男女共同参画事業に10兆円投じる新自由主義の罠。

<男女共同参画社会とは、性別に関係なく一人ひとりが尊重され、自分らしく活躍しながら生きられる社会のことです。内閣府の男女共同参画会議専門委員として第5次男女共同参画基本計画にも携わった筆者が、男女共同参画の意味や必要とされる背景、推進のポイント、私たちにできることを詳しくご紹介します。

1.男女共同参画社会とは
 男女共同参画社会とは、誰もが対等に扱われ、社会に参画できる社会のことです。具体的には、意思決定層に女性が増えたり、男性が子育てに参画しやすくなったりした環境が整備された状態を指します。
 これは、ダイバーシティー&インクルージョン(多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方)が実現した社会であり、SDGs(持続可能な開発目標)の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも通じています。
 なお、LGBTQ+など、性別にはグラデーションがありますが、この記事では「男女共同参画」という言葉の便宜上、男性や女性という表現を使用します。

2.日本における男女共同参画の現状
 “一人ひとりが対等に扱われる”という言葉だけ聞くと、すでに実現されているのでは? と思われる方が多いかもしれません。しかし、視点をグローバルに移してみると、今の日本の状況にはいまだ課題があることに気づかされます。
 世界経済フォーラムが2022年に発表したグローバルジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)ランキングにおいて、日本は156カ国中116位と、先進国の中では最下位でした。

順位国名ジェンダーギャップ指数(2022)
1 アイスランド 0.908
2 フィンランド 0.860
3 ノルウェー 0.845
5 スウェーデン 0.822
10 ドイツ 0.801
27 アメリカ 0.769
︙ ︙ ︙
116 日本 0.650

世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表|内閣府男女共同参画局をもとに作成。0が「完全不平等」、1が「完全平等」を示し、数値が小さいほどジェンダーギャップが大きい

 他国と比べ最も男女格差が開いたのは、政治や経済分野での女性の参画率、管理職比率です。これは、企業組織や政治家の構成メンバーが男性に偏っており、かつ、意思決定権を持つ役職には女性が不在である場面が多いということです。
 このような状況下では、組織の中で少数派となる女性の意見が採り入れられないことが多く発生します。例えば、震災の対応について話し合ったときに、女性用のトイレや着替えスペースの設置がされない、などです。
 これでは、“誰もが対等に、本人の意思によって望む活動ができ、共に利益を享受できる”男女共同参画社会とはいえません。
 雇用に関して男女平等を目指し1986年に施行された「男女雇用機会均等法」、そして“平等”の対象を社会活動全体へと広げるため1999年に施行された「男女共同参画社会基本法」から20年以上が経過しました。
「男女共同参画社会基本法」では、後述する「第5次男女共同参画基本計画」にも通ずる五つの理念(①男女の人権の尊重、②社会における制度または慣行についての配慮、③政策などの立案及び決定への共同参画、④家庭生活における活動と他の活動の両立、⑤国際的協調)が掲げられています。20年以上前に施行された法律ですが、今もなお、日本社会はこの理念を十分に実現できたとはいえず、多くの課題が残っています。いま一度、この理念に立ち返り、男女共同参画社会のあり方について考えていく必要があります。

