米国を「悪者」に仕立て上げるオールドメディア。

国際社会に衝撃を与えた
ベネズエラへの武力介入
 2026年1月3日早朝、トランプ大統領は自身のSNSにおいて、「ベネズエラに対する大規模な攻撃を成功裏に実施し、マドゥロ大統領夫妻を拘束し国外へ移送した」と発表した。この投稿は瞬く間に世界を駆け巡り、国際社会に大きな衝撃を与えた。
 アメリカがベネズエラに対して批判を繰り返していたことは知られていたが、新年早々にアメリカが武力介入して大統領を拘束したことは、世界中で驚きをもって報じられた。
 主権国家の現職大統領を軍事行動によって拘束・移送する局面は珍しいことではあるが、これまでも何度かあった。ただし、その多くは亡命を許容しており、今回のようにその国の大統領を司法の場に拘束するべく本国へ移送することは極めて異例だ(近い事例としては、1989年に起こったパナマのノリエガ将軍拘束がある)。
 今回のアメリカの行為は、国際法違反として国際社会からの批判の声が小さくない。
 ただし、この出来事を「トランプ大統領の衝動」や「強権的性格の表出」と片付けてしまうと、本質を見誤ることになる。
 なぜトランプ大統領はベネズエラ攻撃を決定し、国際社会からの批判を覚悟して、マドゥロ大統領のアメリカ移送や政権移行までの運営などを引き受けることにしたのか。
 今回は、ベネズエラ攻撃によって明らかになったアメリカの国際戦略の変更、そして、それが日本にとっていかに重要であるかについて考えていく。

マドゥロ大統領拘束は
段階的政策の「総仕上げ」

 アメリカは今回の軍事行動に至る前から、長期間にわたりベネズエラを事実上の「敵対的存在」として扱ってきた。
 トランプ政権下のアメリカ軍や法執行機関は、ベネズエラから出航する麻薬密輸船を公海上で拿捕(だほ)し、場合によってはミサイル攻撃を含む武力を行使する作戦を継続してきた。これは、アメリカがベネズエラを安全保障上の脅威として認識してきたことを意味する。
 ベネズエラの名を冠した船舶や組織が、継続的にアメリカ社会へ麻薬を流し込んでいると認定した時点で、ベネズエラを「対等な主権国家」と扱ったとはいいがたい。
 その意味で、今回の大統領拘束は「突然の武力介入」ではなく、ベネズエラに対して段階的に進められてきた政策が「総仕上げ」に入ったという連続性のある出来事だと考えるべきだろう。

「安保戦略」が示した
アメリカの政策転換

 トランプ政権が昨年発表した国家安全保障戦略(NSS)では、従来のアメリカ外交の前提が大きく変わっている。
 最大の特徴は、世界全体の安全保障への関与を縮小し、アメリカ本土と「西半球」の安全を最優先すると明記した点にある。なお、西半球とは「南北アメリカ大陸とその周辺」のことである。
 これは、19世紀以来のアメリカ外交思想であるモンロー主義を、21世紀型に再定義したものだと考えられる。実際、この新安保戦略はモンロー(Monroe)のMをドナルド(Donald)のMにして、「ドンロー・ドクトリン(Donroe Doctrine)」と呼ばれている。
 モンロー主義はしばしば単純な孤立主義、つまり「アメリカ一国主義」と混同されるが、その本質は「西半球における域外勢力の排除」にある。当時は、ヨーロッパ列強の影響から南北アメリカを守るという考え方だった。
 つまり、トランプ政権はこの安全保障戦略によって、ヨーロッパを同盟の対象ではなく、影響力を排除すべき地域であると認識を大きく転換させたと考えるべきだろう。
 トランプ大統領の政策における思想的な柱となっている「アメリカファースト」は、アメリカ国内における大都市中心のヨーロッパ的な「リベラル思想」と、アメリカが建国以来持ち合わせてきた開拓精神やキリスト教的価値観を主体にした「アメリカ的思想」の対立で、後者を選び取るものである。
 リベラル思想の発信源であるヨーロッパ諸国は、トランプ政権下のアメリカには「同盟地域」と見なされていないということを意味する。
 もう1つ重要なのは、今回の新安保戦略で「南北アメリカ」がアメリカの安全保障政策で優先地域になったことで、ベネズエラもアメリカの安全保障に強く組み込まれることになったことだ。
 ベネズエラはアメリカと外交関係が成立しなくなった時点で、対等な国家ではなく、いわば「アメリカの脅威」になったのである。しかも、ベネズエラが中国・ロシア・イランと連携しており、その存在はアメリカの安全保障圏を内側から侵食しかねないものと位置づけられたのだと考えられる。
 アメリカによるベネズエラ攻撃は決して唐突におこなわれたのではなく、アメリカの安全保障戦略の位置づけから入念に練られた上で行われたと考えるべきだろう。

