「ブス女と言われた」「泣いたら負け」とは。
<<「ブス女と言われた」「泣いたら負け」――ドイツ・メルケル首相との会話を回顧録『107日』で振り返るハリス。討論会の失点から投開票まで「勝てた世界線」はどこで失われたのか――>
<この記事の前半はこちら:ハリス大統領の「もしも」は実在した?――回顧録『107日』が示す討論会敗北からでも「勝てた世界線」>
選挙活動中のトランプの暴言はとどまるところを知らなかった。ハリスは回顧録の中で、その一部についての自身の反応を明かしている。
その1つが、全米黒人ジャーナリスト協会の会合でトランプが行った発言だ。「ハリスは数年前にたまたま黒人になり、今は黒人だと認めてもらいたがっている」と、トランプは言った。
選挙活動の身支度に2時間
これを受けてハリスの陣営スタッフのブライアン・ファロンが「自身の人種的アイデンティティーについて力強い演説で反撃すべきだ」と進言したとき、ハリスはこう言った。「今日は、私の人種について証明しろと言っている。次は何? 女性じゃないと言われたら、今度は性器を見せろとでも?」
ハリスは選挙期間中の7月25日に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と行った会談についても書いている。
彼女はイスラエルが23年のイスラム組織ハマスによる攻撃に反撃したこと自体は正当だったと考えているものの、「罪のない大勢のパレスチナの女性や子供が殺害されたことや人質の命を優先しなかったこと」をはじめ、ネタニヤフの対応の「凶暴性」は批判している。
ネタニヤフとの会談では「即時停戦の必要性と、パレスチナ人に何らかの政治的展望を示す戦後計画の必要性を繰り返し主張した」と、ハリスは書く。だがネタニヤフはその意見──特にハリスがそれを言ったことが気に入らなかった。
「彼は自分の向かい側に座るのがジョー(・バイデン)でも私でもなく、トランプであってほしいと考えていた」
政治の世界で女性であることについては「男性よりも準備に時間がかかる」苦労があり、選挙活動中の身支度には2時間を要したと明かす。
女性は依然として「私たちが取り組んでいる重要な問題」よりも、こうした一見些細なことを基準に評価されているとハリスは指摘した。
ドイツで初めて女性として首相を務めたアンゲラ・メルケルと交わした会話も紹介している。メルケルはハリスに「最初はブス女と言われて傷ついていた」と語り、ハリスのほうに身を傾けて言った。「泣かされたら負けだから」
ハリスは一度も泣かなかった。
彼女は演説でトランプの最も痛いところを突いた。カリフォルニア州の司法長官として「私はあらゆる類いの捕食者に立ち向かってきた」と、彼女は言った。
「女性を虐待する者、消費者を食い物にする者、自分の利益のためにルール違反をする者など。私はドナルド・トランプのような連中をよく知っている」
聴衆はこの言葉に「爆発的な反応」を示したと、ハリスは書いている。
「英語には短くても多くを語ることのできるフレーズがある。『彼のような連中はよく知っている(I know his type)』もその1つだ。誰だって自分が個人的に知っている品位の低い人物について、このフレーズを使ったことがあるだろう」
「「人前に出る準備に2時間かかる...」カマラ・ハリスが自ら語る大統領選「敗北の要因」とは?」との見出しでブルース・ウォルピー(豪シドニー大学アメリカ研究センター上級フェロー)氏が書いている。一読して見て、日本とは異質の女性蔑視が米国にはあるのだと理解した。レディーファーストの国とは表面的なことでしかないようだ。
<この記事の前半はこちら:ハリス大統領の「もしも」は実在した?――回顧録『107日』が示す討論会敗北からでも「勝てた世界線」>
選挙活動中のトランプの暴言はとどまるところを知らなかった。ハリスは回顧録の中で、その一部についての自身の反応を明かしている。
その1つが、全米黒人ジャーナリスト協会の会合でトランプが行った発言だ。「ハリスは数年前にたまたま黒人になり、今は黒人だと認めてもらいたがっている」と、トランプは言った。
選挙活動の身支度に2時間
これを受けてハリスの陣営スタッフのブライアン・ファロンが「自身の人種的アイデンティティーについて力強い演説で反撃すべきだ」と進言したとき、ハリスはこう言った。「今日は、私の人種について証明しろと言っている。次は何? 女性じゃないと言われたら、今度は性器を見せろとでも?」
ハリスは選挙期間中の7月25日に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と行った会談についても書いている。
彼女はイスラエルが23年のイスラム組織ハマスによる攻撃に反撃したこと自体は正当だったと考えているものの、「罪のない大勢のパレスチナの女性や子供が殺害されたことや人質の命を優先しなかったこと」をはじめ、ネタニヤフの対応の「凶暴性」は批判している。
