「円安はもう終わらない」のか?
<円安はいつまで続くのか。日本の経常収支は黒字続きであるにもかかわらず、なぜ、円高に転じないのか。
円安の背後では、日米の金利差や海外での投資収益、増え続けるデジタル赤字など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると語るのは石川久美子氏(ソニーフィナンシャルグループ株式会社 シニアアナリスト)。『円安はいつまで続くのか 為替で世界を読む』(マイナビ出版)を上梓した石川氏に、今後の円の行方について、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──新型コロナウイルスのパンデミックによって加速したインフレに対し、欧米諸国の中央銀行は比較的早い段階で利上げを敢行しました。一方、日本銀行(以下、日銀)が利上げに踏み切ったのは2024年3月。この間に生じた「金利の差」によって、円安が進行した可能性があると書かれていました。
石川久美子氏(以下、石川): 金利が高い国には資金が集まりやすいという傾向があります。
例えば、100万円を運用する場合を考えてみましょう。
日本の金利が0%、米国の金利が5%、為替レートが1ドル=100円だと仮定します。日本に預けても1年後の元本は100万円のままですが、ドルに替えて1万ドルを米国で運用すれば、1年後には5%の利息がついて1万500ドルになります。
さらに、その時点でドル高が進み1ドル=110円となっていた場合、これを円に戻せば115万5000円になります。
このように、信用力が同程度の国同士であれば、低金利の国よりも高金利の国で運用するほうが、金利収入に加えて為替差益も得られる可能性が高くなります。これが「金利が高い国にマネーが流れる」メカニズムです。そして資金流入はその国の通貨需要を押し上げ、結果として通貨高につながります。
──2019年末からのコロナ禍では、どのような影響があったのでしょうか。
石川:パンデミックの発生によって先進国ではサービス需要が急減し、景気が悪化しました。
それに対して、各国の中央銀行は利下げに踏み切り、金融緩和で対応します。その後、経済活動をいち早く再開した米国から景気が回復し、財需要の増加が賃金や家賃などのサービス分野にまで波及、インフレが加速しました。そこにロシアによるウクライナ侵攻が重なり、欧米は2021年末から利上げを開始しました。
一方、日本は長期にわたり低インフレが続き、企業がコスト上昇分を価格転嫁しにくい状況が続いていました。結果として、日銀の利上げ決定は2024年3月まで遅れ、その間に日米間の金利差が大きく開いたのです。
為替レートは大きな流れとして、名目金利から物価上昇分を差し引いた「実質金利」の差に左右されます。特に2021年以降は、ドル円相場が日米の実質金利差と非常に強く連動しており、この金利差の拡大がドル高・円安を一層進めたと考えられます。
──2022年1月に日銀が公表した展望レポート「経済・物価情勢の展望」では、実質実効為替レート(※)に10%の円安が加わった場合、1%弱程度実質GDP(国内総生産)にプラスの影響を与えると書いてありました。なぜ円安はGDPにプラスになるのでしょうか。
円安がGDPに寄与した3つの理由
石川:この日銀の展望レポートでは、新型コロナウイルスのパンデミック前までの20年間を前半(主に2000年から2009年まで)と、後半(2010年から2019年まで)の2つの期間に分けて、実質実効為替レートが10%円安が進んだ場合について推計しています。
すると、前半、後半、いずれについても実質GDPに1%弱程度のプラスの影響があったことが明らかになりました。けれども、単純に、いつでも「円安はGDPにプラス、円高はマイナス」という話ではありません。今回のレポートで推計した期間の条件においては円安がGDPにプラスに働いた、と捉えるのが適切でしょう。
レポートでは、2000年から2019年までの間、円安がトータルでGDPのプラス要因となった理由としては、「①円安による財輸出の数量の押し上げ効果」「②第一次所得収支(※)の改善を通じた国内経済へのプラスの影響」「③物価への影響」の3点に言及しています。
※経常収支の一部で、海外資産(株式、債券など)から得られる配当・利子・利益、海外現地法人の利益送金など、日本が海外投資で稼ぐお金を指す。
「①円安による財輸出の数量の押し上げ効果」は、円安(円の価値が下がること)によって、日本から輸出されるモノ(財)の数量が増える効果を指します。
