トランプ関税策は必ず失敗するし、その失敗の代償の余りの大きさに米国は卒倒するだろう。
<2025年7月9日付のフィナンシャル・タイムズ紙で、同紙のマーティン・ウルフが、トランプは米国の偉大さの要因の全てを攻撃している、独裁国家に向けてトランプは恐ろしい程の成果を上げていると強く警戒している。
トランプの登場により、米国独立宣言の理想の全てが危機に晒されている。20年大統領選の結果を覆そうとした彼は、その後も生き延び、24年に返り咲いた。トランプは最早歯止めから解き放たれている。彼の政治エネルギーは世界を変えつつある。
国内では、現在、法の支配が攻撃されている。法律事務所に対する大統領令の発出や、重要ポストへの無資格の忠誠者の任命等である。
最も不吉なのは、移民・関税執行局(ICE)の権限と予算の拡大であり、それはまるで秘密警察のようになっている。これと関連するのが、政府そのものへの攻撃だ。
イーロン・マスクの「政府効率省」なるものは詐欺だった。目的は、効率ではなく、服従だった。公務員の独立性が破壊された。特に、米国際開発局(USAID)の医療プログラム等が壊された。
トランプによる大統領令の乱用も問題だ。彼は今期既に168の大統領令を発出した。トランプは勅令によって統治している。それは独裁兆候の一つだ。
さらに懸念されるのは、腐敗の正当化である。それは彼自身とその家族の行動に如実に表れている。外国腐敗行為防止法は、執行停止になった。もっと重大なのは、米国の卓越性の源泉である科学に対する戦争だ。
最後に注目すべきは、「ワン・ビッグ・ビューティフル法」による財政政策だ。これは今後無期限にわたり、巨額の財政赤字をもたらす。それは、米経済の需給バランス維持のために恒常的な経常赤字を必要とすることになる。
国際関係では、貿易戦争はまだ終わっていない。「解放の日」の関税に対する90日の猶予期間が終わるが、幾つかの国としか合意はできておらず、経済的な対外攻撃は続いている。それは戦後、米国自身が創設した国際制度に対する攻撃だ。
同盟関係も損なわれている。米国のあらゆる国際的誓約が疑わしいものとなっている。国際貿易制度はグローバルな公共財だった。ドルを基軸とする通貨体制もそうだ。しかし、トランプの政策は、その安定性や信頼性を損なっている。
トランプが行っていることのほとんど全てが、対中競争において米国を弱体化させるものだ。何よりも、言論の自由、民主主義、法の支配、世界に対する開かれた姿勢等、米国の中核的価値が存続して欲しい。
しかしトランプは、これらの価値を国内外で弱めている。米国は盟友としての信頼性を失っている。そんな米国が、人口が4倍以上もある中国とどうやって対抗できるというのか。それは幻想でしかない。
任期のわずか8分の1、半年間に、米国の成功を支えてきたあらゆる要素に対するトランプの戦争は大きく前進している。喜んでいるのは、MAGA(米国を再び偉大に)支持層とプーチン、習近平くらいだ。
この計画の中で最も一貫性があるのは、米国を独裁国家に変える試みだ。それ以外の部分に一貫性はない。しかし、これまでの「成功」を考えると、このアメリカとその価値に対する反革命が失敗に終わると楽観視することは間違いだろう。トランプは恐ろしいほどの成果を上げている。
トランプと付き合う難しさ
ウルフのトランプに対する鋭い罪状書である。トランプは米国の偉大さ、成功のあらゆる要素を攻撃し、「米国のあらゆる国際的誓約が疑しいものとなっている」、米国政治は独裁化に向かっていると警告する。独裁に向けて、「トランプは恐ろしいほどの成果を上げている」と指摘する。全ての点について、ウルフに同意せざるを得ない。
残念なことは、このトランプの行動に対する国内政治勢力、メディア、知識人等の抵抗が効果的に盛り上がらないことだ。それは、トランプ政治の攻撃力の強さなのだろう。
しかし、その中でも、7月8日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の元財務長官サマーズによる先般成立した減税・歳出法に関する寄稿記事「この法律は、自分の国に対して私を恥ずかしくさせる」は目に付いた。トランプにブレーキを掛けるのは、結局、市場(6月はインフレが昂進)や米国の有権者、国際社会の批判でしかないのだろう。
欧州連合(EU)ではトランプの関税攻勢に対し批判が高まっているようだ。目下の交渉不調の時のために、報復関税を準備中だ。関税合意が思う程進まないことに、トランプが苛立ちを覚えていることは容易に想像できる。
