トランプ関税の本旨は対中デカップリングだ。

<中国と米国が全面的な貿易戦争に入った。投資家たちの悩みは深く、「どちらが金融カードを切って優位に立てるのか」という点に関心が集まっている。中国の米国債保有は巨大だ。だが実際のところは、中国が米国債売却という伝家の宝刀を抜くのは容易でなく、両国ともに緊張関係の中で均衡を保つ方が自国の利益になるというのが現実だ。

 中国国営メディアのコメンテーターは長年、中国政府は米国債を利用して米政府に圧力をかけるべきだと主張してきた。外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー氏の推定では、中国の保有残高は1兆1000億ドルに上る。ただ、ベッセント米財務長官は今週、中国の米国債保有は全く影響力を持たないと述べ、歯牙にもかけなかった。
 しかし投資家にはベッセント長官のような確信はない。先週、米国債に投げ売りが出て10年物国債利回り(長期金利)が一時4.59%に急騰するのを目の当たりにしたからだ。
 資産運用会社には顧客らから質問が殺到している。「かねてから恐れられてきた最悪シナリオ」なのかと。つまり、中国が保有米国債を武器化し、一部または全部を売却することで、米金利を押し上げるという展開だ。目的は貿易交渉で優位に立つためか、中国製品に3けたの輸入関税率を課したトランプ米大統領に報復することか、あるいは両方だ。
 こうした懸念は、中国がここ数年外貨準備の多様化を進めてきたことによって、さらに高まっている。しかし、外国為替市場で人民元相場が対ドルで大幅下落し始めた場合、中国は人民元安定化の一環としてドル建て債券を売却することに備え、手元に大量に保有しておく必要がある。
 確かに中国人民銀行(中央銀行)は、人民元急落と闘って外貨準備の多くを失った2015年以降、こうした目的で米国債を直接的に売却することには慎重になってきた。だが、中国が通貨防衛の一環で米国債を売却する以外の手段を用いたとしても、結局は米国債という外貨準備の裏付けがなければ実効性はない。
 たとえ中国が対米警告として米国債保有残高を限定的に削減したとしても、深刻な危険が伴うだろう。中国人民銀行が米国債を極秘裏に売却するのは困難である上、売却情報が出ただけで、市場では全面売却への懸念が拡大し、世界の金融市場はパニックに陥りかねない。その場合、中国が保有するドル建て資産の価値は落ち込み、人民元の相対的な価値が上昇し、中国の輸出企業は一段と打撃を受けることになる。

The line chart shows China's direct holdings of US Treasuries

 さらに、中国が米国債売却でドルを得た場合、その後の対応も懸案になる。ベッセント長官は、中国人民銀行が人民元を買う必要があり、それによって元は強くなると主張するが、中国政府は単に米国債売却で得たドルを保有し続けることも可能だ。また、欧州や日本の債券市場に資金を振り向ける選択肢もあるが、各国政府がそれを歓迎するかどうかは定かではない。
 こうしたことを踏まえても、なおベッセント氏の大局的な見方は正当性を保っている。中国にとって保有米国債の武器化は最良のケースでも困難かつ危険なものだからだ。仮に中国が完全な変動相場制に移行すれば一切のためらいもなく米国債を売る強硬手段に出る可能性がある。しかし、習近平国家主席は人民元の安定維持に強い意欲を示している。今のところ、米中両国が金融デカップリング(分離)を望んでいるとしても、中国の保有する米国債がそれを阻むだろう。
●背景となるニュース
*トランプ大統領が2日、ロシアを除く世界の貿易相手国に対し「相互関税」を発動すると発表後、投資家は米国債を売却した。指標となる10年物国債利回りは16日時点で4.3%で推移し、相互関税前の水準を依然として上回っている。
*米国債の外国保有ランキング首位は日本で、2位は中国。公式データによると2月末時点の直接保有残高は7840億ドルだが、米外交問題評議会(CFR)のシニアフェロー、ブラッド・セッツァー氏は、中国人民銀行(中央銀行)の保有残高が計1兆1000億ドル近くに昇ると推定している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)>(以上「REUTERS」より引用)




