トランプ氏は懲罰的な20%を超える関税を課すことが必ずしも自国保護主義とならないことを肝に銘ずべきだ。
<トランプ米大統領はハーレーダビッドソンが欧州連合(EU)による報復関税に対応し米国外に生産を移転すると発表したことについて、EUとの間で始まったばかりの貿易戦争で降伏したと同社を批判した。
トランプ大統領はホワイトハウスを専用ヘリで出発後間もなくにツイートで「ハーレーダビッドソンが全ての企業の中で白旗を振った最初の企業になろうとは驚きだ」とコメント。「私は彼らのために懸命に戦った。彼らは最終的にEUへの販売で関税を支払わなくて済む。われわれはEUから貿易でひどい痛手を被ってきたのだ。税金はハーレーの言い訳にすぎない。耐えろ!」と付け加えた。
ハーレーは25日に米証券取引委員会(SEC)への提出書類 で、トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税を発動したことに対するEUの報復関税で自社のコストが年間で最高1億ドル(約109億円)増えると説明した>(以上「Bloomberg」より引用)
EUが米国の仕掛けた貿易戦争でハーレーダビットソンの二輪車に6%から31%へ報復関税を課すと発表したのに対して、ハーレーダビッドソンがEU向け生産拠点を欧州へ移すと発表した。まさしくトランプ氏が米国内で販売する欧州車の生産工場を米国内へ移せと脅したのがブーメランとなって米国に突き刺さった。
貿易戦争は不毛な争いだ。今後、中国が米国から輸入している電子機器部品に関して、生産工場を中国内へ移せ、と報復しかねない。ただ多くの電子部品を中国は作れない、という弱みはあるが、他の国の製品で代替できないわけでもない。
米国のIntelが独占しているCPUに関しても、その代替製品を生産する企業が出て来ている。もちろんWindowsは米国のMicrosoftの独壇場だが、Windowsに代わる基本OSがシェアを拡大している。
米国がいつまでも電気部品の生産やOSで世界をリードし続けていると思うのは幻想に過ぎない。かつて自動車は米国のフォードやGM社製の大型車が世界を席巻していたことを思い出すが良い。
戦略製品に関して製造ノウハウを国外秘とするのも一つの手だが、それがいつまでも有効と思ってはならない。絶え間ない努力と研究開発により、他国も米国の情報産業に追いつき追い越すこともあり得ることを覚悟しておくべきだ。
現在は手厚い保護により優秀な学生や研究者たちが米国に集まっているが、その優位性もいつまでも続くと思わない方が良い。世界戦略は現在の「手」がいつまで有効かを織り込むことも必要だ。
ハーレーダビッドソンは20%の報復関税を掛けられたら、EU域内の競合他社に顧客を奪われかねないと判断した。トランプ氏はハーレーダビッドソンに「耐えろ」と叫んだが、企業戦略として欧州へ生産拠点を新設するしかないとした。
トランプ氏はグローバル化に反対して「自国優先主義」を提唱したが、それも行き過ぎると保護主義が剥き出しとなり、各国の「自国主義」が反発しあうことになる。結果としてグローバル化の一つの形態たる企業の「多国籍化」を促すことになり、元も子もなくす。
「自国優先主義」はあくまでも協調的保護主義であるべきだ。現行のWTO自由貿易体制を崩さない関税でなければならない。トランプ氏は懲罰的な20%を超える関税を課すことが必ずしも自国保護主義とならないことを肝に銘ずべきだ。