地域住民との共生がオーバーツーリズムを防ぐ。(俱知安町の例に学ぶ)
<北海道の倶知安町で、外国人労働者らが住む住宅街の開発が計画されています。予定地は農地のため宅地に転用する必要がありますが、町の農業委員会が転用に反対する異例の事態となっています。
外国人観光客で賑わう倶知安町。冬はスキーリゾートの働き手として、夏は宿泊施設の建設作業員などとして1年を通し多くの外国人労働者も訪れます。 本間壮惟記者) 「周りは住宅に囲まれ、近くには小学校もあります。そしてそのすぐ近くのこちらの農地が共同住宅の建設予定地だということです」
俱知安町では有島氏の精神が今なお息づき、住民自治の理念を実現するための努力が続けられている。2001年には自治体の憲法ともいえる「ニセコ町まちづくり基本条例」を全国に先駆けて施行し、予算ヒアリングの公開やこどもまちづくり委員会への子どもの参加など、町民がまちづくりの主役(主体)として行動するための権利を保障した。また、同条例に基づき、自然環境や生活環境、農村景観など貴重な地域資源を将来にわたって維持していくため、環境基本条例や景観条例などのさまざまなルールを定めている。しかし、そうした俱知安町の伝統を大きく変えたのが観光客、とりわけ外国人スキー客の爆増だ。
観光地がツーリズムの流行で終わっては町の発展のためには何も残らない。一過性の流行で終わりかねない外国人観光客に町民が呑み込まれ、自然が破壊されてはならない。そのために外国人観光客の経済効果に目を奪われるのではなく、常に町民との共生を心掛けなければならない。
外国人観光客で賑わう倶知安町。冬はスキーリゾートの働き手として、夏は宿泊施設の建設作業員などとして1年を通し多くの外国人労働者も訪れます。 本間壮惟記者) 「周りは住宅に囲まれ、近くには小学校もあります。そしてそのすぐ近くのこちらの農地が共同住宅の建設予定地だということです」
町の市街地にあるおよそ2.7ヘクタールの農地。この場所に外国人労働者らが住む住宅街を開発する計画が持ち上がっています。想定される居住者数は最大1200人。町の人口の1割近くにあたります。開発を担うのは町内に本社を置く外資系の不動産会社です。 ニセードサービシーズ シニアプロジェクトマネージャー 近藤邦裕さん)
「圧倒的に足りていないのが、冬のリゾートエリアで働く人の住むところ。2000~3000人規模の方たちを住まわせるための従業員寮とか。住宅っていうのが不足していて賃貸価格もすごい高騰している状況」 この計画について町民からは賛否の声が。 住民)
「近くに小学校もありますし小さい子も多いのでそのへんはどうなるか心配なのと。大規模な建物ができて、たくさんいらっしゃるっていうので、ちょっと心配な部分があります。トラブルとかがないかが」 住民)
「どんどん町が大きくなっていくし、ビジネスも大きくなってくし、ホテルも建っていくし、どんどん、どんどん変わってる町だから、変わっていかざるを得ないですよね。良くしていこうと思って作ってるのであれば、それはしょうがないのかなと僕は思います」 町によりますと、この予定地は転用が原則認められている「第3種農地」で、農地転用のための複数の基準も満たしているといいます。
事業者はこれまで住民向けの説明会を2度開いてきました。 しかし、納得しない住民らは先月31日、建設に反対する262人分の署名を町長と町の農業委員会に提出しました。 意見書)
「どうか町の持続可能性と住民の幸福という本質に立ち返り、拙速な開発ではなく慎重で合意形成を重視した判断をしていただきたく強くお願い申し上げます」
住民らは反対の理由として、開発行為による生活インフラの崩壊や、外国人労働者が集中することによる治安の悪化などをあげています。 署名をうけ町の農業委員会は、農地転用に反対する意見書を道に送ることを全会一致で総会で議決。農地転用への反対は極めて異例の判断となります。
一方で町のリゾート産業に外国人労働者は欠かせません。農業委員会の今回の判断に事業者は。 ニセードサービシーズ シニアプロジェクトマネージャー 近藤邦裕さん)
「全会一致で否決されたという驚きのニュースを聞いて何も言えない。一か所に集めてきちんと決まったルールの中で住んでもらった方が、ごみの処理なども管理会社が行うことでいままで町中で起こっていた問題も、少しは解消できるはず」
開発は進むのか。道は農業委員会の意見書を踏まえ、農地転用を許可するか10月上旬にも判断する方針です>(以上「HTB北海道ニュース」より引用)
「「全会一致で議決」倶知安町、外国人労働者らの住宅街開発計画 農地転用巡り農業委員会が異例の“反対”」という記事に安堵した。外国人による浸食が最も激しいのが北海道で、その中でもニセコスキー場による開発が進んでいる俱知安町の現状が深刻だ。
云うまでもなく俱知安町は白樺派作家として「カインの末裔」や「或る女」など数々の作品で知られる有島武郎が1922年に「土地共有による無償解放」を宣言し、「小作人に土地を無償提供」したことでも知られている。有島氏の遺訓には、「空気や水、土地のようなものは人類全体で共有して個人の利益のために私有されるべきでない。小作人が土地を共有して責任を持ち、『相互扶助』の精神で営農するよう」とある。
俱知安町では有島氏の精神が今なお息づき、住民自治の理念を実現するための努力が続けられている。2001年には自治体の憲法ともいえる「ニセコ町まちづくり基本条例」を全国に先駆けて施行し、予算ヒアリングの公開やこどもまちづくり委員会への子どもの参加など、町民がまちづくりの主役(主体)として行動するための権利を保障した。また、同条例に基づき、自然環境や生活環境、農村景観など貴重な地域資源を将来にわたって維持していくため、環境基本条例や景観条例などのさまざまなルールを定めている。しかし、そうした俱知安町の伝統を大きく変えたのが観光客、とりわけ外国人スキー客の爆増だ。
俱知安町では「俱知安町観光地マスタープラン」を策定して、町民と観光客といかにして「共生」するかを図式化している。それを町の指針として観光開発にも臨んでいる。だから俱知安町に巨大な「外国人専用団地」の造成事業に対して、農業委員会が全会一致で反対したのではないだろうか。
それは他の外国人観光客の急増によるオーバーツーリズムに悩まされている地方自治体にも云えることではないだろうか。そして地方自治体が受け入れ可能なキャパシティーも予め想定しておく必要がある。そして想定したキャパシティーにより開発・施設整備しなければならない。単に民泊を増やして外国人を大量に受け入れれば良い、というものでは地域住民と外国人観光客との間に軋轢が生じ、共生社会の構築など出来はしない。
宿泊施設と観光施設が観光客受け入れ人数を決める。それ以上の受け入れは出来なく、宿泊施設の受け入れ人数による制限がある程度オーバーツーリズムを防ぐのではないだろうか。政府による乱暴な民泊認可がどれほど過酷なオーバーツーリズムを地域社会に押し付けているか。それにより地域住民との共生どころか、反目まで生じている。
何でも儲かれば良い、というものではない。持続性こそが最重要課題だ。いまある日本ブームが永続性を持つためには、政府の闇雲に外国人観光客を増やせば良い、という姿勢には反対せざるを得ない。日本の外国人観光客の受け入れキャパに関して、冷静に何人程度まで可能かを算定する必要がありはしないだろうか。

