ガソリン価格の「怪」。

<なぜ日本のガソリンは高いのか。価格問題における本質は何か。税金はもちろんだが、それだけにとどまらないガソリン業界と政治の問題について、国内外の石油業界を知る専門家が核心に迫る。(桃山学院大学経営学部教授 小嶌正稔)

ガソリン暫定税率の廃止
国民に判断する選択肢を示せ

 自民党は石破茂首相の退陣に伴う臨時総裁選を「フルスペック型」で実施すると決めた。10月上旬の投開票後、国会での首相指名選挙も必要なので、次の首相が誕生するのは11月の見込みとなる。こうした政治空白は国民生活に大きな打撃となり得る。
 その一つが、ガソリン税の「暫定税率」廃止についてだ。年内に暫定税率を廃止しようと与野党で話し合いが続き、廃止=「ガソリンが安くなる」がほぼ確定だった。しかしこの政局によって、話し合いは続くにしても最終的に意思決定する人次第では、棚上げになる可能性すらある。
 現在、ガソリン1リットル当たり10円の補助金が出ている。暫定税率の廃止で、この補助金は終了する(ガソリン代は実質10円値上げに)。つい先日まで与野党の話し合いでは、暫定税率を11月に廃止する案が有力だった(暫定税率の上乗せ分である25.1円が値下げに)。つまり差し引き15.1円安くなる案で進んでいた。
 そもそもガソリン代の4割程度が税金で、その中に暫定税率が含まれている。文字通り最初は2年の暫定(仮の措置、一時的)だったが、50年以上もそのまま。スタート時(1970年代、田中角栄首相時代)の目的は道路整備だったが、途中から“何でもあり”のよく分からない税に変わってしまったのは周知のとおりだ。

 ガソリン価格の約4割が税金だ。ガソリン本体価格には複数の税が上乗せされている。暫定税率分は25.1円。税「率」というと普通は割合だが、なぜか定額。そしてガソリン税を含めた額に、消費税を掛け合わせた二重課税になっている
 筆者が思うに、暫定税率の廃止うんぬんを議論する時期は過ぎた。今は、廃止による巨額の減収分をどう補うか、そのためにどの歳出を削減するかの議論が必要だ。ところが残念ながらこの政策議論にはいつも根本的に欠けているものがある。それは、国民が判断できる選択肢を提示することだ。
 財源の確保などという難しい話は国民には分かりにくい。減収分を何と何を削減して補うのか、具体的な選択肢を示してほしい。選択肢の提示および国民の選択を先延ばしにすれば、着実に確実に、次世代に負担を先送りするだけだ。
 国内では物価の上昇が続く中、2029年までにガソリンの需要は24年比11.4%の減少が想定されている(「2025~2029年度石油製品需要見通し」石油製品需要想定検討会)。インフレは実質的に税収を減少させる。さらにガソリン消費量の減退が、ガソリン税の収入を減少させる。
 こうした中で、脱炭素社会に移行するためのモビリティ・インフラ投資をどのように賄っていくのだろうか。この疑問に答えることなく減税政策がすすめられれば、着実に確実に、社会基盤を危険にさらすことになる。

