トランプ関税を支払うのは米国民だ。

<まるでホラーだ。
 アメリカのドナルド・トランプ大統領が、4月2日、全世界への相互関税適用を発表し、大統領令に署名した。

まるで幼稚なパーティ?衝撃的すぎた相互関税発表舞台
 しかし、その記者会見のような場(ホワイトハウスのローズガーデン)は、まるで「幼稚園の学芸会で行われるご褒美の発表」のような雰囲気だった。閣僚や政権幹部へ「ねぎらいの言葉」をはさみながら、各国への相互関税を発表した。閣僚などの政権幹部は、これを歓声や口笛で陽気に称賛し、まるでパーティ、いやパーティそのものだった。
 これは、パーティか悪い冗談か夢か、ホラー映画の撮影現場か。いや、現実の世界経済で起きている「断末魔の進行過程のライブ中継」だ。
 執筆時点(日本時間3日朝)では、日本への追加税率が24%になったことも含め、予想をはるかに上回る広範囲の適用、高率の関税ということに衝撃を受けている人々がほとんどだ。
 だが、日本への影響、アメリカ経済への影響などを議論しているが、そんな細かいことはどうでもよくなるほどの衝撃を私に与えたのは、そのパーティのような雰囲気だった。
 誰一人、トランプ大統領に苦言を呈さない。それどころか、草野球の勝利を祝うような称賛の声ばかり。各国への関税をパネルにしたものをトランプ大統領に手渡すハワード・ラトニック商務長官の姿は、あたかも社内忘年会でビンゴゲームの景品リストを社長に渡す課長のようだった。
 これはなんだ?
 世界経済の終わりは、こんな学芸会、社内忘年会を盛り上げるための余興のために来てしまうのか。
 すでにこのコラムなどで「世界の終わりがトランプ大統領によってもたらされる」という予言をしてきた私にとってすら、これは自分の予想が大きく外れたことに愕然とした。
 つまり、世界の終わりは、J・D・ヴァンス副大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の喧嘩のように、衝撃的で劇的で、悲劇の取っ組み合いで起こるものだ。そのはずだ。しかし、まさか和やかな談笑の下に、ビンゴの景品としてもたらされるものだとは思いもよらなかった。まさに私は茫然自失となった。

皆が「世界の終わりの加速」を目の当たりにする
 しかし、気を取り直して、もう一度言おう。世界の終わりはまさに来た。2月にヴァンス副大統領によってもたらされ、その進行形の姿が4月2日、世界中に余興としてライブ中継されたのだ。この流れは止まるどころか、加速する。誰もが、間もなくそれが現実に形となって、社会経済、世界全体に広がっていくのを目の当たりにするだろう。
 それは、関税の規模の大きさとか、経済影響、GDPの減少幅、インフレ率の上昇とかいった問題ではない。まさにテレビタレントのトランプ大統領が、テレビ番組に出演していたときよりもさらに無邪気にまるでおもちゃの刀を振り回すかのように、真剣を振り回している。
 しかも、それを、閣僚たちがほほえましく見ている姿こそが、この流れを止める人は誰もいないことを明示している。それどころか、誰も止められず唖然としている間に災害は瞬く間に世界に広がり、茫然としたまま、世界経済が不況に突入していくことを明確に示している。
 現実的に振る舞おうとする経済ニュースに、解説者として呼ばれたある市場関係者は、マーケットはお先真っ暗みたいな反応をしているが、それは間違いで、関税にはプラスの面もあり、トータルで少しマイナスという程度だという。
 さらに、彼は短期投資家にとっては大変なことでも、長期投資家にとっては、問題は小さいし、むしろチャンスだとコメントした。アメリカの製造業は復活するし、アメリカ経済は長期的に見れば需要が増えて生産が伸びて強くなるとも言った。
 彼はいつもポジショントークで物事を語るから、私は驚くよりはまたかと呆れただけだが、それでも、日経平均株価が1日で2000円くらい下がったくらいでは、まったく足りないであろう。それは、市場関係者全員が、この事実を受け止められず、茫然としながら、売らざるをえないものを売り続けるだけで、一気に買いから売りに転換して、売りで儲けようという気力すら起きないほど、現実離れした出来事に立ちすくんでいるから、すぐには十分に下げず、今後、ずっと下がり続けることになるだろう。

