冷え込んだ消費マインドを転換することこそがトランプ氏の最大の経済政策だ。世界各国とトランプ関税で喧嘩している場合ではない。

11月の民間部門雇用者数、予想を大幅に下回る3万2000人減
 トランプ政権下の米政府閉鎖の影響で10月、11月分の雇用統計が12月16日まで公表されない中、ADP雇用者数(米国の民間給与計算サービス会社ADP社が発表する民間企業における雇用者数)が3日発表され、11月の民間部門雇用者数は3万2000人減と4万人増の予想を大幅に下回った。10月は4万7000人増(改定値)だった。
 製造業、専門・ビジネスサービス、情報サービス、建設業の景気敏感セクターが特に低調だった。ADP首席エコノミスト、ネラ・リチャードソン氏は「最近の雇用は不安定な動きが続いている。背景にあるのは消費者の慎重姿勢や先行きが読みづらいマクロ経済環境だ」と指摘する。
「11月の減速は幅広い分野で見られたが、特に小規模事業者の後退が大きく影響した」(リチャードソン氏)。教育・医療分野は3万3000人の雇用を新たに生み出した一方で、製造業は1万8000人減と落ち込みが目立った。
 最新の地区連銀経済報告は雇用が「わずかに減少した」と指摘している。地区連銀の約半分が労働需要の弱まりを指摘。ニューヨーク、ダラス、ミネアポリスの各地区では10月初旬から11月中旬にかけて雇用がわずかに減ったという。

「景気後退」とまでは言えないが、冷え込みの初期兆候
 発表前にはADPのデータが顕著な悪化を示さなければ、インフレ率が目標の2%を上回り続けるリスクを懸念する米連邦準備理事会(FRB)当局者は金利据え置きを主張しやすくなるとみられていた。失業保険申請は増えていないため景気後退とまでは言えないが、冷え込みの初期兆候と分析できる。
 米紙USAトゥデーのイングリッド・ジャック氏は12月3日付で「トランプ氏とその経済政策への米国人の見方について否定的な見出しを見ない日はないように感じる。だが感謝祭週末の記録的な支出を見るとこの悲観論はやや大げさだったのではないか」と指摘する。
 米国の消費者はブラックフライデーに前年比9.1%増の118億ドルをオンラインで支出し、過去最高を更新した。サイバーマンデー(オンラインの大規模セール)には同6.3%増の142億ドルを支出。感謝祭期間中に消費者は440億ドルを使った。
 昨年10月のギャラップ調査では、43%が「米国の最重要課題は経済問題」と回答。今年10月には24%と、19ポイントも低下した。ジャック氏は関税の物価押し上げにも言及し「トランプ氏は国境問題に迅速に対応した。次は経済を改善し物価を下げる約束を実行すべきだ」という。

「トランプ経済の『不安定と恐怖』の中で米国人は休暇支出を削減」
 一方、英紙ガーディアン(11月28日付)は「米国人は経済の現状に不安を募らせている。トランプ経済の『不安定と恐怖』の中で米国人は休暇支出を削減している。価格上昇や関税、失業増加が贈り物を買うのを止める理由に挙げられる」と悲観的な見方を示している。
  FRBのクリストファー・ウォラー理事は家計の上位10%が個人消費全体の22%、上位20%は35%を占め、下位60%は45%と指摘。「下位グループは今年の物価上昇の影響を受け、お買い得商品を探すため、支出計画を見直しつつある」という。この層向けにコカ・コーラも「ミニ缶」商品を強化している。
 トランプ氏は「関税収入を国民に配る“関税配当”として1人当たり少なくとも2000ドルを支払う」と発言。支給対象は低中所得者層だ。物価高の補償と景気刺激策、政治的人気取りが狙いだ。
 関税収入は最大3000億ドルに対し2000ドル給付は総額3000億~6000億ドルかかると見積もられ、強行すれば財政赤字がさらに膨らむ。
 11月、トランプ政権は200品目超の農産物・食品の10%グローバル関税を免除した。牛肉・一部の加工肉、コーヒー・茶、バナナ・各種トロピカルフルーツ、オレンジジュース、一部肥料・宗教用途の食品などだ。同時に中南米諸国との2国間・多国間のミニ通商合意を発表した。
 メディアは「高止まりする食料品価格への有権者の怒りに押され、トランプ氏が看板政策だった関税の一部を撤回した大きな転換」と報じた。米国民の反応は「牛肉やコーヒーが少し安くなっても、保険料や家賃、税金は上がり続けている」と冷たい。

関税収入の一部を還元する発想はマッチポンプそのもの
 関税収入の一部を還元する発想はマッチポンプそのもの。富裕層と貧困層の格差など経済の二極化が進むK字型経済の「下層」から見れば医療保険料、家賃、住宅ローン金利、教育費、税金の構造的コスト上昇は手つかずのまま。失業率4.4%、レイオフ増加の雇用不安も重なる。
 株高、人工知能(AI)ブームで「上層」はホクホク顔だが「下層」は不安を募らせる。MAGA(米国を再び偉大にというスローガンを掲げる)支持層の不満を、トランプ氏は「関税配当」や「食品関税撤廃」といった場当たり的な人気取り政策でごまかそうとしているとの見方が強まっている。
 トランプ氏はこれまで「関税はインフレを引き起こしていない」「ほぼインフレはない」と強弁してきたが、今回の政策転換に際しては「関税は場合によっては価格を押し上げるかもしれない」と発言、自らのロジックを部分的に撤回した。
 政治的には庶民の生活コストを下げるポーズを示す必要に迫られ、経済的に関税が物価高の一因だったことを認めざるを得なくなったという苦しい事情が浮かび上がる。過去1カ月のデータを並べると「2つの米国経済」が同時進行しているのが一目瞭然だ。

