怒りの習近平氏。

ロケット軍粛正はさらに拡大
 今年8月9日公開の「異常な中国ロケット軍トップ交代劇、習近平はまんまと『米国の策?』に嵌ったのか」では、習近平国家主席が断行した極めて異常なロケット軍トップ更迭の実態と、それによって解放軍のロケット軍部隊は大混乱と機能不全に陥っていることを解説した。が、それから2ヵ月が経った今、混乱が中国軍全体に拡大する事態が起きている模様である。
 まずは一つ、習主席による「ロケット軍トップ粛清」はどうやら、ロケット軍の以前の司令官で前国防相の魏鳳和氏にも及んできているようだ。
 魏氏は習近平政権誕生の2012年から17年までの5年間、ロケット軍とその前身の「第二砲兵部隊」の司令官を務め、2018月年3月から23年3月までの5年間は国防相を務めた。この経歴からも分かるように、彼がロケット軍トップ・国防相の要職を歴任したのは習近平政権成立後のことであるから、魏氏は本来、習主席が信頼する軍人の一人であろうと思われる。
 しかし、今年3月の全人代で魏氏は国防相を退任し、現在に至るまでは公の場から姿をいっさい消してしまった。引退した身であるとはいえ、全くの消息不明はやはり不自然である。そして8月31日、中国国防省が開いた記者会見で、魏氏とも関連するような興味深いやりとりが記者と報道官の間にあった。記者会見において外国の記者から、更迭されたロケット軍トップと前国防相魏氏の行方について質問されたところ、国防省の呉謙報道官は明確に答えることを避けた一方、次のような言葉を口にした。「わが軍の反腐敗闘争はいつまでも進行中である。腐敗を生む土壌と条件が存在する限り、われわれの反腐敗闘争は止まらない」と。
 呉報道官のこの答えは実に奇妙なものである。外国記者は別に、中国軍の「反腐敗闘争」について質問したわけではない。「腐敗」という言葉すら口にしていない。記者がロケット軍トップと魏氏の行方を聞いただけである。なのに、それに対して呉報道官は「わが軍の反腐敗闘争」の話を自ら持ち出した。どう考えてもそれは、ロケット軍トップと魏氏が腐敗摘発の対象となっていることを強く示唆したものである。つまり、7月下旬に更迭されたロケット軍トップと、ロケット軍以前の司令官だった前国防相の魏氏が、腐敗に関わったことで粛清の対象となっている可能性は濃厚なのである。
 8月9日公開の記事では、ロケット軍トップ更迭の原因は軍の機密情報は詳細にわたって米国軍に漏えいしたことにあると分析したが、今から見ればどうやらそれだけではない。もう一つの原因はやはり腐敗問題にある。そして摘発が現役のトップたちにだけでなく、元司令官で前国防相の魏氏の身に及び、解放軍の上層部にも波及した模様である。

