重商主義の亡霊に憑りつかれた米国を、トヨタはデカップリングした。

〇様々な「嫌がらせ」に耐えて来たトヨタの歴史。
 トヨタのみならず、日本の自動車企業は対米輸出で様々な「嫌がらせ」に耐えてきた。先ずは米国の先進的な自動車企業の技術力に追いつくのが当面の課題として、米国の工業規格NHTSAが日本自動車企業の前に立ちはだかった。
 それを乗り越えて米国の自動車企業と対等の技術力を獲得して、米国市場に日本車が参入し始めると、米国連邦政府は新たに「排ガス規制」輸出障壁を持ち出した。代表的なのはマスキー法だ。その「排ガス規制」を乗り越えるために日本企業の技術者は死力を尽くした。やっとホンダ・シビックが独創的な燃焼システムの導入で乗り越えたのは象徴的だった。
 それ以後も厳しい排ガス規制を課せられ、トヨタは世界初のHVプリウスを投入した。それにより米国の厳しい排ガス規制を乗り越えた。そうすると、今度はプリウスが「暴走した」という事件が提起され、当時のトヨタ社長・豊田章男氏は米連邦議会の公聴会に引っ張り出された。そこで「欠陥車ではないか」という厳しい追及を受けたが、後に米国女性運転手の勘違いで、トヨタ車に欠陥は認められないという米国陸運省から報告が出た。しかし米国民のトヨタ車に対する信頼は落ちて、売り上げも減少する憂き目にあった。
 一次トランプ政権下で「米国ファースト」が叫ばれ、トヨタは米国内に製造工場を展開した。主要工場だけで米国トヨタ車販売の75%を供給する体制を確立し、テネシー州メンフィスに大型部品サプライ倉庫を建設した。そして全米にディーラー網を構築して、米国ユーザーへの迅速なサービスを提供できる体制を構築した。
 そうした努力をトヨタは積み重ねて、自動車米国販売でトップの地位を築いた。だが第二期トランプ政権が始まると再びトランプ関税を持ち出した。今度は25%という高い関税率を貿易輸入製品に課すとしたため、ついにトヨタは米国市場からの撤退を決断した。

〇トランプ関税に対するトヨタの回答。
 それは米国にとって国際的な地位を覆しかねない決定だ。端的に云えば、トヨタによる対米デカップリングだ。トヨタは何かと面倒な米国市場を捨てて、アジアおよび欧州でEV戦略を展開する決断をした。
 それはまさに対米デカップリングだ。トヨタは米国での自動車販売を諦めただけではない。米国でも生産を諦めたが、それだけではない。米国経由で欧州に輸出していた「米国型ロジスティック」の全面的な終了を決断した。
 トヨタは欧州への輸出の中継港をロスからムンバイに変更した。そうすると当然ながらFedEXなど米国の物流企業は不要になる。米国を経由しないでムンバイ経由で欧州へ輸出すると、期間が11日短縮され経費も14.2%削減される。
 それだけではない。米国市場を気にしなくて良くな。つまり型式認定でNHTSA基準を気にしなくて良くなる。それだけでなく米国各州で異なる安全基準などによる手直しなどをする必要がなくなり、効率化が一層進むことになる。今後は日本のJIS規格とECEの安全基準をベースに統一規格を形成して、それに従えば良いだけになる。
 さらにトヨタは現在AIなどの情報管理をAWSやgoogleなどの契約を打ち切り、代わりに東京、フランクフルトバンガロールにあるトヨタのサーバークラスタへ移行するという。それは世界中のトヨタ車から収集されるAI情報をトヨタが独占することになる。
 さらに代金決済でトヨタは米ドルを排除して、円決済割合を52%とし、ユーロ36%、シンガポールドル8%、その他4%として、米ドルはゼロにするという。従って、契約上でCiti Bank,JPMorgan,Bank of Americanなどは打ち切り、代わりに三菱UFJ銀行とドイツ銀行に移行する。

〇完全なる対米デカップリング
 トヨタの対米デカップリングは徹底している。前述した製造やロジスティックや金融決済だけではない。トヨタは自動車企業の心臓部というべき設計部門も米国からの撤退を進めている。2026年までに北米技術センターを全廃し、日本とドイツに統合する方針を出した。それに関係する全従業員3,200人に日本かドイツへの移動を選択させている。
 そこで開発するEVは日本と欧州向けであって、米国へは注文があれば輸出する、という体制にしている。設計は日本、試験はドイツ、製造はタイかインドになるという。データ処理はフランクフルトで、米国が関与する余地は何もない。
 部品メーカーもトヨタの企業戦略に従い、デンソーはカリフォルニア州の開発チームを半減し、アイシンは米現地法人の開発予算を35%削減するという。そうした措置は米国の「法的環境への絶望」から生まれた。つまり米国の特許への不安定性、データ共有の恣意的規制、そして州によって異なる車両規制など、米国は割に合わない市場になっていた。
 ちなみに2024年の地域別利益率は日本国内は7.6%,インド9.4%,欧州6.3%だったが米国は僅か2.1%だった。

〇AI言語は日本語として、米国製AIは採用しない。
 AIも米国から切り離して、自動車統合OSは日本語とする。従って年間1.8億ドルの米国ソフト企業との契約は打ち切る。もちろん技術主権の完全独立を目指すため、AWSやMicro Softとの契約ポートフォリオの見直しも行い、コードのレイヤーから米国を排除する。
 以上のような決定を、トランプ関税を25%から15%に合意した7月21日にトヨタは静かに公表した。しかし米国主要マスメディアも日本の主要マスメディアも、一切報じなかった。
 日本企業の「雄」トヨタは侍らしく、静かに、粛々と、行動した。製造ラインはすべて解体し主要機械は日本へ送る梱包を済ませ、全米トヨタ主要5工場をはじめ全ての工場は伽藍洞になっている。全米に構築したトヨタ・ディーラー網にも米国の契約に基づいてトヨタの撤退を通知した。もちろん米国現地従業員に対しては現地の雇用契約に基づいて全従業員8,100人の解雇とそれに伴う補償を完全に終えている。だから米国連邦政府はトヨタを非難することが出来なかった。

〇トヨタは米国の傍若無人な振る舞いを「敬遠」した。
 野球で「敬遠」と云えば打者と勝負しないでボールを4球続けることだが、本来の意味は「敬って遠ざける」ということだ。米国トランプ関税は余りに傍若無人な振る舞いだ。それは世界の自由貿易体制を破壊する乱暴極まりない暴挙だ。各国政府は米国の巨大な経済力と軍事力に恐れをなして、嫌々ながらも従おうとしている。しかしトヨタは我慢ならなかったようだ。いやトヨタだけではない。戦後日本企業の多くは米国の散々な振る舞いに辟易している。歴史を遡れば繊維交渉からニクソン・ショック、更にはプラザ合意や造船ドック制限や半導体戦争等々と、米国には煮え湯を飲まされ続けた歴史しかない。
 今回のトランプ関税は全世界各国に対する傲慢な振る舞いでしかない。戦後国際協調で築いて来た信頼による自由貿易体制を根底から破壊するものだ。そうした米国の横暴を避けるには米国と関わらないことだ。トヨタはそう判断し、米国を「敬遠」した。
 米国はトヨタ一社の特別な行動だと思わない方が良い。世界の企業はいつまでも米国の下に屈服してはいない。自由主義諸国の盟主を自認している米国が、重商主義の虜になっている。先進諸国は米国離れを加速するだろう。そうすると、米国はどうなるのか。気が付けば「裸の王様」だということにならなければ良いが。

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