北戴河会議で習近平の続投が決まったわけではないようだ。

<8月1日からおよそ2週間、河北省の避暑地、北戴河(ほくたいが)で中国共産党中央ハイレベルの秘密会議「北戴河会議」があったようだ。

 この2週間、政治局常務委員7人の動静が一斉に途絶えており、8月16日なって李克強首相が突如、深圳に現れたことで、北戴河会議が終わったのだと世間が認識することになった。
 この北戴河会議でどのようなやり取りがあったのかは、今はまだわからない。ただ、チャイナウォッチャーたちがそれぞれの推測を突き合わせながら導き出した概ねの結論としては、習近平にとってあまり楽しい会議ではなかったようだ。その根拠と推測される状況について説明していきたい。

経済テーマの座談会で存在感を示す李克強
 まず、北戴河会議が終了したと世間にはっきりと最初にシグナルを送ったのが、習近平ではなく李克強であったという点から、この会議の内容は李克強にとって有利なものではなかったか、という見立てがある。
 李克強は8月16日、広東省に視察にいき、深圳で地方官僚を集め座談会を開いた。李克強は半袖シャツの軽やかな恰好で、マスクをつけない状況で、屋外で若者と対話したり、企業を視察して企業関係者からの意見に耳を傾けていた。李克強は若者や企業関係者から歓迎されているようで、時折拍手なども起きていた。
 さらに深圳で行われた座談会では、広東、浙江など東南沿海部の大規模経済省の官僚を集めて、経済の安定や企業保護、雇用の安定などについて意見交換をしていた。この座談会の様子は当日のCCTV(中国中央電視台)の定時ニュース番組「新聞聯播」で4番目の扱いではあったが、李克強の表情や顔色がすこぶるよく、自信に満ちているようだと話題になっていた。
 多くの中国人の受け止めかたとしては、鄧小平の改革開放の成果の1つである経済特区の深圳で経済問題に関する座談会を李克強が議長となって開催したことは、党は今後も改革開放を継続するのだというシグナルではないか、というものだった。
 習近平がこれまで推進していた経済政策は改革開放逆行路線とみなされていた。おそらくは、習近平の経済政策の方向、改革開放逆行路線について党内で批判があり、習近平が妥協を迫られたのではないか。

習近平が持ち出した「昔の講和」
 そう考えるもう1つの根拠が、同じ8月16日、共産党理論誌「求是」の巻頭に、習近平が「全党は完璧に、正確に全面的に、新発展理念を必ず貫徹しなければならない」と呼び掛ける特集記事が掲載されていたことだった。
 この記事は実は昨年(2021年)1月28日に行われた政治局集団学習会の習近平の講話を基にしたものだが、これまで公開はされていなかった。講話から1年8カ月後、なぜ北戴河会議が終わったタイミングで「求是」で発表されたのか、ということについて、1つの推測として、北戴河会議で習近平がいろいろ批判されたことに対する反論として、この昔の講話を持ち出したのではないか、という見方が出ている。
 習近平政権が「新発展理念」を最初に提示したのは、2015年10月の五中全会。昨年の六中全会で打ち出した「新時代」と同じく、鄧小平の改革開放に代わる概念として打ち出したものだと考えられている。
 この記事は、「全党」に「必須(必ずしなければならない)」という高圧的な表現で習近平が訴えている形でまとめられ、それは党内に習近平の話に耳を貸さない者がいる、というニュアンスが滲んでいる。また、「完璧に、正確に、全面的に貫徹せねばならない」と言ったのに下部組織がその指示に従わないから失敗したのだと言い訳している、というふうにも読める、というわけだ。
 ニューヨーク在住の華人評論家、陳破空は「実際、習近平が肝煎りで打ち出してきた経済政策の中国製造2025、雄安新区、一帯一路などは暗礁に乗り上げている。長老たちに批判されたんじゃないか」とみる。
 また「共同富裕」について、「共同富裕は1つの長期的任務であり、現実的任務であり、急いでもならないし待っていてもだめで、さらに重要な位置に置かねばならない」といった表現があった。これは、現実的に「共同富裕」がうまくいっておらず、その失敗についてやはり党内で問題視されていることへの習近平のエクスキューズではないか、という。
 さらに「政治」が強調されている。「我ら党の発展に関する政治的立場、価値の方向性、発展モデル、発展ルートはすべて、重大な政治問題である」。北戴河会議で長老たちが経済の失敗をせめたてられたとき、習近平としては「経済よりも政治が大事」と反論したかったのではないか、という。この場合、習近平の言う「政治」とは、自らの専制政治のことだ。