消えた国防相

 魏前国防相が腐敗摘発の対象となっていることが国防省報道官の口から示唆された2週間後の9月中旬、魏氏の後任で現役の国防相である李尚福氏もまた、腐敗問題で取り調べを受けていることはほぼ確実になった。
 9月14日、英紙フィナンシャル・タイムズは、動静が2週間以上途絶えている中国の李尚福国防相について、中国当局の調査対象となり国防相としての任務を解かれたと米政府が判断していると伝えた。複数の米政府当局者の話としているが、李国防相は確かに、8月29日に北京で開かれた中国平和安全フォーラムに出席してから、この原稿を書いている9月18日現在までに公の場にいっさい姿を見せていない。
 そして9月15日、ロイター通信が報じたところによると、9月7日に予定されていたベトナム高官らとの李国防相の会談を中国側が数日前にキャンセルし、その理由として李氏の「健康状態」を挙げていたという。同じ9月15日、中国外務省の定例記者会見において、外国記者からこの会談キャンセルの一件と李国防相が「調査を受けている説」の真偽を聞かされると、毛寧報道官は否定も肯定もせずにして、「状況は把握していない」と答えた。
 9月14日、英紙フィナンシャル・タイムズは、動静が2週間以上途絶えている中国の李尚福国防相について、中国当局の調査対象となり国防相としての任務を解かれたと米政府が判断していると伝えた。複数の米政府当局者の話としているが、李国防相は確かに、8月29日に北京で開かれた中国平和安全フォーラムに出席してから、この原稿を書いている9月18日現在までに公の場にいっさい姿を見せていない。
 そして9月15日、ロイター通信が報じたところによると、9月7日に予定されていたベトナム高官らとの李国防相の会談を中国側が数日前にキャンセルし、その理由として李氏の「健康状態」を挙げていたという。同じ9月15日、中国外務省の定例記者会見において、外国記者からこの会談キャンセルの一件と李国防相が「調査を受けている説」の真偽を聞かされると、毛寧報道官は否定も肯定もせずにして、「状況は把握していない」と答えた。
 しかしそれで、英紙フィナンシャル・タイムズが報じた「李国防相解任説」はむしろその信憑性を補強された。7月26日、まる1ヵ月公の場から姿を消した中国外相の秦剛氏が突如解任された際には、彼が失踪していた間、国際会議への参加は「健康上の理由」でキャンセルされたことがあった。そして外務省記者会見において彼の失脚説の真偽を聞かされた時、同じ毛寧報道官はまさに、「状況は把握していない」というセリフを吐いてごまかした。こうしてみれば、今の李国防相の置かれている状況は正式に解任される前の秦剛氏のそれとそっくりさのままであることは分かる。李氏が職務停止の上で調査の標的となっていることはほぼ確実であると断定できよう。

「期間限定」の腐敗摘発

 李氏は一体どういう問題で調査を受けているのか。それはどうやら「腐敗」なのである。彼は国防相となる以前、共産党中央軍事委員会装備発展部の部長を5年間務めていたが、解放軍の装備調達を主管する「装備発展部長」とは、まさに巨大な利権と腐敗を産むポストなのである。
 実は今年7月26日、当の中央軍事委員会装備発展部は「全軍装備調達入札における法律違反・規律違反に関する手掛かりを募集するための公告」というものを公布した。その内容は、2017年10月以降において発生した、解放軍装備調達の入札における汚職・腐敗への告発を呼びかけたものである。しかしここでの「2017年10月以降」こそがミソである。というのも、問題の李尚福氏は2017年9月からの5年間、中央軍事委員会装備発展部長を務めたわけである。上述の「期間限定」の腐敗告発への「手掛かり募集」はまさしく、李尚福氏その人を標的にしたものであろうと思われる。
 これでは、李氏が腐敗問題で取り調べを受けていることはほぼ確実であるが、現役の国防相に対する腐敗追及は当然習近平主席の指示によるものであり、習主席しかこのような重要な決断ができないはずである。
 問題は、習主席は一体どうして今になって李氏の腐敗問題を追及するのかである。李氏は装備発展部部長を務めていた2018年9月、米国による対露制裁に違反してロシアから戦闘機などを調達したことで、米国政府から制裁の対象に指定されている。彼に対する制裁は今でも解除されていないが、中国現役の国防相が制裁の対象となっているとなると、それが米中間の軍の交流の大きな障害となることはいうまでもない。
 しかし習主席はそれを百も承知の上で、今年3月の全人代で李氏を国防相に任命した。つまり習主席は李尚福という軍人をすごく信頼しており、まさに軍における自分の側近の一人として使ってきている。「腐敗摘発」に関して言えば、それを政敵潰しの手段として使うことがあっても自分の息がかかっている幹部をいっさい摘発しないのは習主席の一貫とした流儀であるから、多少の腐敗問題があっても習主席は自らの重用する幹部を摘発するようなことはしない。ならば習主席は今度は一体どうして、今から半年前に国防相に任命したばかりの側近を「腐敗摘発」の標的にしてしまったのか。それが問題である。

