1991年に定められたウクライナ領土からロシア軍をすべて叩き出すまで停戦はあり得ない。
<欧州再軍備計画を発表
欧州諸国はいま、猛烈に軍国主義化しようとしている。3月6日に開催された臨時の欧州首脳会議(サミット)では、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長が発表した「欧州再軍備」(ReArm Europe)計画がおおむね採択された。
臨時サミット直前の4日、彼女は欧州の防衛費を8000億ユーロ(1ユーロ≒162円、以下同)規模に拡大するという、広範だが漠然とした提案を行っていた。そのなかには、より多くの武器や技術を購入するための1500億ユーロの融資プログラムも含まれていた。
同月19日になって、その「欧州再軍備」計画が公表された。これは、加盟国の防衛投資を支援するための具体的な法的・財政的手段を概説したもので、EU加盟国が迅速かつ大幅に防衛投資と防衛能力を向上させるための財政的手段を提供する野心的な防衛パッケージである。
期間は4年。この柱は、防衛投資のために最大8000億ユーロを動員するために、直ちに利用可能なあらゆる手段を活用することを目的としており、(1)国家レベルでの防衛に対する公的資金の利用を促進する、(2)欧州の安全保障のための新たな専用手段である「欧州安全保障措置」(SAFE)を通じて、共同調達による緊急かつ大規模な防衛投資を実施する、(3)欧州投資銀行(EIB)グループを活用し、貯蓄・投資同盟の加速化により民間資本を動員する――などから構成されている。
SAFEは、EU予算を担保に加盟国に最大1500億ユーロの融資を提供する新しいEUの金融手段である。これにより、加盟国は共同調達を通じて防衛能力の向上を図ることができる。
共同購入により、加盟国の軍隊の相互運用性が確保され、欧州の防衛産業にとって予測可能性が高まり、コストが削減され、欧州の防衛産業基盤を強化するために必要な規模が生まれる。
この新しい制度では、長期の融資(最長45年、元本返済猶予期間10年)が競争力のある価格で提供される。融資はEUの借り入れによって賄(まかな)われるため、EUの高い信用格付け、EU債券の高い流動性、EU発行に対する高い市場需要に起因する有利な融資条件の恩恵を受けることになる。
なお、EUは、英国がブリュッセルと安全保障に関する提携協定を結ばないかぎり、1500億ユーロにのぼる防衛基金から英国の兵器メーカーを除外するとしている(NYTを参照)。アナリストらは、トランプがEUに課すと公言している広範囲にわたる関税から英国を免除した場合、英国が橋渡し役を担うことはより難しくなると指摘している。
塩原俊彦(経済学者、元新聞記者)氏は軍需産業の生産拡大に動き出した欧州諸国を「「ロシアが侵攻してくる」と煽り軍国主義化に走る欧州の「怪」」と表現している。果たして軍国主義に走るのは欧州の「怪」なのだろうか。
欧州諸国はいま、猛烈に軍国主義化しようとしている。3月6日に開催された臨時の欧州首脳会議(サミット)では、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長が発表した「欧州再軍備」(ReArm Europe)計画がおおむね採択された。
臨時サミット直前の4日、彼女は欧州の防衛費を8000億ユーロ(1ユーロ≒162円、以下同)規模に拡大するという、広範だが漠然とした提案を行っていた。そのなかには、より多くの武器や技術を購入するための1500億ユーロの融資プログラムも含まれていた。
同月19日になって、その「欧州再軍備」計画が公表された。これは、加盟国の防衛投資を支援するための具体的な法的・財政的手段を概説したもので、EU加盟国が迅速かつ大幅に防衛投資と防衛能力を向上させるための財政的手段を提供する野心的な防衛パッケージである。
期間は4年。この柱は、防衛投資のために最大8000億ユーロを動員するために、直ちに利用可能なあらゆる手段を活用することを目的としており、(1)国家レベルでの防衛に対する公的資金の利用を促進する、(2)欧州の安全保障のための新たな専用手段である「欧州安全保障措置」(SAFE)を通じて、共同調達による緊急かつ大規模な防衛投資を実施する、(3)欧州投資銀行(EIB)グループを活用し、貯蓄・投資同盟の加速化により民間資本を動員する――などから構成されている。
SAFEは、EU予算を担保に加盟国に最大1500億ユーロの融資を提供する新しいEUの金融手段である。これにより、加盟国は共同調達を通じて防衛能力の向上を図ることができる。