「他国がお土産を渡して、相互関税撤回」とはならない
 プロの視点からみると、今後の焦点は、どこでトランプ大統領が方針を転換するか、そしていつ関税を撤回するか、ということだろう。
 おそらく、4月2日の相互関税発表で、トランプ大統領の自己陶酔に任せた「乱射」は一段落するのだろう。本人も達成感があるのではないか。
 今後は、勢いが止まり、別のことをし始めるかどうか。減税などへ向かうかどうか。まず、それが起こるかどうか。次に、そのタイミングである。
 同時に、関税も一度施行した後、実行したという実績を作った後、相手国、いやここではアメリカ以外の世界のすべての国が、何らかのお土産をアメリカに渡し終わった後、満足して相互関税などを撤回し、自分の実績として、アメリカに生産と労働を取り戻したとみなす時期はいつか、ということだろう。
 そのタイミングが早ければ、右往左往したが、実際の経済への実質的なダメージは少なく終わるかもしれない、という解説をする人々が出てくるだろう。
 しかし、それは間違いだ。不況への突入は、始まってしまったら止まらない。
 それは第1に、これまでの好景気がバブルだったからでありそれが失速する、第2に、株式市場の高騰による資産効果も逆回転し、直接的に不況を深刻化させる、第3に、アメリカでは輸入していたものをすぐにはほとんど作れないし、実は長期的にも、いくら作ろうとしても、もはや作れない。ノウハウも人材もなくなり、産業基盤はそう簡単に再構築できないからだ。
 これはすでに1970年代から少しずつ失われてきたのであり、バブル的な要素があるハイテクやサービスでぼろもうけするしかないアメリカの巨大企業には、まじめに製品を作る、あるいは誠実で妥当な価格のサービスを行うということはできなくなってしまっているからだ。不況はもう止まらないのであり、関税をいつ撤回してももはや遅いのである。

「脱アメリカ」で中国やアジア路線に戻るしかない?
 しかし、それよりもはるかに深刻なのは、アメリカ市場を中心に企業戦略を立ててきた世界中の有力企業が、「アメリカ市場はないもの」と思って、同国以外の世界だけでやっていけるように戦略を立て直すことだろう。もちろん、アメリカ国内に生産基盤を移す企業もあるだろう。だが、アメリカ以外に戦略転換する企業はそれよりはるかに多く、多数派となるであろう。
 そして、これは、中国をさらに強くする。それは自明の理だ。いまや、質の良い製品を作る拠点は中国、コストを安く作るなら、その周辺のアジア諸国というのが、世界の常識である。それがさらに加速する。なぜなら、市場として伸びているのは、世界ではアメリカとアジアだけだからだ。
 現時点でたとえ中国が弱っているとしても、国の規模は依然大きく、また復活してくれば、欧米諸国よりは高い経済成長の伸びとなるだろう。そして、その周辺のアジア諸国経済も伸びている。したがって、トータルで考えれば、アメリカよりも、もともとアジアなのである。中国を敵とみなして除外すればアメリカしかないが、「もはやアメリカは無理」となれば、中国およびアジアに戻らざるをえない。
 実際、この大チャンスをとらえて、中国は動いている。もともと経済不調、構造的転換期の危機を乗り越えるために、中国は少なくとも経済的には対外的にフレンドリーな動きをここ数年してきた。今回、習近平主席は世界中の巨大有力企業のトップを多数同時に北京に招き、大歓迎した。これは報道されているとおりである。もちろん日本のトヨタ自動車も日立製作所も、トップが行った。欧州も、ヴァンス副大統領の振る舞いで「アメリカからの離別」が感情的に決定し、今回の関税でビジネス的にもアメリカ離れ、アジア頼みとなっていく動きが出ている。
 日本も、もちろんこの流れに加わるべきである(外交的にも経済実利的にも)。だが国会では野党が「石破政権の対米対応は生ぬるい、もっとタフに交渉しろ」とか、逆に「もっとアメリカにちゃんとうまく取り入れ」、などといった間抜けな苦情を言っている。
 もはやそういう次元ではないのだ。トランプ大統領は演説の中で、「シンゾウはいい奴だった、素晴らしい、でも暗殺された」など、故・安倍晋三元首相に長時間言及し、それも絶賛し、「日本は友人だ、素晴らしい、でも関税は掛ける、コメは700%だ」などと言って、さらりと明るく「日本へは24%」と述べた。そういうことなのだ。仲よくしようが、取り入ろうが、関係ないのだ。
 ある意味、アメリカを見捨てて(100%捨てるわけではないが)、もはやアメリカは昔のよきアメリカではなく、対中も対米も、友人とか同盟とかいうことではなく、利害対立を腹に抱えた取引相手として対峙していかなければならないのだ。
 しかし、世界全体ではもはや策はない。本来ならば、アメリカに対して、ロシアへの経済制裁並みに、世界経済から排除するように世界で結束することが倫理的には正しい。
 だが、それは実現できないだろうから、ただただ、アメリカの「経済自爆テロ」を見ているしかない。最大国最強国の自爆テロだから、世界経済は不況に落ち込むだろう。そして、資本主義が終わり、新しい時代がくる。
「ある意味、将来必ず起こるべきことが、トランプ大統領の自爆テロによって、50年早く起きただけのことだ」と200年後の教科書には書かれることになるだけかもしれない。ただし、それが現在進行形で起きているときに、同時に生きていくのはなかなかつらいものとなるだろう。

