ロシア原油爆買いのインドを関税50%で制裁するトランプ氏。

<米国政府は8月27日からインドからの輸入品に対して関税を25%から50%に引き上げた。トランプ大統領が6日、インドによるロシア産原油の購入を理由に21日以内にインド製品への関税を25%から50%へと2倍に引き上げることを決定したことを踏まえての措置だ。
 関税引き上げが回避されるとの見方があったが、米国とインドの間の貿易協議自体が進展しなかったことが災いした。25日から29日にかけて予定されていた米通商交渉官によるインド訪問がキャンセルされるなど、両国の貿易交渉は暗礁に乗り上げている。

米国によるインドの農業分野の市場開放の要求が最大の障害だ。
 モディ首相は独立記念日にあたる15日に首都ニューデリーで演説し、「インドの農家、漁師、畜産農家に関する有害な政策に対し、壁のように立ちはだかる」と強調した。米国との関税交渉を念頭に農家の利益保護のために一切妥協しない姿勢を示した形だ。
 モディ氏が率いるインド人民党(BJP)は昨年の総選挙で議席を大幅に減らしているため、票田である農家・酪農家の利益を死守したいところだ。
 若年層の深刻な雇用状況も関係している。インドの人口は2023年4月に中国を抜き、世界最大となったが、雇用創出に問題を抱えているため、この強みを生かせないでいる。世界銀行によれば、全人口に占める労働力人口の比率の世界平均は約60%であるのに対し、インドは49%にとどまっている。
 モディ政権は雇用吸収力が大きい製造業の振興のために2020年以降、総額1.5兆ルピー(約2.6兆円)の補助金を支給している。だが、GDPに占める製造業の割合を25%に高める目標には遠く及ばない(2023年度時点の実績は14%)。
 このため、農業分野が若年層の雇用の受け皿となる状況が続いており、雇用環境のさらなる悪化につながる市場開放などもってのほかだ。
 ロシア産原油の購入をとがめられていることもインドとしては納得がいかないだろう。

米国の理不尽な対応に不満
 インドのジャイシャンカル外相は23日「中国や欧州連合(EU)などの他の主要な買い手にはインドに対するような懸念を示していない」と米国の対応を強く非難した。インドと同規模のロシア産原油を購入している中国や、ロシアとの貿易額がインドよりも大きいEUに対して、インドと同等の制裁を講じないのは理不尽に思える。
 ベッセント財務長官は「インドの石油企業が、安値で輸入したロシア産原油を精製して高値で売ることで暴利を得ていることに対する懲罰的措置だ」と説明している。だが、説得力に欠けると言わざるを得ない。
 8月22日付ニューズウィーク日本版は「トランプ氏のインドに対する個人的な恨みが原因だ」と解説している。トランプ氏は4月に起きたインドとパキスタンの小規模な武力衝突を停戦合意に導いたのは自分だと主張している。パキスタンはトランプ氏に感謝し、ノーベル平和賞への推薦までしたのに対し、インドはトランプ氏が仲介したという認識を頑なに否定した。
 インドの対応に「和平の担い手」を自認するトランプ氏の面目が潰され、今回の報復的な措置につながった可能性があるというのだ。
 MAGA支持層のインド嫌いも影響しているようだ。H-1B就労ビザを取得したインド人が米国人のハイテク技術職を大量に奪っているというのがその理由だ。
 一方、インドではマクドナルドやコカ・コーラなど米国製品の不買運動が起きており、長年にわたり良好だった両国関係は急速に冷え込んでいる感がある。
 米国に袖(そで)にされたインドは中国への接近を試みているが、うまくいかないだろう。
 ヒマラヤ地域の約3500kmの国境線はいまだ確定しておらず、中国によるチベット地域の巨大ダム建設計画もインドの神経を逆なでしているからだ。
 米中両大国の狭間で揺れているインドについて「地政学リスクが近年になく高まっている」との指摘も出ている。

インド経済に対する評価が一変
 トランプ関税がインド経済に与える打撃も心配だ。
 格付け企業ムーディーズ・レーティングスは8日「米国が課した50%の追加関税によりインドの製造業発展の取り組みが著しく損なわれる可能性がある」との見方を示した。
 深刻な打撃が予想される衣料業界は、高関税を回避する目的で周辺国に工場を移転させる動きを本格化させており、インドの若年層の雇用悪化がさらに進む可能性が高い。
 世界第3位の規模となった自動車市場にも暗い影が差している。     
 7月の乗用車販売台数(出荷ベース)は前年比0.2%減の約34万台と3カ月連続で前年割れとなった。先行き不安などから消費者の買い控えが響いたと言われている。
 トランプ関税の悪影響を緩和するため、モディ政権は消費税に相当する物品サービス税の大幅引き下げを検討しているが、これにより、高水準の政府債務(GDP比で約80%)がさらに悪化するリスクが生じている。
 金融関係者もインドに対する評価を一変させている。バンク・オブ・アメリカによれば、運用担当者の間で5月までアジア地域で最も評価が高かったインド株式市場は8月に入ると最下位に転落した。          
 日本では29日のモディ氏の来日を前にインド経済への期待が高まっている。日本政府は「今後10年間でインドに10兆円の投資を目指す」と表明することで日本企業のインド進出を後押しする構えだが、インド経済を巡る環境は激変している。
「転ばぬ先の杖」ではないが、インド経済の今後の動向について最大の関心を持って注視すべきだろう>(以上「JB press」より引用)