「西半球秩序」への脅威と
認識されたベネズエラ

 ベネズエラは世界有数の石油埋蔵量を誇る産油国であるが、その国家が機能不全に陥っており、石油産業も壊滅的なダメージを受けていた。
 ベネズエラ産原油は「重質」に分類され、高度な精製技術を必要とする。そのため、これまではカナダ企業などがその役割を担っていたが、アメリカと敵対したことで、中国依存が強まっていった。
 しかし、中国との協力だけではベネズエラの石油産業は再生できず、経済は停滞し、犯罪国家化が進む一方だった。
 国有石油会社は汚職と政治介入によって空洞化し、生産・精製能力は大幅に低下した。国民生活も時を経るごとに厳しくなっていった。
 この状況をトランプ政権は、単なるベネズエラ政府の経済政策の失敗とはみなしていなかった。
 アメリカにとっても重要なエネルギー資源が、無能な統治、犯罪ネットワーク、敵対勢力との結節点の下に置かれていること自体が脅威であり、経済政策の成否は二の次にあった。
 つまり、世界トップクラスの産油国に、マドゥロ政権という麻薬カルテルに関係している政権があることが、アメリカが中核においた「西半球」の秩序に対する深刻な脅威だと認識されたのである。
 そこでトランプ政権は、ベネズエラ石油産業の非政治化と再編を目標に外交政策を立案し、実行に移した。特に石油利権を麻薬カルテルと癒着した国家権力から切り離し、民間企業主体の効率的な産業に再構築することを主眼にした。
「西半球」にエネルギーを政治化する国があることは、今のアメリカでは許容されないことになったのである。

ベネズエラへの武力介入を
正当化したアメリカの論理

 上述したように、ベネズエラに強く関与しているのは、反米国家の代表格である中国、ロシア、イランの3カ国である。トランプ政権はベネズエラとこの3カ国の関係を通常の外交関係とはみなさず、「西半球」への戦略的侵入であり、明確な挑戦だという認識している。
 今回のベネズエラへの武力介入で重要なのは、アメリカがその正当化に用いた論理構成である。
 アメリカ司法当局は、マドゥロ大統領本人およびその息子について、国際麻薬取引への関与を理由に起訴・告発を行ってきた。
 ここで問題とされたのは、マドゥロ大統領という独裁者が、国民に対して人権侵害をおこなったことではない。実際、トランプ大統領は「独裁であること」それ自体を理由に政権を攻撃したことはほとんどないのである。
 そのことはロシアのプーチン大統領に対して表立って批判することを避け、サウジアラビア皇太子のワシントン・ポスト紙記者殺害事件に言及せず、両国との関係強化に乗り出していることからも明白だろう。
 また、マドゥロ氏の後継者として、ノーベル平和賞を受賞した野党指導者のマリア・コリナ・マチャド氏ではなく、マドゥロ派の現副大統領を選んでおり、マドゥロ体制自体は維持している。これは、トランプ大統領が民主化によるベネズエラの体制変更ではなく、治安回復を望んでいるからだろう。
 今回のベネズエラ武力介入の論理は、国家中枢が犯罪組織と一体化していると判断されたことにある。国家が組織的に麻薬を生産・流通させ、他国の国民を害しているのであれば、それはもはや主権国家ではなく「犯罪組織に占拠された統治体」と認識されうるからだ。
 この認識に立てば、ベネズエラ問題は外交問題ではなく、アメリカ国内治安に直結する国家安全保障問題に格上げされる。
 トランプ政権の国家安全保障戦略のもう一つの特徴は、軍事・司法・制裁・法執行を一体の道具として扱う点にある。
 マドゥロ大統領らへの起訴は、マドゥロ政権がベネズエラにおける正統な統治主体ではないというメッセージを国際社会に発信するためである。
 この論理に立てば、今回のベネズエラ攻撃は、アメリカへの犯罪行為に加担している容疑者を拘束するための手段にすぎない。その容疑者こそマドゥロ大統領その人だった。