共同購入により、加盟国の軍隊の相互運用性が確保され、欧州の防衛産業にとって予測可能性が高まり、コストが削減され、欧州の防衛産業基盤を強化するために必要な規模が生まれる。
この新しい制度では、長期の融資(最長45年、元本返済猶予期間10年)が競争力のある価格で提供される。融資はEUの借り入れによって賄(まかな)われるため、EUの高い信用格付け、EU債券の高い流動性、EU発行に対する高い市場需要に起因する有利な融資条件の恩恵を受けることになる。
なお、EUは、英国がブリュッセルと安全保障に関する提携協定を結ばないかぎり、1500億ユーロにのぼる防衛基金から英国の兵器メーカーを除外するとしている(NYTを参照)。アナリストらは、トランプがEUに課すと公言している広範囲にわたる関税から英国を免除した場合、英国が橋渡し役を担うことはより難しくなると指摘している。
ウクライナ支援を続ける欧州
欧州委員会は3月19日に、「欧州防衛共同白書」も公表した。「欧州の防衛を再建するには、まずに、長期間にわたる大規模な投資が必要である」として、欧州の防衛態勢を早急に強化する必要性が強調されている。遅くとも2030年までに欧州が強力かつ十分な欧州防衛体制を整えることをめざしている。
白書は、「欧州再軍備」計画の枠組みを提供し、欧州の防衛投資を一世代に一度の規模で急増させるべき理由を提示しているほか、欧州の防衛を再建し、ウクライナを支援し、重大な能力不足に対処し、強力で競争力のある防衛産業基盤を確立するために必要なステップを提示している。
とくに、「ウクライナへの支援は欧州の防衛にとって当面の最重要課題である」として、第5項目で、「ウクライナへの軍事的支援の強化」(「ヤマアラシ戦略」)が記述されている。
EUによる軍事支援およびその他の形でのウクライナへの支援の強化 長期的な安全保障保証の一環として、またウクライナへの軍事支援強化に関するEU上級代表のイニシアティブに沿って、EUおよびその加盟国は支援を行うべきであるとされている。
欧州委員会は3月19日に、「欧州防衛共同白書」も公表した。「欧州の防衛を再建するには、まずに、長期間にわたる大規模な投資が必要である」として、欧州の防衛態勢を早急に強化する必要性が強調されている。遅くとも2030年までに欧州が強力かつ十分な欧州防衛体制を整えることをめざしている。
白書は、「欧州再軍備」計画の枠組みを提供し、欧州の防衛投資を一世代に一度の規模で急増させるべき理由を提示しているほか、欧州の防衛を再建し、ウクライナを支援し、重大な能力不足に対処し、強力で競争力のある防衛産業基盤を確立するために必要なステップを提示している。
とくに、「ウクライナへの支援は欧州の防衛にとって当面の最重要課題である」として、第5項目で、「ウクライナへの軍事的支援の強化」(「ヤマアラシ戦略」)が記述されている。
EUによる軍事支援およびその他の形でのウクライナへの支援の強化 長期的な安全保障保証の一環として、またウクライナへの軍事支援強化に関するEU上級代表のイニシアティブに沿って、EUおよびその加盟国は支援を行うべきであるとされている。
ハンガリーが反対した欧州委員会
3月20日には、定例のEU首脳会議が開催された。こちらは、主にウクライナ支援について話し合われた。
その共同声明には、「欧州理事会は、ウクライナに関する最新の動向について議論した」とあるが、「『文書EUCO 11/25』に記載された文書は、26人の国家元首または政府首脳によって強く支持された」と記されているだけで、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が反対していたことがわかる。
「文書EUCO 11/25」には、「欧州理事会は、これまでの結論を想起し、ウクライナの国際的に承認された国境内の独立、主権、領土保全に対する揺るぎない継続的な支援を再確認する」とあり、「EUは『力による平和』アプローチを維持する」と宣言している。
このEUの強硬姿勢は、トランプがウクライナ戦争の停戦に向けた動きを積極化させている最中、欧州連合(EU)理事会が2月24日、ロシアに対する第16次制限パッケージの発効を発表したことにも現れている。
同じ日、ウクライナをめぐる米国と欧州の同盟国との対立が国連で繰り広げられた。米国は、ロシアの侵略を非難しつつも、ウクライナからのロシア軍の即時撤退を求める決議案に反対した。ウクライナ決議は賛成93カ国、反対18カ国、棄権65カ国で採択されたが、ウクライナ決議に反対票を投じた18カ国の中には、ロシア、米国、イスラエル、ハンガリー、ハイチ、ニカラグア、ニジェールが含まれていた。