ネタニヤフとの会談では「即時停戦の必要性と、パレスチナ人に何らかの政治的展望を示す戦後計画の必要性を繰り返し主張した」と、ハリスは書く。だがネタニヤフはその意見──特にハリスがそれを言ったことが気に入らなかった。
「彼は自分の向かい側に座るのがジョー(・バイデン)でも私でもなく、トランプであってほしいと考えていた」
政治の世界で女性であることについては「男性よりも準備に時間がかかる」苦労があり、選挙活動中の身支度には2時間を要したと明かす。
女性は依然として「私たちが取り組んでいる重要な問題」よりも、こうした一見些細なことを基準に評価されているとハリスは指摘した。
ドイツで初めて女性として首相を務めたアンゲラ・メルケルと交わした会話も紹介している。メルケルはハリスに「最初はブス女と言われて傷ついていた」と語り、ハリスのほうに身を傾けて言った。「泣かされたら負けだから」
ハリスは一度も泣かなかった。
彼女は演説でトランプの最も痛いところを突いた。カリフォルニア州の司法長官として「私はあらゆる類いの捕食者に立ち向かってきた」と、彼女は言った。
「女性を虐待する者、消費者を食い物にする者、自分の利益のためにルール違反をする者など。私はドナルド・トランプのような連中をよく知っている」
聴衆はこの言葉に「爆発的な反応」を示したと、ハリスは書いている。
「英語には短くても多くを語ることのできるフレーズがある。『彼のような連中はよく知っている(I know his type)』もその1つだ。誰だって自分が個人的に知っている品位の低い人物について、このフレーズを使ったことがあるだろう」
それでも勝利を信じていた
ハリスは大規模な集会を開き、潤沢な資金を持ち、競争力のある候補者だった。自分が大統領に選ばれれば、就任初日には「アメリカ国民のために成し遂げていく優先事項のリストを手に、大統領執務室に入るつもりだ」と語った。
これとは対照的に、トランプが大統領に選出されれば「彼は自分の敵のリストを手に執務室入りするだろう」とハリスは言った。現在の米政治を見れば、それが現実になったことは明らかだ。
ハリス陣営で最も賢明な助言者だったのは、08年大統領選でオバマを勝利に導いたデービッド・プラフだった。
彼はトランプの支持率が過去の選挙戦よりも高く、さらに暗殺未遂事件によって支持者が20%増えたと分析。「彼が獲得する票の数は、どんな予想よりも10%多いと思え」とハリスに助言した。
敗北の要因をハリスはどう考えているのか。彼女自身の評価は「結局のところ、大統領選に勝利するという大仕事を成し遂げるには107日間では足りなかった」というものだ。
そうかもしれない。ハリスが誇りに思っていた全て(インフラや医療、クリーンエネルギーに関する画期的な法案)は選挙の日までに分かりやすく有権者に恩恵をもたらすものではなかった。11月を前にインフレ率と金利は高止まりし、即効性のある救済策もなかった。
ハリスはトランプ支持者に直接語りかけたいと願っていた。
「一人一人に聞けたらよかった。あなたは何に怒っているのか。医療制度か、食料品の価格か。それとも、つらい仕事に見合わない給料か──あなたを助けるため、私には何ができるのか」
ハリスは移民・国境問題や、将来に希望を持てないZ世代の問題などでトランプに対抗しようとしたが、果たせなかった。彼女の支持率は9月中旬にピークを迎え、その後は下落していった。世論調査の誤差範囲を超えて彼女がトランプをリードしたことは、一度もなかった。選挙当日、彼女は自らの勝利を信じていたが。>(以上「Newsweek」より引用)
ハリスは大規模な集会を開き、潤沢な資金を持ち、競争力のある候補者だった。自分が大統領に選ばれれば、就任初日には「アメリカ国民のために成し遂げていく優先事項のリストを手に、大統領執務室に入るつもりだ」と語った。
これとは対照的に、トランプが大統領に選出されれば「彼は自分の敵のリストを手に執務室入りするだろう」とハリスは言った。現在の米政治を見れば、それが現実になったことは明らかだ。
ハリス陣営で最も賢明な助言者だったのは、08年大統領選でオバマを勝利に導いたデービッド・プラフだった。
彼はトランプの支持率が過去の選挙戦よりも高く、さらに暗殺未遂事件によって支持者が20%増えたと分析。「彼が獲得する票の数は、どんな予想よりも10%多いと思え」とハリスに助言した。
敗北の要因をハリスはどう考えているのか。彼女自身の評価は「結局のところ、大統領選に勝利するという大仕事を成し遂げるには107日間では足りなかった」というものだ。
そうかもしれない。ハリスが誇りに思っていた全て(インフラや医療、クリーンエネルギーに関する画期的な法案)は選挙の日までに分かりやすく有権者に恩恵をもたらすものではなかった。11月を前にインフレ率と金利は高止まりし、即効性のある救済策もなかった。
ハリスはトランプ支持者に直接語りかけたいと願っていた。
「一人一人に聞けたらよかった。あなたは何に怒っているのか。医療制度か、食料品の価格か。それとも、つらい仕事に見合わない給料か──あなたを助けるため、私には何ができるのか」
