検察の「自白誘導」の長期未決拘留と、それを許す裁判所の「人権意識」の欠落。

<凄い裁判が始まろうとしている。KADOKAWA前会長が人質司法で精神的肉体的苦痛を受けたとして、国相手に2億2000万円の損害賠償を求めた裁判だ。五輪汚職で逮捕・起訴され、今は保釈中の身。この裁判は自身の刑事裁判とは別の提訴だが、どこが凄いのか。人権派のオールスター弁護士をズラリと揃え、司法の場でまさしく、司法の不正を問う訴訟である点だ。勝てば、人質司法は変わる。少なくとも世論は喚起される。権力と闘う言論人・出版人としての、思いのたけを聞いた。
 ──国を訴えた記者会見(6月27日)、大仕掛けに驚きました。弁護団長の村山浩昭さんは袴田事件で再審を決めた裁判官で、人権派法曹人の大御所です。その他の弁護士も無罪請負人の弘中惇一郎さん、これまた人権派弁護士の論客、海渡雄一さん、喜田村洋一さん、護憲で政権とも闘った伊藤真さん。これだけのメンバーをそろえ、国内だけでなく、国際世論に訴えるために日本外国特派員協会でも会見し、英訳の本まで用意された。

 その辺がわかっていただけるとうれしいです。
 ──会見の手ごたえはどうですか?
 弁護士の方は「よかった」と言ってくださっていますが、この裁判は大変です。訴えている相手が司法なのですから。日本では捜査当局が裁判所に逮捕状を請求する。勾留か保釈かを決めるのも裁判所です。私は226日間も勾留されて、その間、3度倒れて、2度入院した。このままでは死ぬと思ったが、拘置所の医師からは「生きている間はここから出られませんよ。死なないと出られないんです」と言い放たれた。私が闘うのは、こうした人権を無視した人質司法の違憲性で、まさしく、ヒューマニズムをおろそかにする裁判所の人権の扱いをただすために裁判所で争うのです。前例がなく、長期の闘いになると覚悟しています。
 ──人質司法違憲訴訟という公共訴訟だけでなく、人質司法禁止法など、二の矢三の矢を準備され、複合的な闘いを視野に入れている。80歳の角川さんが長い闘いを覚悟した理由は何ですか?
 もちろん、検察に対する怒りもありますが、これからの人生、私に何ができるだろうと考えた。私たちは自分たちが生きる社会をどのようにしたいのか。この問いかけに真剣に答えなければいけないと思ったのです。
 ──それは出版社を背負ってきた「言論人」としての宿命ですか?いつの時代もそういう闘いがあった。
 宿命って言葉では説明がつきませんね。
 ──そんな簡単な言葉じゃない?
 奇麗な話じゃありません。一生懸命あがいて、あがいて、あがきたいんですよ。我一人の生存権をかけて。

あがいてあがきたいんですよ、生存権のために
 ──「らい予防法」の違憲国家賠償請求訴訟で勝った徳田靖之弁護士にも会われたそうですね。
 感動しました。いきなり、角川さん、これは勝たなきゃいけない。理屈じゃないんだ、人の心の琴線で勝つんだ、とおっしゃった。
 ──向こうは法体系を固めている。魂を揺さぶる訴訟にしなければいけないということですね。
 この国では人権無視の人質司法がいわば、システムとなっているんですよ。拘置所、検察、裁判所が一体となっている。拘置所では本を読み漁り、絶望の中で私はそのことに気づいた。
 ──憲法34条(正当な理由がなければ拘禁されない)、38条(拷問もしくは脅迫による自白または不当に長く勾留された後の自白は、これを証拠とすることができない)があるのに、検察のシナリオに沿った自白をしなければ保釈されない。やがて追い詰められ、虚偽の自白をして出してもらおうかと考えるようになる?
 日本は戦後、経済発展し、資本主義が育ったことで、民主主義も育ったと誤解している。日本は人権後進国です。長い思想の歴史で日本人は人権という概念を真剣に考えたことがあるのだろうか。私はないと思いますよ。
 ──憲法が保障する人権は形骸化している?
 すべてに公共の福祉に反しない限り、という条件が付くんです。この公共の福祉というのがクセモノ、詭弁で、そこに国家の意志が入ってくる。マスコミも放送法や通信法で“公共の福祉に反しない限り”と縛られている。そんなマスコミが検察のリークに乗っかり、押し寄せてくる。たまらず、記者会見に応じたら、証拠隠滅や逃亡の恐れがあるとされ、逮捕された。その瞬間から、罪人として報じられる。拘置所では番号で呼ばれ、ついたてもなく、廊下から丸見えのトイレで自尊心はズタズタにされました。
 ──既決囚が入る刑務所は違うんですよね。
 TBSの報道特集(2024年3月2日放送)が女性刑務所の受刑者の生活を報じていましたが、驚きました。一定の自由の制限はあるものの、テレビがある明るい独居房や集団生活で元気に既決囚の受刑者が過ごしている。もちろん、受刑者の心中はわかりませんが、私がいた拘置所とはまるで違います。拘置所は人権を剥奪し、人間の尊厳を踏みにじり、罪人であると洗脳し、自白を強要させるためのシステムなんですよ。

