トランプ氏の失政により国際貿易からもウクライナ停戦協議からも孤立する米国。

迫るトランプ・プーチン会談
 8月8日、ドナルド・トランプ大統領は自身のSNSにおいて、ウラジーミル・プーチン大統領との会談が8月15日アラスカ州で開催されると発表した。これは、スティーブ・ウィトコフ米特使が6日、モスクワを訪問して行った、プーチンとの3時間ほどの会談(下の写真)の成果と言える。
 7月、トランプは、ウクライナでの戦闘を50日以内に終結させるようロシアに要求すると発表し、その期限をすぐに10日に短縮した。そうしなければ、経済制裁を科すとするトランプの脅しは、この訪ロの結果、急転直下、まったく反故になったかにみえる。
 さまざまな情報から判断すると、ウィトコフのモスクワ訪問まで、米ロ間で草案が交換されていた。会談のなかで、プーチンは、クリミアと、ルハンスク州とドネツク州を含むウクライナのドンバス地域全体(ロシアが現在支配していない地域を含む)の支配を求め、その見返りとして、ロシア軍が一部地域を支配しているヘルソン州やザポリージャ州の周辺を含む、他の地域での現在の戦線を凍結する停戦に同意するという提案をした。ほかにも、プーチンは空と海における限定的な停戦を申し出たというThe Economistの独自情報もある。
 おそらくトランプは、「プーチン提案」に満足し、直接の首脳会談開催を受け入れたのだろう。とくに、興味深いのは、8日の記者会見(下のビデオの5分後あたり)で、トランプが「我々はいくつかのものを交換(スワップ)するつもりだ。双方にとって有益な領土の交換が行われるだろう」と語った点だ。具体的には、ドネツク州の一部をロシアが占領しているスームィ近郊の地域やハリキウ州の一部などとスワップするといったことが想定できる。
 同じ記者会見で、トランプはさらに、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が「何かを署名する準備をしなければならない」とも話し、米ロ会談後に、ウクライナを交えた合意が成立する可能性を示唆した。ただし、トランプ、プーチン、ゼレンスキーの3者会談ではなく、とりあえず、トランプとプーチンとの直接会談が行われる。土壇場で、ゼレンスキー大統領も招待するという説もあるが。

ウクライナと欧州の反応
 8月9日、ロンドン郊外において、米国側からJ.D.ヴァンス副大統領、ウクライナ側からアンドリー・イェルマーク大統領府長官とルステム・ウメロフ国家安全保障・防衛会議事務局長、英国側からデイヴィッド・ラミー外務大臣が出席する会議が開催された(下の写真)。他に、フランス、ドイツ、イタリア、フィンランド、ポーランドの国家安全保障担当者や、米国務長官のマルコ・ルビオ、米大統領の特使キース・ケロッグとウィトコフは、ビデオリンクで参加したようだ。
「ウォールストリート・ジャーナル」(WSJ)の報道によると、欧州諸国とウクライナは、プーチンの停戦計画に対して対案を提示した。彼らは、紛争当事者が他の措置を講じる前に停戦を呼びかけるよう提案した。さらに、領土交換は相互主義に基づいて行われるべきだとした。つまり、領土の交換は 「ウクライナが一部の地域から軍を撤退させれば、ロシアは他の地域から軍を撤退させる 」という原則で行うべきだと提案しているという。
 留意すべきことは、領土交換自体を拒否したわけではない点だ。ゼレンスキーは、9日、この会議前に投稿したビデオのなかで、「ウクライナの領土問題に対する答えは、すでにウクライナ憲法にある。誰もこれを逸脱することはできないし、することもできない。ウクライナ人は自分たちの土地を占領者に渡すことはない」、と最初にのべていた。
 しかし、会議後の夕方に公表されたビデオでは、その論調は異なっている。まず、領土交換を無下に拒否するのを止めている。「プーチンは戦争と殺戮(さつりく)の休止を、私たちの土地の占領の合法化と交換しようとしている。彼は二度目の領土獲得を望んでいる」、と控え目な発言にとどめている。「このウクライナの分割をロシアが再び試みることは許さない」と発言しているが、領土交換を拒否するとはのべていない。
 この変化は、トランプが先の記者会見で、交換に前向きな発言をしたことから、そっけなく拒否すると、トランプを激怒させることを恐れた配慮のようにみえる。

