トランプ氏は米国を世界からデカップリングして、米国民をどうするつもりなのか。

<トランプ関税に対して、日本は特別扱いを求めるのでなく、EUやカナダと共同の論陣を張り、トランプ大統領に誤りを自覚させるべきだ。他方で、日本は、国内産のコメについての保護措置を見直す必要がある。

本格化した関税戦争
 トランプ政権は、3月12日に鉄鋼・アルミの追加関税を発動した。3月26日には自動車に対する25%の追加関税を発表し、4月3日に発動した。さらに、4月3日には、相互関税を発動した。
 これを受けた東京市場では、3月31日に日経平均株価の下げ幅が1500円を超えた。
 トランプ関税にどう対処するかが、日本経済と世界経済にとっての喫緊の課題となってきた。

第一期政権の関税とは異質で、はるかに破壊的
 第一次トランプ政権も、関税の引き上げを実施した。ただそれは、主として中国からの輸入に対するものであった。そして、この背後には、中国の台頭を許さないという世界戦略があった。
 そうした戦略の是非はさておくとして、躍進する中国の成長を見てアメリカが危機感を持ち、中国の成長を抑止しようとしたのは、理解できなくはない。
 しかし、今回のトランプ関税政策は、そうしたものとは、明確に異質のものだ。
 中国からの輸出に対してだけではなく、友好諸国からの輸入に対して高率の関税を賦課することによって、自由貿易体制を破壊しようとしている。その重大性は、第一次トランプ政権の関税政策とは比較にならないほど大きい。そして、それがもたらす深刻さも、比較にならないほど大きい。

日本だけの特別扱いを望むのは間違い
 トランプ政権のこのような動きに対して、日本政府はこれまでどのように対応してきたか?
 鉄鋼・アルミや自動車に対する追加関税については、日本政府は、日本を特別扱いにして除外してくれるよう、トランプ政権と交渉してきた。
 しかし、これは日本人が聞いても奇妙な対応だ。アメリカが日本だけを特別扱いしてくれる理由があるだろうか?
 アメリカがどうしても必要なもの、そしてアメリカが持っていないものを日本がアメリカに提供できるのであれば、それを用いて取引ができるだろう。だが、残念ながら日本はそうしたものを持っていない。だから、特別扱いしてもらえる可能性はないと考えるべきだろう。
 問題は、関税だけではない。防衛費負担についての要求も、これから出てくるだろう。そうした要求に対して日本はどう対応するのか? ひたすら特別扱いを求めるという対応しかできないのであれば、心もとないこと、この上ない。
 日本には、日米両国の立場から見て、あるいは世界経済全体から見て、何が望ましいかを正々堂々と主張するしか方法はない。
 EU(欧州連合)や中国などは、すでに、WTO(世界貿易機構)への提訴や、報復関税などの対抗措置を打ち出している。また、カナダのカーニー首相は、トランプ大統領に対して「断固たる措置をとる」と明言している。
 関税をめぐる多くの問題について、日本はこれらの国々と同じ立場にいる。したがって、これらの国々との共同戦線を作ることが必要だ。

トランプ大統領に誤りを自覚させる
 問題なのは、トランプ関税政策には、単純な認識の誤りや、とても実現しそうのない想定に基づいているものが多いことだ。
 例えば、仮に自動車に高率の関税を課したとしても、それによってアメリカ国内で自動車産業が復活することはありえない。そして、関税は、アメリカの消費者が負担することになる。これによって、アメリカ経済に大きな負担がかかる。このことを、トランプ大統領に納得させることが必要だ。
 実際、自動車関税の発表によって、日本の株価だけではなく、アメリカの株価も値下がりした。これは、自動車関税が日本に打撃を与えるだけでなく、アメリカの国民にダメージを与え、アメリカ経済に対して強い負の結果をもたらすと市場が認識しているからだ。
 誰もトランプ大統領に直言することはできないかもしれない。しかし、マーケットの宣告は、最終的な判断を下すことになるだろう。
 トランプ大統領が関税政策に固執し続ければ、事態はさらに悪化し、アメリカ経済が破綻することを、トランプ大統領に納得させることが最も重要なことだ。

