米国連邦最高裁判所の「違法」判断を期待する。

下級審1、2審は違法と断定
 トランプ米政権は9月3日、米連邦控訴裁判所が「国際緊急経済権限法 (IEEPA、1977年制定)に基づくトランプ政権のすべての関税措置は大統領の職権を超え、違法である」とした1審判決(米国際貿易裁判所=CIT)の決定を支持したことを受けて、連邦最高裁判所に上告した。
 CITの決定は、2件の訴訟(1件は中小企業5社が代表して提訴、もう1件はオレゴンなど12州の連合が提訴)に対するもので、相互関税に対する差し止め命令につながった。 歴代大統領が関税の課徴をIEEPAに依拠した例はこれまでになく、トランプ氏が初めてだ。
 CITは、トランプ政権がIEEPAによって付与された権限を超えたと判断した理由として、以下の点を挙げていた。
①IEEPAは、「世界のほぼすべての国からの製品に無制限の関税を課す」ほど無制限の権限を大統領に付与するものではない。
②合成麻薬「フェンタニル」密売への対応などでカナダ、メキシコ、中国に課した関税の根拠となる「米国に対する脅威」は、IEEPAで定められた「脅威」には該当しない。
 これを不服とするドナルド・トランプ大統領は連邦控訴裁判所に上訴、控訴審は8月29日、判事(11人)が7対4でCITを支持する判断を示した。
 トランプ氏の「関税外交」(関税を課せられる側にすれば「関税恫喝外交」)については、すでに米国内でメリット・デメリット論が火花を散らしている。

トランプに立ちはだかる最後の「法の壁」
 何が何でも「関税戦略」を完遂させようとするトランプ大統領の前に立ちはだかっている障害は、「議会の壁」「世論の壁」などあるが、何と言っても「法の壁」だ。 それだけに、最高裁の判断はトランプ氏の「関税戦略」にとっては死活的重要性を持っている。
「トランプ氏が最高裁で敗訴すれば、関税措置をめぐる各国との合意を解消される可能性も出てきた。関税を脅しの武器にしてきたトランプ外交は根底から揺らぐ」(米主要シンクタンクの上級研究員)
 トランプ大統領は9月3日、最高裁への上告について記者団に対し、こう述べた。
「私が見てきた中で最も重要な最高裁の裁判の一つだと思う。この訴訟に勝てなければ、米国は極めて大きな苦難に直面する。しかし、我々は大きな勝利を収めるだろう」
 保守派判事が過半数を占める最高裁の判断に自信を示した発言(?)とも受け取れる。だが、「柔軟性のある保守派3人の判事がどのような判断をするか予想し難い」(米主要紙の最高裁担当記者)とみる向きもある。

進行中の協議を危険にさらすと警告
 トランプ氏は、最高裁に提出した文書でこう警告を発した。
「最高裁が関税に関する下級審の判決を支持した場合、我が国は大きな損害を被ることになる」
「本件の利害は極めて大きい。大統領と閣僚は、関税が平和と前例のない経済的繁栄を促進するものであり、関税権限を否定すれば効果的な防御策を講じないまま米国は貿易で報復にさらされ、経済的破滅の瀬戸際に再び突き落とされる」
「したがって、大統領と多くの補佐官がこの厳しい選択を迫られた。関税があれば豊かな国になるが、関税がなければ貧しい国になるのだ」
 またトランプ政権の立場を最高裁で弁論するD・ジョン・ザウアー訟務長官は、最高裁に提出した文書でこう記している。米国における訟務長官(Solicitor General)は、連邦最高裁で政府のために弁論を行う。
「連邦控訴裁判所の判決は、トランプ政権がいくつかの貿易相手国と交渉してきた枠組みや協定を危うくし、進行中の協議を危険にさらす。トランプ政権としては、本件の審理を迅速に進めるよう求めたい」
 最高裁は、判事が来週までにこの問題を審議するかどうかを決定するよう提案し、すべての弁論要旨は10月下旬までに提出される。
 口頭弁論は11月上旬に開始される予定だ。これは最高裁としては異例の速さだ。