「現実」問題
 ウクライナ憲法第73条は、「ウクライナ領土の変更問題は国民投票のみで議決できる」と定めている。ゆえに、たしかに領土交換はそう簡単にできるわけではない。逆に、戦争を停止するのは、ウクライナ軍最高司令官としての大統領たるゼレンスキー(昨年5月20日に大統領の任期が切れているとはいえども)が命令すればすぐに実現できる。したがって、一時停戦後の和平協定締結をめざす過程で、領土交換を実現することは可能だ。
 ここで紹介したいのは、過去のゼレンスキーの発言である。2月10日午後、ゼレンスキーはキーウ中心部にある厳重に要塞化された行政庁舎内の豪華な装飾が施された部屋で行われた、ガーディアン記者とのインタビューで、「我々は領土を交換する」(We will swap one territory for another)と語った。ウクライナがロシア占領地のどの部分を見返りに要求するかはわからないとつけ加えたという。「わからない。しかし、すべての領土は重要であり、優先順位はない」と語ったのである。
 こう考えると、領土交換の実現可能性を否定することはできない。ただし、ルハンスクとドネツクの割譲は、(1)ウクライナ復興にとって重要な、資源豊富な地域を手放すことを意味する、(2)ウクライナはドネツク北部のスラヴャンスク市とコスティアンティニフカ市の間に伸びる、これまでロシアの攻撃に耐えてきた主要防衛線を放棄しなければならない、(3)ドンバス地方のウクライナ支配地域に住む約20万人の市民を避難させる必要が生じる――などの課題を提起する(「ニューヨークタイムズ」[NYT]を参照)。
 ウクライナが2023年の反転攻撃作戦に失敗し、実質的な領土を奪還できないことが浮き彫りになって以来、土地の譲与に対する支持が高まっていることも見過ごせない。世論調査によれば、国民の約38%が土地の譲歩を容認しており、約2年前のわずか10%から上昇している、と先のNYTは伝えている。

ゼレンスキーの裏事情
 プーチンに一時停戦・和平のための高い条件を故意に投げかけて、プーチンが受け入れないように仕組むことで戦争継続をはかってきたゼレンスキーが最終的に、15日の米ロ首脳会談における合意に従うかどうかはわからない。ただ、ゼレンスキーが受け入れざるをえない状況に追い込まれつつあるのはたしかだ。
 この経緯を理解するには、ウクライナの国内情勢を知らなければならない。第一に、7月22日に独立性の高い二つの反腐敗機関を検事総長に従属させて、事実上、骨抜きにする法案を無理やり成立させた。それによって欧州諸国が猛反発し、すぐに元に戻す立法化をせざるをえなくなった。
 この騒ぎで、ゼレンスキーへの信頼は大きく傷ついた(拙稿「ウクライナ各地でついに始まった「反ゼレンスキー」大規模デモ」や「オールドメディアに代わってゼレンスキーの「化けの皮」を明かそう」を参照)。ゼレンスキーが一時停戦に反対するような行動をとれば、再び大規模な反ゼレンスキーデモが起きる可能性が十分にある。
 たとえば、つぎのThe Economistの記述は、重大な意味合いをもっている。
「ウクライナの内政に暗雲が立ち込めている。ゼレンスキーは7月下旬、側近のメンバーを調査していた反汚職組織の独立性を抑制しようとしたが、これは不見識だった。大規模な抗議デモのなか、遅ればせながら方針を転換したことで、彼の立場は救われた。しかし、このスキャンダルは、抗議に駆けつけた何万人もの人々や、戦争中の同盟国を公に批判するという異例の措置をとった西側諸国との間に禍根(かこん)を残した。」

