ウクライナ戦争は決して負けることの出来ない、自由と人権のための戦いだ。

ロシアのウクライナ侵攻を止めるにはどうすればいいのか。元外交官の東郷和彦さんは「米国のバイデン大統領のように『自分が100%正しい』という外交姿勢では、プーチン大統領を止めることはできない」と指摘する。政治学者の中島岳志さんとの対談をお届けする――。
東郷 和彦ーー静岡県立大学グローバル地域センター客員教授
中島 岳志ーー東京工業大学教授


戦争終結にこぎ着けた日本の経験が役立つはずだ
【東郷和彦】ウクライナをめぐる状況は深刻です。アメリカをはじめ西側諸国はウクライナを支援し、彼らに武器を提供してきましたが、それはむしろ戦争を長引かせ、事態を悪化させるだけです。このままでは想像もできない惨禍がもたらされる恐れがあります。いま必要なのは武器の提供よりも停戦交渉です。私たちは一刻も早く停戦を実現する必要があります。
 その際に参考になるのが、日本の経験です。かつて日本はいわゆる大東亜戦争に突入し、多くの犠牲者を出しましたが、様々な人たちの努力によって戦争終結にこぎ着けました。この歴史から学べることは多いはずです。日本思想に詳しい中島さんとの対談を通じて、こうした問題を議論していければと思っています。
 まず、最近欧米で行われている議論を振り返っておきたいと思います。欧米は一貫してウクライナ支援を訴えてきましたが、わずかではありますが、次第に停戦を求める動きが見られるようになっています。
 たとえば、五月一九日のニューヨーク・タイムズの社説は、「ウクライナが決定的な軍事的勝利を収めるという目標は、現実的ではない」「非現実的な期待をすれば、アメリカやNATOはお金がかかってダラダラ続く戦争にさらに深く引きずり込まれることになる」と批判しました。

勝利よりも終戦を呼びかける声が増えている

【東郷】また、五月二三日にはアメリカのキッシンジャー元国務長官がダボス会議にリモートで参加し、ウクライナはクリミアの現状を受け入れ、ウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州のロシア人居住区で自治権を認めるべきだといった趣旨の発言をしました。
 これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は激怒します。彼はニューヨーク・タイムズとキッシンジャーを名指しで批判し、激しく罵りました。
 こうした事態を受けて、今度はアメリカのバイデン大統領が五月三一日にニューヨーク・タイムズに寄稿します。彼は「アメリカはプーチン氏の追放を模索していない」「ロシアに痛みを与えるためだけに戦争を長引かせることはない」とする一方、「ウクライナを強くするために引き続き対処する」と述べました。
 これは結局、ウクライナに武器を提供し続けるということですが、これまでと違ってプーチンを刺激しないように慎重ないい方をするようになっています。
 また、アメリカのノーム・チョムスキーはプーチンに「手土産」をあげても戦争をやめるべきだといっていますし、フランスのエマニュエル・トッドは「この戦争は簡単に避けることができた」としつつ、フランスやドイツは戦争から抜けるべきだといっています。こうした声は傍流の域を出ないとはいえ、注目に値します。

アメリカの価値観を押しつけても反発するに決まっている

【中島岳志】この戦争がどのような結末を迎えるかは、アメリカの動きに左右されます。そこで、バイデンがどういう人物かを理解することが非常に重要になると思います。
 東郷さんが必読書とおっしゃるバイデンの自伝『約束してくれないか、父さん』を私も熟読しました。彼はオバマ政権の副大統領時代にプーチンと会談し、「あなたには、心というものがない」などと述べ、プーチンを面罵しています。アメリカの価値観からすれば、プーチンのような専制主義的な人間はどうしても受け入れられないということなのでしょう。
 確かにアメリカの掲げる自由や民主主義は重要ですし、ロシアの体制に問題があることも事実です。しかし、アメリカの価値観を無理やりロシアに押しつけるべきではありません。そんなことをすればロシアは反発するに決まっています。
 オバマ政権も最初のころは自分たちの価値観を他の国に強要することは控えていたと思います。その典型が対中政策です。オバマ大統領は中国を批判しつつも、彼らとの結びつきを強め、包摂していくことで、中国をソフトランディングさせる方法を模索していました。
 ところが、時間がたつにつれてオバマ政権は変容していき、アメリカの価値観を絶対視するようになりました。その結果、政権末期には中国ともロシアとも真正面から対立するようになってしまったのです。

