MAGAの幻想に酔い痴れたトランプの狂気じみた関税引き上げが習近平を助ける。

習近平政権、トランプに殴り返す
 トランプ政権は中国に対して第二弾の制裁関税を発動したが、習近平政権が強気に反撃して、アメリカから輸入される穀物などの農産物に報復関税が発動された。本来ならば、中国にとってアメリカは最重要な貿易黒字国であるため、報復関税を発動する代わりに、トランプに和解する姿勢をみせなければいけないはずだが、なぜ習近平政権はこんなに強気なのだろうか。
 それは中国人の気質と無関係ではない。その気質とは中国が大国であり、やられたらやり返すのは中国人の気骨のある対応であると思われている。トランプ政権一期目のときもトランプ政権に制裁され、習近平主席は「やられたらやりかえす、歯には歯」と繰り返して強調した。今も習近平政権の姿勢は基本的に変わっていない。
 そして、習近平政権が強気になれるのはそれ以外にも理由がある。習近平政権にとってもっとも都合の悪い貿易制裁のパターンは、TPPのような対中貿易制裁包囲網のようなものである。そうなると、中国は孤立してしまうからである。だからこそ中国政府は一貫して貿易紛争を多国間の枠組みに持ち込もうとする。
 トランプ政権二期目の関税戦法は手当たり次第に主要貿易相手国のすべてに対して制裁関税を課して、グローバルサプライチェーンをアメリカに集約することである。すなわち、これは中国の一国に照準を合わせた制裁措置ではないため、習近平政権にとっては怖くない。

世界の工場としての中国産業構造の強靭さ
 なぜ習近平政権にとって二期目のトランプ政権の関税戦争が怖くないのだろうか。要するに、トランプ政権は既存の国際分業体制を瞬時に取り壊している。国際社会に強く依存している国と地域の経済にとって深刻なダメージを与える可能性があるが、中国の産業構造はフルセット型のもので、トランプ関税から影響を受けるが、自力更生で生き延びれるため、予想以上に強靭的である。
 要するに、二期目のトランプ政権が行っているのは対中国制裁ではなくて、アメリカ第一主義を中心とする多国間関税戦争である。トランプからみると、不公平の関税をすべて正常化しないといけない。それは対中国だけでなく、対カナダ、メキシコ以外に、日本に対しても高関税を課す可能性がある。同時に、EU諸国との関税戦争も勃発している。
 実は、トランプの問題意識はすべて間違っているとはいえない。アメリカ一国で世界経済をけん引していく時代がすでに終わったかもしれない。問題は貿易相手国と話し合わずに、いきなり関税を課していることである。その結果、もともと信頼関係ができている同盟国もトランプ政権に対して不信にならざるを得なくなった。トランプ政権が発足して2か月しか経っていないが、国際社会の相互信頼が完全に壊れている。
 こうしたなかで、習近平政権はもともとトランプによって制裁されるのを知っていた。かなりの心の準備をしていたはずであり、しかも、当初、60%の関税を課すとトランプが言っていたため、現在、累計20%の追加関税しか課されていない。したがって、習近平政権においては、逆に余裕があるとみるべきである。
 トランプにとってカナダやメキシコに対して制裁関税を課すことでは、報復を食らってもそれほど怖くない。しかし、中国との関税戦争で、習近平政権はアメリカから輸入する農産物に関税を課しているため、トランプにとって痛手となる可能性が高い。なぜならば、農家の票を失うと、トランプの共和党は中間選挙で大敗を喫する可能性がある。そうすると、トランプ政権の後半の二年間は法案が通りにくくなる。

米中首脳会談が模索されるも対立がさらに激化
 米中関税戦争がまだ始まったばかりであるが、トランプ大統領にとって主要貿易国との全面戦争になっている。そのなかでとくに中国との関税戦争がこれ以上エスカレートすると、アメリカでインフレが再燃する可能性が高い。したがって、トランプ政権は習近平政権との対話を模索している。
 一方、習近平政権も本気でトランプ政権と関税戦争を深めたくないはずである。なぜならば、中国国内経済の回復が予想以上に遅れており、とくに失業率が高騰するなかで、デフレ進行が加速している。2025年2月、消費者物価指数はマイナスに転じ、生産者価格指数は一貫してマイナスで推移している。このままでは、中国経済は回復する可能性が低いだけでなく、トランプ政権との関税戦争により中国経済は一段と落ち込み、社会不安が深刻化する恐れがある。
 だからこそ米中は近いうちに首脳会談の実施を模索していると報じられている。トランプと習近平が直接会談すれば、さらなる関税引き上げの可能性は低くなる。ただし、トランプ政権は中国のハイテク企業に対する制裁をこのまま続けると思われる。トランプ政権が中国ハイテク企業に対する制裁を続けるのは中国が脅威とみなされているからである。これは関税とはまったく異なるカテゴリーの議論である。
 3月11日に閉幕した全人代で政府活動報告が採決され、大胆な景気対策を実施し、AIなどハイテク技術立国の基本方針が打ち出された。習近平政権にとっての難題は、国内経済についてストックの債務問題や国有銀行の不良債権問題などを急いで対処しないといけないことだ。
 同時に、いかに経済成長を押し上げるフローの問題も解決する必要がある。全人代開幕前に、習近平主席は主要大手民営企業の経営者たちを北京に呼び、意見交換を行った。しかし、これで民営企業がどこまで協力してくれるかは未知数である。そのうえ、トランプ政権との関税戦争は中国経済成長を立ちはだかる厚い壁になっている。ハイテク技術立国を掲げる習近平政権にとって、トランプ政権による中国ハイテク企業に対する制裁も中国経済回復を邪魔している。
 今後、習近平政権の戦略は対米依存度を徐々に低下させながら、グローバルサウスの国や地域との経済協力をより強化していくだろう。このように考えれば、習近平政権が発足した当初に考案された「一帯一路」イニシアティブは必ずしも間違っていないといえる。
 たとえば、アメリカから輸入する農産物(大豆とトウモロコシ)に報復関税を発動しているが、代わりに、ブラジルから代替輸入することができる。逆に、アメリカの農家は中国市場を失って、代わりのマーケットが見つからない。ポストトランプ政権になって、農産物の対中輸出が再開される可能性が出てくるが、それは4年後のことになる。
 結論的にいえば、トランプが仕掛けた関税戦争はまだ始まったばかりだが、その勝者と敗者がまだわからない。