「バス化」への反発の急増
 第二に、戒厳令下であっても、国民が毅然としてゼレンスキーに反対する大規模なデモを行った経験から、ゼレンスキー政権によって行われている「バス化」(路上での強制的な兵役連行)のような非人道的行為への反発・風当たりが高まっている。具体的に言えば、無理やり動員しようというやり方への抗議や暴力沙汰が、最近になって急増しているのである。
 西側の報道をみても、7月26日に、ゼレンスキーが「民主主義の台座から転げ落ちた」と批判した「フィナンシャル・タイムズ」(FT)は、「ソーシャルメディアには、ウクライナの男性が街中で捕まえられ、トラックに乱暴に押し込まれる動画が拡散されており、怒った地元住民が徴兵事務所の職員を襲撃する場面も報告されている」といった記事を掲載するに至る。
 具体的には、7月30日にウクライナ南部のムィコラーイウ州で起きた死亡事件が紹介されている。地区警察官と3人の地域採用センター(TCC)職員からなる合同部隊が、市内の工業地帯で男性の身分証明書を確認するため、停止させたが、男性はすぐに逃走し、自動車道路を横切り、橋から飛び降りて死亡した。悪名高き「バス化」を知っていれば、逃げたくもなるだろう。
 さらに、8月1日に、ウクライナ中部のヴィーンヌィツャ州の州都ヴィーンヌィツャ(下の地図)で、TCCの職員と地元住民との間で紛争が発生した事件もFTは紹介している。深夜、約80人がスタジアムの近くに集まり、ここに連れてこられた男たちの解放を要求した。
 さらに、8月1日に、ウクライナ中部のヴィーンヌィツャ州の州都ヴィーンヌィツャで、TCCの職員と地元住民との間で紛争が発生した事件(下の写真)もFTは紹介している。深夜、約80人がスタジアムの近くに集まり、ここに連れてこられた男たちの解放を要求した。
 8月3日には、先に紹介したムィコラーイウ州で、バットやパイプで武装した正体不明の人物が、TCCの職員を襲撃した(ウクライナの情報を参照)。8月7日、ヴォルィーニ州(下の地図)で、徴兵対象者への通知中に、同州のTCCの軍人たちが、国家警察の職員とともに未確認のグループによる攻撃を受けた(ウクライナの情報を参照)。
 このように、もはやウクライナでは、強制動員によって兵士を集めようとしても、国民から暴力を受けることさえある状況になっている。もちろん、単に動員しようとしても、それに従わない国民が増えている。こうして、決定的に兵士が不足する事態がますます深刻化しているのである。
 そう、戦争をつづけたくても、兵士が足りないのだ。その結果、女性兵士の割合が急増しているという悲惨な状況にあることも知ってほしい。The Economistによれば、ウクライナの女性軍人はすべて志願兵で、ウクライナの100万人の軍人のうち約10万人が女性だ。2022年のロシアの本格侵攻以前は、軍職員の約15%が女性だった。軍隊が大きく成長したことで、割合は少なくなったが、従軍する女性の数は2倍以上に増えた。

欧州諸国の躊躇
 第三に、欧州諸国に生じているゼレンスキーへの不信がある。いまのところ、これまでゼレンスキーをひたすら支援してきただけに、急に見放すわけにはいかない。だが、ゼレンスキーの悪辣さが7月22日の事件で明確になった以上、彼を支持しつづけることに躊躇(ちゅうちょ)する欧州指導者は多い。とくに、有力紙FTがゼレンスキー批判に明確に舵を切ったために、他のオールドメディアも、いつまでもゼレンスキーに肩入れしにくくなっている(日本のオールドメディアはいまだ能天気だが。)
 さらに、トランプがまとめようとしている一時停戦に公然と反対するような姿勢をとると、トランプが激怒し、追加関税によるしっぺ返しに合わない保証はない。
 こうして、ゼレンスキーが欧州に戦争継続への助けを求めても、簡単に欧州側が引き続きゼレンスキーの戦争継続を支持しにくくなっているのだ。

オールドメディアの不誠実
 ここまで説明すれば、ゼレンスキーが一時停戦を受け入れざるをえない状況に近づいていることがわかるだろう。戦争を継続することで任期切れの大統領職に居座るゼレンスキーを、多くの国民がすでに軽蔑しはじめている。国会議員に至っては、反腐敗機関潰しに加担したことで、完全に信用しなくなっている。戦争を継続して、戒厳令をつづけることで、いつまでも大統領や議員の座にとどまろうとする彼らを、国民は一刻も早く選挙で代えようと思っているに違いない。
 それにもかかわらず、FT、The Economist、NYTを除いて、オールドメディアの多くは相変わらずゼレンスキー擁護をつづけている。日本に至っては、すべてのオールドメディアが、ゼレンスキーの肩をもちつづけている。これでは、8月15日の米ロ首脳会談の本筋を理解することはできないだろう>(以上「現代ビジネス」より引用)