アメリカはかつてのソ連と同じことをしている
【中島】私がウクライナ戦争に関して的確な分析をしていると思ったのは、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマーです。彼はウクライナ戦争の原因はNATOの東方拡大にあると述べ、オバマ政権時代にこの動きを進めたのは副大統領だったバイデンだと指摘しています。
 ミアシャイマーによれば、バイデンは「リベラル覇権主義」の中心人物です。リベラル覇権主義とは、アメリカの対テロ戦争を支えた思想で、アメリカ流の民主主義を世界に波及させることを目的としています。要するにネオコンです。アメリカはこの考え方に基づいてイラク戦争を引き起こしましたが、彼らの試みは結局失敗に終わりました。しかし、この思想はその後もしぶとく生き残り、ウクライナ戦争を招いたというのがミアシャイマーの見立てです。
 また、ミアシャイマーは、アメリカはキューバ危機を想起すべきだと指摘しています。一九六二年、ソ連がキューバにミサイル基地を建設していることが判明すると、アメリカは猛反発し、核戦争寸前まで緊張が高まりました。ミアシャイマーは、アメリカがウクライナでやってきたことは、ソ連がキューバでやったことと同じだといっています。

外務大臣だった祖父はどうやって戦争を回避しようとしたか

【中島】そこで東郷さんにうかがいたいのは、日米戦争開戦時に外務大臣を務めた、東郷さんのお祖父さまである東郷茂徳のことです。東郷茂徳は最後まで日米戦争を回避しようと努力していましたが、アメリカからハルノートを突きつけられ、開戦やむなしという判断に至りました。
 ウクライナ戦争と日米戦争は時代も条件も異なるので、簡単に比較することはできません。しかし、この間の米ロのやり取りを見ていると、私はどうしてもハルノートのことが頭に浮かびます。東郷茂徳とプーチンの心境には、どこか通じるところがあるのではないでしょうか。
【東郷】私も当時の日本と現在のロシアには重なる部分があると思っています。茂徳の娘である私の母から、ハルノートを突きつけられた日の夜、茂徳が別人のように落胆していたという話を何回も聞かされました。
 茂徳の手記『時代の一面』に基づいて当時のことを振り返ると、茂徳はアメリカとの戦争を回避すべく対米交渉に臨み、「甲案」と「乙案」をまとめました。
 甲案は中国から軍を引き上げると明記したことがポイントです。軍部は当初、九九年駐留したのちに引き上げると主張していましたが、茂徳が粘り強く説得し、最終的に駐留期間を二五年まで短縮させました。

日本の精一杯の譲歩を打ち砕いた「ハルノート」

【東郷】しかし、アメリカが甲案を受け入れないのは明らかでした。そこで、茂徳は乙案を取りまとめます。
 乙案のポイントは、南部仏印から撤兵することと引き換えに、対日石油禁輸措置の解除を求めたことです。一九四一年七月に日本軍が南部仏印に進駐したことで、アメリカは石油禁輸に踏み切り、日米関係は急速に悪化しました。これを以前の状態に戻そうとしたわけです。
 アメリカも乙案に前向きな姿勢を見せていました。そこで、茂徳は期待感を持って交渉を進めていたところ、突然アメリカからハルノートが提示されたのです。
 ハルノートでは、日本軍が中国やインドシナから完全撤退することや、当時日本が承認していた汪兆銘政権の否認、三国同盟の無効化など、アメリカが一〇〇%日本に勝利することを目的とする内容でした。甲案や乙案をつくり、精一杯の譲歩をしたあとにこれほど厳しい要求がなされたわけですから、日本側がこれを最後通牒と受け止めたのは当然だと思います。