円安になると、外国通貨ベースで見た日本製品の価格が下がるため、海外から見れば「日本製品が安く買える」ことになり需要が増加し、輸出数量が押し上げられるという結果になります。
「②所得収支の改善を通じた国内経済へのプラスの影響」は、まず円安になると海外からの収入(配当・利子など)の円換算額が増加します。
例えば、100億ドルの配当収入があった場合、円安で1ドル150円の場合は1.5兆円、円高で1ドル100円の場合は1兆円になります。同じドル収入でも円安のほうが円換算額が大きくなるため、所得収支が改善するのです。
これにより、企業利益が増加。その収益の国内還流も増加傾向にあり、日本における新たな設備投資につながることが期待されます。
「③物価への影響」については、日本では輸入品の占める割合(輸入ペネトレーション比率)が高まっているため、円安が経済に与える影響が以前より強くなっていると考えられます。
具体的には、円安によって輸入品の価格が上がり、その分だけ物価が押し上げられやすくなっているということです。物価が上がれば、生産量が増えなくても、値上げ分だけ企業の売り上げや利益は増えることになります。
貿易赤字をカバーしている存在
──経常収支の一つであるサービス収支を総合的に見ると、円安は赤字を促す要因となり続ける可能性のほうが高いとありました。これは、どういうことでしょうか。
石川:サービス収支は、旅行や輸送、知財使用料などで構成されています。
2000年以降から、毎年の増減はありますが、受け取りも支払いも増加しており、サービス収支の規模は拡大傾向です。ただ、収支として見た場合、1996年以降、赤字が続いています。
この赤字の主な要因は「デジタル」で、ソフトウェアの購入やクラウドサービスの使用、音楽や動画の配信サービスなどすべてが含まれています。これらのサービスを提供する企業のほとんどが海外企業です。
こうした事業を、今から日本で内製化するのは極めて困難です。DXが進めば進むほど、海外にマネーが流れていくという仕組みが出来上がってしまっている。円安になれば、サービス利用料金を円換算した場合、割高になります。つまり、円安によってデジタル赤字がさらに拡大するリスクがあります。
──第一次所得収支には、円安がプラスに作用するとありました。
石川:第一次所得収支には、日本企業が海外に工場や子会社をつくる、企業を買収するなど、実際に経営に関与する形で投資した資産から得られる直接投資収益と、株式や債券など金融資産から得られる証券投資収益が含まれます。
第一次所得収支は、いわば「海外で稼いだマネー」です。前出の日銀のレポートの「②所得収支の改善を通じた国内経済へのプラスの影響」の通り、円安は第一次所得収支の黒字を拡大させます。
今後、海外の設備投資意欲が著しく停滞する、海外からの事業や投資資金を撤退させるというような流れが起きなければ、第一次所得収支は黒字が続き、円安はプラスに働くはずです。
現在の日本の経常収支は、貿易収支が赤字でも、第一次所得収支が巨額の黒字を出している構造になっています。
──「教科書的には経常黒字は『通貨高』要因になる」とありますが、日本では長らく経常収支が黒字であるにもかかわらず、現在は円安傾向にあります。
経常黒字なのに円安傾向になるのはなぜか?
石川:経常黒字は本来、海外で得た収益が国内に戻ってくる力を持つため、通貨高要因になり得ます。しかし、為替を動かす要素は経常収支だけではありません。
現在の日本では、経常黒字の大部分を第一次所得収支、すなわち海外投資からの利子や配当、企業収益が稼いでいます。これらの収益は現地で再投資を続けたほうが効率的であり、あえて日本に還流させる必然性は乏しいのが実情です。
企業にとっては海外で運用を続けたほうが収益性が高く、あえて国内に戻す必要性は乏しいのが実情です。
さらに、外国為替市場の構造にも注目が必要です。為替相場を大きく動かすのは、金融機関のディーリング部門や投機筋による投資取引です。
こうした投資家が最も注目するのは、冒頭でも触れた金利差です。金利差が拡大すれば円を売って高金利通貨を買う動きが強まり、円安圧力が高まります。逆に金利差が縮小すれば円は買い戻されます。足元では日米金利差の拡大を背景に、円が国外に流出する構図が強まり、円安が進んだと考えられます。
また、先ほど日本では加えて、デジタル赤字が膨らみ続けているという話をしました。これもまた円が一方向に海外へ流れる構造であり、円安を後押しする一因となっています。
経常収支全体では黒字が続いていても、その中身を見ると円が還流しにくい要素が多く、結果として円安になりやすい状況が続いているといえるでしょう。