コロナ政策が失敗だったと認めた地方政府
 北戴河会議が習近平に不利に動いた可能性は、北戴河会議と並行して起きたいくつかの事件からもうかがえるという。
 たとえば、海南省では新型コロナによるロックダウンと、それに対する官僚および視察に行った孫春蘭副首相の態度だ。
 海南省は8月6日、突然、三亜市のロックダウンを発表し、当時島内にいた15万人の観光客が足止めされるという事態を引き起こした。ホテルに半額で滞在できるようにするなど、政府としてもさまざまに対応したが、7日間、完全に隔離されたのち5度のPCR検査陰性の結果をもって離島できる、といったルールに観光客らの不満は爆発し、大騒ぎとなった。
 PCR検査で陽性となった観光客は、バスで5時間移動させられ、郊外の施設で隔離された。バスの中で観光客がトイレに行きたいと訴えると、桶を1つ渡され、そこで用を足せといわれた、という話もネットで流れた。
 海南省当局は8月12日、「3日間の社会面清零(ゼロコロナ隔離政策)に失敗した」と認め、海南省旅游文化ラジオスポーツ庁の汪黎明副庁長は、「帰宅手配の進捗状況は、観光客の皆さんの期待に応えられなかった」と謝罪した。
 コロナ問題担当の孫春蘭副首相は8月13日に海南省の現場に訪れて状況を視察し、一刻も早い感染撲滅を指示したが、「ゼロコロナ」という言葉を使わなかった。
 地方政府が公式にコロナ政策を失敗であったと認めるのも珍しいし、孫春蘭がゼロコロナ政策について全く口にしなかったのも珍しい。このことから、北戴河会議でゼロコロナ政策への批判が起き、習近平自身がゼロコロナ政策の失敗を認めざるを得ない状況があったのではないか、という推測も出ている。

「一帯一路」失敗の責任を追及された?
 さらに気になる出来事は、東南アジア華僑のボスとして君臨していた佘智江が8月10日、違法越境賭博経営容疑でタイのバンコクで逮捕された事件だ。
 佘智江は習近平が2018年にフィリピンを訪問した時、当時のドゥテルテ大統領の招待を受けて晩さん会に出席。習近平とも親しげにしていた様子が報じられている。
 しかし、違法な賭博インターネットプラットフォームを通じて1.5億人民元の収入を得ていたとして、国際刑事警察機構から国際指名手配を受けていた。佘智江が有名になったのは、2017年に150億ドルをミャンマー・タイ国境における一帯一路プロジェクトの「アジア太平洋ニュータウン」に投資した件だった。だが、ミャンマー政府はこのプロジェクト自体が違法賭博と関連があるとして調査を進めていた。
 佘智江は、習近平との関係が噂される一方で、習近平の政敵である元政法委員会書記の孟建柱らとの関係も深いと言われ、彼の逮捕自体が、秋の党大会前の権力闘争において習近平に有利に働くのか不利に働くのかは意見が分かれるところだ。
 ただ、1つ言えるのは、ミャンマー・タイ経済回廊と呼ばれた一帯一路の重要プロジェクトの失敗がこれで決定的になるとみられていることだ。習近平の肝煎り政策の一帯一路の評判が、さらに地に落ちたことになる。おそらく北戴河会議でも一帯一路の失敗について、習近平の責任が追及されたのではないだろうか。

マイナスに働いた大規模軍事演習
 そして、ペロシ米上院議長の訪台とその後の台湾周辺での大規模軍事演習は北戴河会議で習近平にとってプラスに働いたのかマイナスに働いたのか、という点については、マイナスに働いたという声が多い。
 習近平にこの時期、対米外交で期待されていたのは、ペロシ訪台を材料に、米中通商問題の関税引き下げや、半導体政策などで、もっと実のある米国側の譲歩を引き出すことであった。だが、習近平は派手な軍事演習を行い、むしろ国際社会の対中警戒を招いてしまった。
 習近平が大規模軍事演習で応酬したのは、国内向けの世論誘導を狙ったのだろうが、実際にはペロシが台湾を去った後に演習を開始し、米空母が来ないうちに演習を終了したことについて、弱腰との批判も受けた。
 演習の宣伝動画は、同時期に行われた米軍を中心とした合同軍事演習「リムパック2022」の宣伝動画に迫力負けしており、中国の軍事オタクの中には、解放軍を揶揄するような発言もあった。
 台湾民意基金会の世論調査によれば、78.3%が中国の軍事演習を怖くなかったと答えており、演習の威嚇効果も、中国国内人民の求心力効果も、いまいちであったことになる。
 習近平は北戴河会議が終わった直後の8月16日、遼寧省錦州の第2次国共内戦の三大戦役の1つ、遼沈戦役記念館を視察。これも北戴河会議で、台湾問題で批判を受けたことに対する習近平なりの反論、ということではないだろうか。つまり、今に見てろよ、かならず台湾侵攻を成功させてみせる、という意志をこの視察を通じて見せたのではないか。
 習近平が3期目の総書記連任を成功させられるか否かは、まだ今の段階では確実に言えるものではないが、たとえ連任できたとしても、経済政策やコロナ政策では妥協を迫られ、長老や他の指導部から牽制をかけられながら権力基盤が不安定なままの常態が続くのではないだろうか。
 そういう不安定な状況だからこそ、習近平がその権力基盤強化のために軍事行動に頼る可能性はより高くなると警戒しておいた方がいい>(以上「JB press」より引用)