■いつもまにか獄中俳句歳時記ができた
 ──拘置所では俳句を作られたそうですね。確か、創業者の源義さんや兄の春樹さんが俳人なので、ご自身はやらないとおっしゃっていたのに。
 ある日、独房で本を読んでいると、人がいるんですね。うわっと思ったけど、なんだか、うれしくなった。そうしたら、人だと思ったのは自分の影だったんです。今度はその影が愛おしくなりましてね。語りかけたくなるような。その影はほんの数センチの窓から差し込む月光でできた影でした。満月でした。
 ──数センチ?
 窓は98%以上は覆われている。日本の拘置所には窓がないと批判されるのを恐れて少しだけ開けてあるが、窓という名のフェイクです。それでもそこから差し込む月光の力に感動して作ったのがこの句です。
 《 獄中の冴ゆる冬月我のもの 》
 ──限界の中の句ですね。自然を制限されると、五感をフル稼働して自然を感じるようになるんですね。
 《 獄中にどんな鬼棲む鬼やらい 》
 ──鬼やらいは節分ですか。
 私は拘置所で日記をつけて、そこに検事とのやりとりとかも記していたんですね。そうしたらある日、弁護士の接見中にそのノートを取られ、コピーされた。これは恐ろしいなと思い、その日から日記はやめました。代わりに俳句を考えるようになったんです。逮捕されたのが9月14日で夏の終わり。秋が来て、12月になり、お正月が来て、春が来たけど、まだ出られない。
 《 冬の獄通いつめたる妻痩せし 》
 《 松過ぎの獄も巷の如くなり 》
  獄中俳句歳時記になりました。
 ──よく心が折れなかったですね。
 怒りもあります。社員への思いもあります。会えないのに小菅に通って差し入れをしてくれた多くの友人がいます。アッ、家内が週に5日、接見に来てくれましてね。たった20分間で、会話はすべて看守がメモ。それを家内が「20分間の日常ね」と言いました。つまり、それ以外の23時間40分間、私は非日常の中にいたわけです。この20分間に救われたところもありました。おかげさまで生きて出られた。会見ではREBORN、RESTART、生まれ変わるんだと言いました。残りの人生はこの闘いに賭けようと思っています>(以上「日刊ゲンダイ」より引用)




角川歴彦氏(KADOKAWA前会長)が激白 人質司法違憲訴訟への決意、獄中で考えたこと」との見出しが目に付いた。角川氏は「22年9月、東京五輪大会組織委員会の高橋治之元理事への贈賄容疑で逮捕され、取締役会長を辞任。23年4月に保釈。「人質司法」の違法性を訴える「人間の証明」(リトル・モア)を上梓した」。
 その半年以上を及ぶ拘留期間の非人道的な捜査のあり方と司法のあり方に疑問を呈している。本来、拘留期間は「被疑者勾留は原則10日間」となっている。刑事訴訟法208条① 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。 しかし延長される場合が殆どで、裁判官はやむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる、とある。だから延長の10日とそれに逮捕日を含めて最大23日間拘留されるのが大半だ。しかし現実はそうではない。検察が書きしたためた「供述調書」にサインしない限り、拘留期間の再延長を裁判所に申し出て、検察と裁判所はグルになって易々と拘留期間の再延長を認めてしまう。かくして、角川氏は半年以上に及ぶ拘留期間を経験することになった。