──「円安は終わったのか」という問いに対して、「長期的にみると、円安が進みやすくなっている可能性がある」と述べていました。
石川:経常収支の構造面から見ても円安が進みやすい基盤があり、加えて日本と米国の潜在成長率には大きな格差が存在します。これらが逆転する可能性は低く、つまり日米の金利差も逆転の可能性は低いと見られることから、長期的にはドル高・円安の方向に進みやすいと考えています。
ドル円相場はこれまで、米国と日本の金利差の拡大・縮小に合わせて上下を繰り返してきました。米国経済が好調な局面ではFRB(米連邦準備理事会)が利上げを実施して金利差が拡大し、景気が減速すれば利下げで縮小する。このサイクルのなかでドル円は円高と円安を繰り返してきた歴史があり、この動きは今後も続くでしょう。
一方で、貿易など経常収支に関連する資金の流れは一方向です。輸出入で動いた資金は国内に戻りにくく、対外債権として積み上がる構造があります。第一次所得収支によって日本は巨額の黒字を計上していますが、それが必ずしも円高要因にならないのはこのためです。
こうした要素を総合すると、ドル円は短期的に上下の振れを伴いつつも、長期的には緩やかに円安方向に進む可能性が高いとみられます>(以上「JB press」より引用)
「「円安はもう終わらない」日米金利差と経常収支の構造が示す長期的な円安トレンドーー
【著者が語る】『円安はいつまで続くのか』の石川久美子が語る、日本経済の構造変化と「デジタル赤字」の隠れた影響」と長々しい題が告知している通り、関 瑶子(ライター/ビデオクリエイタ)氏の対談記事だ。
円安の背後では、日米の金利差や海外での投資収益、増え続けるデジタル赤字など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると語るのは石川久美子氏(ソニーフィナンシャルグループ株式会社 シニアアナリスト)。『円安はいつまで続くのか 為替で世界を読む』(マイナビ出版)を上梓した石川氏に、今後の円の行方について、話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──新型コロナウイルスのパンデミックによって加速したインフレに対し、欧米諸国の中央銀行は比較的早い段階で利上げを敢行しました。一方、日本銀行(以下、日銀)が利上げに踏み切ったのは2024年3月。この間に生じた「金利の差」によって、円安が進行した可能性があると書かれていました。
石川久美子氏(以下、石川): 金利が高い国には資金が集まりやすいという傾向があります。
例えば、100万円を運用する場合を考えてみましょう。
日本の金利が0%、米国の金利が5%、為替レートが1ドル=100円だと仮定します。日本に預けても1年後の元本は100万円のままですが、ドルに替えて1万ドルを米国で運用すれば、1年後には5%の利息がついて1万500ドルになります。
さらに、その時点でドル高が進み1ドル=110円となっていた場合、これを円に戻せば115万5000円になります。
このように、信用力が同程度の国同士であれば、低金利の国よりも高金利の国で運用するほうが、金利収入に加えて為替差益も得られる可能性が高くなります。これが「金利が高い国にマネーが流れる」メカニズムです。そして資金流入はその国の通貨需要を押し上げ、結果として通貨高につながります。
──2019年末からのコロナ禍では、どのような影響があったのでしょうか。
石川:パンデミックの発生によって先進国ではサービス需要が急減し、景気が悪化しました。
それに対して、各国の中央銀行は利下げに踏み切り、金融緩和で対応します。その後、経済活動をいち早く再開した米国から景気が回復し、財需要の増加が賃金や家賃などのサービス分野にまで波及、インフレが加速しました。そこにロシアによるウクライナ侵攻が重なり、欧米は2021年末から利上げを開始しました。
一方、日本は長期にわたり低インフレが続き、企業がコスト上昇分を価格転嫁しにくい状況が続いていました。結果として、日銀の利上げ決定は2024年3月まで遅れ、その間に日米間の金利差が大きく開いたのです。
為替レートは大きな流れとして、名目金利から物価上昇分を差し引いた「実質金利」の差に左右されます。特に2021年以降は、ドル円相場が日米の実質金利差と非常に強く連動しており、この金利差の拡大がドル高・円安を一層進めたと考えられます。
──2022年1月に日銀が公表した展望レポート「経済・物価情勢の展望」では、実質実効為替レート(※)に10%の円安が加わった場合、1%弱程度実質GDP(国内総生産)にプラスの影響を与えると書いてありました。なぜ円安はGDPにプラスになるのでしょうか。