 REUTERSは「中国、伝家の宝刀「米国債売り」は困難 緊張続くままか」と題するコラムを掲載した。米国債の発行残高は現在約28.3兆ドル(約4050兆円)ほどだ。これは、リーマンショック前の6倍以上となっています。その保有割合は海外投資家、特に日本と中国が大きな割合を占めておりそれぞれ約1兆1878億ドルと7674億ドルとなっている。
 ただ米国債の発行残高に占める外国人保有比率は、2024年9月末時点で33.1%だ。コロナ禍以前の2019年末には35.2%だったが、FRBによる量的緩和の影響で、金融当局の保有比率が増加し、外国人の保有比率が低下している。ちなみにFRBの保有割合は約11%になっている。

 トランプ関税により、中国の対米輸出は壊滅的になっているが、それに対する中国の明確な対抗措置は「対抗関税」以外には見当たらない。なぜなら中国が米国債を売り浴びせて、米国債の信認を低下させたなら、その米ドルの為替市場での低下は米国債を売却して手にした米ドルの価値を下げることでしかないからだ。
 確かに手元のドル資金で「元」を為替相場で回収したなら為替市場で下落傾向にある「元」相場を一時的に引き上げることは出来るが、それにより手にする効果は、その後の「元」発行の裏付けとなる政府資産の喪失に見合わない。

 ただ中国政府は資金難に陥っている。中国の負債額は、公的債務と地方債の合計で、2023年末時点で約14兆元(約825兆円)を超えている。これは日本を上回る水準で、世界で2番目に大きい債務国になっている。しかも「一帯一路」や「新シルクロード」政策で海外投資した資金のうち、不良債権化しているか判然としていない。
 しかも前述した中国の負債額約14兆元は政府経済当局の公式発表であって、実際には約1京3千億円あるといわれている。つまり中国政府は既にデフォルト状態にあって、現実に地方公務員だけでなく中央公務員や警察などですら減給や遅配が常態化している。

 2025年3月、中国政府は金融緩和して貨幣流通量を増やそうと試みて、日本円で10兆3000億円の特別国債を発行し、大手国有銀行4行の資本増強に充てると発表した。これは、不動産不況による不良債権の増加に備えるため、銀行の貸し出し余力を高め、景気を下支えするためだ。具体的には、中国建設銀行は最大1050億人民元、中国銀行は最大1650億人民元の株式を発行したが、その恩恵にあずかれなかった中国商工銀行や中国農業銀行はデフォルトした。
 中国は国家破産に向かって経済崩壊の坂道を転がり落ちている。国民の大半が貧困化し、中間層ですら多くが不動産バブル崩壊により自己破産の危機を迎えている。残りの富裕層は当局の厳しい目をくぐって国外へ資金と共に脱出し、上海在住の外国人も殆ど姿を見なくなったという。

 トランプ氏は米国の貿易債務を気にしてトランプ関税を発令した、と自ら説明している。しかし本当に米国の対外債務の増大を気にしているのだろうか。たとえ気にしていたとしても、それらの多くはトランプ氏の時代に積み上がったものではない。しかも米国の対外債務が米国経済を蝕むほどでないことは米国金利の動向を見れば歴然だ。
 むしろ、トランプ関税は形を変えた対中デカップリング策ではないだろうか。トランプ関税に対抗関税を表明した中国に対しては再び対抗関税145%を発表したが、ディールを求めた日本や欧州諸国に対しては90日間の猶予を与えた。米国内株式市場が暴落し消費者物価がジワジワと上昇し始め、議会共和党内にも反・トランプの動きが現れている。そうしたこともあって、トランプ氏はトランプ関税の実施をさらに延期して、中国を除く世界各国とディールを行い、その間はトランプ関税の実行を先延ばしするのではないだろうか。つまり実質的に米国が対中貿易を停止する措置を講じたことになる。

 職もなく家も失った飢えた国民が中国当局に反旗を翻すのは時間の問題だ。実際に全国各地で毎日様々な抗議運動が起きている。それらを公安警察が必死で鎮圧しているが、そうした事態がいつまで続くだろうか。中国にトランプ氏とディールする余裕はない。習近平氏は東南アジアに米国貿易の経由地になるように持ち掛けているが、色よい返事は聞いてないようだ。いよいよ中国は世界からデカップリングされている。

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