ハリネズミのような
与野党とも口を開けば喧々諤々と言い合っていてはネジレ国会では何も決まらないだろう。常識的に考えて衆議院は任期一杯近くまで解散がないのだから、三年は現在の状況が続くと思わなければならない。そうした中で、野党党首がハリネズミのように毛を逆立てて対立していては国民の為にならない。話し合うべきは話し合って政治を前へ進めることが必要だ。
与党幹部にも柔軟に対処する度量が必要で、現在の国対などの調整機関とは別に政策協議機関を設置して、話し合いで合意できる可能性のある党が集まって話し合う努力をしなければならない。参議院選挙が終わったばかりで政界にきな臭い余燼が漂っているが、そろそろまともに議論を進める協議を始めなければ臨時国会を開催しても何も決まらないで愚かなポスト争いのハリネズミを演じるだけで終わりそうだ。
そうした呼びかけは与党の長老が野党の長老に声をかけて根回しをするのが常道だったが、残念なことに現在の民主党にそうした根回しのできる人材が一人を除いて見当たらない。その一人とは小沢氏のことだが、菅政権が非小沢氏の各派により構成されているため小沢氏にそうした労を取って戴くよう依頼する党内のパイプがないのが事実のようだ。
国民受けを狙った菅氏の近視眼的な人材配置がここに来て仇となっている。そして同じことを言うのでも言い回しがある。「静かにしていて…」にしても「長いこと執行部や党幹部として働いて戴いたからしばらくご休養して戴いて…」などと発言していれば良かっただろう。前原氏にしても「政倫会で説明責任を…」なぞと言わないで「不起訴となった小沢氏の名誉のためにも弁明の機会を…」なぞと、発言に相手を慮る意思が窺えれば子供大臣などと非難されないで済むし、小沢氏とも話ができるだろう。しかし、そうした度量を感じさせない人柄は実際に政治家として大物の度量がないのだろう。
政治家に政策の勉強が必要なのはいうまでもないが、それ以上に必要なのはこの国と国民の将来を見通す理念と哲学、それに幅広い人間関係だ。岩が川の中で擦れて丸くなるように、人も人の中で揉まれて角が取れて人格が形成される。それが嫌だからと引き籠っていては人格は形成されないし、いつまでたっても人のために役立つ人物とはいかなるものか分からないだろう。
菅氏は夜毎秘かに野党幹部と会って国家と国民の為に七面六脾の活躍をしているだろうか。国会正常化の為に何とか新しいルール作りをしようと妥協すべき点は妥協しつつ、その裏で衆議院の多数派工作をして2/3を取る努力も欠かさずしているだろうか。そうしたあらゆる人脈と手を使って必死に動いているだろうか、それとも無為無策のまま時の推移を見守り氏神が現れるのを待っているだけなのだろうか。
本当に小沢氏の力を借りたければ、菅氏はじかに小沢氏に電話をすることだ。人を介して会う意向を伝えるなどと格好をつけている場合ではないだろう。菅政権の危機であると同時に、経済金融を見れば世界と日本国家が待ったなしの緊迫した状況下にあるのは誰の目にも明らかだ。危機管理を適切に行うために、菅氏は身を挺して小沢氏に会って過日の軽率な発言を詫びて力を借りなければ野党対策の手がないだろう。自身が長く首相の座にいることと、国会を動かす仕組みを作ることと、どちらが大事か考えれば菅氏の取るべき選択肢はおのずと決まる。