TPP議論を「聖域なき関税撤廃」に矮小化させてはならない。

  安倍氏は9日に「TPP参加は聖域なき関税撤廃か否かで判断する」と発言したようだ。すべての品目に関してお互いに関税を撤廃する、という議論もお互いの国内政策を無視して土足で踏み込むようなもので受け入れがたいが、TPPの根本的な問題はそれだけではなかったはずだ。


 むしろTPPの問題はISD条項にある、というのが基本的な認識ではなかっただろうか。ISD条項とはいうまでもなくFTAで投資家保護のために設けられた条項だ。関税撤廃したはずが、米国企業が相手国へ輸出する場合に関して関税は撤廃されたものの、相手国の製品に関する特殊な仕様が関税に相当すると判断した場合に世界銀行傘下にある「国際投資紛争解決センター」に提訴して解決を求めるものだ。それが米国の投資家が「非関税障壁」と判断したものまでも撤廃を求める米国の尖兵として利用される可能性が高いのが問題なのだ。


 


 たとえば既に米国の自動車産業労働組合は日本の「軽基準」を槍玉に挙げている。米国の大型車をもっぱら造っている自動車産業各社が日本で低水準の自動車販売占有率で推移しているのは「軽基準」などの関税に現れない日本国内制度の差別にある、と撤廃を求めている。


 「軽基準」は日本の国内政治だ。狭い国土と狭い道に適した車で、しかも低価格・省エネの軽車両を日本国内で普及させようとした日本独特の制度だ。それが米国車の日本国内への輸入を阻んでいる、というのは行き過ぎた議論だ。かつての日本は相手国の基準に合わせた車を製造して輸出した。米国も日本の「軽基準」に適合した車を造って輸出するのが筋だ。しかしISD条項で提訴されれば日本政府が負ける可能性が高い。


 


 それなら反対に日本も米国内の基準や規制を訴えたら良いではないか、という反論の声が聞こえてくるが、国際投資紛争解決センターは投資家の利得だけで判断されるし、その審議内容は原則非公開だ。「もの言う投資家」は米国内にウジャウジャいるし、世界銀行は実質的に米国が支配している。過去のISD条項適用の判例からも、決してTPP加入国家間でISD条項が対等に作用することはないと覚悟しなければならないだろう。


 しかもTPPと謳っているが実質的に日米で輸出総額の90㌫以上を占め、日米FTAと大して違わない条約をTPP「環太平洋経済連携協定」と謳っていることにこそ米国の隠された意図がある。つまり米国は中国と対抗する経済包囲網を東アジアで築こうとしている。その片棒を日本が担ぐことに将来的にも日本の国益に適うのか判断を迫られているともいえるのだ。


 


 中国が経済大国にのし上って来たとはいえ、まだまだ東アジア経済に占める日本の存在は巨大だ。中国は大量の部品を輸入して組み立て・製造をして輸出する、という「組み立て産業」の趣を強く残す脆弱な産業形態から脱却できていない。今後も他国から「良いとこ取り」をして大きな顔をするだろうが、依然として中国の産業基盤は脆弱なまま推移するだろう。


 日本が将来的に付き合うとすれば米国ではなく中国なのは論を俟たない。そのためにはしっかりと中国に躾をしなければならない。粗暴にしてジコチュウな国家としての振る舞いはとても大国のものではなく、未開なガキ国家でしかない。米国と50歩100歩だが、少なくとも米国は「国際投資家紛争解決センター」を設置して「紛争解決」を装って自国の主張を強引に押し通すにしても、加入するか否かに日本の主体性を認めている。少なくとも中国よりも紳士的といわざるを得ない。


 


 だが米国仕様を相手に押し付ける体質は将来的に危険を孕んでいる。米国のキリスト教原理主義とどこまで日本は付き合うつもりだろうか。米国は10世紀以来の十字軍思想に取り憑かれている。執拗にイスラム教を敵視する姿勢に危ういものを感じる日本国民は多いだろう。少なくとも日本に宗教により相手を差別し、敵対姿勢をとる文化はない。


 キリスト圏とイスラム圏との戦争に、日本はどこまでコミットするつもりなのだろうか。むしろ千年以上も続いてきた宗教戦争に終止符を打つ仲裁役を日本が買って出るくらいでなければならないだろう。そのためにも米国との隷属的な立場から脱却すべきだ。


 


 TPP参加は単に交易の問題で終わらない大きな問題だ。小泉政権がグローバル化という美名で日本国民を格差社会へ突き落としたように、安倍政権がTPPという隷米化への道へと日本を引きずり込むのか、大きな岐路に立っている。決して安倍氏の言う「聖域なき関税撤廃でなければイイヨ」という程度の話ではない。



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