誤った「米国ファースト」の関税引き上げがもたらすTrumpcessionにより中間選挙で共和党は大敗するだろう。
<マーケットを見ている人のほとんどが「こんなはずじゃなかった」とほぞを噛んでいるに違いない。特に、株式投資に関してはそうだ。2024年1月に新NISA(少額投資非課税制度)が始まって、株式・外貨運用を始めた人は多かった。11月のトランプ当選で、トランプトレードと楽観的なことを語っていた人は完全にはしごを外された。トランプ大統領の政策には失望を通り越して、怒りを感じる。これが正直な筆者の感情である。
しかし分析するときには、頭を冷やして考えなくてはいけない。どこかの時点でトランプ政策は転換されて、日米株価は上昇方向に転じるのではないか。その転換点はどの辺りにありそうか。そこをじっくり考えていこう。
まず、現在トランプ氏がやっていることは緊縮財政だ。完全転嫁されれば、トランプ関税は輸入品に消費税をかけるのと同じである。消費者は、消費税の増税分だけ購買力を失う。政府効率化省(DOGE)による政府機関のリストラは、政府支出をカットする歳出削減である。トランプ氏は、半導体の米国内製造支援を目的にバイデン前政権で成立したCHIPS・科学法などに従った補助金にも消極的だ。
幅広い分野で、財政発のデフレ圧力が高まりつつある。緊縮財政の方針を止めれば、米経済は持ち直すだろうが、このまま緊縮財政を続ければ、米経済はリセッション(景気後退)に突入する可能性がある。経済が壊れる手前で、一連の破壊活動にブレーキを踏めるかが焦点である。
<就任100日説>
1月20日に就任したトランプ大統領は、最初の100日で自身の積極性を示したい考えなのだろう。4月29日がその100日目になる。相互関税や自動車関税は4月2日を期日にしている。カナダ・メキシコへの関税も、一部の品目は4月4日まで適用除外にしている。一連の強硬措置は、「就任100日」のアピールの材料として使われている。トランプ氏は、3月9日のFOXニュースのインタビューで「過渡期だ」と述べていた。これは近い将来に、法人税減税や新しい歳出計画を打ち出すつもりで、今はその財源確保のために歳出見直しを大胆に行っているという意味に取れる。
4月30日から緊縮一辺倒の政策が大転換するというシナリオは、多分、楽観的すぎるだろう。しかし現行の法人税率の期限が25年末までという点を考えると、今年夏から秋くらいに法人税減税をどう拡充するかという議論になろう。そうすると、これまでのムードは変わることもあり得る。1つの目処は7月だ。トランプ氏は選挙戦で、中国に対して60%の追加関税をかける方針を示していた。2月4日に10%、3月4日に10%と追加関税が積み上げられており、このまま毎月10%追加でいけば7月4日に60%になる。7月4日は米国の独立記念日だ。
トランプ氏は1期目に法人税率を35%から15%まで引き下げようと試みたことがある。当時は共和党内にも反対があり、現在の21%になった。そこで今回の選挙中には、米国内で製造をする企業は15%に優遇すると言い方を修正した。法人税減税の延長論は、まだ具体的なことは明確にされていないが、何らかの拡充が予想できる。もちろん、株式市場はこの減税を好感するだろう。
<FRBの利下げ>
米株価は、トランプ関税によって景気がスタグフレーションに陥るという懸念から急落した。利下げが期待されていた連邦準備理事会(FRB)も、インフレを警戒して動けなくなる。株価は、利下げ予想が打ち砕かれることで下がったとも言える。
3月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、パウエル議長が知恵を絞った。トランプ関税はインフレ要因だとしても、一回引き上げられると値上げはそこで完了するから一時的な影響に止まると解釈した。そして、トランプ関税が引き上げられた後に、25年末までに2回の利下げ(合計マイナス0.50%ポイント)ができると目処を示した。「スタグフレーションだから利下げができない」のではなく、トランプ関税が上がり切ってしまえば、そこから利下げはできると見解を示した。