そのような中、7月13日、トランプは日本が米国の自動車や農産物の購入に消極的だと改めて不満を示すとともに、「日本は急速に方針を変えつつある」と述べた。関税交渉についての石破茂首相の「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか」、「言うべきことは、たとえ同盟国であっても正々堂々言わなければならない」との応援演説発言等がトランプの耳に入っているのかもしれない。
トランプとの付き合い方は、容易でない。6月24~25日にハーグで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開催され、防衛支出国内総生産(GDP)5%目標が採択され、トランプから NATO条約第5条コミットメントを引き出すなど、成果を上げた。しかしこの裏には、事務総長ルッテの対トランプ対策(お世辞発言や国賓訪蘭設定等)があった。
ルッテが準備の際、トランプに送った余りに気を遣ったメッセージも米国側から暴露された。NATOに向かうトランプにルッテは、イスラエルとイランの紛争を「抑制した手腕」や欧州の国防費増額を実現させた功績を称えて、「あなたは過去数十年のどの歴代米大統領も成し得なかったことを達成するだろう」、「欧州は当然のことながら多額の支出を行うことになる。それはあなたの勝利だ」等と記していた。NATO首脳会議成功のためのルッテの努力は評価されるが、過度のお世辞はトランプを助長するだけになるだろうことを危惧する。
しかし、岡崎研究所が発表した「トランプが生み出す独裁国家・アメリカの未来…これで人口4倍の中国にどう対抗するのか?」と題する論評は何を云いたいのだろうか。トランプ氏は民主国家米国で、民主的な選挙で選ばれて大統領に就任した。あくまでも彼は米国の任期四年限りの大統領であって終身制の「独裁者」ではない。
トランプの登場により、米国独立宣言の理想の全てが危機に晒されている。20年大統領選の結果を覆そうとした彼は、その後も生き延び、24年に返り咲いた。トランプは最早歯止めから解き放たれている。彼の政治エネルギーは世界を変えつつある。
国内では、現在、法の支配が攻撃されている。法律事務所に対する大統領令の発出や、重要ポストへの無資格の忠誠者の任命等である。
最も不吉なのは、移民・関税執行局(ICE)の権限と予算の拡大であり、それはまるで秘密警察のようになっている。これと関連するのが、政府そのものへの攻撃だ。
イーロン・マスクの「政府効率省」なるものは詐欺だった。目的は、効率ではなく、服従だった。公務員の独立性が破壊された。特に、米国際開発局(USAID)の医療プログラム等が壊された。
トランプによる大統領令の乱用も問題だ。彼は今期既に168の大統領令を発出した。トランプは勅令によって統治している。それは独裁兆候の一つだ。
さらに懸念されるのは、腐敗の正当化である。それは彼自身とその家族の行動に如実に表れている。外国腐敗行為防止法は、執行停止になった。もっと重大なのは、米国の卓越性の源泉である科学に対する戦争だ。
最後に注目すべきは、「ワン・ビッグ・ビューティフル法」による財政政策だ。これは今後無期限にわたり、巨額の財政赤字をもたらす。それは、米経済の需給バランス維持のために恒常的な経常赤字を必要とすることになる。
国際関係では、貿易戦争はまだ終わっていない。「解放の日」の関税に対する90日の猶予期間が終わるが、幾つかの国としか合意はできておらず、経済的な対外攻撃は続いている。それは戦後、米国自身が創設した国際制度に対する攻撃だ。
同盟関係も損なわれている。米国のあらゆる国際的誓約が疑わしいものとなっている。国際貿易制度はグローバルな公共財だった。ドルを基軸とする通貨体制もそうだ。しかし、トランプの政策は、その安定性や信頼性を損なっている。
トランプが行っていることのほとんど全てが、対中競争において米国を弱体化させるものだ。何よりも、言論の自由、民主主義、法の支配、世界に対する開かれた姿勢等、米国の中核的価値が存続して欲しい。
しかしトランプは、これらの価値を国内外で弱めている。米国は盟友としての信頼性を失っている。そんな米国が、人口が4倍以上もある中国とどうやって対抗できるというのか。それは幻想でしかない。
任期のわずか8分の1、半年間に、米国の成功を支えてきたあらゆる要素に対するトランプの戦争は大きく前進している。喜んでいるのは、MAGA(米国を再び偉大に)支持層とプーチン、習近平くらいだ。