3.男女共同参画社会はなぜ必要か
 男女共同参画が必要な理由を一言でいうとずばり、「日本の国を健全な形で継続していくため」です。三つのポイントに分けて説明していきます。
(1)将来にわたる経済発展のため
 少子高齢化が深刻化するなか、労働人口の減少も懸念されており、この状況に改善の兆しは見えません。女性だけではなく、育児介護などの制約がある人も働き続けられる社会にならなければ、日本社会の労働力が担保できなくなります。
 また、性別役割分担意識(男性は仕事をして、女性は家事育児を請け負うといった、性別に基づく固定的な意識)を減らすことが、女性の労働力率を高め、出生率を上げるとされています。女性役員比率が高い企業の方が経営指標が良い、といった調査結果もあります(参照:女性活躍推進の経営効果について、省略)。
 子育てや介護など、どんな状況でも働き続けられる環境や、それが認められる環境が、今後の日本を支える労働人口の減少を食い止めること、そして将来的な経済発展にもつながるのです。
 加えて、国際競争力を考えた際も多様性(ダイバーシティー)の重要度は高まっており、男性視点での考えやアイデアだけではなく、女性視点からの意見も含めたビジネス運営は今後ますます欠かせないものとなってきます。
 日本が、今後も国際社会の中で、高い競争力をもって継続していくためには、女性の活躍が不可欠なのです。
(2)男女共に自分らしく生きるため
 女性らしく、男性らしくという性別役割分担意識は、「こうしなきゃいけない」という固定観念となり、自分らしい生き方を阻害してしまうという側面も持っています。
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という意識は年々減っているものの、いまだ特に高年齢において賛成の割合が多く存在します。自分には性別役割分担意識が無くても、親や周囲から固定観念を押し付けられることで、生き方の制限を受けることも出てきます。出典:男女共同参画社会に関する世論調査・図13「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対する意識(省略)│
 また弊社(スリール株式会社)が出産を経験していない働く女性約350人を対象に調査したところ、92.7%が仕事と子育ての両立に不安を抱えていることがわかりました。それは、「良い妻にならなければいけない」「良い親にならなければいけない」「仕事を頑張らなければいけない」などの固定観念に縛られていることが原因でした。
 そして、その不安から、妊娠・出産を遅らせる人(46.6%)や、転職・退職を考える人(50.4%)も存在することがわかりました。つまり、性別役割分担意識や固定観念のために、自分の人生を二者択一で悩んでしまっているということが明らかになりました。
 同様に、ガールスカウト日本連盟の報告書によると、「女の子だから」という理由で、何らかの制限を受けたことがある人は、高校生の女性で47%、大学生の女性で66%もいたという調査結果があります(参照:ジェンダーに関する女子高校生調査報告書 2020 p.9、p.14│ガールスカウト日本連盟)。このように、女性は若いころから、固定観念により制限を受けていることもわかります。
 性別役割分担意識は、男性の生きづらさにも影響しています。「男らしくあれ」と育てられてつらい思いをしたり、男性が育児参画をすることを職場で理解されなかったりと、悩んでいる人も数多く存在します。この意識は、性別問わず仕事や家庭において、自らの希望や能力に沿った形で自分らしく生きることを難しくしてしまっているのです。
 男性は、“男として”仕事に邁進(まいしん)し、体や精神を壊すほどの長時間労働や負担を一手に請け負わなければならない。女性は、周りに頼れる環境の少ない核家族化の中、“女として”家事子育てを一手に請け負わなければならない。このような考え方になりがちな状況を改善するためにも、私たち一人ひとりが男女共同参画の意識を持つ必要があります。
(3)ひとり親家庭の貧困率改善のため
 性別役割分担意識が「ひとり親家庭の貧困」を増やしていることも、男女共同参画が必要とされる理由の一つです。
 厚生労働省が2016年に行った「全国ひとり親世帯等調査」の結果によれば、日本のひとり親世帯のうち86.8%が母子世帯であり、その母子家庭の平均年間就労収入は200万円と、父子家庭に比べて半分の額でした(参照:平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要│厚生労働省)。
 日本の母子家庭の就業率は2016年時点で81.8%であり、OECD加盟国の平均の――2005年時点ですが――70.6%(参照:Babies and Bosses p.16│OECD)より高いにもかかわらず、賃金の低い環境しか選択できない状況があるのではないか、という指摘もされています。
 これには、性別役割分担意識が大きく関わっています。
「子育ては女性が行うもの」という固定観念があるために、出産後に仕事を離れる女性は約50%存在します。またその後もこの固定観念から、離婚した際に女性が子どもを引き取るケースがほとんどなのです。
 出産を機に離職しているので、再度就職することが必要になります。その際、働いた経験が短いことや、育児で働ける時間が短いことから、パート・アルバイトなど非正規雇用での就労が多くなります。それが、ひとり親世帯の貧困につながっているのです。
 性別役割分担意識が次世代の未来にも影響していることを、重く受け止めなければいけません。このような悪循環を打開するためにも、男女共同参画を進め、性別役割分担意識を払拭(ふっしょく)したり、育児をしながら働き続けられる環境を作ったりすることが必要なのです。