仮にトランプ関税が夏くらいまでに完全に実行されたならば、25年後半は景気を支えるために利下げに動くことができる。6月までに米経済が悪化する展開になっても、2回の利下げを3─4回へと増やせば景気てこ入れに柔軟に動くことができる。
米金融政策に絡んだ転換点は、やはりトランプ関税の打ち止めと重なることになると筆者はみている。そのタイミングを確定させることは、現時点では難しいが、25年央のどこかではないかと予想する。
<リスクの点検>
いや、トランプ発の相場下落はもっと慎重に判断すべきだという人も多いだろう。リスクシナリオの方をより綿密に点検しておいた方がよいという見解だ。筆者もそれを怠ってはいけないと思う。景気の歯車は一度狂ってしまうと、簡単には戻らない。
まず、トランプ関税がカナダ・メキシコに25%、中国に60%かかると、その増税圧力は個人消費に甚大な悪影響がある。トランプ政策を嫌って、海外企業は米国に工場をつくるどころか、直接投資を一斉に手控えることもあり得る。移民の流入が滞ると雇用拡大も足踏みして、成長できなくなる。政府機関のリストラは雇用マインドを悪化させ、個人消費をさらに下押しするだろう。
25年後半はこうした各種の悪材料が、企業業績を下方修正させるリスクがある。FRBは3月時点で、25年の実質成長率見通しを1.7%(12月2.1%)と下方修正した。もっと大きな下振れがあり得る。ウクライナ停戦はまだ課題が多く、ガザ地区へのイスラエルの攻撃再開も不透明要因だ。法人税減税があるとしても、26年以降では遅すぎる可能性がある。
筆者は、トランプ関税を強行するタイミングが延びれば、このリスクシナリオの可能性が高まるとみる。FRBの利下げ再開も当然遅れる。その意味で、就任100日での方針転換、7月での転換といった早いタイミングでトランプ氏が動かなければ、米経済の悪化は止まらない。楽観シナリオの蓋然(がいぜん)性は、4─7月くらいまでの見極めで見えてくるのではなかろうか。
トランプ氏の転換が遅れれば、その後のFRBの利下げはより大幅にならざるを得ない。為替レートになぞらえると、トランプ関税の強行やDOGEのアピールが4─7月まで長引くと、ドル安が進むシナリオになる。今のトランプ政策は、ドル安要因になる。方向転換を早く決めれば、ドル高要因という言い方もできる。このリスクシナリオは、日銀の金利正常化が短い期間で終わる、ということでもあろう>(以上「REUTERS」より引用)
「打ち砕かれたトランプ相場期待、政策と経済の転換点を考える」と出したコラムを熊野英生( 第一生命経済研究所 首席エコノミスト)氏が寄稿した。米国エコノミストの多くは「こんなはずではなかった」と臍をかんでいるという。
しかし分析するときには、頭を冷やして考えなくてはいけない。どこかの時点でトランプ政策は転換されて、日米株価は上昇方向に転じるのではないか。その転換点はどの辺りにありそうか。そこをじっくり考えていこう。
まず、現在トランプ氏がやっていることは緊縮財政だ。完全転嫁されれば、トランプ関税は輸入品に消費税をかけるのと同じである。消費者は、消費税の増税分だけ購買力を失う。政府効率化省(DOGE)による政府機関のリストラは、政府支出をカットする歳出削減である。トランプ氏は、半導体の米国内製造支援を目的にバイデン前政権で成立したCHIPS・科学法などに従った補助金にも消極的だ。
幅広い分野で、財政発のデフレ圧力が高まりつつある。緊縮財政の方針を止めれば、米経済は持ち直すだろうが、このまま緊縮財政を続ければ、米経済はリセッション(景気後退)に突入する可能性がある。経済が壊れる手前で、一連の破壊活動にブレーキを踏めるかが焦点である。
<就任100日説>
1月20日に就任したトランプ大統領は、最初の100日で自身の積極性を示したい考えなのだろう。4月29日がその100日目になる。相互関税や自動車関税は4月2日を期日にしている。カナダ・メキシコへの関税も、一部の品目は4月4日まで適用除外にしている。一連の強硬措置は、「就任100日」のアピールの材料として使われている。トランプ氏は、3月9日のFOXニュースのインタビューで「過渡期だ」と述べていた。これは近い将来に、法人税減税や新しい歳出計画を打ち出すつもりで、今はその財源確保のために歳出見直しを大胆に行っているという意味に取れる。