きわめて重要なことは、このEUの姿勢は、ウクライナ戦争の継続を求めているのと同じだという点だ。3月18日のプーチンとトランプの電話会談後、プーチンがウクライナ紛争の激化を避けるための重要な条件として、外国からの軍事援助の停止とキエフへの情報提供停止を挙げたことがわかっているからである。EUがウクライナへの軍事支援をつづければ、それはイコール全面停戦の条件に適合しないことを意味するのだ。
3月20日には、定例のEU首脳会議が開催された。こちらは、主にウクライナ支援について話し合われた。
その共同声明には、「欧州理事会は、ウクライナに関する最新の動向について議論した」とあるが、「『文書EUCO 11/25』に記載された文書は、26人の国家元首または政府首脳によって強く支持された」と記されているだけで、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が反対していたことがわかる。
「文書EUCO 11/25」には、「欧州理事会は、これまでの結論を想起し、ウクライナの国際的に承認された国境内の独立、主権、領土保全に対する揺るぎない継続的な支援を再確認する」とあり、「EUは『力による平和』アプローチを維持する」と宣言している。
このEUの強硬姿勢は、トランプがウクライナ戦争の停戦に向けた動きを積極化させている最中、欧州連合(EU)理事会が2月24日、ロシアに対する第16次制限パッケージの発効を発表したことにも現れている。
同じ日、ウクライナをめぐる米国と欧州の同盟国との対立が国連で繰り広げられた。米国は、ロシアの侵略を非難しつつも、ウクライナからのロシア軍の即時撤退を求める決議案に反対した。ウクライナ決議は賛成93カ国、反対18カ国、棄権65カ国で採択されたが、ウクライナ決議に反対票を投じた18カ国の中には、ロシア、米国、イスラエル、ハンガリー、ハイチ、ニカラグア、ニジェールが含まれていた。
きわめて重要なことは、このEUの姿勢は、ウクライナ戦争の継続を求めているのと同じだという点だ。3月18日のプーチンとトランプの電話会談後、プーチンがウクライナ紛争の激化を避けるための重要な条件として、外国からの軍事援助の停止とキエフへの情報提供停止を挙げたことがわかっているからである。EUがウクライナへの軍事支援をつづければ、それはイコール全面停戦の条件に適合しないことを意味するのだ。
欧州の内部分裂が始まった
しかし、実際のウクライナへの軍事支援で、欧州は足並みはそろっていない。実は、3月20日の欧州サミットでは、ウクライナへの支援を継続することで合意したが、弾薬購入のためにキエフに50億ユーロを直ちに割り当てることについては合意できなかったのだ。
ブルームバーグによると、EU首脳が2025年、ウクライナに50億ユーロの弾薬を提供しようとしたが、フランスとイタリアによって阻止されたという。
欧州外交の責任者であるカラスは当初、2025年末までにウクライナに200億~400億ユーロを拠出することを提案していた。その際、経済規模に応じて各国が支援金を拠出する計画だった。この計画にはイタリア、フランス、スペイン、ポルトガルが反対し、その後、最大200万発の大口径弾薬の購入に50億ユーロを充てることを協議することになっていたのだが、これも失敗したのである。
どうやら、米国がウクライナ戦争の停止・和平を真剣に模索するなかで、EUないしNATOの加盟国間には意見の齟齬(そご)がみられるように思われる。
しかし、実際のウクライナへの軍事支援で、欧州は足並みはそろっていない。実は、3月20日の欧州サミットでは、ウクライナへの支援を継続することで合意したが、弾薬購入のためにキエフに50億ユーロを直ちに割り当てることについては合意できなかったのだ。
ブルームバーグによると、EU首脳が2025年、ウクライナに50億ユーロの弾薬を提供しようとしたが、フランスとイタリアによって阻止されたという。
欧州外交の責任者であるカラスは当初、2025年末までにウクライナに200億~400億ユーロを拠出することを提案していた。その際、経済規模に応じて各国が支援金を拠出する計画だった。この計画にはイタリア、フランス、スペイン、ポルトガルが反対し、その後、最大200万発の大口径弾薬の購入に50億ユーロを充てることを協議することになっていたのだが、これも失敗したのである。
どうやら、米国がウクライナ戦争の停止・和平を真剣に模索するなかで、EUないしNATOの加盟国間には意見の齟齬(そご)がみられるように思われる。
米軍4万人がドイツから撤退する?