4.男女共同参画基本計画が示す実現のポイント
 では、男女共同参画は、何をすることで実現されるのでしょうか。ここでは、2020年に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」で挙げられている項目の中から、五つのポイントを抜粋してご説明します。
(1)経済・政治の意思決定層に女性を増やしていく
 まずは、経済や政治の場面で意思決定者の性の偏りをなくすこと、具体的には意思決定層に女性を増やしていくことです。
「2020年代のできるだけ早い時期に、女性管理職比率30%程度を目指す」とする 「203030」は、意思決定層における男女比率の偏り改善を目指した目標です。しかし、国際労働機関(ILO)が2020年に発表した報告書によると、意思決定層に占める女性比率のG20の平均は29.9%とされる一方、日本はいまだ14.5%です(参照:Women in managerial and leadership positions in the G20 p.5│ILO)。
 一般的に、意思決定層に少数派とされる人たちが30%入ると、意思決定に大きな影響を及ぼすとされています(これを「クリティカル・マス」といいます)。実際に東京都知事に小池百合子さんが就任し、女性議員が約30%占めるようになってから、4年で保育園待機児童が90%減少するといった変化が起きました。これは、意思決定の中に偏りなく意見が採り入れられたことが大きいといわれています。
 このような変化を経済、そして政治の場にも起こしていくことが必要です。
(2)性別にとらわれないための教育を行う
 性別にとらわれないための教育を行っていくことも、男女共同参画の実現に欠かせません。具体的には、次の三つが重要になると筆者は考えます。
①リケジョ教育
 一つ目は女性の理系進学を増やすこと、いわゆるリケジョ教育です。
「第5次男女共同参画基本計画」でも、日本の研究職・技術職に占める女性の比率は他国と比べて低いことが指摘されています。出典:第5次男女共同参画基本計画(第4分野 科学技術・学術)│内閣府男女共同参画局(省略)
 一方で、OECDが2015年に行ったPISA調査(生徒の学習到達度調査)では、義務教育終了段階での女子生徒の科学的/数学的リテラシーの点数は、男子生徒よりは低いものの、ほかの国の女子生徒や男子生徒の点数よりは高いことが明らかにされています。
 そのため、理工系(理学・工学)への進学に男女差があるのは、「女性は理数系科目が苦手」ということではなく、家族や友人の考え、理数系に進むことを後押ししてくれるようなロールモデルがいないことが影響していると考えられています(参考:男女共同参画白書 令和元年版・本編 I 特集 第2節 進路選択に至る女子の状況と多様な進路選択を可能とするための取組│内閣府男女共同参画局)。
②マインドやスキル面におけるリーダーシップ教育
 二つ目は、マインドやスキル面におけるリーダーシップ教育です。
 人の上に立つことだけがリーダーシップではないなど、多様なリーダーシップの形や行動、ロールモデルを提示することで、これまでの「力強く周りを引っ張り、指導する」という男性のリーダー像にとらわれないマインドの醸成と豊かな選択肢を生み出すことができます。
③ジェンダー教育
 三つ目は、ジェンダー教育です。
 先ほど、性別役割意識が人生選択を左右しているとご説明しました。固定観念は、育ってきた環境だけではなく教育機関やメディアからの影響があります。
 固定観念の土台が形成される幼少期~青年期に、性別(ジェンダー)に対する思いこみを減らす働きかけや、多様なロールモデルの提示をすることが、ジェンダーイメージの偏りの回避につながると明らかにされています。
 内閣府男女共同参画局・男女共同参画会議で決定した文部科学省の「次世代のライフプランニング教育推進」事業は、学生のときからアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)を払拭するための授業や、教員向けの研修プログラムの開発を推進しています。
 例えば、広島県の教育委員会が実施している高校生向けのプログラムは、多様な生き方をしている社会人の動画を授業内で見せることで、多様なロールモデルの存在を意識させています。また神奈川大学と弊社で実施したワーク&ライフ・インターンの授業は、大学生が共働きの家庭の生活を知り、多様なロールモデルに接しながらキャリアプランニングを行うプログラムであり、性別役割分担意識を払拭した上で、長期的なキャリアビジョンを描くものです。
 このように、さまざまな機関が教育の段階から性別役割分担意識を軽減し、個人の可能性を開く取り組みを推進しています。また、スウェーデンなど海外では、教育機関でのジェンダー・ステレオタイプの禁止がすでに法律で定められている国もあります。
(3)DV・性暴力についての理解・認知を上げる
 内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査報告書(令和2年度)」によると、これまで結婚したことのある女性のうち、配偶者などから、身体的暴行や心理的攻撃、性的強要といった暴力を受けたことが「何度もあった」人がおよそ10人に1人いるとされています。出典:男女間における暴力に関する調査・2 配偶者からの暴力の被害経験・図 2-1-2 配偶者からの被害経験の有無(性別)│内閣府男女共同参画局(省略)
 また、コロナ禍において性犯罪・性暴力被害者のための支援センターの相談件数(2020年4~9月)は前年同期に比べ約1.2倍に増えています(参照:第5次男女共同参画基本計画(説明資料)p.12│内閣府男女共同参画局)。
 暴力を容認しない社会環境の整備や意識醸成はもちろん必要ですが、これら厳しい現実を周知するほか、被害者のためのシェルターや相談窓口の設置も求められます。
(4)そもそも女性視点が抜けていることでの生活のしづらさを解消する
 クリティカル・マスの説明で挙げた東京都は、女性議員が約30%を占めるようになってから、避難所に生理用品が備蓄される地域が増えるようになりました。また、地域防災計画での常備備蓄の内容について、市区町村の防災会議における女性委員の割合が高い方が、女性委員不在のところに比べ、各種生活用品を常備備蓄とする比率が高くなることもわかっています。
 このように両性の視点が入ることで、もしもの時もどちらかの性が生きづらい状況を少しでも回避できるのです。
 身体的な理由で女性が対応せざるをえない場面でも、いまだ生活のしづらさは解消されているとは言いきれないため、迅速な改善が求められます。
 例えば、不妊治療では女性が通院する場面が多くなりますが、仕事と両立できるように職場環境を整理する、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性が処方箋(せん)なしで緊急避妊薬を買えるようにする、といったことです。
