やがて厳しい冬がロシアにやって来る。

<ウクライナとの停戦に応じようとしないロシア。その政権内部には綻びが出始めている。拓殖大学客員教授の名越健郎さんは「プーチン大統領は信頼していた側近に裏切られた。ナンバー2が不穏な動きを見せるなど足元が揺らぎつつある」という――。

 ■プーチンの最も忠実な側近がウクライナ停戦を直訴 
 8月15日の米アラスカでの米露首脳会談後、ウクライナ和平交渉が動き出すかにみえた。しかし、プーチン大統領は「紛争の根本原因除去が必要」と開き直り、一向に歩み寄る気配はない。戦場で優位に立つロシアは戦争継続を望み、時間稼ぎをしているだけのようだ。 
「プーチンの戦争」を止めるには大統領自身の翻意が必要だが、戦争が泥沼化する中、政権内部で停戦を求める声も浮上し始めた。この戦争は、外交舞台や戦場で終わらせることはできず、クレムリン中枢の決断がかぎを握る。 
 米紙「ニューヨーク・タイムズ」(8月10日付)は、プーチン氏の最も忠実な側近の一人、ドミトリー・コザク大統領府副長官(66)がウクライナ戦争の停戦と和平交渉実施を大統領に直訴したと報じた。
  同紙によれば、政権内でウクライナ政策を担当するコザク氏は2022年2月24日に侵攻する前から、ウクライナ軍の抵抗を理由に開戦に反対していた。昨年と今年も個別にプーチン氏に会い、戦闘停止と和平交渉開始のほか、治安機関を政府の監督下に置くことや司法制度改革を促したという。事実なら、強硬路線を否定し、民主化と改革を求めたことになる。 
 開戦直後、一部の幹部が侵攻を批判したことがあったが、軍を侮辱する行為を禁止する刑法改正以降、政権中枢から反戦論が登場するのは異例だ。 

■「謀反」に対し大統領が下した人事 
 コザク氏はプーチン氏と同じレニングラード大法学部を卒業し、1990年代に法律専門家としてサンクトペテルブルク市庁舎でプーチン副市長の下で働いた。プーチン氏が99年に首相になると、モスクワに呼ばれ、側近として活動。大統領選でのプーチン氏の当選に貢献した。  冷静沈着な性格と能力を評価するプーチン氏は一度、コザク氏に首相ポストを打診したが、断られた経緯がある。コザク氏はその後、チェチェン共和国対策やソチ五輪準備、ウクライナ対策など難題を率先して担当し、大統領の懐刀の役回りだった。
  実は、開戦直前の22年2月21日、プーチン氏はクレムリンの大広間で安保会議の討議をテレビ中継させ、ドンバス地方の独立承認の是非について一人ずつ発言させた際、コザク氏の発言を遮断したことがあった。反戦発言を察知し、封印させた可能性がある。 
 信頼するコザク氏の「謀反」はプーチン氏にはショックと思われる。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙はプーチン氏が周囲を強硬論者で固めているため、動揺することはなかったとしている。 
 この報道はロシアでも転電された。有力紙「ベドモスチ」(8月29日付)は、「コザク氏は政府高官で戦争に公然と反対する唯一の人物だ」とし、今後大統領府を離れ、北西連邦管区大統領全権代表に左遷されそうだと伝えた。

■「プーチン家の家族」も停戦を支持 
 ロシア紙「コメルサント」(8月30日付)によれば、プーチン氏は大統領府の「外国との地域・文化交流」「国境協力」の2つの部局を廃止する大統領令に署名した。
  2部局はコザク大統領府副長官が担当していた部門で、ウクライナ侵攻を批判したことが原因との見方が出ている。コザク氏の職務の多くは、セルゲイ・キリエンコ大統領府第一副長官が代行しているという。 
 コザク氏の「反乱」は、侵略戦争や戦争犯罪への批判が政権内に存在することを意味し、今後のエリート層への波紋が注目される。
  ロシアの要人では、米露関係改善の立役者、キリル・ドミトリエフ直接投資基金総裁も和平志向のようだ。
  ドミトリエフ氏は米スタンフォード大やハーバード大ビジネススクールで学び、米投資会社ゴールドマン・サックスなどに勤務経験があり、トランプ政権要人と親交を持つ。夫人がプーチン氏の次女と親友で、「プーチン家の家族の一員」といわれる。 
 今年1月のトランプ政権発足後、米側に北極圏共同開発、資源共同投資を働き掛け、「トランプ懐柔ミッションの中心人物」(米紙「ワシントン・ポスト」)。その発言やSNSでの発信は、戦後の米露協力を念頭に、停戦を支持するものが多い。 

■政権内部で広がる厭戦気分 
 ドミトリエフ氏が4月に訪米した際、米FOXテレビのインタビューで、プーチン大統領はトランプ政権が発表した和平案を受け入れるだろうと述べたことがあった。これに対し、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官は「米側の提案は受け入れられない」と真っ向から否定した。 
 ウクライナ問題ではロシア外務省が最も強硬な立場を取り、ドミトリエフ氏の融和路線と相いれないようだ。ロシアのメディアが同氏を「影の外相」ともてはやすことにも外務省は警戒的で、ラブロフ外相とドミトリエフ氏は「犬猿の仲」(ロシア紙「モスクワ・タイムズ」)といわれる。ロシアの愛国勢力も同氏を「トランプのイヌ」と批判し始めた。
  ドミトリエフ氏はコザク氏と同様、ウクライナ生まれで、ウクライナへの同情が背後にあるかもしれない。 
 ウクライナ政策ではプーチン氏が全権を握り、強硬路線を貫くが、政権内では厭戦気分も出始めたと独立系メディアが伝えている。 
 たとえばロシアのSNS「テレグラム」で発信する「SVR(対外情報庁)将軍」は8月15日、「指導部内の特別軍事作戦への疲労感はとてつもなく大きい」「この戦争の発案者であるユーリー・コワルチュク・ロシア銀行会長でさえ、この冒険を終わらせるべきだと考えている」と伝えた。 
 「メディア王」といわれる強硬派オリガルヒのコワルチュク氏は、コロナ禍でもプーチン氏と頻繁に会い、ウクライナ侵攻を進言したと英紙「フィナンシャル・タイムズ」(23年2月23日付)が報じていた。