 「「北戴河会議」で習近平が炎上? 李克強とのパワーバランスの行方」という論評がJB press紙に掲載された。世上では習近平体制が三期目も継続か、と取沙汰されているようだが、私はJB press紙の論評に賛同する。
 JB press紙の同論評の副題に「一帯一路もコロナ政策も失敗、追及される習近平の責任」とある通り、習近平氏が実施した政策はことごとく失敗している。何一つとして見るべきものはないし、今後とも習近平氏に中国の舵取りを任せていたら中共政府が転覆しかねない。それほど中国民の不満は鬱積している。

 中國が落日の坂道を転がり落ちだしたのは「戦狼外交」に転じてからだろう。なぜ習近平氏は鄧小平氏の「改革開放」路線をただただ継承していなかったのだろうか。それこそが習近平氏の決定的な政治家としての資質を欠くところではないか。
 習近平氏は自ら「始皇帝」なろうと焦ったのだ。毛沢東どころではなく、自分こそが文武に秀でた中国史に名を刻むべき現代の「皇帝」だと固く信じた。世界を見渡しても彼と並び立つ政治権力者は、いるとすればプーチン氏だけかと思った。そのプーチン氏がウクライナ侵攻で泥沼に足を取られて終焉を迎えている。残る世界に君臨するに値する政治権力者は、誰あろう自分のみだ、と習近平氏は思い上がった。

 だから誇るべきスローガン「一つの中国」に抵抗するペロシ氏を懲らしめるべく五毛に「撃墜するゾ」と脅しの書込みをワンサカと書かせた。しかし、それにより愛国心を掻き立てられた一部ピンク(中国では国粋主義者を揶揄してピンクと呼ぶ)中国民がペロシ氏の搭乗した米軍機が無事に台湾から飛び立つと、俄かに騒ぎだした。その怒りを鎮めるために、習近平氏は台湾を取り囲む六ヶ所で「大軍事演習」を展開するしかなかった。
 しかし「大軍事演習」で台湾は震え上がらず、期待したほどの威圧効果を上げられなかった。むしろ、その後も軍事訓練として継続させなければならなくなり、経済立て直しから米国との関係改善を図りたい習近平氏にとって大きな痛手になった。しかも、半月と絶たない内に米国連邦超党派議員5名が訪台したのも習近平氏にとっては予想外だっただろう。

 中国民は面子にこだわる。習近平氏は面子を潰され、さらに潰され続けている。だからといって決定的な反米策を展開することは出来ない。なぜなら北戴河会議に参集した長老たちは一人残らず米国に莫大な金融資産を保有しているからだ。習近平本人も米国の金融機関に1兆円もの財産を預けているといわれている。
 彼らは何のために蓄財して来たのか。一族郎党を路頭に迷わせないためだ。中共幹部たちの子や愛人たちは殆どが米国やカナダやオーストラリアなどの外国で暮らしている。彼らにとって中国は稼ぎ場所であって、必ずしも一族郎党の永住の地ではない。そうした意味で、中国共産党の幹部たちもジム・ロジャースたち国際投機家たちと少しも変わらない。

 いずれにせよ、中国経済は必ず仮需要が収縮してGDPが縮小する。その過程で金融機関は不良債権の処分に追われ、貸し出した債権の選別に迫られる。そして最も重要なのは不動産投資により膨れ上がった「信用取引」が縮小するのを補う形で外需をどれだけ取り込めるかだ。
 しかし、果たしてそうした政治的手腕を習近平氏は有しているのだろうか。北戴河会議に参集した長老たちは習近平氏が「共同富裕」と称してBATHをはじめとするIT企業経営者を叩き潰し、「戦狼外交」により相手構わず吠え立て噛みついて、先進自由主義諸国との信頼関係を壊したことに苦言を呈さなかったわけがない。習近平氏は秋の全国人民代表者会議までに経済の好転の道筋を示さなければならないだろう。そうしなければ習近平氏から官僚たちが離反しかねない。だが、そうした妙案が習近平氏にあるようには見えない。

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