 長い期間、議論検討され続けている選択的夫婦別姓(旧姓利用)についても、さまざまな理由(キャリアの継続性のために姓が変えられない、一人っ子同士だとお墓の関係で姓を変えられない、事業承継のために姓を変えられないなど)で結婚に踏み切れない状況も起きています。
 結婚してから子どもを持つことを考える人も多いなかで、これらの問題を放置しておくことは、将来的に少子化にもつながります。世界的に見ても夫婦同姓を強制しているのは日本のみであることから、国連は日本の制度を「差別的」とし、たびたび改正を勧告しています。「第5次男女共同参画基本計画」では、『国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進める』としています。
(5)国際社会の中での日本の立ち位置を向上させる
 SDGsでも「ジェンダー平等の実現と女性・女児の能力強化は、すべての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするものである」(引用:持続可能な開発のための2030アジェンダ p.5│外務省)とされている通り、男女共同参画は日本だけでなく国際的に取り組むべき大きな課題です。
 国際社会の中でのアクションとして、「第5次男女共同参画基本計画」では、日本が国際会議の議長国となる場合、全ての大臣会合の際に必ずジェンダーの問題を掲げることや、政府の途上国援助(ODA)において女性のエンパワーメントやジェンダーの視点から取り組むことなど、対外的にも協調、貢献していける場面が挙げられています。
5.男女共同参画推進のためにできること
 上記では、「第5次男女共同参画基本計画」からいくつか内容を抜粋してご説明しました。これらの意識を高めたりアクションしたりすることで、結果として、冒頭に挙げたグローバルジェンダーギャップ指数の向上を目指せるのではないかと、筆者は考えています。
 最後に、私たちが日々の生活の中で、具体的にどんなことができるのかを説明します。
(1)個人の場合
①自分のバイアスを外し、意思決定のテーブルに着く
 知らずしらずのうちに、「男性だから◯◯すべきだ」「女性だから◯◯であるべきだ」と考えてはいませんか? バイアスは誰にでも無意識にあるものですが、何かを選択するときに「自分がバイアスにとらわれていないか?」と第三者の視点を持ってみてください。
 そして、もし組織の中でこれまで経験のなかった意思決定のテーブルに着く機会があったら恐れずに着いてみましょう。あなたが加わることで新しい視点が入り、何かポジティブな変化が起こせるかもしれません。
②違和感を覚えたら発信する・対話する
 DVや就活セクハラだけでなく、講演会やメディアで違和感のある言葉やフレーズを聞いたら発信していきましょう。違和感を違和感のまま終わらせないことも、変化を起こすためには必要です。
 また、国の方針に興味を持ったり、パブリックコメントを出したりすることもできることのひとつです。経済産業省では、20~30代の産学官の若手による提言を「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」という報告書で取りまとめています。このように、年代に関わらず社会参画の一員として社会と対話をしていきましょう。
(2)企業の場合
①誰もが活躍できる、公平な環境・評価を作る
 男性・女性に関わらず、また、子育てや介護といった状況に限らず誰もが活躍できるダイバーシティーが実践された環境は、新しいアイデアを生み、やる気のある優秀な人をひきつけます。
 昨今、子育て中の社員や女性社員が働きやすい環境がフォーカスされていますが、それらの対応は当事者のためだけではありません。「どんな状況でも働きやすく評価される公平な働き方が実現できている環境では、男性の昇進意欲も高い」といった調査結果もあります(参照:昇進意欲の男女比較・川口章 p.51│労働政策研究・研修機構)。
 自社が「長時間働ける男性だけでなく“誰もが”活躍できる、公平な環境作りになっているか?」と考えてみてください。
②トップ自らが学び、社内に発信する
 国際的な企業統治基準を追うように、日本でもコーポレートガバナンス・コードの改定や、非財務情報の開示ルール検討など、人を大切にしている企業かどうかが注目されるようになってきました。こうした状況もふまえながら、企業のトップが自ら社会の潮流を学び、男女共同参画の理念を理解し、社内に発信することは組織内の意識の浸透にもつながります。
 また、少子化が進む日本においては、より多くの人を雇用や消費の対象と考えて経営することが自社の発展にもつながるはずです。
「ダイバーシティーは人事部が進めてくれるから自分には関係ない」と思わず、トップが一番の推進力となり、組織の中での男女共同参画を進めることが重要です。
6.男女共同参画社会について学ぶ具体的な方法
 ここまで男女共同参画が必要とされる背景、実現のポイントについてご説明してきましたが、より深く学びたい方は最新の状況、調査結果などを下記サイトなどから得るのがおすすめです。
・文部科学省HP「男女共同参画社会の推進のために」のページ。女性のライフプランニング支援に関する情報や男女共同参画の推進に関する調査研究等の報告書などがまとめられている。自分の学びのためのほか、男女共同参画センターのプログラム作成などにも利用できる。
・公益財団法人「日本女性学習財団」のHP。男女共同参画に関するキーワードが解説されているほか、講座やイベント情報を得られたり、財団が発行している月刊誌「We Learn」のバックナンバーなどが読めたり(有料)する。
・独立行政法人「国立女性教育会館」HP。男女共同参画に関する研修やイベントなどの情報を得られる。e-ラーニングを行っていることもある。
・ご自身が住んでいる地域の男女共同参画センターHP。イベントを通じて近い場所で同じ問題意識を持った人たちとつながり、情報交換や交流ができる。
 また、弊社Sourire (スリール)のHPでも男女共同参画社会のポイントをまとめた資料を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
7.誰もが自分らしく生きられる社会に向けて
 男女共同参画社会の実現に向けては、以前からさまざまな法律や制度による試みがありましたが、いまだ根深い課題として家庭・組織・社会の中に存在しています。
 ビジネスの場においては、昨今コーポレートガバナンス・コードが改訂されたり、経団連が「30% Club Japan」との覚書を締結したりするなどで、身近な課題として感じられる方も増えてきたのではないかと思います。
 日本の国を健全な形で継続していくために、男女共同参画について私たち一人ひとりの意識変革、行動が求められます。
 毎年6月23日~29日は男女共同参画週間です。みなさんには、ぜひ「性別によって人生の可能性が決定されるのではなく、それぞれが一人の人間として活躍できる社会とはどんな社会なのか?」と考えて、発信していただきたいと思います>(以上「朝日新聞」より引用)