日本はもっと正念場
 最後に、日本の通商戦略のあり方について述べておきたい。実は、今の日本経済は分水嶺に差し掛かっている。
 まず、脱デフレは道半ばにあるが、世界経済は後退局面にあり、日本経済も再度デフレに陥る可能性がある。
 そして、日本企業は中国市場に大きく依存しているが、中国企業の台頭により日本企業の価格競争力が減退しているだけでなく、EVなどの産業について技術競争力も失いつつある。
 さらに、トランプ政権に高関税が課される可能性が高く、日本企業の製品輸出の交易条件は一気に悪化する恐れがある。
 日本企業を取り巻く外部環境が複雑化するなかで、石破政権は十分に対策を練っていないようにみえる。それに大企業のサプライチェーンの最適化についても、決断が遅れている。日本経済にとってまさに正念場である>(以上「現代ビジネス」より引用)




 引用した柯 隆(東京財団政策研究所主席研究員・静岡県立大学グローバル地域センター特任教授)氏の「やられたらやり返す…!トランプ関税で中国の「景気後退懸念」が高まる中、習近平政権が「強気のワケ」」を一読して首を傾げざるを得ない。
 柯隆氏が描く中国はいつでも強大で、米国は常に政情不安定な輸入大国だ。しかし現実は全く異なる。たとえば外国移民が流入する国と国民が外国へ流出する国では、どちらが国力のある国なのか。答えは外国移民が流入する国の方が国力がある。

 それでは中国と米国の社会的移動を見て見ると、中国は富裕層が先を争って資産を持って外国へ脱出している。米国は50万人規模で不法移民を強制送還しなければならないほど移民が流入している。柯隆氏が「世界の工場としての中国産業構造の強靭さ」の章で中国の産業構造の強靭さを描いているが、その論理には無理がある。なぜなら中国では失業率が50%近くに達し、今年7月に卒業する新卒者の就職内定率は二月末現在で7.6%でしかない。
 ちなみに日本の三月卒業生の就職内定率は98.1%に達している。人手不足の状態で、企業経営者たちは外国人労働移民を政府に呼び掛けている。その日本貧困化しているのは労働分配率が低いからで、法人税を引き下げたため内部留保が異常に高いためだ。その傾向は米国でも顕著(むしろ「企業は株主のモノ」理論で内部留保を溜め込む元祖は米国だ)で、企業利益の労働分配率は極めて低い。

 何度も書いたが、中国経済は崩壊過程にある。中国も日本と同様の経済環境だと考えたら判断を誤る。中国最大の商都・上海ですら富裕層は影を潜め、個人消費は消え去って大型ショッピングモールだけでなく、個人商店が軒を連ねる商店街にも人影は疎らだ。オフィスビルの空室率は30%近くに達し、高架下には多くのホームレスが横たわっている。
 外国企業が進出して賑わっていた深圳もホームレスの群れが僅かな雇用に群がっている。広州では100万人規模の「反体制」を叫ぶデモが起きたとSNSに書き込まれたが、即座に削除され未確認情報のままだ。また未確認情報だが、海南島では警察隊とデモ隊が激しく衝突し、デモ隊が警察隊に糞尿を投げて抵抗したという。

 習近平中共政府が最も恐れるのは柯隆氏が引用論評の冒頭章で書いているように、第一期トランプ政権が実施した対中デカップリング策の復活だ。米国が対中関税だけを引き上げて、先進自由主義諸国に米国に倣えと号令を掛ける戦略に出れば中共政府は先進自由主義諸国を相手に対抗措置をしなければならなくなる。
 そうすると、中国はGDPを支える三本柱のすべてを失うことになり、経済は悲惨な状況となって中国は社会崩壊へと向かう。中共政府は瓦解へと向かわざるを得ず、習近平氏は国民に民主化を宣言して退陣の時期を明らかにせざるを得なくなる。そうしない限り、社会崩壊のベクトルが打倒中共政権へと向かい、中国共産党員が国民によって殺害されかねない。中共政府は民主化を約束して共産党の正当性を訴える選挙に臨まざるを得ないだろう。

 しかし「米国ファースト」の幻想の狂気に駆られたトランプ氏は世界中に関税で喧嘩を売って超大国・米国の指導力を自ら放棄してしまった。それは「習近平政権(敵)に塩を送る」ことでしかない。そんな簡単な政治力学すら分からないほど、トランプ氏はMAGAの幻想に酔い痴れてしまったようだ。

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