ガソリン補助金は累計8兆1719億円へ
3年間でほぼ1年半分の石油関連税に匹敵

 政府は、ウクライナ侵攻から始まった「ガソリン等の燃料油高騰に対する激変緩和処置」として、2022年1月27日から3年間で8兆1719億円に上る巨額な補助金(累計予算額)を投入してきた。今なお暫定税率に対する結論待ちを理由に補助金は投入され続けている。
 24年度の石油にかかる税金は、総額5兆7300億円(24年度当初予算、石油連盟『今日の石油産業2024』)である。この3年間でほぼ1年半分の石油に関する税金が、激変緩和処置を名目に支出されたことになる。
 暫定税率の廃止による減税規模は、ガソリン税のみで計算しても1兆円を超える。激変緩和の総額と比べると8分の1にとどまる。しかし、期限が設定されていないとすれば話は別だ。
 下の図は、この激変緩和によって投入されたガソリン1リットル当たりの補助金支給額の推移と暫定税率の上乗せ分の比較を示したものだ。オレンジ色の横線が暫定税率上乗せ分。この線より上の部分が、この上乗せ額を越えて支給された部分。線と支給額の間の部分が、激変緩和を越えて追加される減税額である。今回の減税策激変緩和の莫大な資金投入と比較すると、暫定税率の廃止はいかにインパクトが大きいか分かるだろう。
縦軸の数字は円/ガソリン1リットル。資源エネルギー庁の資料を基に筆者作成

ガソリン税の「重税感」はなぜ生まれたのか?
皮肉にも原因はガソリン補助金だった!

 さて、日本国民はなぜこれほどガソリン税に対する重税感を抱くようになったのだろうか。
 それは“失われた30年”に関係している。この間、物価上昇が極めて緩やかで、物価上昇による税の目減り効果(インフレ減価)による負担軽減効果が少なかったことが要因の一つにあるのだ。
 G7の中で、いまだにガソリン補助金を投入しているのは日本とイギリスだけ。しかし両国のガソリン税負担感を比較してみると、その違いは明らかだ。

英国の2025年は、IMFの2025年4月時点の推計。IMF - World Economic Outlook Databasesなど各種資料を基に筆者作成

 対2000年比でわが国では2010年は2.0%、20年では1.3%とほぼ横ばい、25年でようやく7.3%の負担減となった。消費税が1989年の導入時は3%だったが、97年に5%、2014年に8%、19年に10%と増額されてきたことも影響している。
 この数年、21~22年の輸入物価を起点としたコストプッシュ型の物価上昇、23~24年の賃金上昇と価格転嫁が物価を押し上げたが、それでも実質税負担はわずか7.3%減にとどまっている。
 一方、日本と異なり中長期に物価上昇が続いたイギリスでは、2011年で23%減、22年で46%減、25年で52%減と実質的に税負担が半減している。
 日本では激変緩和処置、つまりガソリン補助金によって物価上昇を抑えてきたことが、逆にガソリン税の重税感を増やすことにつながったともいえる。何とも皮肉なことだ。

なぜガソリンは「二重課税」なのか
EUや米国も探って分かった課題

 ガソリン税に関するもう一つの問題が、二重課税である。ガソリン税を含めた総額に、消費税・付加価値税(VAT)や売上税を二重に掛け合わせている。これも重税感の要因だ。わが国ではガソリン税の減税と、この二重課税の廃止を訴えている政党が支持を集めている。
 しかし実は、二重課税制度を採用している国は意外にも多い(ただし航空や船舶、発電、農業用など特定の用途を除く特例はある)。石油税の増税は一般的にハードルが高いが、消費税・VAT、売上税は名前に違いはあるものの特定の品物ではなく、財政と税率に議論が集中するため、特定製品ごとの税金より理解が得られやすいからだ。
 代表例がEUで、04年からエネルギー税指令によってガソリンには最低税率が決められた。さらにEUの付加価値税指令で標準VAT率は15%以上とされ、二重課税である。
 一方、米国では燃料税に売上税(もしくは消費税)を課している二重課税は、6州のみだ。それ以外の大半の州で、ガソリン税は連邦税$0.184/ガロン(7.1円/ℓ、1ドル147円で換算)と州税から構成されている。
 ちなみに少数派である二重課税のカリフォルニア州では、連邦税と州税に平均2.25%の「標準売上税」がかかる。標準というのは何かというと、同州の売上税は郡、市ごとに決めている。資料を確認すると、なんと地域ごとに547もの税率が記載されている。これを基に売上税の実効税率を計算すると、10%を越えている地域が77市・郡あった(「California City and County Sales and Use Tax Rates」25年7月1日時点)。
 資料の一覧表には、「これらは最新の税率ではない可能性がある」という注釈があった。何が言いたいかというと、547もの地域の住民が、自らの意思と判断で税率を決めているのだ。米国ではガソリン税が、地域の財政安定も踏まえて地域で議論され、意思決定されているのだ。