 ペーパー・バックながら「男女共同参画社会とは?必要とされる背景と、推進のポイントを解説」と題する記事を取り上げる。執筆したのはスリール代表取締役社長の堀江敦子氏だ。スリール株式会社は2010年に設立され、事業として法人向けの女性活躍・ダイバーシティー推進・研修・コンサルティング、行政・大学向けのキャリア教育を展開している。また堀江氏は内閣府の男女共同参画会議専門委員、厚生労働省のイクメンプロジェクト委員など行政委員を多数経験されているという。
 東京にはこの類の法人企業やNPOがゴマンとあって、様々な政府機関に参画して政策提言している。引用した記事を一読されればお分かりいただけるが、内容は大いに矛盾している。その最大の矛盾は女性が社会に参画することと、少子化対策を同列に論じていることだ。さらに女性の「機会均等」を求めているのではなく、「結果平等」を求めている点でも全く賛同できない。そのような堀江氏がダイバーシティー(英語のDiversity(多様性)という言葉のカタカナ表記で、組織や社会において性別、年齢、国籍、人種、宗教、障がいの有無、性的指向、価値観、ライフスタイルなどが異なる人々が共存し、その多様な能力が活かされている状態を指します。ビジネスにおいては、このような多様な人材を受け入れ、能力を最大限に発揮できる環境を整備する「ダイバーシティ経営」が、イノベーションや企業価値の向上を目指す戦略として重要視する経営手法)講座を企業経営者を対象にして開設しているという。なんとも恐ろしい経営思想が蔓延しているものだ。