ベネズエラ攻撃で明らかになった
日本の安全保障におけるリスク
 今回のベネズエラ攻撃は、アメリカの国家安全保障戦略という観点から見ると、日本も無関係ではない。むしろ、重要な問題をはらんでいるというべきだろう。
 日本としては、今回の件は、これまで暗黙の前提としてきた「アメリカの関与のあり方」が明確に変わったことを自覚すべきだ。
 トランプ政権の国家安全保障戦略が示した最大の変化は、アメリカはもはや国際秩序の全体を管理するつもりはないという点にある。
 アメリカは安全保障の関与における優先順位を、新安保戦略で次の三段階に定めた。
◎最優先地域:アメリカ合衆国
◎優先地域:西半球(南北アメリカ大陸と周辺)
◎その他の地域:関与は限定的・条件付き
 日本や台湾がある東アジアは、南北アメリカ以外の地域と比べれば相対的には重要地域に定義づけされているが、もはや西半球ような「優先」レベルではなくなっている。
 これは、日本が戦後から一貫して安全保障をアメリカに依存してきた根拠が失われたことを意味する。有事であっても、アメリカが自動的に全面関与するとは限らず、あくまで法の範囲でしか守ってもらえない可能性もあるという現実を突きつけているのである。
 今回のベネズエラ武力介入が示したもう一つの重要な点は、アメリカが他国を評価する基準が大きく変わったことだ。
 従来のような「民主主義か独裁か」あるいは「人権を守っているかどうか」ではなく、「国家機能が犯罪に利用されているか」や「他国、特にアメリカ社会に直接的被害を与えているか」が評価基準になったのである。
 国家と非国家主体、合法と違法、戦争と犯罪の境界が曖昧な地域には、この論理が適用される余地がある。
 これは、日本周辺の安全保障環境を考える上でも重要だ。たとえば、日本国内でフェンタニル製造に関わったことが明らかになったが、そのようなことが続けば、日本も同盟国どころか制裁対象になりうる。
 同じようなことはマネーロンダリングや先端産業の関与についても言える。
 トランプ政権の戦略の特徴は、治安問題を国家安全保障に格上げした点にある。アメリカはそれらを国家安全保障の中核に組み込み、司法・制裁・軍事を横断的に用いるようになっている。
 麻薬、密輸、サイバー犯罪、偽情報、マネーロンダリングなどは日本では長らく「警察の仕事」として扱われてきたが、対米関係を考えると、今後は安全保障問題として国ぐるみで取り組む必要がある。
 日本が従来の枠組みのままでいるならば、日米間で「安全保障の定義そのもの」がずれていく可能性がある。
 アメリカが関与の優先順位を再定義した以上、同盟国にはこれまで以上に「自助」と「分担」が求められる。
 日本にとって重要なのは、日本周辺で起きる事態を、日本自身がどこまで対処できるのか、アメリカに頼る領域と、自国で完結させる領域をどう線引きするのかを明確にすることだろう。
 問題はこれが「トランプ大統領期の一時的な現象」なのか、今後も続く長期的な傾向なのかがまだわからないことだ。断言はできないが、アメリカの国際的な影響力の低下は避けようがなく、長期的な傾向だととるべきではないだろうか。
 今回のベネズエラ攻撃は、アメリカは自国の死活的利益がかかる地域では躊躇なく行動するが、そうでない地域では抑制的になるという現実を示した。この構造を理解せずに、「日米同盟は不変だ」と繰り返しても虚しいだけである。>(以上「DIAMOND」より引用)




「アメリカにはもう頼れない…」トランプ大統領のベネズエラ攻撃で露わになった“日本の深刻リスク”」と白川 司(評論家、翻訳家、千代田区議会議員)氏は米国のマドゥロ大統領「拉致・連行」作戦に関して、日本の国防に関して「危惧」を表明している。
 「もうアメリカには頼れない」と白川氏は云うが、それならどの国なら頼れる、というのだろうか。いかなる国も日本のために存在しているわけではない。米国政府は米国のために存在している。日本のために米国が「常に頼りになる」と考える方がどうかしている。

 日本のオールドメディアは概して米国のベネズエラ作戦を批判している。いつもの上辺だけの「人権尊重」「国家主権」を盾にとって薄っぺらな理論を展開している。それならロシアや中国が少数民族や近隣諸国民の「人権弾圧」や「軍事支配」に関して、殆ど沈黙しているのは何故だろうか。
 実際にコロンビアやベネズエラを支配しているのは「麻薬マフィア」だ。マドゥロ大統領は「麻薬マフィア」と結びついて、独裁・強権体制を実施していた。その間、ベネズエラの人口約2800万人のうち、800万人を超える人たちが弾圧や虐殺を恐れて国外へ逃亡している。去年ノーベル平和賞を受賞した野党指導者のマリア・コリナ・マチャド氏もそうした一人で、マドゥロ大統領の拘束を受け「自由が到来した」とする声明を発表した。

 またマチャド氏は2024年の大統領選挙では、マドゥロ氏ではなく野党候補のゴンサレス氏が勝利したと主張し、「ゴンサレス氏がすぐに憲法上の大統領として任務を遂行すべきだ」とした上で、「我々は権力を握る準備はできている」と宣言した。
 同時にマチャド氏は「マドゥロ氏は国際司法の裁きを受けることになる」とし、国民に主権を取り戻すと強調した。そして、「民主化が実現するまで行動し続けよう」と訴えている。

 トランプ氏は当面米国がベネズエラを「管理する」としているが、早急にベネズエラで民主選挙を実施して、ベネズエラ国民に政権を引き渡すものとみられる。
 白川氏が「米国に頼れない」というのは、ベネズエラの主権を侵害して軍事行動を強行したからかもしれないが、それは一国を「恐怖」で支配する独裁者にこそ恐怖される手法ではないだろうか。いかに強大な軍事力を有していても、米国が世界のすべてを支配できるわけではない。価値観を共有する国とは協調関係を維持するとみるのが妥当ではないだろうか。日本は少なくとも民主主義という価値観では米国と同じくしているし、今後とも確たる協調関係を維持できるのではないだろうか。オールドメディアは米国と価値観を共有しない側に立つのか、それとも共有する側に立つのか、しっかりと腹を据えて返答すべきではないか。

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