ガソリン業界と政治の強いつながりが
結果的に正常な競争環境を歪めている
 ガソリン価格問題における本質は何か。それは、税金だけでなく、ガソリン価格の不透明さが公正な競争をゆがめ、小売価格を高止まりさせていることにある。
 補助金を続けている日本とイギリスの最大の違いは、イギリスは減税と同時に公正で透明な価格システムの構築によって競争を促すシステム(ポンプウォッチ)を構築したことだ。
 このシステムはドイツで始まった。ガソリンスタンドは、価格変更時には30分以内にドイツ連邦カルテル庁の燃料市場監視室(MTS-K)に価格を報告することが義務付けられている。MTS-Kは約1万5000のガソリンスタンドから価格を収集し、14社の価格情報会社を通して消費者に価格情報を提供している。
 ドライバーはこのシステムを通じて、ほぼリアルタイムで小売価格を知ることができる。このシステムはオーストラリアの一部州でも導入され、ドライバーは年平均93ドルを節約できたという報告もある。イギリスでは12の大手販売業者が自主的に、こうしたリアルタイム・プライスウォッチを運用して1年以上が経つ。
 翻ってわが国のガソリン価格情報は、極めてあいまいなまま長年放置されてきた。補助金の支給基準となっている石油情報センターの価格において、「現金」「フリー価格」という一般的に最も高く売られている価格が採用されている。この価格が実売価格ではないことは、一般的なドライバーでも知っているはずだ。
 しかも、複数の価格を表示するガソリンスタンドが多い。ドライバーは、いったいガソリンがいくらなのか、給油してみないと分からないケースも多い。
 イギリスではガソリンスタンドに関して、価格を明確に表示することを定めた価格表示法、誤解を招く価格表示を禁止する不公正取引・消費者保護法、そして今回のポンプウォッチに関するデジタル市場・競争・消費者保護法が定めされている。
 日本にも全国石油商業組合連合会の「価格表示の適正化ガイドライン」があるものの、現状ではほとんど機能していない。ガソリンスタンドが価格看板に「888」などの意味不明な表示をして、ドライバーが価格を視認できなくても何も罰せられない。
 ガソリンに関係する全ての業界団体や関係者は、減税による価格の引き下げに頼るだけでなく、まず価格の透明性を確保し、公正な競争を促進するべきだ。
 この1年間だけでも、長野県におけるカルテル(石油組合による組織的価格調整)、神奈川県、東京都における軽油カルテルが問題視された。これらは氷山の一角に過ぎない。「価格表示の適正化ガイドライン」を作成している組織の下部組織がカルテル行為を行っているのだから、聞いてあきれる。
 ガソリン業界は、商習慣を含めて抜本的に改革する必要がある。なぜ、ガソリン価格高騰に対して減税を主張する政党が、この問題に正面から取り組まないのか、不思議でならない。
 業界と政治の強いつながりが、結果的に正常な競争環境を歪めている。ガソリン減税を、ただただ訴える政党や議員には、国民の視点が欠けている>(以上「DIAMOND」より引用)




石破首相辞任で「ガソリン暫定税率廃止」を止めるな!価格高騰の本質は石油業界と政治の歪んだ関係」と題する小嶌正稔(桃山学院大学経営学部教授、東北大博士(経済学))氏のマトモな論評がやっと掲載された。
 しかし小嶌氏の論評には原油価格の下落がガソリン価格と連動されず、価格の高止まりがつついている、という石油元売り各社にとって不都合な真実には言及されていない。しかし石油業界と与党自公との癒着に踏み込んだだけでも小嶌氏の勇気は相当なものだ。