ペロシ訪台対抗演習の大失態

 ここで想起すべなのは、2022年8月、当時のペロシ米国下院議長の台湾訪問に対抗して、中国軍が台湾周辺を実行した大規模な軍事演習の一件である。
 8月4日から7日までに実行されたこの軍事演習中で、世界の注目を集めた最重要項目が、すなわちロケット軍によるミサイルの実弾射撃であった。8月4日正午の演習開始後、中国軍は北京時間の13:56より福建省の基地から台湾周辺の海域へ向かって計11発(日本の防衛省発表では9発)を発射した。しかし当日午後北京時間の15:19、つまり発射開始からわずか1時間23分後、解放軍が発射を発表すると同時に、「訓練任務は円満に完遂できた」とし発射演習の終了を宣言し、演習のために立ち入り禁止している海域の禁止解除も発表した。
 本来、演習全体の「目玉商品」であって、そのクライマックスを飾るべきミサイル発射は一体どうして演習の最初に持っていって、そしてわずかな短時間で終了宣言を出されたのか。それこそが今回の軍事演習の最大の謎であったが、当初から、海外の中国語SNSで流された有力な説の一つがすなわち、発射されたミサイルは所定の軌道から大きく外れて日本のEEZ内に着弾したことで慌てて中断した、というものである。
 実際、「対台湾軍事演習」なのに、発射された11発のミサイルのうち、約半分の5発も日本のEEZ内に着弾したのだから、これは尋常のことではない。やはりミサイルの精度があまりにもお粗末であったため、所定の軌道から大きく外れた可能性は高い。つまり中国のロケット軍はこの軍事演習においては、ミサイルの深刻な品質問題によって大失態を演じてしまったのだ。が、考えてみれば、それはロケット軍の責任問題であると同時に、中国軍全体の装備調達を担当する前述の中央軍事委員会装備発展部の責任問題となろう。
 そしてそれこそが、今年7月下旬のロケット軍トップ更迭の一因であって、現在になって追及されている李国防相腐敗問題の原因であろうと思われるのである。なぜならば、昨年9月までに当の装備発展部長を長年務めた李氏は、軍事演習で大変な品質問題を露呈したミサイルの調達に中心人物の一人として関わっていたはずである。
 こうなると、習主席が自らの抜擢した側近の国防相を腐敗問題で追及しなければならない理由も分かってくるのであろう。李氏の腐敗は結果的に虎の子のミサイルの品質問題を招いて、習主席自身が最重要命題として熱望している「台湾併合戦争」の発動に支障をきたすようなこととなれば、いくら側近であっても習主席はそれを切り捨てる以外にない。現役の国防相を摘発の標的にしたことの政治的リスクが分かっていても、習主席はそうするしかない。

まだその先に

 しかし、李国防相に対する腐敗追及はへたをすると、彼よりもさらに大物の解放軍将軍に波及する可能性がある。今、共産党政治局員、中央軍事委員会副主席の要職にある張又侠氏もまた、李国防相の前任として例の装備発展部長を2017年までに5年間務めた。もし、張氏はその装備発展部長の在任中に腐敗問題があるのであれば(そうである可能性のほうが高いが)、李氏の腐敗追及の中でそれが芋づる式で暴露されるかもしれない。by 新華社
 9月15日、共産党中央軍事委員会が「習近平思想学習」のための重要会議を開いて中央軍事委員会副主席の何衛東氏が他の2名の軍事委員会委員が出席したが、筆頭副主席の張氏は取り調べ中の李尚福委員と共に欠席したことは話題になっている。海外の中国語SNSでは今、「ひょっとしたら張又侠までも」との噂は流されている最中である。
 以上のように、今年7月末のロケット軍トップの突如更迭から始まって、前国防相の魏鳳和氏と現役の国防相の李尚福氏に対する腐敗摘発が立て続き起きているが、このような事態の発生は中国軍全体に与える衝撃は決して小さくない。まさに激震と言うべきものであろう。
 それでは軍と習近平指導部、あるいは軍と習主席との相互不信や対立が生じてきてさらに拡大していくことも十分にありうる。もし万が一、腐敗摘発は軍事委員会筆頭副主席の張又侠氏にまで波及していくこととなれば、中国軍上層部全体は未曾有の大混乱に陥る可能性もあろう。
 事態はどこまで発展するのか。これからも要注意である>(以上「現代ビジネス」より引用)