 インドが順調に経済成長して近い将来経済大国になるか、という問いに対して私は以前からかなり懐疑的だ。果たして藤 和彦(経済産業研究所コンサルティング・フェロー)氏も「泥沼化するトランプvsモディ、米政権との関係悪化でインド経済は大失速か」と題する論説を発表して、私と同様に懐疑的な見解を示した。
 なぜ懐疑的なのか。それはインド政府が余りに国際社会と距離を置き、協調性に欠けているからだ。国内では身分制度は廃止されたというが、未だにカースト制が強く残り階級間の軋轢が人材登用を硬直化させている。さらに社会インフラ整備も不十分で、インド各地を結ぶ道路網などが完備されてなく、内陸部の開発が進んでないことも挙げられる。その上、インド国内の南北格差も否定できなく、インドにはまずインド版「インド大陸改造計画」が必要だ。

 トランプ氏は何が何でもノーベル平和賞が欲しいようだ。だからインド-パキスタン紛争を調停したこともノーベル平和賞受賞のポイントに加算したいが、インド政府がトランプ氏の働きに感謝を表明していないことも気に入らないようだ。
 インドにとって何が不足しているのか。それは工業力であり製造業だ。GDPに占める製造業割合が14%と先進諸国の平均25%には遠く及ばない。そのため外国企業の進出を切望しているが、中国から撤退した外国企業はインドではなくベトナムやタイなどの東南アジアまで止まりで、インドへ進出している企業は数えるほどしかない。それはインド政府の企業誘致政策が外国企業に進出を決断させるほど積極的なものでないからではないか。そこはインド政府が反省すべき点ではないだろうか。

 しかしインド政府はトランプ関税50%を受け容れることは出来ないだろう。それはインド経済に対する死の宣告に等しいからだ。インドのGDPは産業部門別で見ると第三次産業が53.1%と過半数を占めており、中でも金融・不動産・専門サービスや情報通信、商業、運輸、ホテルなどが大きな割合を占めている。ちなみに第一次産業(農林水産): 16.1%. 第二次産業(鉱業、製造、建設、電力): 29.6%となっているが、第二次産業の内製造業は前述した通り14%でしかない。
 ただ需要項目別では、民間最終消費支出がGDP全体の約6割を占めており、成長を力強く牽引しているが、その反面貿易の比率を上げなければ成長を加速させることが出来ないのも確かだ。だから「金融関係者もインドに対する評価を一変させている。バンク・オブ・アメリカによれば、運用担当者の間で5月までアジア地域で最も評価が高かったインド株式市場は8月に入ると最下位に転落した」とあるように、トランプ関税50%に国際金融機関はマイナス反応を見せている。

 インドに石破政権は何と今後10年間で10兆円も投資すると約束した。しかし石破氏はインドの何に投資しようと云うのだろうか。石破氏は米国に80兆円もの投資を約束し、アフリカ会議へも8100億円もの投資を約束した。石破氏は日本国内投資よりも海外投資に躍起になっているが、その理由は何だろうか。彼にとってよほど美味しい実を海外投資の返礼として期待しているのだろうか。日本国内インフラが軒並み老朽化し、新規インフラ事業が圧倒的に不足しているにも拘らず、外国投資に熱心な石破自公政権は訝しさ満載だ。
 ともあれ、インド政府は目先の利益を負うのではなく、今後10年の経済計画を想定するなら、パキスタンとの紛争解決に対してトランプ氏に感謝の意を国際的に表明しても、損することは何もないだろう。なぜトランプ氏の機微を擽ろうとしないのだろうか。それでインド経済にプラスがあるなら、一国の指導者として「感謝の意」の表明くらいなんでも無いはずだ。

 インドは伝統的に非同盟、全方位外交を標榜している。 近年は日本・米国との関係を積極的に強化し、日米豪印を「自由で開かれたインド太平洋」を推進するものとして重視しているが、 その一方でロシアとの伝統的な友好関係を維持するという外から見れば「ご都合主義」とも取られかねない。そうした外交姿勢をいつまで続けるつものなのか。
 外国企業がインド進出を躊躇う理由の一つが「ご都合主義」にあるのも確かだ。これまで外国企業は中国で「ご都合主義」に散々振り回された苦い経験がある。外国企業経営者の信頼を獲得しない限り、インドは国際サプライチェーンのハブにはなり得ない。経済が成長してインド国民の所得が増えれば、国内産業基盤の脆弱さがインド経済のボトルネックになりかねない。気紛れで気難しいトランプ氏との付き合いが、インド政府の未来に対する試金石となるだろう。

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