このようにみてくると、第二期トランプ政権によるウクライナ戦争の停止・和平への積極姿勢への対応にあわてふためいている欧州の政治指導者の混乱ぶりがわかる。とくに、米軍の欧州におけるプレゼンスが今後、どうなるかを気にかけつつ、欧州独自の軍事大国化路線に舵を切ったように思われる。
欧州に駐留する米軍の数をみてみよう。図1にあるように、在欧州米軍の規模は2022年以降、約7万5000人から10万5000人の間で変動しており、約6万3000人が常駐し、他の部隊は交代で駐留している。
図1 欧州における米軍・現役勤務人員の推移(出所)https://www.washingtonpost.com/world/2025/03/02/us-troops-europe-trump-russia/
欧州のどこに米軍基地があるかを示したのが図2である。
このようにみてくると、第二期トランプ政権によるウクライナ戦争の停止・和平への積極姿勢への対応にあわてふためいている欧州の政治指導者の混乱ぶりがわかる。とくに、米軍の欧州におけるプレゼンスが今後、どうなるかを気にかけつつ、欧州独自の軍事大国化路線に舵を切ったように思われる。
欧州に駐留する米軍の数をみてみよう。図1にあるように、在欧州米軍の規模は2022年以降、約7万5000人から10万5000人の間で変動しており、約6万3000人が常駐し、他の部隊は交代で駐留している。
欧州のどこに米軍基地があるかを示したのが図2である。
とくに、ドイツには欧州最大の3万5000人以上の米軍兵士が、国内の多数の基地に駐留している。
今後、課題となるのは、ウクライナ戦争の停戦・和平の進展に合わせて、欧州に駐留させている米軍の撤退がどうなるかである。2022年のロシアのウクライナ侵攻後、バイデンが欧州に派遣した2万人のアメリカ軍を、トランプが撤退させることに同意するかどうかがポイントとなる。
国防費はGDP比2%では足りない
つぎに、欧州各国の国防費の対GNP比をみてみよう。それを示したのが図3である。先に紹介した欧州防衛共同白書には、「加盟国の国防費は2021年以降31%以上増加し、2024年にはEUのGDP合計の1.9%、3260億ユーロに達する」と書かれている。具体的には、防衛投資は2024年には前例のない1020億ユーロに達し、2021年のほぼ倍増となる。
しかし、「欧州の国防支出は米国をはるかに下回り、さらに懸念されるのはロシアや中国を下回っていることである」と指摘されている。だからこそ、「欧州の防衛力を再構築するには、官民を問わず、持続的な巨額の投資が必要である」としている。
トランプは最初の任期(2017年~2021年)で、他のNATO加盟国が2014年のロシアによるクリミア併合後に設定された目標であるGDPの2%以上に防衛費を増やさなければ、米国は「独自の道を歩む」と脅した。それ以降、NATO加盟国は前進し、加盟32カ国のうち23カ国が目標を達成している。しかし、もはやGDPの2%ではトランプは納得しないだろう。
欧州委員会の防衛・宇宙担当委員のアンドリュス・クビリュスは、インタビューのなかでつぎのようにのべている。
「現在、EU諸国は平均してGDPの約2%を費やしている。(欧州再武装計画のおかげで)国防費を3.5%まで増やすことができるだろう。これは第一段階である。6月にはNATO首脳会議が開催され、同様の数字が承認されるかもしれない。EU加盟国の中には、すでに4%以上の支出を行っている国もあり、5%を目指している国もある。これは自主的な決定であり、非常に重要なことである」
図3 欧州各国と米国の国防費の対GNP比(%)(備考)棒グラフの上段(グレー)は2021年、下段(ピンク)は2024年推定(出所)https://www.kommersant.ru/doc/7552418
現実をみると、欧州の軍国主義化にだれが賛成するのだろうか。図4に示されたように、欧州の主要国はこのところ、兵員数を逓減(ていげん)させてきた。こうした状況下で、国防費を増加しても、いったいだれがその国防費を使って国を守るのか、私には到底理解できない。
つぎに、欧州各国の国防費の対GNP比をみてみよう。それを示したのが図3である。先に紹介した欧州防衛共同白書には、「加盟国の国防費は2021年以降31%以上増加し、2024年にはEUのGDP合計の1.9%、3260億ユーロに達する」と書かれている。具体的には、防衛投資は2024年には前例のない1020億ユーロに達し、2021年のほぼ倍増となる。
