常に偏った論評しかできない論説委員たちだ。

 　小沢氏が多数を握っていることがそんなに悪いことなのか。民主主義において「数は力」というのは真理だ。数に力がないとすれば独裁主義、もしくは恐怖政治ということになる。中国が全人口の数％の共産党員で民主的な国民による選挙を経ずに共産党執行部が出来上がり国を統治しているが、秘密主義や全体主義に陥り、恐怖政治体制を敷くのは当然の帰結だ。しかし、数をまとめる小沢派に小沢氏の独裁体制とは思えず、ましてや恐怖政治が行われているとも思えない。

 

　極めて民主的な国の中で宗教団体やカルト集団でもなく、一大勢力を誇っているのは偏に小沢氏の掲げる理念と人としての魅力だろう。いかに人として魅力があろうとタレントの魅力と政治家の魅力とは異なる。そこを混同する未分化な国民が多いのがタレント議員排出の原因だが、いやしくも選挙の洗礼を受けた見識ある国会議員が集うのはやはり理念と個人的な魅力だろう。

 

　野田氏のグループが30人程度の小グループだが、党内基盤として脆弱なのは言うまでもない。たえず代表選で支持を受けた他グループから執行部ポストや閣僚ポストで揺さぶられるのは目に見えている。挙党体制を掲げたのは「脱小沢」路線でやはり少数グループを基盤に置く菅氏の党内戦略を見ていて「脱小沢」による反小沢グループだけを纏めて党内運営する限界をいやというほど知ったことだろう。

　世の中には人を踏み台にしてのし上がろうとする人がいる。仲間の顔をしつつ踏み台にしか利用しない、一旦昇進したら見向きもしない実に下劣な人のことだ。菅氏がまさにそうだった。小沢氏を利用できる間は小沢氏の私邸の新年会にも駆けつけて乾杯の音頭を取るが、いったん首相になると「しばらく静かにしていろ」と上から目線で排除する。

 

　さて、野田氏がどのタイプの人物なのか、じっくりと見極めなければならないが、功利主義というか実利主義的な側面が既に見えている。利用すべきものは徹底して利用しようとする側面だ。しかし悪魔でも側面であって、それが彼の理念を実現するための方便であるなら許されるだろう。だか彼の具体的な理念を彼の口から聞いたことはない。「挙党体制」も理念でないことは明らかだし、スローガンも単なる言葉に過ぎない。彼が見詰め志向する「遠き高き灯り」は何かを国民に提起し、ともに灯りへ向かって歩もうと語りかけなければならない。

　断っておくが、増税や保険料などの負担増は財政健全化のもっとも安直な手段であって、それは政治的理念でも何でもない。たんに算盤勘定だけを最優先する金銭出納係員の発想だ。同じように「事業仕分け」なども無駄を省く手段に過ぎず、それ自体が政治的理念を体現するものでも何でもない。悪い言い方をすれば政治家による壮大なショーだ。

 

　現行行政の仕組みを温存する、という前提に立った「事業仕分け」ならモグラ叩きに過ぎない。一つの無駄な団体を潰しても次に形を変えてポコッと出てくるだろうし、新しいモグラがどんどん顔を出すだろう。そうしたことが出来ないように公会計のシステムを変更して「別財布」の存在を許さないことだ。癌細胞が増殖するためには栄養が必要なため新しい血管を勝手に張り巡らす。同じように「離れ」や「別荘」を維持するにはカネが要る。そのために「特会」や「基金」などを創って別の財布を持つのが常道だ。それを根こそぎ叩き潰すのが「総額主義」「継続主義」を謳う会計原則にのっとった複式簿記を公会計に採用することだ。そして社会インフラも「減価償却」を行うことだ。そうしなければいつまで経っても誰もこの国の基本的な経費すら即座に鳥瞰できない。一企業でそうしたことは決して許されないが、国家や地方自治体が大福帳会計を続けている官僚たちのモラルハザードと自己都合主義を指摘し非を唱えない政治家たちは一体何をしているのだろうか。毎朝駅前に立って辻説法するのも結構だが、勉強すべき若い日々に広く世界の行政システムを知らずして枝葉末節なドブ板に足を取られていては大きな政治家には育たないだろう。

 

　野田氏が「松下政経塾」で何を学んだのか、経営の神様がまさか官僚の下請けになれと教えることはないだろう。財務大臣になるや政治理念を語るより「増税すべき」と財政健全化を真っ先に唱え出した首相の胸中に、高邁な政治理念が存在することを願うだけだ。首相の椅子にしがみつくだけの凡庸な首相は菅氏だけでたくさんだ。