「8・15」トランプ・プーチン会談前にゼレンスキーの命運は尽きている」とトランプ-プーチン会談前に塩原 俊彦(評論家)氏は予測していたが、果たして予測通りに事は運んでいるだろうか。会談の式次第の詳細を記したペーパーが会談した軍のコピー機に放置してあり、それから漏洩した情報によると会談後にトランプ-プーチンの会食とそのメニューまで準備されていたようだ。しかし実際に会食もなく、共同記者会見後にプーチンは専用機に乗ってロシアへ帰って行った。これが成功した会談だといえるだろうか。
 当然ながら、トランプ氏が想定していた通りに事が運ばず、トランプ氏は苛立ち、プーチンに不満を表明して会談が終わったのではないか。だからアラスカの軍基地にプーチンを出迎えた際には赤絨毯を敷き詰めて歓迎したが、帰国の際には赤絨毯は敷き詰められてなかった。

 塩原氏はひたすらゼレンスキー氏が停戦合意を承諾せざるを得ない状況に追い込まれている、と力説しているが、ゼレンスキー氏以上に停戦合意しなければならない状態に追い込まれているのはプーチンの方だ。
 プーチンは当初「三日でキーウを占領し、一週間でウクライナ全土を制圧する」と豪語していた。しかし2022年2月24日に軍事侵攻してから三年半も経過した。その間、ロシア軍は100万人以上が死傷して消耗した。自国民の応募兵だけでは足りないため、1万5千人の北朝鮮兵と約6万人の人民解放軍をウクライナ前線に投入した。しかし金で買った外国兵たちの殆どは消耗したという。プーチンも「徴兵」を行う瀬戸際に立たされている。

 8月15日のトランプ-プーチン会談は平行線で終わったようだ。実質的に失敗だったというべきだろう。そもそも停戦会談の場で、戦争当事国の一方とだけ会談するのが間違いだ。ロシアの代表団とウクライナ及びNATO代表団を停戦会議の場に呼んで、トランプ氏が会談を仕切るのなら話は分かるが、一方とだけ日時と場所を変えて話し合うなど「隔靴掻痒」の愚策だというしかない。
 18日にはワシントンでトランプ氏はゼレンスキー氏と会談するようだが、そんな会談を日本では「仲人口」と呼ぶ。たとえゼレンスキー氏が承諾したとしても、それを以てウクライナ領土の割譲が本決まりにはならない。なぜならウクライナ憲法第73条は、「ウクライナ領土の変更問題は国民投票のみで議決できる」と定めているからだ。15日のトランプ-プーチン会談を受けて、EUウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン委員長が「軍事力による国境の変更は認められない」と語気強く発表した。それがNATO諸国の合意であるなら、いかにトランプ氏がゼレンスキー氏を恫喝してプーチンの意向に沿わせたとしても、それはすべて徒労に終わるだろう。

 米国が超大国ゆえなのか、トランプ氏は他国民の誇りや矜持というものを知らないか、あるいは大したことではないと矮小化して考えているようだ。だからカナダに「米国の51番目の州になれば良い」などと他国を蔑む平気で軽口を叩くのだろう。しかし、云われた方は完全に激怒する。だが賢明なカナダ人は怒気を顔に現さず、着々と米国離れを展開している。カナダ政府はカナダと同様にトランプ関税で恫喝された日本やEUと手を結んでwithout America貿易体制の構築に邁進している。それは明日の米国にとって深い痛手となるだろう。
 本来、米国はウクライナ支援をするEU諸国の背後にあって、強力にEU諸国を支援すべきだった。NATO軍事同盟を強化して、ウクライナ支援の前面にEU諸国を立たせる戦略で推移すべきだった。そうして欧州のことは欧州で片づけるようにと綺麗事を言いつつ、チャッカリと米国製兵器を支援する代償にウクライナの地下資源の権益を確保することが出来たはずだ。しかしトランプ氏は「地上げする悪徳不動産屋」のように出しゃばってゼレンスキー氏を脅し、そしてプーチンと手を組んでウクライナ利権を露骨に手に入れようとしている。彼は米国の威信を傷つけるだけでなく、米国の国際的な信用までも失墜させている。彼こそが米国史に「最悪の大統領」として名を刻むことになるだろう。

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