プーチンの主張を無視してきたのはバイデンのほう

【東郷】プーチンもきっと同じような受け止めだったのだろうと思います。プーチンが一貫して主張してきたのは、ウクライナのNATO加盟は許容できないということと、ウクライナ東部のロシア系ウクライナ人を保護してほしいということです。それと同時に、プーチンは戦争を回避すべく、昨年一二月にアメリカとNATOに条約草案を示し、交渉を呼びかけています。
 ところが、バイデンやゼレンスキーはロシアのいい分に一切耳を傾けようとしませんでした。これがプーチンが戦争を決断する一因になったことは否定できないと思います。
【中島】私は以前、東京裁判でA級戦犯は無罪だとする判決書を書いたインドのパール判事のことを調べ、『パール判事』という本を書きました。パール判決書はしばしば誤解されていますが、日本が何の罪も犯していないとは書いていません。パールは南京虐殺をはじめとする日本軍の虐殺行為を事実と認定し、厳しく非難しています。しかし、事後法によって被告を裁くことはできないとして、A級戦犯は法的には無罪だと判断したのです。
 パールはハルノートにも注目しています。ハルノートのようなものを突きつけられれば、どんな国でも立ち上がっただろうとして、日本を追いつめたアメリカを非難しています。
 もちろんパールは、だから日本には責任がないとはいっていません。日米開戦は日米双方に責任があり、日米は同罪だといっているのです。

「こんなにうまくプーチンが引っかかるとは」

【中島】これは今回のウクライナ戦争にもいえることだと思います。プーチンには大きな責任がありますが、アメリカがロシアを追い込んだことも確かです。東郷さんもパールと同じ見方をしているのではないでしょうか。
【東郷】おっしゃる通りです。ロシアのやったことは決して許されることではありません。厳しく批判されて当然です。その一方で、アメリカがロシアを戦争に踏み切らせたという側面も見落としてはなりません。
 最近私は確度の高い情報として、ネオコンとして有名なアメリカのビクトリア・ヌーランド国務次官が「こんなにうまくプーチンが引っかかるとは思っていなかった。これでプーチンを弱体化できる」という趣旨のことをいっていたという話を聞きました。
 ヌーランドはオバマ政権時代には国務次官補を務め、当時のバイデン副大統領のもとでウクライナの親ロ派政権を転覆したマイダン革命に関わっています。そのころ彼女がウクライナ側とやり取りしている音声データも流出しています。

ウクライナの反ロ感情とネオコンの思惑が合致してしまった

【東郷】近年、ウクライナではヨーロッパと強い親和性を持ち、強烈なウクライナ愛国主義を掲げるグループが台頭しています。彼らは第二次世界大戦でナチスと協力し、ソ連と戦ったステパン・バンデラというウクライナの民族主義者を信奉しており、強い反ロ感情を持っています。
 彼らにとって、バイデンやヌーランドのようにアメリカを絶対善と考え、ロシアを絶対悪と見なす人たちがアメリカ政府の中枢を占めるようになったことは幸運だったと思います。こうしてウクライナの反ロ感情とネオコンの思惑が見事に合致してしまったのです。
【中島】バイデンの態度はあまりにも頑なです。自分が一〇〇%正しく、プーチンが一〇〇%間違っていると考えているのでしょう。
 自分が絶対に正しいという姿勢は、フランス革命に通じるところがあります。フランス革命を主導した人たちは、理性は無謬であると考え、人間の理性によって完璧な世界をつくることができると信じていました。
 これを厳しく批判したのが、保守思想の祖とされるイギリスのエドマンド・バークです。バークは人間の理性に対して懐疑的な眼差しを持っていました。人間は道徳的にも能力的にも不完全な存在です。どんなに頭のいい人でも間違えたり誤認したりします。人間が完璧な世の中をつくることなど不可能です。