■「第2のコザク」が登場する可能性 
 侵略戦争の長期化、泥沼化で、将来への不安や焦りが政権内に出てもおかしくないが、それを大統領に直訴した勇気ある人物はコザク氏以外にいない。
  政権内でウクライナ戦争の強硬論を説くのは、大統領やラブロフ外相らを除けば、パトルシェフ大統領補佐官、メドベージェフ安保会議副議長(前大統領)、ショイグ安保会議書記らで、経済テクノクラート(技術官僚)はウクライナ戦争についてほとんど発言していない。 
 憲政上のナンバー2、ミシュスチン首相は担当の経済、社会問題に没頭し、侵攻の是非には言及していない。首相は最近、軍事関係の会議にほとんど出席せず、強硬派と距離を置いているとの情報もある。
  首相をトップとするテクノクラート人脈は、ロシアを孤立させ、国力を後退させるウクライナ戦争に、内心批判的とみられる。ミシュスチン首相は経済官僚や専門家を集め、停戦後の経済政策転換を検討させているとの独立系メディアの報道もあった。 
 ロシアの憲法規定では、プーチン氏が職務執行不能に陥った場合、ミシュスチン首相が大統領代行になり、3カ月後の大統領選を統括する。首相が選挙管理内閣を運営し、後継者に近い立場だ。 
 「ミシュスチン大統領代行」なら、ウクライナ停戦交渉に着手し、欧米との関係改善に動くかもしれない。一方で、プーチン氏の支配体制が揺らぐ気配もなく、当面は「第2のコザク」が登場し、政権に風穴を開けるかどうかが注目点だろう>(以上「PRESIDENT」より引用)





平静を装っていてもプーチンの顔は引きつっている…最側近が起こした異例すぎる「謀反」が意味すること」と名越 健郎(拓殖大学客員教授)氏が解説している。その内容によると、クレムリン内部はウクライナ戦争を継続すべきとする強硬派と停戦すべきとする穏健派が勢力を二分しているようだ。ただプーチンが強硬姿勢を貫いているため「勝てない戦争」をいつまでも続けるしかないようだ。
 しかしロシアは政争推敲だけでなく、他にも愁眉の問題がある。それは帰還兵の問題だ。米国紙REUTERSが掲載した記事が衝撃的だ。
「ロシア人の妻の殺害犯アザマト・イスカリエフ受刑者(37)にとって、戦争は刑務所を脱出するための片道切符だった。この男は2021年夏、離婚を望んだ妻を自分が所有する車内で刺殺し、殺人罪で9年の刑を受けた。刑期のまだ3分の1も服役していなかったが、ウクライナで戦うという見返りに釈放されて恩赦を受けた。6カ月の戦場経験でも、自分を拒絶した女性たちに対する暴力的復讐心は和らげられず、民間生活に戻った後の昨年10月、口説いたのを拒んだ元恋人の女性を勤務先の店内で60回以上ナイフで刺した。そして7月、この残虐な殺人の罪で19年以上の刑を言い渡された。イスカリエフ受刑者の事件を、サラトフ市の裁判記録と公判を追った地元報道を突き合わせて考えると、ロシアが今後直面しうる深刻な社会問題が見えてくる。戦争が終われば、恩赦を受けた受刑者を含む数十万の兵士が帰還するからだ。」
 米国でもベトナム戦争とその帰還兵により社会秩序が不安定化した時代を経験している。当時の派兵した兵隊は約58万人だったが、現在のロシアはその三倍近くもの兵隊をウクライナ戦線へ派兵した。ロシア当局は派兵した兵員は60万人だと強弁しているが、戦死傷者数が90万人に達していて、ウクライナ戦線へ派遣した兵隊が60万人と云うことはあり得ない。150万人以上の兵隊を派遣していなければ現在の前線の維持も出来ないだろう。

 戦死した遺体が陸続と出身地へ無言の帰還をして、ロシア全土が深い嘆きに包まれているという。ソ連がアフガニスタンに60万人もの大勢力で軍事侵攻して15万人に及ぶ戦死者を出して引き上げたが、当時の厭戦気分とは比較にならないほどロシア全土に厭戦の雰囲気が漲っているのではないだろうか。
 プーチンの戦争はあらゆる意味で限界に達しようとしている。プーチンの家族まで停戦を希望しているというから、クレムリンの悩みは深刻だ。そうしたロシアの状況を察知してか、ウクライナのドローン攻撃は民生用の石油基地に照準を合わせている。間もなくやって来る冬将軍を乗り切るには石油や天然ガスが必要だが、そうした施設を破壊されればロシア国民は厳冬期を乗り越えることは出来ない。

 戦争をして良いことは何もない。ことに国民にとって悲惨そのものだ。プーチンは側近の離反にあい、イエスマンだけで身辺を固めてもて不安でならないだろう。

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