中国に「福沢諭吉」が生まれないわけ。
＜＜「脱亜論の提唱者で、日本を東アジア文化の（悪）循環から救った」と評され、中国の知識層に注目される福沢諭吉＞
あなたが最も尊敬する日本人は誰ですか」と、知識人の多い中華圏のツイッターユーザーを対象に筆者がアンケート調査してみると、1位は福沢諭吉。
「日本国民を啓蒙した」「大学を設立し、先進的な思想と文化を広めた」などのコメントの中で、際立っていたのは「脱亜論の提唱者で、日本を東アジア文化の（悪）循環から救った」という理由だ。
「東アジア文化」とは儒教文化のこと。古代中国に始まる儒教文化は、特に日本や韓国など漢字文化圏の東アジアの国に深い影響を与えてきた。福沢はこの儒教の教えが日本の近代化を妨げると考えた。
例えば儒教の「公」は、現代の「公民社会」の「公」ではなく、支配者あるいは政府を指す。政府と人民の間には垂直的、身分制的、階層的な関係があり、それは公的領域における水平的な関係ではない、と福沢は指摘した。儒教文化の影響を克服しないと日本人の精神的な革新は達成できず、平等な公的対話に基づく国民の形成もできない──。
「脱亜」つまりアジア的な価値観である儒教文化から脱却できてこそ、日本は初めて本質的に西洋から文明を受け入れ、西洋と比肩する文明化された国家・国民に発展できると、福沢は主張した。
共に時代の大変革に直面した日本と中国の分岐点
福沢の脱亜論は近年、中国の知識層に注目されている。特に欧米の民主主義的価値観に深く影響を受けた自由派の間で人気がある。
19 世紀中期の中国と日本は、共に巨大な時代の変革に直面していた。日本は福沢のような啓蒙思想家がいたおかげで儒教的な価値観から抜け出し、西洋的な文明を素直に受け入れ、近・現代国家として発展した。一方で、中国は100 年以上も西洋的な価値観を拒否し続け、政府と人民の垂直的な関係が共産党政権の今も変わらない。
福沢は生涯官職に就かず、近代思想を日本国民に紹介した。福沢のような人物が中国に生まれなかったことを、心ある中国人は心から残念に思っている＞(以上「NEWS week」より引用)
あなたが最も尊敬する日本人は誰ですか」と、知識人の多い中華圏のツイッターユーザーを対象に筆者がアンケート調査してみると、1位は福沢諭吉。
「日本国民を啓蒙した」「大学を設立し、先進的な思想と文化を広めた」などのコメントの中で、際立っていたのは「脱亜論の提唱者で、日本を東アジア文化の（悪）循環から救った」という理由だ。
「東アジア文化」とは儒教文化のこと。古代中国に始まる儒教文化は、特に日本や韓国など漢字文化圏の東アジアの国に深い影響を与えてきた。福沢はこの儒教の教えが日本の近代化を妨げると考えた。
例えば儒教の「公」は、現代の「公民社会」の「公」ではなく、支配者あるいは政府を指す。政府と人民の間には垂直的、身分制的、階層的な関係があり、それは公的領域における水平的な関係ではない、と福沢は指摘した。儒教文化の影響を克服しないと日本人の精神的な革新は達成できず、平等な公的対話に基づく国民の形成もできない──。
「脱亜」つまりアジア的な価値観である儒教文化から脱却できてこそ、日本は初めて本質的に西洋から文明を受け入れ、西洋と比肩する文明化された国家・国民に発展できると、福沢は主張した。
共に時代の大変革に直面した日本と中国の分岐点
福沢の脱亜論は近年、中国の知識層に注目されている。特に欧米の民主主義的価値観に深く影響を受けた自由派の間で人気がある。
19 世紀中期の中国と日本は、共に巨大な時代の変革に直面していた。日本は福沢のような啓蒙思想家がいたおかげで儒教的な価値観から抜け出し、西洋的な文明を素直に受け入れ、近・現代国家として発展した。一方で、中国は100 年以上も西洋的な価値観を拒否し続け、政府と人民の垂直的な関係が共産党政権の今も変わらない。
福沢は生涯官職に就かず、近代思想を日本国民に紹介した。福沢のような人物が中国に生まれなかったことを、心ある中国人は心から残念に思っている＞(以上「NEWS week」より引用)
唐辛子氏（コラムニスト）が「こうした人物が中国に生まれず残念...福沢諭吉が、現代中国の「知識人」から敬愛されている理由」と題する論評を発表した。しかし、それは日本及び日本人が優れているからではない。
中共社会が福沢諭吉が生まれるのを阻んでいるからでしかない。中国人が育んだ優れた思想家・孔子の「儒教」を日本は輸入し、幕藩体制下では長らく「武家の学問」として日本社会で中心的役割を果たした。
経済人でもジャック・マー氏などの素晴らしいIT起業家を生んでいるではないか。先進自由主義諸国の大学や研究機関に多数の留学生や研究者を送り出している国の第一位は中国だ。しかし中共政府が彼らにスパイや研究成果の剽窃を使嗾して、中国人留学生を自ら本心自由主義諸国から締め出させている。
未だに科学分野でノーベル賞を中国人が一つも受賞していないのは中国人が劣っているからではない。先端的な研究を推進する態勢が中国政府にないからだ。中共政府は余りにも短期的に「研究成果」を求めすぎる。社会科学分野において、学問の自由が保障されない限り、福沢諭吉のような批判精神旺盛な人物が生まれるわけがない。少しでも習近平氏を批判すれば当局によって身柄を拘束され「思想刑務所」へ送られる状態で、福沢諭吉に憧れる方がどうかしている。
福沢諭吉の有名な言葉に「幕藩体制は親の仇でござる」というのがある。たとえば現代中国で「中共体制は親の仇でござる」と公言して無事に済むだろうか。せいぜいコソコソと白紙を掲げて習近平体制に抗議するしかないだろう。それでは時代を変革するような思想家は現れない。かつて孔子や孟子などの世界を代表する思想家を生んだ中国の面影は影も形もない。
今後、中国に「福沢諭吉」は生まれるのだろうか。残念ながら、思想信条の自由のない国に、そうした思想家は決して生まれない。生まれる芽の段階で厳しく弾圧され、徹底して潰されるからだ。IT企業の成功者・ジャック・マー氏ですら弾圧され世上から姿を消した。他にも中国のインフルエンサーたちも相次いで姿を消した。彼らが影響力を持ち一塊の新しい考え方の人たちを結集していくなら、新しい思潮が生まれる可能性があった。その中から「福沢諭吉」が誕生する可能性があっただろう。しかし習近平氏は芽の段階で摘み取ってしまった。
そもそも現代中国で「中国共産党は親の仇でござる」と公言して無事な人がいるだろうか。そのような情勢下で「福沢諭吉」に憧れるとは、中国の知識層は無い物ねだりしているとしか思えない。いや、だからこそ憧れるのか。
「福沢は生涯官職に就かず、近代思想を日本国民に紹介した」が、現代中国で西洋思想を紹介する書籍の出版が可能だろうか。残念ながら、数十年前に毛沢東が彼の語録を中国民に強制したのを真似て、習近平氏が中国民に強制しようとしている。その程度の社会で、新しい思潮が中国社会を席巻することなどない。つまり中国は確実に「改革開放」以前へ戻ろうとしている。それは中国のためではなく、習近平氏のためだからだ。