K字型経済の「下層」はトランプ氏の支持基盤と重なる
 その場しのぎの政策ではトランプ氏がK字型経済から逃れられない理由が3つある。まず物価高の責任がジョー・バイデン前米大統領からトランプ氏に移りつつある。直近の世論調査では「インフレの責任はトランプ氏にある」と見る声が「バイデン氏のせい」との回答を上回る。
 次にK字型経済の「下層」はトランプ氏を支えてきた基盤と重なる。ラストベルト(さびついた工業地帯)の白人肉体労働者、地方の年金生活者・退職者。こうした層は株価上昇やAIブームを横目に自分の賃金と生活はどうしてこんなに苦しいのかと感じている。
 こうした感覚こそが、K字型経済の『底辺』にいる人々の実感だ。
 これを無視して「インフレはほぼゼロ」「物価は下がっている」と言い張れば、バイデン氏が陥った「現実否認」の失敗と同じ轍を踏むリスクが高まる。移民抑制による人手不足と高金利の構造要因は関税収入の一部を還元しても残る。
 現在の米国は成長率、株価は好調、AI投資は活況だが、インフレは3%で粘着し、食品価格の上昇は低中所得者層を痛めつける。失業率はじわりと上昇、消費者マインドはコロナ初期並みの弱さ。K字型経済の罠から逃れようとしても、トランプ氏はすでにがんじがらめになっている。>(以上「JB press」より引用)




予想超える雇用減、富裕層はさらに富み貧困層は…米国「K字型経済」が進行、支持層にバレたトランプ経済政策の矛盾」と題する木村 正人(国際ジャーナリスト)氏の論評を取り上げた。その理由はトランプ関税により米国は関税の大部分が消費者物価に転嫁され、物価高騰と個人消費減少による不景気になると予想されたからだ。
 果たして、そうなりつつある。雇用減は物価高騰によるコスト増を雇用減による人件費削減で、経営者たちが乗り切ろうとしているからだ。その結果、米国はK字型経済が進行している。ちなみに、K字経済とは富裕層と貧困層の経済格差など経済の二極化が進む状態を指す。 所得階層別に収入や貯蓄の増減などをグラフ化すると、上下に開くK字を描くことから名付けられた。

 こうしたK字型経済に陥る多くの原因は社会基盤を支えて来た製造業の衰退による。それはグローバル化により、経営者が多くの人手を必要とする製造業を労働賃金の低い国へ移転させることで、生産性の向上や生産技術の革新投資などしなくても、容易に利益の最大化が図れるからだ。
 2022年時点での中国の企業総数は約3300万社、うち国有企業は約36万社とされ、外資系企業(米国含む)は数百万社規模で存在すると考えられ、米国企業の正確な総数はデータソースにより異なりますが、在米中商工会議所の調査では数千社規模の加盟企業が活動している。このような製造業が海外へ拠点を移すことにより、米国のラストベルトは錆付いたといえるだろう。

 また金融業界が盛況を呈するにしたがって、米国の主要メディアを支配下に置き多国籍企業を持て囃し、グローバル化こそ正義と宣伝させた。それも投資先が多様化し多国籍化することによって様々な金融商品を提供することが出来るからだ。
 米国の民間投資資金は、長期的に見て大幅に増加しており、特に近年はプライベート・エクイティ(PE)ファンドの資産が急成長している。しかし、短期的には金利上昇や市場の不確実性の影響を受けて、資金調達のペースが鈍化するなどの変化も見られるが、民間ファンド資産は2020年から2023年にかけて34%増加し、その総額は28兆ドル(約4000兆円)に達した。

 米国のジニ係数は、最新の推計で0.418(2023年)前後、または0.40(2022年)程度とされ、先進国の中では所得格差が大きい部類に入る。しかも日本と比べて公的医療保険制度の不備などもあって、貧困層の困窮度合いは日本の比ではない。
 だからトランプ氏は移民の全面禁止を宣言して社会コストの上昇を防ぎ、米国民の貧困対策として国民に関税収入の一部を還元するとしている。だが根本的な「医療保険料、家賃、住宅ローン金利、教育費、税金の構造的コスト上昇」などは手つかずのままで、多くの国民はトランプ政権に不満を募らせている。

 引用記事にある通り「現在の米国は成長率、株価は好調、AI投資は活況だが、インフレは3%で粘着し、食品価格の上昇は低中所得者層を痛めつける。失業率はじわりと上昇、消費者マインドはコロナ初期並みの弱さ」にあって、既に到来しているAI時代の大量失業の嵐に巻き込まれるのではないか、という不安が消費マインドをさらに冷え込ませている。
 トランプ氏が成すべきはトランプ関税ではなく、米国企業の国内生産を促すUターン減税や外国企業の米国内投資減税、といった雇用機会の創出政策ではないだろうか。「インフレはほぼゼロ」「物価は下がっている」と言い張る「現実否認」ではなく、現実を直視して確実な貧困対策を実施することこそが必要ではないだろうか。そうした経済政策の原資は経済成長で、直近2024年における名目GDPは29298.025(10億USドル)、年間成長率は5.35%と好調そのものだ。冷え込んだ消費マインドを転換することこそがトランプ氏の最大の経済政策だ。世界各国とトランプ関税で喧嘩している場合ではない。

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