しかし、「欧州の国防支出は米国をはるかに下回り、さらに懸念されるのはロシアや中国を下回っていることである」と指摘されている。だからこそ、「欧州の防衛力を再構築するには、官民を問わず、持続的な巨額の投資が必要である」としている。
トランプは最初の任期(2017年~2021年)で、他のNATO加盟国が2014年のロシアによるクリミア併合後に設定された目標であるGDPの2%以上に防衛費を増やさなければ、米国は「独自の道を歩む」と脅した。それ以降、NATO加盟国は前進し、加盟32カ国のうち23カ国が目標を達成している。しかし、もはやGDPの2%ではトランプは納得しないだろう。
欧州委員会の防衛・宇宙担当委員のアンドリュス・クビリュスは、インタビューのなかでつぎのようにのべている。
「現在、EU諸国は平均してGDPの約2%を費やしている。(欧州再武装計画のおかげで)国防費を3.5%まで増やすことができるだろう。これは第一段階である。6月にはNATO首脳会議が開催され、同様の数字が承認されるかもしれない。EU加盟国の中には、すでに4%以上の支出を行っている国もあり、5%を目指している国もある。これは自主的な決定であり、非常に重要なことである」
現実をみると、欧州の軍国主義化にだれが賛成するのだろうか。図4に示されたように、欧州の主要国はこのところ、兵員数を逓減(ていげん)させてきた。こうした状況下で、国防費を増加しても、いったいだれがその国防費を使って国を守るのか、私には到底理解できない。
ロシアの脅威を煽る欧州
最近、欧州の政治指導者のひどさを指摘してくれたのは、トランプ政権の中東担当特使で、ウクライナ戦争の停戦・和平協議にもかかわっているスティーブ・ウィトコフである。3月22日に公表されたテレビ司会者タッカー・カールソンとのインタビューのなかで、今後の欧州の安全保障上の出方を尋ねられて、彼はつぎのように語ったのである。
「まあ、スタンスと姿勢、そして状況を単純化することの組み合わせだと思う。私たちは皆、ウィンストン・チャーチルのようになるべきだという認識があると思う。そして、ロシアがヨーロッパに進軍するという認識もある。しかし、私はその意見は馬鹿げていると思う。第二次世界大戦中には存在しなかったNATOというものがある。」
この答えを受けて、カールソンが「ロシアがヨーロッパに進軍しようとしていると思うか?」と問うと、ウィトコフは「100%ノーだ」とのべた。さらに、カールソンは、「その通りだ! なぜそんなことをしたいと思うだろうか?」と問い詰めると、ウィトコフは「まず、なぜウクライナを吸収しようとするのか? 何のために?」とのべた後、つぎのように話した。
「(ロシアは)ウクライナを吸収する必要はない。ガザを占領するようなものだ。イスラエルはガザを占領できる。しかし、彼らはそうしない。彼らはガザの安定を望んでいる。ウクライナを占領する必要はない。彼らは五つの地域を取り戻した。クリミアを手に入れ、彼らが望んでいたものを手に入れた。それなのに、なぜもっと必要なのか?」
このウィトコフの発言からわかるように、ロシアが今後、NATO加盟国へ侵攻する可能性はゼロである。それにもかかわらず、ロシアの脅威を煽(あお)り、軍国主義化を急いでいるのがいまの欧州の政治指導者らであるように映る。それって、とてつもなく不可解なことではないか>(以上「現代ビジネス」より引用)
最近、欧州の政治指導者のひどさを指摘してくれたのは、トランプ政権の中東担当特使で、ウクライナ戦争の停戦・和平協議にもかかわっているスティーブ・ウィトコフである。3月22日に公表されたテレビ司会者タッカー・カールソンとのインタビューのなかで、今後の欧州の安全保障上の出方を尋ねられて、彼はつぎのように語ったのである。
「まあ、スタンスと姿勢、そして状況を単純化することの組み合わせだと思う。私たちは皆、ウィンストン・チャーチルのようになるべきだという認識があると思う。そして、ロシアがヨーロッパに進軍するという認識もある。しかし、私はその意見は馬鹿げていると思う。第二次世界大戦中には存在しなかったNATOというものがある。」