「自分が100%正しい」という政治思想は破滅を産む

【中島】保守はこの懐疑の念を自分自身にも向けます。自分もまた間違えやすい人間だとするなら、自分と異なる意見を持った他者の話にも耳を傾けてみようということになる。そして、他者の話に理があれば、そこで合意形成をしていく。自己に対する懐疑が他者への寛容につながるのです。
 極端で偏った考え方は、必ずフランス革命のような結果をもたらします。バイデンが現在のような対ロ政策を続けていれば、ウクライナはこれまで以上に悲惨な状況に陥る恐れがあります。
 今回の戦争で私が本当にショックだったのは、私と同世代から少し上で、個人的にもよく知っている日本の国際政治学者たちが、バイデン政権の主張をオウム返しのように述べ続けていることです。彼らはアメリカの責任を指摘している人を見つけようものなら、「ロシアを擁護するつもりか」などとバッシングを浴びせています。完全にネオコンの論理にとらわれてしまっています。

ロシアを批判する日本の保守派は矛盾していないか

【中島】また、日本の国際政治学者の中には、ウクライナ戦争がアメリカとロシアの「代理戦争」であると指摘すると、強く反発する人たちもいます。彼らがいうには、この戦争はロシアから一方的に侵攻されたウクライナが反撃を試み、アメリカがそれを支援しているだけで、米ロの代理戦争という見方はウクライナの主体性を無視している、ということになるようです。
 しかし、ミアシャイマーが指摘するように、この戦争はNATOの東方拡大を抜きには語れません。むしろアメリカというファクターを無視する方が非現実的です。
 もう一つ付け加えると、日本のいわゆる保守派の多くは、ロシアを批判し、ウクライナを応援していますが、ここにもねじれがあります。というのも、彼らはその一方で、日米戦争の開戦プロセスはアメリカに非があり、日本にも正義があったと主張しているからです。そうであれば、プーチンがなぜ戦争に踏み切ったのかにも目を向けるべきです。日米戦争を肯定しつつ、プーチンのいい分を全否定するのは矛盾といわざるをえません。
【東郷】最近、日本の若手の学者の方々はよくテレビに出演されていますね。みんな優れた知性の持ち主で、私も彼らの話を聞いて大変勉強になっています。
 しかし、中島さんがご指摘されたように、彼らはネオコンの論理にとらわれ、ネオコンのルソフォビア(ロシア嫌悪症)すらそのまま受け入れているように見えます。とにかくプーチンを打倒することしか考えていないのではないでしょうか。

「プーチン打倒」だけではウクライナの人々を救えない

【東郷】しかし、そうした考え方をしている限り、戦争は終わりません。彼らのウクライナを助けたいという気持ちに嘘偽りはないと思いますが、それは結果としてさらに多くの犠牲を生み出すと思います。
【中島】現在の日本政府もアメリカ一辺倒で、ネオコンと同じような対応をとっています。岸田政権はこれまでの方針を転換し、対ロ強硬路線に舵を切りました。ここまで特定の国との関係をバッサリ切り捨てた例はほとんどないと思います。
【東郷】そうですね。日本の外交史に残る出来事だと思います。通常、こういうときは外務省から反対意見があがるものです。実際、他の国ではそういう動きが見られます。六月八日のニューヨーク・タイムズには、アメリカの諜報(ちょうほう)機関がウクライナ側から軍事戦略や戦況について十分な情報提供がなされていないことに不満を持っているという記事が掲載されています。これは明らかに政権内からのリークです。バイデン政権の中に対ロ強硬路線を続けることに疑問を持つ人がいるということです。
 ところが、日本ではこうした動きはまったく見られません。大変残念ですが、いまの外務省はとにかくバイデンの方針に従うことしか考えていないように見えます。