 かつて小泉-竹中「構造改革」で派遣業法を野放図に緩和して、労働者を正規と非正規に分断して「同一労働同一賃金」という大原則を破壊し、労働者格差を労働現場にも持ち込んだ。そうした新自由主義の一環として「多様化」という呪文を梃子にして、ヒトを労働力として「工数計算」のコマと捉える経営手法が持て囃され、「終身雇用制」を時代遅れとして排斥した。その結果として労働者は不安定な雇用関係に追いやられ、確実な未来の見通せない環境に自ら身を置くしかなくなった。それと同時並行して労働賃金は35年間も実質的に漸減し、貧困層が拡大して少子化が促進された。
 そして労働者の貧困化を糊塗するかのように「共働き」を推奨する「女性の社会進出こそが「新しい女性」の生き方だ」と礼賛する女性産官共同社会事業が予算化され、そうした女性参画事業を補強する民間各種団体が政府の各省庁に群がった。結果として、各省庁の予算に散りばめられた「女性参画共同事業」予算は総額で10兆円を超えるに到っている。

 もちろんグローバリストたちは労働者をヒトとはみなしていない。すべては労働工数でしかなく、生産に何工数投入して、どれほど付加価値が付いたか、が彼らの最大の関心事であって、女性か男性かは全く問題外だ。もちろん日本人か外国人かも彼らの関心事ではない。そうした労働工数至上主義の経営者たちにとって「ダイバシティー経営」は好都合の経営思想だ。あらゆることにお構いなく労働者を採用して生産ラインに着ければ良いからだ。それこそあらゆるジェンダーを乗り越えて、だ。
 日本の女性の社会進出は遅れている、と堀江氏は強調するが、果たしてそうだろうか。確かに厚労省の国際比較をみれば日本の女性の労働従事者割合は低い。しかし社会進出だけが女性の地位のバロメーターだろうか。国会議員の男女割合を均等化させることが女性の地位向上だろうか。そうしたことのために年間10兆円以上も予算を支出することに妥当性があるだろうか。

