公共物の安易な「新築建替え」判断をすべきでない。
鳥取市の新庁舎建て替えを巡って市民からの署名による請求で住民投票し、結果として現建物を耐震化工事をすることになったという。新築の場合は75億円だが改修案では21億円で済むという。
新築案を提示した市当局は御多聞に洩れず「合併特例債」を使用すれば市は3割負担で済むと説明していたようだが、そうした発想が安易な公共事業の促進と国の公債残を積み上げる原因の一つにもなっている。
実は全国で合併に伴い新庁舎建設ラッシュとでもいうべき現象が起きている。本来なら補助金のない新庁舎が7割もの合併特例債が使えるからという安易な発想で建て替えが行われている。それに対して市議会はどのように判断しているのだろうか。
鳥取市は766㎢と実に広大な面積に195千人が暮らしている。合併後に庁舎を建て替えた岩国市は150千人の人口を擁し、83億円の建設費をかけて建て替えた。同じように150千人暮らしている周南市は130億円をかけて建て替えようとする計画が持ち上がっている。なんとも景気の良い話だ。
そこではどのようにして市民の意見が反映され、検討されたのだろうか。概ね新庁舎建設検討委員会と称する諮問委員会が設置され、市長から新庁舎建設案を諮問されて議会へかける前に専門家により検討されているようだ。
しかし専門家と称する人たちが当てにならないことは福一原発事故で実態が露わになった「原子力の専門家」と称する人たちが単なる御用学者に過ぎないことが明らかになったことから判明している。
市の諮問委員会も10人ほどの委員のうち7人程度は市長の指名による専門委員と3人ばかりが公募として市報で募集されるが、その最終決定は執行部によってなされている。執行部と市長による諮問委員会によって決定された「専門家と市民による答申」を基にして市議会に上程された「建設案」を議員が審議するのだが、殆ど変更なしのシャンシャン議会で終了している。
地方議員もサラリーマン化が言われて久しい。専門的知識も社会的見識もない議員が執行部の専門的な説明に質問すべき知識もなく、黙って聞いて「賛成」の挙手をするだけというのが通例の議会風景だ。なぜ単純に建設面積で建設費を除して、簡単な坪単価だけでも質問しないのだろうか。出来れば積算根拠を聞いて、たとえばエレベータ一基の値段でも聞けば良い。そうすると民間で設置する場合と比較して異常に高額なのが分かるはずだ。それが世上に言われる「公共事業単価」だ。その異常ささえ認識していない地方議員や国会議員が多いのに驚く。彼らは当選するまでは必死でお願いするが、当選すれば特権に胡坐をかいて行政を碌にチェックしていない。それどころか地方議員が自らを「与党」だ「野党」だと評して政治ごっこをやっているのには呆れるばかりだ。議員内閣制でない地方議会に与野党は存在しない。すべては同列の市民代表対執行部に過ぎないはずだ。
議会が当てにならないなら、鳥取市のように市民が目を光らせるしかない。75億円の新庁舎建設費が妥当だったのかの検討もした方が良い。民間マンション業者が売り出す鳥取市の1部屋単価は100㎡程度の専有面積で売値は2500万円ほどだ。それが100軒分集まれば面積では10000㎡で大凡の市庁舎と遜色ない面積となる。それなら1階に20軒で5階建てのマンション丸ごとすべてを買えばいくらか、計算は簡単だ。25億円でしかない。それには土地代からマンション業者の利益や販売費なども含まれる。しかも100個の立派な玄関ドアに100個のシステムキッチンに100個のユニットバスもついている。もちろん安全設計の耐震構造で公共施設もキチンとあってエレベータも完備している。
いかに市庁舎の建設費が高額か御理解いただけるだろうか。それでも疑問を呈しない地方議員とは何者なのだろうか。市民は選挙で、もっと真剣に候補者を選別した方が良い。政治はすべては選挙から始まる。