円安がGDPに寄与した3つの理由
石川:この日銀の展望レポートでは、新型コロナウイルスのパンデミック前までの20年間を前半(主に2000年から2009年まで)と、後半(2010年から2019年まで)の2つの期間に分けて、実質実効為替レートが10%円安が進んだ場合について推計しています。
すると、前半、後半、いずれについても実質GDPに1%弱程度のプラスの影響があったことが明らかになりました。けれども、単純に、いつでも「円安はGDPにプラス、円高はマイナス」という話ではありません。今回のレポートで推計した期間の条件においては円安がGDPにプラスに働いた、と捉えるのが適切でしょう。
レポートでは、2000年から2019年までの間、円安がトータルでGDPのプラス要因となった理由としては、「①円安による財輸出の数量の押し上げ効果」「②第一次所得収支(※)の改善を通じた国内経済へのプラスの影響」「③物価への影響」の3点に言及しています。
※経常収支の一部で、海外資産(株式、債券など)から得られる配当・利子・利益、海外現地法人の利益送金など、日本が海外投資で稼ぐお金を指す。
「①円安による財輸出の数量の押し上げ効果」は、円安(円の価値が下がること)によって、日本から輸出されるモノ(財)の数量が増える効果を指します。
円安になると、外国通貨ベースで見た日本製品の価格が下がるため、海外から見れば「日本製品が安く買える」ことになり需要が増加し、輸出数量が押し上げられるという結果になります。
「②所得収支の改善を通じた国内経済へのプラスの影響」は、まず円安になると海外からの収入(配当・利子など)の円換算額が増加します。
例えば、100億ドルの配当収入があった場合、円安で1ドル150円の場合は1.5兆円、円高で1ドル100円の場合は1兆円になります。同じドル収入でも円安のほうが円換算額が大きくなるため、所得収支が改善するのです。
これにより、企業利益が増加。その収益の国内還流も増加傾向にあり、日本における新たな設備投資につながることが期待されます。
「③物価への影響」については、日本では輸入品の占める割合(輸入ペネトレーション比率)が高まっているため、円安が経済に与える影響が以前より強くなっていると考えられます。
具体的には、円安によって輸入品の価格が上がり、その分だけ物価が押し上げられやすくなっているということです。物価が上がれば、生産量が増えなくても、値上げ分だけ企業の売り上げや利益は増えることになります。
貿易赤字をカバーしている存在
──経常収支の一つであるサービス収支を総合的に見ると、円安は赤字を促す要因となり続ける可能性のほうが高いとありました。これは、どういうことでしょうか。
石川:サービス収支は、旅行や輸送、知財使用料などで構成されています。
2000年以降から、毎年の増減はありますが、受け取りも支払いも増加しており、サービス収支の規模は拡大傾向です。ただ、収支として見た場合、1996年以降、赤字が続いています。
この赤字の主な要因は「デジタル」で、ソフトウェアの購入やクラウドサービスの使用、音楽や動画の配信サービスなどすべてが含まれています。これらのサービスを提供する企業のほとんどが海外企業です。
こうした事業を、今から日本で内製化するのは極めて困難です。DXが進めば進むほど、海外にマネーが流れていくという仕組みが出来上がってしまっている。円安になれば、サービス利用料金を円換算した場合、割高になります。つまり、円安によってデジタル赤字がさらに拡大するリスクがあります。
──第一次所得収支には、円安がプラスに作用するとありました。
石川:第一次所得収支には、日本企業が海外に工場や子会社をつくる、企業を買収するなど、実際に経営に関与する形で投資した資産から得られる直接投資収益と、株式や債券など金融資産から得られる証券投資収益が含まれます。
第一次所得収支は、いわば「海外で稼いだマネー」です。前出の日銀のレポートの「②所得収支の改善を通じた国内経済へのプラスの影響」の通り、円安は第一次所得収支の黒字を拡大させます。
今後、海外の設備投資意欲が著しく停滞する、海外からの事業や投資資金を撤退させるというような流れが起きなければ、第一次所得収支は黒字が続き、円安はプラスに働くはずです。
現在の日本の経常収支は、貿易収支が赤字でも、第一次所得収支が巨額の黒字を出している構造になっています。
──「教科書的には経常黒字は『通貨高』要因になる」とありますが、日本では長らく経常収支が黒字であるにもかかわらず、現在は円安傾向にあります。
経常黒字なのに円安傾向になるのはなぜか?