日本の外交は取り返しのつかないことをしている

【東郷】もう一つ重大な問題は、バイデン政権の対ロ政策が結果的に中国の台頭を招いているということです。アメリカはロシアに多くの力を割くようになったことで、中国にプレッシャーをかける余裕がなくなりました。それによって中国はフリーハンドを手にし、アメリカとの関係において立場を強めています。また、ロシアが中国を全面的に頼るようになったことも大きいと思います。中国は何もしていないのに、漁夫の利を得たのです。
 これは日本にとっても深刻な問題です。日本は台頭する中国とどう対峙(たいじ)すべきなのか。
 まず何よりも重要なのは「抑止と対話」です。日米同盟を強化するとともに防衛力を高めつつ、中国との対話を重ねていく必要があります。
 それと同時に、日本外交が主戦場とすべき北東アジアでできるだけ味方を増やす、少なくとも敵をつくらないことが大切です。その対象となる国はロシアと韓国しかありません。
 しかし、ロシアはウクライナ戦争の結果、日本を非友好国ないし敵対国と位置づける可能性があります。また、日本は韓国と安全保障上の利益を共有しているといっていますが、植民地問題に関して和解へと動き出す様子はありません。日本は大切にすべき二つの国に対して、取り返しのつかないことをしているのではないでしょうか。

今こそインド外交に学ぶべき

【中島】私は政治家の大平正芳を尊敬しているのですが、大平は総理時代、「環太平洋連帯構想」を提唱しました。これは米中のどちらか一方を選ぶのではなく、米中の間の均衡点を見極めつつ、環太平洋という枠組みの中で中国をソフトランディングさせていくという考え方です。
 この背景には、大平が重視した「楕円(だえん)」の思想があります。楕円形のように二つの中心があり、それらが均衡を保ちつつ緊張した関係を維持していれば、一つの正義を盲目的に信じることはなくなります。これによって無謬性にとらわれることを回避しているわけです。これはまさに保守思想のエッセンスです。
 私は現在のロシアや中国に対しても、こうした姿勢で臨むべきだと考えています。アメリカとの関係を大切にしつつ、中国やロシアともしっかり付き合い、彼らの覇権主義の牙を抜いていく。これは理想論ではありません。実際にインドがそうした外交を行っています。彼らはアメリカや日本と友好関係を維持する一方、ロシアとも付き合っています。日本はいまこそインド外交に学ぶべきです。

戦争を終わらせるために何が必要か

【東郷】最後にウクライナ戦争をどうやって終結させるかについて議論したいと思います。
 冒頭で述べたように、欧米にはわずかとはいえ停戦を求める動きがあります。特にヨーロッパは和平を模索しているように見えます。六月一六日にフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相(当時)がゼレンスキーと会談し、ウクライナがEUの加盟候補国になることを支持しました。これは対ロ強硬路線の延長のように見えますが、実際にウクライナがEUに加盟するにはロシアとの和平が必要なので、そのための布石を打ったとの見方があります。
 しかし、ウクライナへの武器提供の流れが止まったわけではありません。六月一五日にはアメリカ主導でウクライナへの軍事支援について話し合う会合が開催され、NATO加盟国などおよそ五〇カ国が参加しました。六月一七日にはイギリスのジョンソン首相(当時)がゼレンスキーと会談し、武器の提供や、イギリスがウクライナ兵に軍事訓練することを提案しています。やはりアングロサクソンは戦争をやめるつもりはないようです。

