「金正恩氏を中心とする後継体制へ」とはこの国の無策な政府と官僚の言辞だ。
権謀術数の渦巻く国際政治の専門家なら「金正恩氏を中心とする後継体制」へ移行か、などという人任せの考えは持たないだろう。この際、北朝鮮の中枢にいる「国際派」と目される高官を後押しして、北朝鮮政府をそのような体制へ変貌させることに腐心するはずだ。
北朝鮮の金正日氏は指導者として厄介な人物だった。国際的には韓国に対してテロ活動を行い、国内に於いては国民の悲惨な飢餓状態を顧みずに核開発を行い、ミサイル開発を行って日本を含む近隣諸国に脅威を与えてきた。そして国際テロを行う上で工作員が「日本人」に成りすますと仕事がやり易いことから、金正日氏は工作員の日本人教育として日本人の拉致を命じた。他にもさまざまな理由から世界各地の国民を無法に拉致して北朝鮮へ連れ去ったことは明らかになっている。近年、これほど身勝手な独裁者がいただろうか。
それを金正日氏と親しかったという人物をテレビに登場させて、得々と喋らせているが、日本のテレビ制作者のオツムの程度が知れるだろう。彼は国内的にも国際的にも歴然とした犯罪者だ。糾弾されるべき人物の回顧談を流すほど、日本のテレビは平和ボケしている。日本に核爆弾を打ち込むのを可能にした独裁者だということを忘れてはならない。
かくも無法な国家体制を倅に継続させてはならない。極東アジアの安定化と北朝鮮国民の人権確保のためにも断じて金正恩氏を中心とする後継体制を実現させてはならない。北朝鮮内部の金正恩氏を中心とする後継体制を阻む勢力がいれば日本政府は公然と協力すべきだ。まずは日本政府の談話として「後継体制としては民主的な北朝鮮政府を望む」と言葉による協力を行うことだ。この時代に三世代世襲恐怖政治が続くことが日本にとっても北朝鮮国民にとっても良いことは何もない。
しかし日本政府は「推移を見守る」として傍観者を決め込んでいるが、この機会に何もしないのなら無策そのものだ。たとえ北朝鮮が軍政へ移管しようとも、それが民主化への一歩ならそれでも了とすべきではないだろうか。
まだ何も分からない28歳の金正恩氏を中心とする後継体制とは金正日氏の取り巻きによる傀儡体制が実現することに他ならない。これまでと同じ体質の独裁・恐怖政権が続くより遥かにましだろう。
北朝鮮2200万国民が息を潜めるような暮らしを強いられる政治体制は何としても終わりにしなければならない。そのために日本は何をすべきか、無能な軍事評論家は「ただ見守る」だけのようだが、政府は政治家として少しでも民主化へ移行するように金正恩氏を取り巻く側近たちにメッセージを発すべきだ。
中国が北朝鮮に独占的に地歩を築いている利権確保の意図のもとに金正恩氏を中心とする後継体制を利用するのは目に見えているだけに、金正日氏死去を契機として北朝鮮国民に民主化へ目を向けさせることが何よりも必要だ。それにしても日本のテレビは繰り返し金正恩氏の映像を電波に乗せ、あたかも金正恩氏を中心とする後継体制が実現したかのような刷り込みを日本国民に行っているとしか思えない。金正日氏の犯した犯罪と何百万人という北朝鮮国民を飢え死にさせた悪政を批判しないとしたら、日本のテレビは一体なんだろうか。