石川:経常黒字は本来、海外で得た収益が国内に戻ってくる力を持つため、通貨高要因になり得ます。しかし、為替を動かす要素は経常収支だけではありません。
現在の日本では、経常黒字の大部分を第一次所得収支、すなわち海外投資からの利子や配当、企業収益が稼いでいます。これらの収益は現地で再投資を続けたほうが効率的であり、あえて日本に還流させる必然性は乏しいのが実情です。
企業にとっては海外で運用を続けたほうが収益性が高く、あえて国内に戻す必要性は乏しいのが実情です。
さらに、外国為替市場の構造にも注目が必要です。為替相場を大きく動かすのは、金融機関のディーリング部門や投機筋による投資取引です。
こうした投資家が最も注目するのは、冒頭でも触れた金利差です。金利差が拡大すれば円を売って高金利通貨を買う動きが強まり、円安圧力が高まります。逆に金利差が縮小すれば円は買い戻されます。足元では日米金利差の拡大を背景に、円が国外に流出する構図が強まり、円安が進んだと考えられます。
また、先ほど日本では加えて、デジタル赤字が膨らみ続けているという話をしました。これもまた円が一方向に海外へ流れる構造であり、円安を後押しする一因となっています。
経常収支全体では黒字が続いていても、その中身を見ると円が還流しにくい要素が多く、結果として円安になりやすい状況が続いているといえるでしょう。
──「円安は終わったのか」という問いに対して、「長期的にみると、円安が進みやすくなっている可能性がある」と述べていました。
石川:経常収支の構造面から見ても円安が進みやすい基盤があり、加えて日本と米国の潜在成長率には大きな格差が存在します。これらが逆転する可能性は低く、つまり日米の金利差も逆転の可能性は低いと見られることから、長期的にはドル高・円安の方向に進みやすいと考えています。
ドル円相場はこれまで、米国と日本の金利差の拡大・縮小に合わせて上下を繰り返してきました。米国経済が好調な局面ではFRB(米連邦準備理事会)が利上げを実施して金利差が拡大し、景気が減速すれば利下げで縮小する。このサイクルのなかでドル円は円高と円安を繰り返してきた歴史があり、この動きは今後も続くでしょう。
一方で、貿易など経常収支に関連する資金の流れは一方向です。輸出入で動いた資金は国内に戻りにくく、対外債権として積み上がる構造があります。第一次所得収支によって日本は巨額の黒字を計上していますが、それが必ずしも円高要因にならないのはこのためです。
こうした要素を総合すると、ドル円は短期的に上下の振れを伴いつつも、長期的には緩やかに円安方向に進む可能性が高いとみられます>(以上「JB press」より引用)
「「円安はもう終わらない」日米金利差と経常収支の構造が示す長期的な円安トレンドーー
【著者が語る】『円安はいつまで続くのか』の石川久美子が語る、日本経済の構造変化と「デジタル赤字」の隠れた影響」と長々しい題が告知している通り、関 瑶子(ライター/ビデオクリエイタ)氏の対談記事だ。
なぜこの記事を取り上げたのか、理由は簡単だ。「円安=国家衰退」という図式に異議申し立てしたかったからだ。そして「円安はもう終わらない」という関氏の分析にも賛同できないからだ。
なぜ日本円は安くなったのか。理由は簡単だ。異次元金融緩和で徹底的に金利を引き下げてゼロ金利政策を十年も続けたからだ。現在は日銀総裁が替わって金利引き上げに転じて日本10年国債利回りは1.485%だ。それに対して米国10年国債利回りは4.282%で豪10年国債利回りは4.247%になっている。
そうすると、日本で資金を調達して米国債や豪国債に投資すれば自動的に利益が転がり込んでくる。だから日本円が売られて「円安」になっているだけの話だ。日本経済見通しと円安は殆ど関係ない。投機資金の流れでそうなっているだけだ。
そうすると「円安はもう終わらない」という関氏の論評は根拠が希薄になる。単に金利差による投機資金が日本から外国へ流れているだけでしかないからだ。
円安が終わるには日本経済がデフレからインフレに転換しなければならない。現在日本は物価高騰と賃上げがあってインフレではないか、と主張する御仁がいるが、実質労働所得が低下している現状はデフレ経済下にあるとみる方が妥当だ。デフレ経済下では資産家の富が増して、一般国民は貧困化する、と云うのが普遍的な図式だ。日本は「失われた35年」間、ずっとデフレ経済下にあった。だから富裕層は一層富み、貧困層は益々貧困化するという二極化が進行した。もちろん富裕層は一握りだから、多くの国民は貧困化し、ことに資産蓄積のない若者たちはいよいよ貧困化して婚姻すらできなくなっている。
