「水素化マグネシウム」は内燃機関自動車の未来やFCVのカギとなる。
<水素社会の電動モビリティの最有力候補として期待される燃料電池車(FCV)だが、その出荷台数は電気自動車やプラグインハイブリッドなどと比べると遥かに少なく、とても普及しているとは言い難い。その理由はハンドリングの難しい水素を燃料としていることや、水素インフラのコストが高いことなどが挙げられる。
そんなFCVだが、ここに来て追い風が吹いている。それが国内外で注目される水素キャリア「水素化マグネシウム(MgH2)」の存在だ。常温・常圧で安定し、より安全に水素を貯蔵・運搬できる。従来の水素キャリアの課題を払拭し、FCVひいては燃料電池(FC)バス、FCバイクなどの普及を後押しする可能性を秘めている。
マグネシウム内に水素を貯蔵
FCは水素と酸素の化学反応で発電し、排出物が水のみであることからクリーンエネルギーとして幅広く認知されている。また、化石燃料の3倍以上の燃焼エネルギーを有し、地球温暖化や大気汚染の心配もないことから、近年そのニーズはますます高まっている。
一方で、水素は貯蔵や運搬などハンドリングの難しさが指摘されている。水素キャリアとしては現在主流である圧縮水素をはじめ、液化水素、有機ハイドライド、金属系吸蔵材料(水素吸蔵合金)などがあるが、それぞれで課題を抱える。
具体的には、圧縮水素は35MPaや70MPaといった高い圧縮エネルギーにより水素を圧縮するため危険性が高い。液化水素はマイナス253℃環境下で貯蔵するため膨大なエネルギーを要するほか、容易に気体に変化する可能性がある。有機ハイドライドは白金触媒の被毒により耐久性が下がることがある。そして金属系吸蔵材料は重いことが指摘されている。
加えて、水素インフラが高いことも課題となっている。圧縮水素に対応した水素ステーションは、水素製造装置、圧縮機、蓄圧器、冷凍機、ディスペンサーなど数多くの機器を設置し、建設費用は1基当たり数億円にのぼる。
一方、MgH2は常温・常圧で安定し、安全性が高い。従来の水素キャリアと比較して同等またはより多くの水素を貯蔵できる。コスト面では資源量が豊富で安定調達が可能なマグネシウムを採用し、かつ水素ステーションなどの高価な水素インフラが不要なため低くできる。さらに、マグネシウムは生産プロセスも確立しており、工業化へのハードルも低い。
MgH2は金属系吸蔵材料のひとつだが、従来型よりも軽量である点が大きな特徴。マグネシウムはアルミよりもさらに軽量だ。
製造プロセスは、マグネシウムタブレットやマグネシウム粉末などに専用の水素化炉を使って高温・高圧環境下で水素と反応させるもの。固体やペーストなどとなり、これらをカートリッジなどに格納させて水素キャリアとする。
店舗で購入、使用後はリサイクル
使用時は、MgH2と水を反応(加水分解)させ、オンサイトで水素を発生させる。その際のエネルギー密度は同じ重さのリチウムイオン電池の10倍以上となる。
カートリッジはコンビニなどの店舗で購入する仕組みが考えられている。他方、ペーストはタンクに充填する方式も検討されている。その際の充填設備は標準的なもので済むため、数百万円程度に抑えられる。
また、使用後は酸化マグネシウムとなるが、回収して再利用することも検討されている。加えて、コンビニで購入・回収することができればFCVの利便性も高まる。
国内自動車大手が検討
MgH2の用途はFCV、水素自動車、FCバス、FCバイク、FCフォークリフト、FC船などのモビリティーをはじめ、ドローン、家庭用FCシステム、水素発電などが想定されている。FCVやFCバスではイギリス、ドイツ、オランダなどで一部実用化が進んでいる。
現在、MgH2の開発に取り組んでいるのは日米欧の企業や大学・研究機関。日本ではバイオコーク技研(株)(東京都千代田区)が有力だ。同社は今年開催の「スマートエネルギー Week」で小型FCトラック(「マグ水素自動車」)を用いたデモを公開。カートリッジと水タンクで構成される水素発生ユニットに、水を適量滴下することで水素が生成する仕組みを実証した。
バイオコーク技研のMgH2タブレット 同社のMgH2(「マグ水素タブレット」)は、マグネシウムインゴットから切り出したマグネシウムタブレット内に水素を貯蔵する。様々なマグネシウム粒径を使用することで水素の発生スピードや発生量をコントロールできる。水素貯蔵量においては競合他社より多くできるという。製造・開発拠点は自社の沼津事業所だが、欧州に新たな拠点を設けることも検討している。