この計画の中で最も一貫性があるのは、米国を独裁国家に変える試みだ。それ以外の部分に一貫性はない。しかし、これまでの「成功」を考えると、このアメリカとその価値に対する反革命が失敗に終わると楽観視することは間違いだろう。トランプは恐ろしいほどの成果を上げている。
トランプと付き合う難しさ
ウルフのトランプに対する鋭い罪状書である。トランプは米国の偉大さ、成功のあらゆる要素を攻撃し、「米国のあらゆる国際的誓約が疑しいものとなっている」、米国政治は独裁化に向かっていると警告する。独裁に向けて、「トランプは恐ろしいほどの成果を上げている」と指摘する。全ての点について、ウルフに同意せざるを得ない。
残念なことは、このトランプの行動に対する国内政治勢力、メディア、知識人等の抵抗が効果的に盛り上がらないことだ。それは、トランプ政治の攻撃力の強さなのだろう。
しかし、その中でも、7月8日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の元財務長官サマーズによる先般成立した減税・歳出法に関する寄稿記事「この法律は、自分の国に対して私を恥ずかしくさせる」は目に付いた。トランプにブレーキを掛けるのは、結局、市場(6月はインフレが昂進)や米国の有権者、国際社会の批判でしかないのだろう。
欧州連合(EU)ではトランプの関税攻勢に対し批判が高まっているようだ。目下の交渉不調の時のために、報復関税を準備中だ。関税合意が思う程進まないことに、トランプが苛立ちを覚えていることは容易に想像できる。
そのような中、7月13日、トランプは日本が米国の自動車や農産物の購入に消極的だと改めて不満を示すとともに、「日本は急速に方針を変えつつある」と述べた。関税交渉についての石破茂首相の「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか」、「言うべきことは、たとえ同盟国であっても正々堂々言わなければならない」との応援演説発言等がトランプの耳に入っているのかもしれない。
トランプとの付き合い方は、容易でない。6月24~25日にハーグで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開催され、防衛支出国内総生産(GDP)5%目標が採択され、トランプから NATO条約第5条コミットメントを引き出すなど、成果を上げた。しかしこの裏には、事務総長ルッテの対トランプ対策(お世辞発言や国賓訪蘭設定等)があった。
ルッテが準備の際、トランプに送った余りに気を遣ったメッセージも米国側から暴露された。NATOに向かうトランプにルッテは、イスラエルとイランの紛争を「抑制した手腕」や欧州の国防費増額を実現させた功績を称えて、「あなたは過去数十年のどの歴代米大統領も成し得なかったことを達成するだろう」、「欧州は当然のことながら多額の支出を行うことになる。それはあなたの勝利だ」等と記していた。NATO首脳会議成功のためのルッテの努力は評価されるが、過度のお世辞はトランプを助長するだけになるだろうことを危惧する。
関税、経済、相互依存の武器化
トランプは、関税を軍事手段と同一視している。貿易・経済については、国際社会はもっと緻密な規範の社会であることを全く理解していない。国際秩序を無視する関税の武器化、経済の武器化、相互依存の武器化を図っている。
ウクライナ戦争のために対露関税100%上乗せを脅かし、ブラジルには全く無関係なボルサリーノ支援のために50%の高関税を掛ける。トランプ関税には、価値観や原則が欠如している。
縁故主義の傾向もある。トランプに近い個人や会社などの利益で動いているようにも見える。これがトランプの取引の実態であろうか。それは、決して成功しないし、米国を含め世界の人々の利益にもならないだろう>(以上「Wedge」より引用)
トランプは、関税を軍事手段と同一視している。貿易・経済については、国際社会はもっと緻密な規範の社会であることを全く理解していない。国際秩序を無視する関税の武器化、経済の武器化、相互依存の武器化を図っている。
ウクライナ戦争のために対露関税100%上乗せを脅かし、ブラジルには全く無関係なボルサリーノ支援のために50%の高関税を掛ける。トランプ関税には、価値観や原則が欠如している。
縁故主義の傾向もある。トランプに近い個人や会社などの利益で動いているようにも見える。これがトランプの取引の実態であろうか。それは、決して成功しないし、米国を含め世界の人々の利益にもならないだろう>(以上「Wedge」より引用)