 堀江氏は「毎年6月23日~29日は男女共同参画週間です。みなさんには、ぜひ「性別によって人生の可能性が決定されるのではなく、それぞれが一人の人間として活躍できる社会とはどんな社会なのか?」と考えて、発信していただきたいと思います」と引用記事を結んでいるが、性別によってある程度人生が決定されているのは避けられない。それは女性しか子供を産めない、という生物学的な事実だ。そうした区別がヒトにあることを自覚して、それぞれの性が異なる制を尊重し協力する事こそが社会のあり方ではないだろうか。
 断っておくが「性同一障害」は病理の一種であって、ジェンダーフリーとは似ても似つかないものだ。「性同一障害者」の治療は必要だが、性区別(それを「差別」と呼ぶ人たちもいるが)をすべて否定するのは間違っている。男が男らしく女が女らしくあって、何か問題でもあるだろうか。家庭で男と女の役割分担に違いがあって、何か問題があるだろうか。

 もちろん機会は均等でなければならないが、結果の均等まで求めるのは逆差別ではないだろうか。男女に性差があるのは生物的に避けられないことだ。それまでも否定するのは思想至上主義でしかなく、現実が遠く遥か彼方に追いやられる視野狭窄症でしかない。
 爾来、日本に男女差別は殆どなかった。江戸時代、子女も寺子屋で男子と一緒に学び、識字率に男女の格差は殆どなかった。津田塾大学を創設した津田梅子は日本で最初の女子留学生の一人として、1871年(明治4年)数え8歳で岩倉使節団に同行して渡米した。津田梅子の父津田仙は農学者として西洋の文化と技術を学ぶ必要性を感じていた。また女性の教育の必要性を説いていた北海道開拓使次官の黒田清隆の推薦もあって、津田梅子は初の女子留学生に選ばれた。女性参政権は戦後の普通選挙の実施により実現したが、それでも先進諸国の中では決して遅い方ではない。

 女性を労働力とみなして、家庭から職場へと狩り出すことと軌を一にして少子化は進んだ。女性差別はもちろん排斥すべきだが、男女平等を無理強いすることは避けるべきだ。女性にも個人差があって、社会活動に積極的な女性もいれば、家庭で子育てと家事に専念したい女性もいる。社会活動に参画しない女性を「遅れている」と差別することは厳に慎むべきだ。
 さらに今後AGI技術の進化によりリモートワークが広範に進むと思われる。そうすると「何らかの活動に参画する事=家庭から出る事」という図式で女性の社会進出を図ることは益々出来なくなる。それにしても、様々な理由を付した「女性参画事業」の何と多いことだろうか。それほどまでしなければならないほど、日本の女性は差別され貶められているだろうか。防衛予算を超える年間10兆円もの予算を割かなければならないほど、喫緊の課題であり続けるだろうか。予算を支出すれば事業効果を検証すべきだが、女性参画事業がどれほどの効果を上げているのか、少子化対策の側面からも検証すべきではないか。たとえば専業主婦家庭の出生率と、社会参観している女性の出生率の比較など、具体的な検証項目を掲げて検証すべきではないだろうか。そして実効性が疑わしい場合、もっと効果的な少子化対策に切り替えた方が良いのではないだろうか。日本には日本の女性観があって、それはキリスト教社会ともイスムラ教社会とも全く異なるものだ。国連機関の助言など仰ぐ必要もないし、日本政府が国連の女性関係機関に支援する必要もないだろう。

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