カギ握る保守派3判事の判断
 そこで焦点になるのは最高裁の9人の判事の動向だ。最高裁の研究では屈指の法律ジャーナリスト、アダム・フェルドマン氏は、今の最高裁判事についてこう分析している。
「今の最高裁判所に常に柔軟な対応ができる判事は一人もいなくなった。かつてのアンソニー・ケネディ判事のような、『スイング判事』(常に柔軟な対応ができる判事)という概念は消滅した」
「ただし、全く柔軟性が失われたわけではない。訴訟案件のカテゴリーや状況によっては、柔軟な判断を下せる判事はいる」
「最近の判例分析では、ジョン・ロバーツ最高裁判事(ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領が指名)、ブレット・カバノー判事(トランプ大統領が指名)、エイミー・コニー・バレット判事(トランプ大統領が指名)は、保守派判事の中でも頻繁に、『スイング』票を投じている」
 フェルドマン氏は、その「柔軟性のある判事」の特徴を個別にこう見ている。
一、ロバーツ判事:しばしば制度主義者(Institutionalist)と見なされており、最高裁の正当性が問われる事件ではリベラル派判事に同調する傾向がある。
 これは特に、行政法、判例、そして政府機関間の潜在的な対立が絡む分野で顕著だ。
二、カバノー判事:刑事訴訟や手続き上の公正性に関する事件でしばしば柔軟性を発揮する。
 例えば、捜索と押収に関する憲法修正第4条の問題では、リベラル派の判事に同調した。
三、バレット判事:特に州の権力、自由、そして執行の境界に関する訴訟において、重要な「スイング」票を投じる人物となっている。
 同氏の柔軟性は、しばしば文言主義的なアプローチ(Textualist Approach)と結びついており、法令や規則の文言を精読することで、保守派の同僚判事とは異なる結論に至る場合がある。
 例えば、メディケア(高齢者・障害者対象の公的医療保険制度)の計算式や行政法の解釈に関する訴訟では、リベラル派の判事に同調した。
 フェルドマン氏は、さらにこう付け加えている。
柔軟性の定義と測定方法:現代の裁判所における柔軟性は、判事がイデオロギー的に「穏健派」であるかどうかで決まるのではない。
 むしろ、5対4や6対3といった僅差の判決で、保守派判事がリベラル派に同調するかどうかで測られる。これは、判事のイデオロギーだけが柔軟性を予測するのに使われていた過去とは異なる。
 今日、柔軟性は、法的文脈、司法哲学、そして制度的圧力の相互作用によって生み出されるものである。
 この「フェルドマン方式」をトランプ氏の「関税戦略」に当てはめて、最高裁判断を占うと、違法か、合法か。
 そして、「柔軟性のある保守派判事」のうち2人はトランプ氏に指名された判事であることも重要なポイントになりそうだ。 なんにせよ、古今東西、「恩義」というものがある>(以上「JB press」より引用)




1審と控訴審で「トランプ関税」に違法判決、最高裁も違法判断なら世界の景色は激変
保守派判事の数でトランプ有利に見えるも、トランプ発言には不安にじむ」と、トランプ関税の前に立ちはだかる米国連邦最高裁の壁について高濱 賛(ジャーナリスト。アメリカ合衆国在住)氏が論述している。
 云うまでもなく米国は三権分立の国だ。大統領が強烈な権限を持っているとしても、大統領だけで何事もすべて決められるわけではない。最も期待されるのは連邦議会だが、上下院ともトランプ氏の共和党が過半数を占めていて大統領令に対するチェック機能は殆ど働いていない。

 そうすると残るは大統領令の適法性を審査する連邦裁判所だけがトランプ氏の暴走を止められる機能を有する。実際に下級審1、2審は違法と断定した。残るは連邦最高裁判所の判断を待つばかりだ。
 高濱氏は「「柔軟性のある保守派判事」のうち2人はトランプ氏に指名された判事である」ことから「恩義」を感じてトランプ氏の「関税戦略」を合法と判断するのではないかと見ているようだ。しかし余り米国人を舐めてはいけない。彼らが法律の番人なら、番人としての矜持を持っているはずだ。

 何度もこのブログに書いてきたが、トランプ氏の高関税を課して国内産業を守る、と云うのは短期的にも長期的にも良い結果をもたらさない。かつて世界各国は関税政策により国内産業保護を実施した。それを重商主義というが、結果として国家間の軋轢を増し国内産業を衰退へ追いやってしまった。
 その理由は簡単だ。関税は輸入品の価格をそれだけ引き上げ、競合する国内品の価格を相対的に安く見せるが、それは生産性の向上により価格が引き下げられたわけではない。つまり国内産業を脆弱性をそのままに、生き永らえさせているだけだ。しかし国民は引き上げられた関税を上乗せされた輸入品を買わなければならず、国民負担が増すだけだ。

 そして対抗関税を貿易相手国も実施するなら、その国の輸出まで打撃を受けることになる。そうした国家間の恣意的な関税政策により国際協力関係が破壊され、対立と反目を招いた。先の大戦以後そうした反省に立ち、関税を出来るだけなくす方向で協議が重ねられ、ウルグアイラウンドを発展させる形でWTOが設立された。そのWTO設立に尽力したのは米国だった。
 トランプ氏は自由貿易体制の設立に尽力した先人の労苦を水泡に帰す動きをしている。現在の米国は世界にとって我儘を貫き通そうとする巨大な乳幼児のようだ。トランプ関税は決して良い結果を米国にもたらさない。記事によると「口頭弁論は11月上旬に開始される予定」で「これは最高裁としては異例の速さだ」そうだ。一日も早く国際貿易を混乱と反目に陥れているトランプ関税の嵐が終息することを心から望む。

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