4月30日から緊縮一辺倒の政策が大転換するというシナリオは、多分、楽観的すぎるだろう。しかし現行の法人税率の期限が25年末までという点を考えると、今年夏から秋くらいに法人税減税をどう拡充するかという議論になろう。そうすると、これまでのムードは変わることもあり得る。1つの目処は7月だ。トランプ氏は選挙戦で、中国に対して60%の追加関税をかける方針を示していた。2月4日に10%、3月4日に10%と追加関税が積み上げられており、このまま毎月10%追加でいけば7月4日に60%になる。7月4日は米国の独立記念日だ。
トランプ氏は1期目に法人税率を35%から15%まで引き下げようと試みたことがある。当時は共和党内にも反対があり、現在の21%になった。そこで今回の選挙中には、米国内で製造をする企業は15%に優遇すると言い方を修正した。法人税減税の延長論は、まだ具体的なことは明確にされていないが、何らかの拡充が予想できる。もちろん、株式市場はこの減税を好感するだろう。
<FRBの利下げ>
米株価は、トランプ関税によって景気がスタグフレーションに陥るという懸念から急落した。利下げが期待されていた連邦準備理事会(FRB)も、インフレを警戒して動けなくなる。株価は、利下げ予想が打ち砕かれることで下がったとも言える。
3月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、パウエル議長が知恵を絞った。トランプ関税はインフレ要因だとしても、一回引き上げられると値上げはそこで完了するから一時的な影響に止まると解釈した。そして、トランプ関税が引き上げられた後に、25年末までに2回の利下げ(合計マイナス0.50%ポイント)ができると目処を示した。「スタグフレーションだから利下げができない」のではなく、トランプ関税が上がり切ってしまえば、そこから利下げはできると見解を示した。
仮にトランプ関税が夏くらいまでに完全に実行されたならば、25年後半は景気を支えるために利下げに動くことができる。6月までに米経済が悪化する展開になっても、2回の利下げを3─4回へと増やせば景気てこ入れに柔軟に動くことができる。
米金融政策に絡んだ転換点は、やはりトランプ関税の打ち止めと重なることになると筆者はみている。そのタイミングを確定させることは、現時点では難しいが、25年央のどこかではないかと予想する。
<リスクの点検>
いや、トランプ発の相場下落はもっと慎重に判断すべきだという人も多いだろう。リスクシナリオの方をより綿密に点検しておいた方がよいという見解だ。筆者もそれを怠ってはいけないと思う。景気の歯車は一度狂ってしまうと、簡単には戻らない。
まず、トランプ関税がカナダ・メキシコに25%、中国に60%かかると、その増税圧力は個人消費に甚大な悪影響がある。トランプ政策を嫌って、海外企業は米国に工場をつくるどころか、直接投資を一斉に手控えることもあり得る。移民の流入が滞ると雇用拡大も足踏みして、成長できなくなる。政府機関のリストラは雇用マインドを悪化させ、個人消費をさらに下押しするだろう。
25年後半はこうした各種の悪材料が、企業業績を下方修正させるリスクがある。FRBは3月時点で、25年の実質成長率見通しを1.7%(12月2.1%)と下方修正した。もっと大きな下振れがあり得る。ウクライナ停戦はまだ課題が多く、ガザ地区へのイスラエルの攻撃再開も不透明要因だ。法人税減税があるとしても、26年以降では遅すぎる可能性がある。
筆者は、トランプ関税を強行するタイミングが延びれば、このリスクシナリオの可能性が高まるとみる。FRBの利下げ再開も当然遅れる。その意味で、就任100日での方針転換、7月での転換といった早いタイミングでトランプ氏が動かなければ、米経済の悪化は止まらない。楽観シナリオの蓋然(がいぜん)性は、4─7月くらいまでの見極めで見えてくるのではなかろうか。