ハリスは移民・国境問題や、将来に希望を持てないZ世代の問題などでトランプに対抗しようとしたが、果たせなかった。彼女の支持率は9月中旬にピークを迎え、その後は下落していった。世論調査の誤差範囲を超えて彼女がトランプをリードしたことは、一度もなかった。選挙当日、彼女は自らの勝利を信じていたが。>(以上「Newsweek」より引用)
「「人前に出る準備に2時間かかる...」カマラ・ハリスが自ら語る大統領選「敗北の要因」とは?」との見出しでブルース・ウォルピー(豪シドニー大学アメリカ研究センター上級フェロー)氏が書いている。一読して見て、日本とは異質の女性蔑視が米国にはあるのだと理解した。レディーファーストの国とは表面的なことでしかないようだ。
しかしハリスの側にも問題があるように見える。引用文中に「イスラエルが23年のイスラム組織ハマスによる攻撃に反撃したこと自体は正当だったと考えているものの、「罪のない大勢のパレスチナの女性や子供が殺害されたことや人質の命を優先しなかったこと」をはじめ、ネタニヤフの対応の「凶暴性」は批判している。ネタニヤフとの会談では「即時停戦の必要性と、パレスチナ人に何らかの政治的展望を示す戦後計画の必要性を繰り返し主張した」と、ハリスは書く。だがネタニヤフはその意見──特にハリスがそれを言ったことが気に入らなかった」という下りがあるが、ネタニヤフは一般的な論評を聞きたかったのではなく、いかにして「政治的」に即時停戦をもたらすかをハリスの口から聞きたかったに違いない。しかしハリスは極めて情緒的な「多くの女子供を犠牲者にするのは良くない」というネタニヤフが散々聞き飽きたフレーズを耳にした。
また引用文中に「メルケルはハリスに「最初はブス女と言われて傷ついていた」と語り、ハリスのほうに身を傾けて言った。「泣かされたら負けだから」」という個所がある。いかにも女性的ではないだろうか。日本にも女性総理が間もなく誕生するが、彼女に「ブスだ」と罵声を浴びせた人がいるだろうか。高市氏が「泣いたら負けだ」と思わせるような酷い言葉を投げかけられたことがあるだろうか。確かに日本にも「しばき隊」なる街宣妨害集団がいるようだが、彼らは例えばフィフィ氏に「お前はブスだ」と罵声を浴びせただろうか。少なくとも政治的なスローガンを叫び続けたのではないだろうか。
ハリス氏は「女性を虐待する者、消費者を食い物にする者、自分の利益のためにルール違反をする者など。私はドナルド・トランプのような連中をよく知っている」と書いている。日本にも自分の利益のためにルールを変える者はいる。国立公園の規制を緩和してメガソーラパネルの設置を可能にした環境大臣の親族が太陽光パネル企業の広告塔だったことなどがあるが、そうした舞台裏もSNSを通して日本国民の多くは知っている。そして日本国民は利権に関して厳しい倫理感を持っていて、我田引水を働く政治家を許さない。
バイデン氏がトランプとの公開討論会で耄碌ぶりを露呈して大統領選から降り、急遽副大統領だったハリス氏に候補が入れ替わったのだが、ハリス氏は「結局のところ、大統領選に勝利するという大仕事を成し遂げるには107日間では足りなかった」と語っている。しかし全米がいかに広いとはいえ、マスメディアなどを通して告知することは出来るし、公開討論会で公約や政策を米国民に語り掛けることも出来たはずだ。いや、それ以前にハリス氏は副大統領として米国民は周知していたはずだ。
ハリス氏に足りなかったのは大統領選までの期間ではなく、国民の支持を獲得するに足りる政策と魅力的な政治理念ではなかっただろうか。テレビでは「大口を開けて、大声で笑うだけの女」だった。残念だが、ハリス氏は国際舞台で米国大統領として尊敬を集められる女性ではなかった。少なくとも叡智の片鱗を窺わせる知的でウィットに富んだ会話の出来る女性候補だと米国民に思わせることが出来なかった。だから野卑だが実行力のあるトランプ氏が勝利したのだろう。
しかも米国民は民主党的な移民拡大策や人種問題に寛容な政策に辟易していた。警察予算を削減され、地域社会が崩壊寸前の街や暴徒に荒らされるショッピングセンターなどの現実にウンザリしていた。環境のためと称してシェールオイル開発を禁止して、アラスカからの天然ガスパイプライン工事を中止してガソリン価格を高騰させて米国民の懐を直撃していた。もはや民主党の政権に米国民は未来を描くことが出来なくなっていた。
だから共和党のトランプ氏が勝利した。しかし、トランプ氏は関税政策を打ち出して関税分が消費者物価に上乗せされるため、消費者物価高騰の抑制策は失敗に帰した。米国民の心はトランプ氏から離れつつある。肝心のトランプ氏本人はノーベル平和賞に目が眩んで、国内政治の諸課題に興味を失っているようだ。しかし来期の大統領選にトランプ氏は出ない。ハリス氏が再び民主党候補になったとしても、共和党はトランプ氏ではなく別の候補になる。ゼロからやり直すことになるが、同じ轍を踏まないようにしなければハリス氏は勝てないだろう。