 なぜかというと、与党・政府を批判する研究者の研究費は必ず削減されるからだ。だからCO2地球温暖化詐欺についても「詐欺だ」と明確に主張する気候変動学者はオールドメディアには登場しない。オールドメディアに出るのは必ずゼロカーボン政策に賛同するO2こそが地球温暖化の元凶だとする似非・科学者ばかりだ。
 良心のある科学者たちは「それでも地球は動いている」と呟きたいが、そうすると飯の種を取り上げられてしまいかねない。だから、沈黙を貫いている。一部の勇気ある科学者だけがCO2地球温暖化などマヤカシでしかない、と真実を述べない。

 小嶌氏は価格が高止まりしている原因として第一にガソリンに課されている税額の多さとその二重課にあると指摘している。そして第二の原因として「ガソリン業界と政治の強いつながり」を上げているが、根本的な価格の高止まりの原因はその第二にあると思わざるを得ない。
 なぜならガソリンに課されている税の多さは1974年に導入された暫定税から固定されていて、消費税の二重課税は消費税の歴史と共にある。しかしガソリン価格の高騰と高止まりは下図の通りだ。


 
 原油価格の史上最高値は、2008年7月に記録された1バレルあたり147.27ドルを記録した。そのため2008年のレギュラーガソリンの全国平均小売価格の最高値は、185.1円(2008年8月)を記録した。その後、原油価格は大きく下落した。WTI原油価格は2014年6月の1バレル約108ドルから2015年末には約36ドルまで下落した。そのためガソリン価格も105円まで下落した。その後、バイデン政権になって米国がシェールオイルの新規掘削を禁止にし、米国が原油輸出国から輸入国に転じると徐々に原油価格は上昇し、特にロシアのウクライナ侵攻直後の3月には1バレルあたり130ドル近くまで高騰した。
 現在はトランプ氏の再登場により米国は原油の増産に転じ、ロシアも戦費調達のために原油を廉価で大量販売している。そのため原油価格は下落し60ドル台前半で推移している。しかしガソリン価格は依然として高止まりで170円台を推移し、政府はガソリン価格補助金を石油元売り各社に支出して価格引き下げを行っている。しかし依然として1lは170円を切っていない。

 装置産業の製品価格は原材料費に大きく依存する。ことにガソリンや軽油などの原価に占める精製企業の設備費や人件費の占める割合は微々たるものだ。ガソリンの精製・販売のマージンの合計は、税抜き本体価格から原油CIF価格を引いた30.8円/ℓとなる。 内訳は、精製マージンが18.1円/ℓ、販売マージンが12.7円/ℓだ。 前年度のマージンはそれぞれ15.3円/ℓ、10.6円/ℓなので、いずれも2円以上高い水準にある。
 いずれにしても、原油価格を差し引いた原油精製・販売マージンは30.8円/lでしかない。そして原油価格が56円/l程度だから、現在、1リットルあたり53.8円が課されている税を上乗せしても、ガソリンがそれほど高額になるとは考えられない。もちろん原油がすべてガソリンになるわけではないから、歩留まりを計算しなければならないが、そこら辺の精製構成は元売り各社で公表していない。ただ原油価格と強くリンクしている原油由来の製品価格が高止まりしている現状に対して、公取委が長野県の元売りや東京都の元売りといった地方販売価格のカルテルを疑ってお茶を濁しているだけだ。

 最後に小嶌氏の文章を引用してこのブログを終える。「ガソリン業界は、商習慣を含めて抜本的に改革する必要がある。なぜ、ガソリン価格高騰に対して減税を主張する政党が、この問題に正面から取り組まないのか、不思議でならない。
 業界と政治の強いつながりが、結果的に正常な競争環境を歪めている。ガソリン減税を、ただただ訴える政党や議員には、国民の視点が欠けている」。

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