「円安はもう終わらない」のではなく、経済政策が転換すれば簡単に終わる。経済政策の転換とは「緊縮・増税」から「積極・減税」政策への転換であり、具体的には消費税の廃止だ。
消費という担税力とは一切関係のない経済活動に課税する、という「経済を回させない」税は景気を悪化させる。つまり経済が過熱してデフレ化策が求められる時に導入する税を「欧州諸国がそうしているから日本に導入する」というバカげた理由でデフレ下に導入・増税したから日本経済は成長力を失った。それが「失われた35年」の実態だ。いわば「失われた35年」は「緊縮・増税」を至上命題とする財務官僚に洗脳された経済に無知な政治家が仕出かした人災だ。
円安から円高へ転換するのに、それほど時間はかからない。積極的に財政出動して、全国規模で社会インフラの更新や整備事業を展開すれば良い。同時に所費税を廃止して、消費抑制策から消費促進策に転じるだけで日本の景気は劇的に良くなる。なぜなら35年間も消費を抑制して来たからだ。高額耐久消費財の新築家屋市場は目に見えて改善されるだろう。高級車も売れるようになるだろう。
消費税廃止により消費が喚起され、消費税廃止で空いた財政の穴を埋めて余りある税収増になるだろう。「財源は~」と問い掛ける財務官僚たちは国家全体のB/Sを知らない者の戯言だ。そして政権が本格的に日本経済を復活させるためには「構造改革」で破壊された「日本の構造」を旧に復さなければならない。もちろん野放図に緩和された派遣業法を元に戻し、解体民営化された郵政を元の国営事業に戻さなければならない。高速道路も「分割民営化」により増えたのは役員ばかりで高速料金は下がらなかったではないか。ひうした基本的な社会インフラは国家事業に戻すべきだ。当然ながら、水道事業の民営化など言語道断だ。出来れば鉄道事業も「国鉄」に戻すべきではないか。日本の山間僻地を守って来た町や村を都市部に併合させた「平成大合併」の誤りを徹底的に検証して、「分立特例法」を制定して町や村を復活させることも忘れてはならない。
日本の活力を取戻せば、日本には経済成長するために必要な技術力や人材は充分に残っている。外国人労働移民などに頼るのは暗愚な経営者だけだから、さっさと外国人労働移民政策は終了させるべきだ。そして日本国民のために給付型奨学金を支出すべきだ。人材こそが国力だと明治期に証明されているではないか。
日本は技術や人材だけでなく、豊富な資金も有している。外資導入や外国資本の導入を叫んでいる連中は投機資金で一儲けしようとする博奕家でしかない。人手不足は技術投資と研究開発の動機にすべきだ。高度経済成長はそのようにして実現した。
米国は「モノ造り」から「金融立国」へ転換して没落している。「モノ造り」を忘れた国に明日はない。ドイツもドイツ経済の屋台骨を支えていた自動車産業の生産拠点を中国へ移し、その上EVに全振りしたため経済悪化の坂道を転がり落ちている。幸いにも日本国民には「投機」を敬遠する国民性があって、「金融立国」へ転換させようと岸田政権などが旗振りしたNISAもそれほど振るわなかった。投資や投機にはリスクが付き物だ、と云うことを忘れてはならない。
日本政界は大転換前夜にある。やっと「似非保守」の自民党の化けの皮が剥がれて、売国政権でしかない実態を広く国民が知るところになった。スパイ防止法の是々非々で「似非保守」の実態が益々鮮明になるだろう。そして野党も「愛国」か「反日」かで識別されるだろう。これまでの左派か右派かといった分け方がいかに根拠薄弱なものだったか明らかになった。党派を超えて、「愛国」か「反日」かで政界は再編されるべきだ。そうすれば消費税廃止も旗色が鮮明になる。「愛国」であれば経済成長するために消費税は廃止だろうし、「反日」であれば日本弱体化のために消費増税を主張するだろう。その意味で財務省も「反日」だ。
日本の未来を語るには政府B/Sの観点から語るのではなく、日本国家B/Sの観点から語るべきだ。円安も為替市場の動向だけで語るのではなく、日本経済の全体像を見て語るべきだ。