日本に存在する貿易障害を除去する必要がある
 前項で述べたことは、とくに「相互関税」について重要だ。
 これは、相手国が関税障壁を設けていれば、アメリカもそれと同じ障壁を設けるというものだ。その際、関税だけでなく、その他の非関税障壁も問題とする。
 相互関税の概念について説明する3月11日の記者会見で、ホワイトハウスのレビット報道官は、日本の農産物の関税率が非常に高いとし、コメの関税率が700%だと述べた。同補佐官は、3月31日、再び、「日本はコメに700%の関税をかけている」と批判し、「(日本やEU、カナダなどの)国々は、あまりにも長い間、アメリカから利益を奪い続けてきた」と批判した。
 700%という数字については、農林水産省が2005年の世界貿易機関(WTO)交渉時に、関税額を税率に換算して、778%と説明した経緯がある。しかし、その時に比べれば現在の関税率は低くなっており、700%は間違いだ。しかし、そうであっても、コメの関税率は依然として高い。直近の実質関税率は400%強と言われている(「米政権『コメ関税700%』批判、日本は輸入枠拡大に警戒」日本経済新聞、3月12日)。
 日本は、一定量の米をミニマムアクセスとして無関税で輸入するが、この分は政府が管理して市場から隔離する。そして、それ以外の輸入には高率の関税をかける。こうした措置によって、日本国内のコメの市場を世界のコメ市場から切り離し、農林水産省による国内のコメ市場のコントロールを可能にしている。
 この結果、昨年秋の米不足や、その後の米価格の高騰といった問題が起きた。そして、それにもかかわらず政府備蓄米が大量に存在するという奇妙な事態が発生した。
 最近、政府備蓄米の放出が行なわれたが、米価にはほとんど影響を与えていない。そして、コメの価格は昨年の倍程度になっている。日本国内のコメの市場は、著しく歪んだものになっており、それによって日本の消費者が多大の負担を強いられていることは、間違いない事実だ。
 このような現状がある限り、日本がアメリカに対して自由貿易の必要性を説くことはできない。 
 日本がアメリカに自由貿易の重要性を説くのであれば、日本が率先して、現在の日本に存在する貿易障害を除去していく必要がある。それが、日本の消費者の立場から見ても望ましいことだ。
 トランプ大統領が仕掛けてきた関税戦争をきっかけに、真の意味での日本の貿易自由化が進めば、日本の消費者にとっては、「禍(わざわい)を転じて福となす」の実例となるだろう>(以上「現代ビジネス」より引用)




トランプ関税はアメリカ国民と経済を傷つける…!「いまこそ日本はEU・カナダと共同戦線を張るべき」といえる理由」と題して野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)氏がトランプ氏の関税引き上げについて論評している。
 野口氏は日本はEU・カナダと協力してトランプ氏に関税引き上げは米国にとっても、世界のいかなる国にも利益をもたらさない、と自覚させるべきだと主張する。確かにトランプ氏が一人で世界を相手に大立ち回りを演じているのだから、「それは愚かな行為ですよ」と諭すのが最も良いかも知れない。彼が学生だったなら。しかし経験豊かな老人が貿易相手国の言葉に耳を傾けるだろうか。

 トランプ氏はホワイトハウスに招いたゼレンスキー氏に「帰れ」と怒りを隠さなかった人物だ。彼が素直に他人の忠告に耳を傾けるとは思えない。彼は第一期目のトランプ氏とは別人になった。第一期目のトランプ氏は同盟国で形成される自由主義世界の守護神たろうとしていた。しかし第二期目のトランプ氏は米国だけの守護神になろうとしている。
 だから膨大な貿易赤字が米国内の雇用を奪いドルを弱体化させている、という論理で米国に輸出している相手国を経済「敵国」認定し、関税引き上げで貿易輸入量を制限すれば「敵国」から米国の企業と雇用を守ることが出来ると思い込んでしまった。

 米国は頑なにTPP(環太平洋経済連携協定)参加を拒否している。TPPはモノやサービスの自由な行き来を可能にし、関税の撤廃や削減、投資や知的財産権の保護などを行う。また貿易や投資の促進を目的として環境や労働の基準を低くしないことを約束する、というものだ。
 また貿易に関する国際的な取り決めとしてWTO(World Trade Organization)がある。1995年1月1日に設立され、2022年12月現在、164か国・地域が加盟している。その目的は自由貿易の促進、貿易の安定化、貿易障壁の削減・撤廃などで、貿易ルールを策定・運用、貿易紛争の解決、貿易政策の検討、新たな貿易課題への取り組みなどを目的としている。

 WTOではモノの貿易に関する「GATT」、サービスの貿易に関する「GATS」、知的財産権に関する「TRIPS」など、さまざまな分野の協定で構成されていて、WTOの意思決定はコンセンサス方式(すべての加盟国の合意)をとっており、一つの加盟国でも反対すれば残りのすべての加盟国が賛成しても決定しないことになっている。もちろん米国もWTO参加国の一つであって、トランプ氏の関税引き上げはWTOに反する。
 既に中国がトランプ関税の引き上げをWTOに提訴するとコメントしているし、EU諸国もそうした構えでいる。もちろん世界は米国一国だけの我儘が通用するはずもなく、たとえ世界の超大国だとしても、世界中が米国をデカップリングすれば米国は立ち行かなくなる。

 もちろんトランプ氏が米国のWTO参加を取りやめることも出来るが、それを米国民が容認するだろうか。WTOから離脱すれば、トランプ氏が「相互間税」を提唱して関税引き上げを一方的に宣言したトランプ関税も根拠を失うことになる。なぜなら世界各国は自由に関税を決めることになるからだ。
 現在、日本は米国製自動車に関税を全く掛けていない。対米国産自動車関税は0%だ。それに対して米国は日本製自動車に24%の関税を課すという。それも日本の食糧安全保障に大きく関係するコメに日本が400%の関税を課している、という事実を根拠として。

 世界が米国をデカップリングすれば米国は半導体を手に入れることが出来なくなる。EU諸国や日本の基地を米軍が利用できるのも、同盟関係があるからだ。貿易だけを同盟関係から切り離すことは出来ない。経済と軍事は緊密な関係にあるからだ。
 トランプ氏は世界から米国が孤立する事態を自ら招いたことに気付くべきだ。対中デカップリングの推進を取りやめて、自ら米国を世界から切り離す愚かさに、トランプ氏が一日も早く気付いて欲しいものだ。

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