事態打開のカギを握るのはやはりバイデン大統領

【東郷】ミアシャイマーは六月一六日に欧州大学院(EUI)で講演し、「ウクライナ戦争は多重的惨事であり、予見できる将来、状況はさらに悪化する」と述べています。この見方は正しいと思います。
 実際、10月8日にはロシア本土とクリミアを結ぶクリミア大橋が爆破されました。また、ウクライナは、リトアニアが自国の領土を通ってロシアが制裁対象の物資をカリーニングラードに輸送することを禁じました。米ロの政治に影響力を持つドミトリー・サイムズは六月二一日にアメリカの雑誌『ナショナル・インタレスト』で、これは一九四八年にソ連が西ベルリンと西ドイツをつなぐすべての陸上交通を遮断したことに似ているとして、プーチンは当時のアメリカと同じように激しい反応に出るだろうと強く警告しています。
 事態打開のカギを握るのは、やはりバイデンです。バイデンがゼレンスキーに「これ以上戦争を続け、被害を拡大してはならない。アメリカの武器援助には限界がある。失われていくウクライナ人の命のことを考え、どこまで領土を保全すべきか見極めてほしい」といわなければなりません。もしゼレンスキーが自ら停戦を決断すれば、そのとき彼は本当に偉大な大統領になると思います。バイデンとゼレンスキーにそこまで踏み込む勇気がないとすれば、戦争は拡大され、無数の命が失われることになります。暗澹たる思いです。

3国がそれぞれ相手に譲る姿勢を持たなければ

【東郷】かつて日本が戦争終結にあたって連合国からポツダム宣言を提示されたときも、大変な苦労がありました。日本は国体の護持、すなわち皇室の安泰が棄損されないことを条件にポツダム宣言を受諾すると連合国に伝えます。これに対して、連合国側は「日本国の最終的な政治形態は日本国国民の自由に表明する意思によって決定する」と回答しました。そこで日本は、日本国民が自由に意思表明をすれば必ず国体の護持を願うはずだと考え、ポツダム宣言受諾を決定したのです。
 もしこのとき連合国が皇室の廃止を通告していたら、日本は戦争を継続していたと思います。アメリカもそれがわかっていたから、日本に対して譲歩し、日本が何とか受け入れられるような条件を提示したのです。
 自分の主張を一〇〇%相手に飲ませようとするのは、外交ではありません。アメリカとウクライナ、そしてロシアがそれぞれ相手に譲る姿勢を持つことが必須です。
【中島】山本七平は『「空気」の研究』で、日本が無謀な戦争に突入した原因を「空気の支配」に見出しました。「戦争するのが当然だ」という空気がつくられた結果、いかに非合理的な決定がなされても、「それはおかしい」と口にすることができなくなってしまったのです。
 現在のようにロシアを打ち負かすべきだという空気が支配的な中で、ロシアとの停戦交渉に乗り出すのは非常に大変です。しかし、これ以上犠牲を増やさないためにも、停戦が必要であることは間違いありません。私も友人や先輩との良好な関係を失う覚悟で、停戦を訴えていきたいと思います。>(以上「PRESIDENT」より引用)




 「こんなにうまくプーチンが引っかかるとは」ウクライナ戦争をアメリカが引き起こしたといえる残念な証拠 プーチンだけでなく、アメリカにも責任はある」という「陰謀論」が格式高いPRESIDENTに掲載されるとは驚いた。
 膏薬と理屈は何にでもつくという言葉があるが、二人の対談を一読して時代認識のなさに驚くしかない。80年以上も前の世界がどのような常識に支配されていたか、二人はご存知ないのだろうか。当時、世界は白人による植民地主義がほぼ完成しようとしていた。有色人種でマトモな独立国家を形成しているのは、世界中で唯一日本だけだった。

 その当時にあって、米国は西へと領土を拡張する帝国主義に憑りつかれていた。それは米国が「悪」の帝国だった、と云うのではない。そうした植民地の拡張競争こそが白人国家の政治的命題だった。
 明治時代に陰謀を巡らしてハワイを併呑し、1898年の米西戦争に勝利してフィリピンをスペインから奪い、1940年にいよいよ日本へと襲い掛かった。日本が日米開戦を決意した契機を東郷氏と中島氏は「ハルノート」としているが、それ以前に米国は重慶に米国は空軍部隊フライングタイガー(退役した米空軍軍人たちによる「義勇軍」だと米国は主張している)を派遣して日本軍に襲い掛かっていた。