 中国出身の石平(評論家)氏なら中国の現状を中国人の視点から的確に批評できるだろう。その石平氏が「ミサイル精度お粗末問題が軍上層部を直撃か、習近平のロケット軍「腐敗粛正」がさらに延焼、前・現国防相消息不明、そして……」と題する論評を掲載した。
 駐日米大使が「そして誰もいなくなった」と推理小説家アガサ・クリスティ氏が書いた推理小説の題をもじって中国の現状を皮肉った。

 習近平氏は次々と外務省や軍幹部を粛正している。ことに彼が創設したロケット部隊の司令官たちが相次いで姿を消しているのは異様だ。その理由が「腐敗」だというが、収賄や物資の横流しも「腐敗」なら、開発したミサイルの精度が水増しされたものだった、というのも「腐敗」の一つに数えられるだろう。
 2022年8月、当時のペロシ米国下院議長の台湾訪問に対抗して、中国軍が台湾周辺を実行した大規模な軍事演習を実施し、ロケット軍によるミサイルの実弾射撃を敢行した。8月4日正午の演習開始後、中国軍は北京時間の13:56より福建省の基地から台湾周辺の海域へ向かって計11発(日本の防衛省発表では9発)を発射した。しかし当日午後北京時間の15:19、つまり発射開始からわずか1時間23分後、解放軍が発射を発表すると同時に、「訓練任務は円満に完遂できた」とし発射演習の終了を宣言した。この不自然さに関して私は当時のブログで日本のEEZ内に五発も着弾したのは中国軍の明確な挑発だと断定した。

 しかし石平氏によると中国政府発表では11発のミサイル発射だが防衛省が感知した9発のミサイル発射が正しく、二発は正しく発射されなかった、と云うべきだろう。そして日本のEEZに五発も着弾したのは意図したものではなく、ミサイルがポンコツで落下目標を大きく外れた、ということのようだ。つまり中国のロケット部隊が保有している最新鋭のミサイルは精密誘導ミサイルどころか、正常に着火して飛翔すらしない不良品が混じるお粗末極まる代物だ、と世界に知らしめる結果になったということのようだ。
 だから突然ミサイル発射を中止し、ペロシ氏の訪台に抗議する大演習まで知り切れトンボのように終了したのだ。そうした事態に体面を重んじる習近平氏が黙っているはずがない。彼が創設したロケット部隊の責任者たちを「腐敗摘発」の容疑で罷免し、ミサイル調達関係者たちまで大規模粛清を行ったのだろう。

 中国軍兵器はポンコツ揃いだ。数量とカタログ・スペックでは巨大な脅威だが、その実態はロシア軍兵器の劣化コピー版だ。しかも軍装備調達にシロアリが巣食っていては調達した兵器の品質の程度が知れるというものだ。
 怒れる習近平氏は前国防相の魏鳳和氏や現役の国防相の李尚福氏まで腐敗摘発の名目により更迭した。しかし彼らは習近平氏が任命した国防相ではなかったか。腐敗で粛清した人物が政敵だけでなく、彼に忠誠を表明した部下まで及んだことは重大だ。習近平氏は信頼できる人物が彼の身の回りからいなくなったということではないか。経済は崩壊しているし、軍部はポンコツ兵器で軍隊ゴッコにウツツを抜かしている。当の習近平氏は「台湾進攻」を叫んでいるが、後ろを振り向けば誰もいない。習近平氏が怒り狂うのも尤もだ。しかし、それは自ら蒔いた種だということを彼は理解しなければならない。

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