トランプ氏の転換が遅れれば、その後のFRBの利下げはより大幅にならざるを得ない。為替レートになぞらえると、トランプ関税の強行やDOGEのアピールが4─7月まで長引くと、ドル安が進むシナリオになる。今のトランプ政策は、ドル安要因になる。方向転換を早く決めれば、ドル高要因という言い方もできる。このリスクシナリオは、日銀の金利正常化が短い期間で終わる、ということでもあろう>(以上「REUTERS」より引用)
「打ち砕かれたトランプ相場期待、政策と経済の転換点を考える」と出したコラムを熊野英生( 第一生命経済研究所 首席エコノミスト)氏が寄稿した。米国エコノミストの多くは「こんなはずではなかった」と臍をかんでいるという。
それは「米国ファースト」を掲げるトランプ氏の関税政策により、国内製造業が活性化するとの見通しが外れつつあるからだ。しかし関税引き上げは米国だけが一方的に引き上げるのではない、相互関税と云って、関税を引き上げられた対米輸出国も米国から輸入している物品に関税を掛けるから経済的な±は輸入が多いだけ米国の消費者物価に跳ね返ってくる、というのは当然の理だ。
たとえば自動車にしても自動車部品の核心的な部品は日本からの輸入に頼っている。だから米国製自動車が一方的に関税を引き上げられた日本車より格安になるわけではない。しかもアルミや特殊金属などの多くは輸入している。それらも米国製自治同社製造には不可欠だ。もちろんリチウムイオン電池も大半を輸入している。
世界がこぞって保護貿易主義に回帰すれば、米国のー米国ファースト」の効果も減じられてしまう。世界中の貿易品価格が引き上げられることにより、世界各国はコストプッシュ・インフレに見舞われる。トランプ氏は米国内の景気を良くするためにFRBが金利引き下げ決定することを期待しているが、物価が上昇すれば金利を引き上げざるを得ない。トランプ氏が望んでいる方向とは逆に関税引き上げは作用する。
米国がTrumpcessionになれば米国企業が国内投資する意欲は衰える。もちろん外国企業もTrumpcessionに陥った米国内に工場移転を躊躇するだろう。やっと終息しかけたインフレが再燃して、米国個人消費はマイナスに触れる可能性が高い。
米国を除く先進自由主義諸国が、米国抜きの国際経済の構築に動けば、Trumpcessionはトランプ政権後も固定化されかねない。WTOの理念を無視して全ての輸入車に25%の関税を掛ける、というのは狂気じみている。何処の後進国かとトランプ氏の自由貿易に関する思考能力を疑う。そのようにして「保護」して再興したとして、米国自動車産業が国際競争力を持つとは到底思えない。なぜ米国車が国内でも世界でも売れないのか、その理由を関税に求めるのではなく、米国車の問題として解決策を米国自動車企業に求めるべきだ。
第一期にトランプ氏が仕掛けた貿易戦争を米国民及び自由主義世界が支持したのは「世界の工場」たる中国がサプライチェーンのハブを武器として先進自由主義諸国を恫喝したからだ。その中国を懲らしめるために対中デカップリングを先進自由主義諸国で一致協力して実施しよう、とトランプ氏が呼び掛け、それに先進自由主義諸国の大部分が応じた。その限りでは第一期のトランプ氏は世界超大国の大統領だった。
しかし二期目のトランプ氏は世界中の国に対してデカップリングを実施しようとしている。つまり、それは米国が自らを米国以外の世界からデカップリングすることだ。確かに米国は広大な国土を有するから全ての産品を自給できるかも知れない。しかし、そうするための莫大なコストを米国民は支払わされる。もちろんTrumpcessionは進行して不景気に見舞われ、コストプッシュ・インフレで物価高騰は避けられない。米国と米国民にとって、トランプ氏の関税政策は百害あって一利もない。そんなバカげた政策が米国民によって支持されるわけがない。二年後の中間選挙でトランプ氏が率いる共和党は大敗し、それ以後の二年間をトランプ氏はホワイトハウスに引き籠るしかなくなるだろう。