同社は国内大手自動車メーカーと共同開発を進めており、今後、本格的な実証実験が開始される見込みだ。
一方、海外ではフラウンホーファー研究機構 生産技術・応用マテリアル研究所(IFAM、独ドレスデン)がペースト状の「Powerpaste」を開発している。これは出発材料であるマグネシウム粉末に約350℃、大気圧の5~6倍のプロセス環境下で水素と結合させ、MgH2を形成。それにエステルと金属塩を加えることで歯磨き粉のようなペースト状とするもの。IFAMはカートリッジまたは専用設備による充填を検討している。すでに生産プラントは構築済みで、オンデマンドで提供している。
マグネシウムに期待かかる
水素キャリアに限らずマグネシウムをFCや次世代蓄電池といったエネルギーデバイスに適用する動きが広がっている。ニッケル、リチウム、白金といったレアメタルの調達懸念がなくなり、同時に低コスト化も期待できるためだ。例えばマグネシウム空気電池は、マグネシウムを負極、空気を正極、塩水を電解液として発電するFCだが、レアメタルを一切使用しない。加えて、マグネシウムは回収・再利用できることからクローズドループシステムも構築できる。
マグネシウムは海水に含まるなど地球上に豊富に存在することから、資源に乏しい我が国には特に有望なマテリアルと成り得る>(以上「電子デバイス産業新聞」より引用)
そんなFCVだが、ここに来て追い風が吹いている。それが国内外で注目される水素キャリア「水素化マグネシウム(MgH2)」の存在だ。常温・常圧で安定し、より安全に水素を貯蔵・運搬できる。従来の水素キャリアの課題を払拭し、FCVひいては燃料電池(FC)バス、FCバイクなどの普及を後押しする可能性を秘めている。
マグネシウム内に水素を貯蔵
FCは水素と酸素の化学反応で発電し、排出物が水のみであることからクリーンエネルギーとして幅広く認知されている。また、化石燃料の3倍以上の燃焼エネルギーを有し、地球温暖化や大気汚染の心配もないことから、近年そのニーズはますます高まっている。
一方で、水素は貯蔵や運搬などハンドリングの難しさが指摘されている。水素キャリアとしては現在主流である圧縮水素をはじめ、液化水素、有機ハイドライド、金属系吸蔵材料(水素吸蔵合金)などがあるが、それぞれで課題を抱える。
具体的には、圧縮水素は35MPaや70MPaといった高い圧縮エネルギーにより水素を圧縮するため危険性が高い。液化水素はマイナス253℃環境下で貯蔵するため膨大なエネルギーを要するほか、容易に気体に変化する可能性がある。有機ハイドライドは白金触媒の被毒により耐久性が下がることがある。そして金属系吸蔵材料は重いことが指摘されている。
加えて、水素インフラが高いことも課題となっている。圧縮水素に対応した水素ステーションは、水素製造装置、圧縮機、蓄圧器、冷凍機、ディスペンサーなど数多くの機器を設置し、建設費用は1基当たり数億円にのぼる。
一方、MgH2は常温・常圧で安定し、安全性が高い。従来の水素キャリアと比較して同等またはより多くの水素を貯蔵できる。コスト面では資源量が豊富で安定調達が可能なマグネシウムを採用し、かつ水素ステーションなどの高価な水素インフラが不要なため低くできる。さらに、マグネシウムは生産プロセスも確立しており、工業化へのハードルも低い。
MgH2は金属系吸蔵材料のひとつだが、従来型よりも軽量である点が大きな特徴。マグネシウムはアルミよりもさらに軽量だ。
製造プロセスは、マグネシウムタブレットやマグネシウム粉末などに専用の水素化炉を使って高温・高圧環境下で水素と反応させるもの。固体やペーストなどとなり、これらをカートリッジなどに格納させて水素キャリアとする。
店舗で購入、使用後はリサイクル
使用時は、MgH2と水を反応(加水分解)させ、オンサイトで水素を発生させる。その際のエネルギー密度は同じ重さのリチウムイオン電池の10倍以上となる。
カートリッジはコンビニなどの店舗で購入する仕組みが考えられている。他方、ペーストはタンクに充填する方式も検討されている。その際の充填設備は標準的なもので済むため、数百万円程度に抑えられる。
また、使用後は酸化マグネシウムとなるが、回収して再利用することも検討されている。加えて、コンビニで購入・回収することができればFCVの利便性も高まる。
国内自動車大手が検討
MgH2の用途はFCV、水素自動車、FCバス、FCバイク、FCフォークリフト、FC船などのモビリティーをはじめ、ドローン、家庭用FCシステム、水素発電などが想定されている。FCVやFCバスではイギリス、ドイツ、オランダなどで一部実用化が進んでいる。