トランプ大統領の顔が暗かったのはなぜなのか
 最後に。4月2日の1時間のパーティを見ていて、1つ気になったことがある。それは、トランプ大統領の下僕たちはにこやかに談笑しているのに、トランプ大統領自身の顔が暗いのだ。声にも張りはなく、疲れているのか、寂しそうな哀しい顔をしていたように見えた。
 これは何を意味するのか。達成感からの疲労か?それともこの世の終わりのボタンを押してしまったことへの諦念か?>(以上「東洋経済」より引用)




 トランプ関税に関する様々な論評が出されている。それらのすべてに目を通す暇はないが、特別に刺激的な題があったので小幡 績 ( 慶応義塾大学大学院教授)氏の「これはホラー映画ではなく現実の世紀末、「世界経済へのトランプ自爆テロ」で資本主義は終わり、新しい時代が来る」を取り上げた。
 小幡氏は読者を惹き付けるためか、ことさら刺激的な題を付した。だがまさか論評を書いた小幡氏本人がトラプ関税如きで「資本主義が終わる」とは考えていないだろう。つまりトランプ関税により資本の私有化による産業構造全体を指す社会が終わるとは、マトモな思考力のある者なら考えもしないはずだ。トランプ関税により世界の終焉が来るようなことは断じてない。ただトランプ氏の終焉が多少早まるだけだ。二期目が終わる前に中間選挙で共和党が大敗して、トランプ氏はホワイトハウスのニートとして残りの二年間を過ごすことになるだけだ。

 確かにWTOが目指す自由貿易体制の一部が終了することは考えられる。しかしそれですら米国を中心とする貿易の「自由度」が失われるだけだ。もちろん米国は世界最大の消費市場だから、それなりに影響は大きい。しかし対米輸出額が最大の中国ですら、中国の輸出総額に占める対米輸出は14.8%でしかない。大量の自動車を米国に輸出している日本ですら輸出に占める対米割合は2024年4月時点で約2割ほどだ。
 オールドメディアはトランプ関税24%で大騒ぎしているが、全貿易輸出額の2割ほどに影響が出るだけだ。しかも日本のGDPに占める貿易割合は14%ほどでしかない。つまり日本のGDPに対するトランプ関税がもたらす影響は14%の20%たから2,8%ほどだ。それが対米輸出がゼロになった場合に日本のGDPにもたらすマイナス効果だ。

 しかも先日示した2027年における日本のGDPに対するトランプ関税がもたらす影響は以下の図に通りプラスだ。
 上へ下への大騒ぎするほどの事ではない。ましてや資本主義が終焉するなどと、たとえ大袈裟な比喩にせよ、一人前の大人が「オオカミ少年」になってはいけない。
 さらに、米国を見捨てて途方に暮れる必要もない。なぜなら米国はトランプ氏の米国ではないからだ。トランプ氏は米国民に選ばれて4年間ほど米国の最高権力者の椅子に座っているだけだ。しかも彼の執行権をチェックする連邦議会が存在している。二年後の夏にトランプ関税は中間選挙の洗礼を受ける。おそらく発表した通りのトランプ関税を実施したなら、米国はインフレと不況の嵐に見舞われるだろう。

 関税引き上げてMAGAは実現できない。それは輸入を制限すれば国内産業が蘇生するだろう、という幻想でしかない。また米国製造業の多くが外国で製造していてることを考えると、「タコ足」状態になる可能性も否定できない。
 また外国の廉価な労働力で製造されたアパレル製品を米国内で製造して、果たしてトランプ関税を負荷した外国製のアパレル製品と価格競争できるだろうか。またトランプ関税を支払わされているのは米国の消費者だ、という事実に米国民が気付くのにそれほど時間はかからないだろう。こうした二重の意味で、トランプ関税は米国民から悪政の烙印を押されるだろう。

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