賞者発表以来最年少、女性としては 2 人目のノーベル経済学賞受賞者だ。 RCT が普及する以前の開発経済学は、エビデンス(科学的根拠)より理論と直感に基づいて結論を導き出す傾向があった。実証実験で貧困対策プログラムの有効性を知ろうとする RCT は、開発援助の在り方も変えつつある。 デュフロらの研究は、さまざまな貧困対策プログラムの有効性を裏付けた。例えば、インドの学校にカメラを設置すると教員の欠勤が減って子供たちの成績が向上する、ケニア西部では肥料の使い方によって農家の収入が増える、子供の腸内寄生虫駆除を行うと学校の欠席率が下がる、などが分かった。 一方、実験のデータを見る限り、成果をあまり生まないプログラムがあることも明らかになってきた。例えば、ペルーの小規模事業者に起業家教育を実施しても、収益はそれほど大きく伸びなかった。ケニアの学校教員に性教育の研修を行った実験でも、 10 代の妊娠が減ったり、性感染症の感染率が下がったりする効果は表れていない。 それ以前の開発経済学者たちと異なり、専門知識よりデータに重きを置くデュフロらのアプローチの謙虚さを評価する論者もいる。 3 人の受賞者は、各地域の政府や団体とのパートナーシップ構築にも成功した。 ブルームバーグ・オピニオンのコラムニスト、ノア・スミスは、デュフロらの功績を評価している 1 人だ。 3 人のおかげで、経済学が「貧困と不平等」に注意を払い、「実証データと因果関係」を重んじるようになったと、スミスはツイッターへの投稿で指摘した。 もっとも、このアプローチに対して批判がないわけではない。効果的な貧困対策を見つけるという目標が控えめ過ぎるという批判もあるのだ。