現在、MgH2の開発に取り組んでいるのは日米欧の企業や大学・研究機関。日本ではバイオコーク技研(株)(東京都千代田区)が有力だ。同社は今年開催の「スマートエネルギー Week」で小型FCトラック(「マグ水素自動車」)を用いたデモを公開。カートリッジと水タンクで構成される水素発生ユニットに、水を適量滴下することで水素が生成する仕組みを実証した。
バイオコーク技研のMgH2タブレット 同社のMgH2(「マグ水素タブレット」)は、マグネシウムインゴットから切り出したマグネシウムタブレット内に水素を貯蔵する。様々なマグネシウム粒径を使用することで水素の発生スピードや発生量をコントロールできる。水素貯蔵量においては競合他社より多くできるという。製造・開発拠点は自社の沼津事業所だが、欧州に新たな拠点を設けることも検討している。
同社は国内大手自動車メーカーと共同開発を進めており、今後、本格的な実証実験が開始される見込みだ。
一方、海外ではフラウンホーファー研究機構 生産技術・応用マテリアル研究所(IFAM、独ドレスデン)がペースト状の「Powerpaste」を開発している。これは出発材料であるマグネシウム粉末に約350℃、大気圧の5~6倍のプロセス環境下で水素と結合させ、MgH2を形成。それにエステルと金属塩を加えることで歯磨き粉のようなペースト状とするもの。IFAMはカートリッジまたは専用設備による充填を検討している。すでに生産プラントは構築済みで、オンデマンドで提供している。
マグネシウムに期待かかる
水素キャリアに限らずマグネシウムをFCや次世代蓄電池といったエネルギーデバイスに適用する動きが広がっている。ニッケル、リチウム、白金といったレアメタルの調達懸念がなくなり、同時に低コスト化も期待できるためだ。例えばマグネシウム空気電池は、マグネシウムを負極、空気を正極、塩水を電解液として発電するFCだが、レアメタルを一切使用しない。加えて、マグネシウムは回収・再利用できることからクローズドループシステムも構築できる。
マグネシウムは海水に含まるなど地球上に豊富に存在することから、資源に乏しい我が国には特に有望なマテリアルと成り得る>(以上「電子デバイス産業新聞」より引用)
「「水素化マグネシウム」はFCV普及のカギとなるか」との見出しで東哲也(電子デバイス産業新聞編集部・記者) 氏が記事を書いている。云うまでもなく、水素はクリーンエネルギーとして期待を寄せられている。ただ運搬技術がなかなか見つからず、自動車などへの利用が遅れている。
そこで注目されているのが水素化マグネシウム、という水素化合物だ。その最大の利点は「特徴水と反応させることで簡単に水素を取り出すことができる」という点にある。しかも「加水分解することにより、貯蔵している水素の2倍の水素を生成することが可能 MgH2 + 2H2O ⇒ 2H2 + Mg(OH)2」という便利さだ。
さらに、常温・常圧で安定しており、高い安全性がある。(※消防法に非該当(15μm~)
水素吸蔵合金の中では非常に軽量で、「アンモニア(NH3)を超える高密度(単位体積当たり)の水素貯蔵が可能」で安全な貯蔵と安価な輸送が可能)というから鬼に金棒だ。
また水素は水の電気分解で得られるため、電力供給で不安定な太陽光発電の電気を利用して水素を生成することも考えられる。現在はトクヤマがイオン交換膜食塩電解法で苛性ソーダを製造する時に発生する副生水素を、純水素型燃料電池に安定供給している。その水素を広範囲で利用するため固体化して運搬できれば利用範囲が広がることから水素化合物の研究を重ねてきた。
その成果として水素化マグネシウムの化合物にたどり着いた。この技術が実用化されればEVとしてリチウムイオン電池がエネルギー輸送手段として利用されていたが、水素を内燃機関の燃料として利用できるため、現行のエンジン車に若干の手を加えることでガソリンエンジン車に代わることも考えられる。もちろん水素を燃料としているため排出ガスはなく、水が出るだけだ。
もちろんレアアースを必要とするリチウムイオン電池EVからトヨタが開発で先行している燃料電池車(FCV)の水素供給方式として水素化マグネシウムを利用することも可能だ。そうすると、レアアース市場を独占している中国を気にする必要はなくなる。
引用記事にある通り、マグネシウムは海水中に無尽蔵に溶け込んでいるため、海に面している国なら調達に不自由することはない。今後のエネルギー源として水素は無限大の可能性を秘めている。