しかし、岡崎研究所が発表した「トランプが生み出す独裁国家・アメリカの未来…これで人口4倍の中国にどう対抗するのか?」と題する論評は何を云いたいのだろうか。トランプ氏は民主国家米国で、民主的な選挙で選ばれて大統領に就任した。あくまでも彼は米国の任期四年限りの大統領であって終身制の「独裁者」ではない。
しかし日本の権威あるシンクタンクがトランプ氏を「独裁者」と断じて論理を展開するとは異常事態だ。それは彼の政策遂行の手法が彼一人で気儘に決定し遂行しているように見えるからだろうか。だが、彼は政策遂行の結果責任を彼が負わなければならないことを知っている。
トランプ氏は米国の過去の大統領たちが営々として築き上げてきた米国の偉大さを梃子にして、関税政策という前近代的な政策で世界を従わせようとしている。実際に、米国の「偉大さ」に平伏して、多くの国が米国と不平等な貿易条約「トランプ関税協議」を次々と締結している。それは決して相手国政府と国民が納得したものではない。単に米国の恫喝と威圧を避けているに過ぎない。
だから米国の威圧が効果を失えば、世界各国は高関税国家・米国と手を切るだろう。米国と貿易を維持しなければ国家の存続が危うくなる国など世界に一つもない。ただ米国と巨額貿易取引をして来た国にとって、短期間で貿易相手国を変えるのが困難だから、当面はトランプ関税の威圧に屈しているだけだ。
それはコロナ禍で中国が世界のサプライチェーンのハブとしての立場を最大限利用して貿易取引相手国に威圧を掛けたのと酷似している。その結果はどうなったか。中国に企業進出させていた先進諸国の企業は先を争うかのように中国から撤退して行った。コロナ禍から二年と経たないうちに、中国は「世界の工場」から「世界の工場の廃墟」になってしまった。
中国はコロナ禍以前に不動産バブル崩壊が始まっていたが、外国企業の相次ぐ撤退により中国経済成長の巨大エンジンを失い、バブル崩壊と相俟って消費市場の縮小と金融崩壊とを同時に経験している。
トランプ氏は中国経済の現状をどのように見ているのか知らないが、米国経済は先進諸国の企業進出と国際分業によって成り立っている。つまり中国の「世界の工場」としての繁栄と、米国経済の繁栄はそれほど大きく変わらない。だからトランプ関税のショックを世界各国が吸収したなら、もはや米国との貿易をそれほど重視しなくなるだろう。
確かに米国の消費市場は巨大だが、高関税を支払ってまで取引するに値する市場かと云えば疑わしい。それは「世界の工場」としての魅力と、サプライチェーンを中国が国家戦略として利用するリスクとを天秤にかけた損得勘定から「撤退」を決断した先進諸国の企業群を他山の石としなければならない。
米国の消費市場という魅力とトランプ関税という不利益を天秤にかけて、いずれの損得を選択すべきかを対米貿易国が冷静に判断する日が来るだろう。その時になってトランプ氏が大慌てしても「時既に遅し」だ。現在の中国の深圳の状況をトランプ氏は見るべきだ。その光景が明日の米国の現実にならない保障はない。なぜなら高関税を課した重商主義で国家が繁栄した歴史は皆無だからだ。
トランプ関税に対して、政府ではなく企業が「劇的」な対策をしている。半導体業界の件については昨日のブログで書いた。トランプ氏がバイデン氏の始めた「Chips Act」を反故にしたため、世界の代表的な半導体製造企業が米国での企業展開を急遽取りやめて、世界の拠点を日本へ切り替えた。近未来の世界がAGIを中心に展開されると予想されるが、そのAGIの主役になる半導体製造とその情報拠点を握ることがどれほどの重要事か、トランプ氏は知らなかったようだ。
トランプ関税は勝利を収めつつあるように見えるが、それは一時的な「緊急避難」でしかない。トランプ氏が米国の自由世界に保障して来た「自由貿易」を根底から覆すことは、ついにできないだろう。関税合意は「一時的な緊急避難」でしかない。日本と米国の合意も「合意文書」が存在しないという。それは「口約束」でしかなく、いつ反故にしても双方が根拠ある反論をすることは出来ない。そして課される関税率15%以上の利益を貿易で確保する事など出来ない。つまり輸出入両国にとって高関税は何ら利益をもたらさない。だから重商主義は滅んだのだ。歴史に学ばない者は歴史によって裁かれる。トランプ関税の失敗後に、米国は備えるべきだ。国際的な信頼関係を損ね、国際戦略を無にしたトランプ関税が米国に何をもたらしたのか、その修復に米国が支払わされる代償の余りの大きさに卒倒しないように。