この答えを受けて、カールソンが「ロシアがヨーロッパに進軍しようとしていると思うか?」と問うと、ウィトコフは「100%ノーだ」とのべた。さらに、カールソンは、「その通りだ! なぜそんなことをしたいと思うだろうか?」と問い詰めると、ウィトコフは「まず、なぜウクライナを吸収しようとするのか? 何のために?」とのべた後、つぎのように話した。
「(ロシアは)ウクライナを吸収する必要はない。ガザを占領するようなものだ。イスラエルはガザを占領できる。しかし、彼らはそうしない。彼らはガザの安定を望んでいる。ウクライナを占領する必要はない。彼らは五つの地域を取り戻した。クリミアを手に入れ、彼らが望んでいたものを手に入れた。それなのに、なぜもっと必要なのか?」
このウィトコフの発言からわかるように、ロシアが今後、NATO加盟国へ侵攻する可能性はゼロである。それにもかかわらず、ロシアの脅威を煽(あお)り、軍国主義化を急いでいるのがいまの欧州の政治指導者らであるように映る。それって、とてつもなく不可解なことではないか>(以上「現代ビジネス」より引用)
塩原俊彦(経済学者、元新聞記者)氏は軍需産業の生産拡大に動き出した欧州諸国を「「ロシアが侵攻してくる」と煽り軍国主義化に走る欧州の「怪」」と表現している。果たして軍国主義に走るのは欧州の「怪」なのだろうか。
「怪」とは疑問に思われる、あやしむ、疑わしい。信用できない、という意味だが、塩原氏は欧州の「怪」とは如何なる意味なのだろうか。軍拡とは軍拡そのもので疑問に思うことはないし、その軍拡はロシアの軍事侵攻に備える、という意味では「怪しい」ことは何もない。ましてや「信用できない」という意味では何も説明できない。つまり「怪」と思うべきはプーチンの野心ではないか。
最終章でテレビ司会者タッカー・カールソンのインタビューに対するトランプ政権の中東担当特使で、ウクライナ戦争の停戦・和平協議にもかかわっているスティーブ・ウィトコフの回答が掲載されている。それを見ると「カールソンが「ロシアがヨーロッパに進軍しようとしていると思うか?」と問うと、ウィトコフは「100%ノーだ」とのべた」という。
さらに「ウィトコフは「まず、なぜウクライナを吸収しようとするのか? 何のために?」とのべた後、つぎのように話した。「(ロシアは)ウクライナを吸収する必要はない。ガザを占領するようなものだ。イスラエルはガザを占領できる。しかし、彼らはそうしない。彼らはガザの安定を望んでいる。ウクライナを占領する必要はない。彼らは五つの地域を取り戻した。クリミアを手に入れ、彼らが望んでいたものを手に入れた。それなのに、なぜもっと必要なのか?」」と反問したようだ。
しかしタッカー・カールソン氏もスティーブ・ウィトコフ氏も米国人の常識でプーチンを評している。だがどうやら彼らはロシアの独裁者・プーチンの狂気じみた常識を知らないようだ。プーチンの常識は米国人の常識よりも、かつての独裁者・ヒトラーの常識に近い。だからヒトラーがオーストリアとズデーデン地方の併合で満足しないで欧州諸国との全面戦争へ突入した「常識」を想定すべきだ。
現に、プーチンはウクライナ全土の占領を停戦条件だと意思表明したではないか。それはウクライナ全土を手に入れたなら、次はポーランドだと云っているのと同じだ。つまり全欧州をプーチンの支配下に置かない限り彼の野心は尽きない。そうした独裁者の常識を知っているからこそ、欧州諸国はトランプ氏の米国が当てにならないため軍備増強に踏み切ったのだ。
塩原氏は「ウィトコフの発言からわかるように、ロシアが今後、NATO加盟国へ侵攻する可能性はゼロである。それにもかかわらず、ロシアの脅威を煽(あお)り、軍国主義化を急いでいるのがいまの欧州の政治指導者らであるように映る。それって、とてつもなく不可解なことではないか」と結んでいるが、それこそトランプ氏を現代のチェンバレンにするものだ。
プーチンがNATO加盟国へ侵攻する可能性はゼロなら、プーチンが現在ロシア占領下の東部ウクライナの版図を保証されれば、ウクライナのNATO加盟を容認して良いはずではないか。しかしプーチンはウクライナ全土の占領を目指しているし、次は「もっと周到に準備して」欧州のNATO諸国へ侵攻するだろう。プーチンの狂気じみた常識を知らなければならない。その格好の手本である先の大戦前夜のヒトラーの常識を学習すれば良い。