 その当時の国際的な常識は白人の植民地主義に基づくもので、力の強い国が力の弱い国を植民地化して現地人を奴隷として使役しても何ら罰せられない、という世界だった。「ハルノート」を現在の常識で批判しても仕方ない。それがいかに日本を弾圧する文言に満ちていようと、当時の国際社会では少しも非常識ではなかったからだ。
 しかし現在は当時の国際常識と大きく異なる。世界中から植民地は消え去り、国連憲章ですべての人類は人権を尊重されている、という建前になっている。そして独立国家を軍事力で屈服させ、領土を奪ってはならない、と「民族自決権」を認め尊重すべきとされている。先の大戦以前の世界と、先の大戦後の世界とでは全く異なる世界だという認識を東郷氏と中島氏は持つべきだ。

 プーチンを唆したのは米国だ、と断定的に両者は論じているが、そんな議論は荒唐無稽だ。それなら「尖閣は中国の領土だ」と主張する習近平氏に従わない日本は中国を挑発している、ということになる。だがそんな理屈を日本が受け入れられないのは当然ではないか。
 プーチンがウクライナを併呑しようとしていたのは当初キーウへ向かって戦車を何十㎞も連ねて侵攻したことから明らかだ。他国を軍事力で支配することは、先の大戦前は許されたが、現代国際社会では断じて許されない。ウクライナはウクライナ国民の地であって、プーチンが恣に併呑することなど許されない。だから両者の論理は現代国際社会の常識に反している。

 戦争でどちらか一方が100%正義などあり得ない、という両者の議論は似非人道主義者の議論だ。あるいは「喧嘩両成敗」を定めた江戸時代の諸法度のレベルでしかない。両者の議論を適用すれば日本の専守防衛理論も崩壊する。これほど日本を危機に陥れる思想はないだろう。
 他国の領土へ軍事侵攻したプーチンが100%悪いのに疑問の余地はない。たとえ入植したロシア系住民が併呑をロシアに要求したとしても、ウクライナの地を勝手に併呑してはならない。むしろ入植したロシア人こそが本国へ引き上げなければならない。そうした理屈すら理解しないで、クリミア半島をロシアのものとして停戦すべきだ、とは日本に置き換えたなら実に危険な議論と云うべきではないか。北方領土は永遠に日本に帰らないことになるからだ。

 東郷氏は「もしゼレンスキーが自ら停戦を決断すれば、そのとき彼は本当に偉大な大統領になると思います。バイデンとゼレンスキーにそこまで踏み込む勇気がないとすれば、戦争は拡大され、無数の命が失われることになります。暗澹たる思いです。」とトボケた発言をしている。東郷氏は戦争を始めたのはゼレンスキー氏ではなく、プーチンであって、戦場はロシアではなくウクライナだということを全く忘れているようだ。
 彼の論理を適用すればウィグル人は永遠に中国の軛下で暮し、チベットやモンゴルも漢族化を受け容れるべき、と主著しているのと何ら変わらない。ロシアはこれまでも中央アジア諸国に軍隊を派遣して民族独立派を徹底的に弾圧してきた。そんなソ連当時のような振舞いは時代錯誤でしかない。もちろん中共政府の中華思想もカビの生えた歴史遺産の思想でしかない。現代にそんな前時代的な思想を甦らせる方がどうかしている。彼ら両者は現代国際社会に生きていない、歴史遺産の知識しか持ち合わせていないのか、あるいは日本を滅ぼそうとする思想の持ち主なのか、いずれかでしかない。現代国際社会は民主主義国家と独裁主義国家の最終戦を戦っている。それは決して負けることの出来ない、自由と人権のための戦いだ。

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