 検察の「自白誘導」の長期未決拘留と、それを許す裁判所の「人権意識」の欠落が半年以上もの長期拘留を可能にしている。それは果たして「疑わしきは罰せず」の推定無罪の原則に反してはいないだろうか。
 そして検察の拘留請求を易々と認めている裁判所の人権意識の欠落振りは非常識と云うしかない。まさに検察と裁判所との共同謀議で、日本は未だに「自白主義」を採っているのか、と疑わざるを得ない。角川氏の証言によると「拘置所の医師からは「生きている間はここから出られませんよ。死なないと出られないんです」と言い放たれた」という。医師までも「自白を強要する」検察とグルなのか。

 もちろん検察は自尊心までも破壊する。「逮捕されたその瞬間から、罪人として報じられる。拘置所では番号で呼ばれ、ついたてもなく、廊下から丸見えのトイレで自尊心はズタズタにされました」というから酷いものだ。一体いつからそうした劣悪な環境に「被疑者」を追いやるような仕掛けがなされて来たのか。もちろん自殺などを防ぐため、とか様々な理由を検察当局は並べ立てるだろうが、被疑者の人権を無視することが「当たり前」というのは国際的な基準からいって通用しない。日本の極めて後進的な恥部と云うしかない。
 翻って、安倍氏を狙撃したとされる上山氏の場合はどうだろうか。彼は狙撃犯として緊急逮捕されたが、起訴されるまで一年以上かかり、そして起訴されてからも「公判前整理手続き」と称して、事件から2年も経過した現在まで、一度も公判が開かれていない。

 安倍氏狙撃事件は犯人が特定された明快な事件のように思えるが、なぜ上山氏は長々と拘留され、そして現在も公判が開かれないまま逮捕から2年を経過する、という異常事態を迎えているのだろうか。
 そもそも公判前整理手続きとは、重大事件や複数の被害者、複数の被告人が存在する複雑な事件などの場合、裁判がダラダラと長期化せず迅速かつ正しく適正に行われることを目的にしている。迅速化を目指すべき公判前手続きで半年以上もかけるとは、異常事態と云うしかない。検察は何を隠しているのか、そして裁判所は何を恐れて公判前手続きに異常な必須を費やしているのか。公判が維持できないような異常事態が安倍狙撃事件で起きていたのか。そのことを1mmも報じない日本のマスメディアとは一体何だろうか。

 逮捕され歩いて警察車両に乗った「被疑者」が車いすで保釈される図は何度も見てきた。一昨年の五輪疑惑で逮捕された高橋某氏もそうだったし、角川氏もそうだった。被疑者の健康などを一切考慮しない取り調べがあって良いのだろうか。それほど被疑者の国体と精神を痛めつけなければ検察は取り調べが出来ないのだろうか。
 日本は物証で事件を固め、自白に頼らないという捜査の近代化を成し遂げた先進国ではないのか。角川氏が引用した対談で指摘するように、拘置所は「命懸け」の場なのか。それこそ拷問道具を使わない拷問によって自白を強制しているとしか云えないのではないか。
 日本には留置施設視察委員会なる委員会が存在する。「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第20条に基づき、警察の留置施設の運営について透明性を高め、被留置者の処遇の適正を確保する目的で警察本部に設置されています。」と設置の理由が明記されているが、そんな有名無実の委員会など一掃して、警察本部内ではなく国会内に民間の委員などから構成される第三者委員会の「留置施設視察委員会」を設置すべきだ。もちろん取り調べの映像化は云うまでもなく、被疑者の自尊心や健康までも人質にして「自白調書」に署名させる卑劣な取り調べを一掃すべきだ。

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