弥縫策ではなく本質的な議論を。

  本能的に人は自分の立場を擁護し防衛するものだ。銀行家は銀行家としての立場を護ろうとするし、農家は農家としての立場を護ろうとする。そうした立場の理論を振り翳して、それぞれの観点から議論しても、所詮は各立場の利害調整の協議に終始するしかない。物事はそれぞれの立場を離れて原理原則から、本来あるべき姿に立ち返って議論すべきではないだろうか。


 


 銀行家にとって現在の国際通貨政策を否定することは困難だろう。現実としてあるがままの状況を受け容れて、利害の一致点を求めるしかないだろう。それはそれで理解するが、どうしても弥縫策の感は否めない。その弥縫策と感じさせる究極は現在の国際的な通貨・金融の混乱は「フロンティアの消滅」という魔境へ理論を彷徨させて根本的な問題解決を阻害していることだ。


 


 反対にフロンティアがあればどうなのだろうか。19世紀的発想でそこを植民地として分捕り合戦を繰り広げて、原住民を奴隷化するとでもいうのだろうか。現国際社会では許されない発想だ。それに近いことを中国は甘言を用いてアフリカや南米の資源国で行っているようだが、最終的には各国の反発と離反を招くだけだ。そうした手法は元来通用しなかったことで、19世紀に通用したのは帝国主義的軍事力の行使が国際的な非難を浴びなかったからに過ぎない。


 


 たとえフロンティアがあろうと、それが国際金融不安を解消する手段にはなり得ないのは明白だ。現在の金融界で暮らしている人は現在の国際金融を否定することは困難だろう。しかし弥縫策で推移できるほど国際金融が陥っている矛盾は軽くない。ドルとユーロそれぞれが利点としてきたことが裏目へと変貌しようとしていることに気付かなければならない。二つの通貨にはそれぞれ異なる矛盾が内包されていて、以前は優位に働いた欠陥が、欠陥たる本性を現しているに過ぎない。


 


 優位に働いた欠陥とはドルに於いては勝手に幾らでも増刷できることだし、ユーロに於いては欧州統一通貨と言いつつ欧州は一つでない現実を無視することは出来ないことだ。その矛盾点を突いて拡大しているのが国際投機機関の存在だ。金融商売に於いては付き合わざるを得ない連中だが、トコトンたちの悪い連中だ。ひとことで言うなら背広を着た禿鷹たちだ。


 


 本来、国際通貨というものは存在していなかった。それぞれの国に通貨があって貿易決済の時にレートを取り決めていた。それが煩雑だからと、便宜的に決済通貨を取り決めたに過ぎない。第二次世界大戦後、世界で最大の経済大国となった米国の通貨ドルを以て決済したに過ぎないのだ。現在の国際為替市場を動き回る金融は実貿易決済資金の数倍から十倍以上にも上るという。つまり投機資金が為替レートの中を通過することによって濡れ手に粟の稼ぎを上げているのだ。それを日本有数の銀行までもFXや外国銀行口座開設などと個人にまで触手を伸ばして「投機」を煽っている。これがマトモな銀行のやることだろうか。


 


「現在の円高を生かして……」という文句は現国際金融の問題を解決しようとする議論ではなく、破綻寸前にまで追い込まれている国際金融の病理を無視して是認しようとする議論に過ぎない。現在の円高は本来の為替レートの在り様から考察すると異常な現象だ。日本国内経済は1ドルが70円台の半ばで推移するほど強くない。適正価格は1ドル100円程度だろう。最も望ましいのは1ドル120円程度ではないだろうか。日本政府に国際的な政治力があればせめて90円程度には是正しているだろう。


 


 ときには米国を脅して中国に接近したり、時にはユーロの在り方を罵ってドイツがユーロ安を利用して独り勝ちしていることを指摘すべきだろう。現在の日本円の為替レートを容認したいかなる議論にも乗ることは出来ない。日本政府なら日本国内企業と産業を守る義務があるはずだ。それを放棄していかなる国際協議の場でどのような発言できるというのだろうか。日本のバンカーや政府要人はおそらく世界の笑いものだろう。日本の国益を代表しない議論に終始している愚かな人たちだと思われているに違いない。しかし、日本の愚かな人たちは自分たちにとって都合の良い人たちだから決して愚かさを指摘しないし日本の為替無策を感謝するだろう。


 


 産経新聞に掲載された「正論」を読んで、世界の国際金融担当者は日本が為替無策というよりも、さらに一歩進んで円高容認とも取れる提言を日本を代表するメガバンクの首脳が行っていることに大笑いしているだろう。今後も日本は為替無策で国民に塗炭の苦しみを舐めさせるのだと知って日本をコントロールしている人たちの産業の空洞化ならぬ金融政策の司令塔が既に空洞化している現実に喝采するだろう。なぜ日本は国際為替管理に投機資金の流入規制すべきとの提言をしないのだろうか。そしてユーロの問題点は通貨統合だけやって政府・政策統合を全くやっていない矛盾の爆発だと、なぜ指摘しないのだろうか。


 彼らもまた保障された地位と安住の場所を手放したくない「利権構造一家」の住民に過ぎないのだろうか。それならこの国のメガバンクも官僚たちと同じ穴のムジナだと断定せざるを得ない。



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