イランの民主化を望む。
<<イランと「抵抗の枢軸」が弱体化し、第2期トランプ政権が登場することで、新たな秩序が生まれる可能性も出てきた>
パレスチナ自治区ガザとレバノンでの紛争、イスラエルとイランの直接的な武力の応酬を考えると、2025年の中東に明るい展望を思い描くのは難しいように思える。ドナルド・トランプのホワイトハウス復帰で不確実性は増すばかりだと、多くの観測筋は言う。だが私は、新しい前向きな連携が生まれる可能性を考えている。
パレスチナ人がガザで経験した壊滅的な損失や、ベイルート南部を含むレバノンの一部における破壊を否定したり無視したりするつもりはない。あるいはパレスチナのイスラム組織ハマスの奇襲テロ攻撃を受けた2023年10月7日のような弱みは二度と見せないというイスラエル(右派以外も含む)の決意をないがしろにするものでもない。
平和の創造に取り組むべき人々は今や信頼を失っている。それも当然だ。しかし、平和創造はおそらく2025年の目標としては現実的ではない。むしろ現在進行中の紛争の終結と、安定と安全保障のための基盤構築に焦点を絞るべきだ。
ハマスによる10月7日のテロ攻撃と、その翌日にレバノン南部のイスラム教シーア派組織ヒズボラがイスラエル北部に向けて発射した大量のロケット弾はイスラエルによる軍事行動の引き金となり、大きな損害を出したが、同時にハマスとヒズボラを一気に弱体化させた。両組織の最高指導者ヤヒヤ・シンワールとハッサン・ナスララ、そして幹部の大半が今はこの世にいない。
組織としてのハマスはまだ存在しているが、軍事力はもうない。まだ数千人が武器を持ち、2~3人の小集団が局地的な抵抗を見せる可能性はあるが、軍事力と軍事的インフラ(武器庫、研究所、生産施設)の大半は消滅した。地下トンネルの半分以上は破壊され、ガザの住民感情は反ハマスに傾いた。最近のある世論調査によれば、ハマスのガザ支配が続くことを望む声はわずか7%だ。
さらにガザにおけるイスラム法学の最高権威サルマン・アッダヤは、この壊滅的な戦争を引き起こしたハマスを批判するファトワ(宗教令)を出している。大量の死と破壊をもたらす可能性が高いことを知りながらテロ攻撃を実行したハマスは、「聖戦に関するイスラムの原則に違反した」と、アッダヤは指摘した。
ハマスに対する人々の怒りとアッダヤのファトワは、ガザ住民が戦争終結を望み、アラブ諸国も参加する国際的連合が監督する暫定統治を歓迎する可能性が高いことを示している。アラブ首長国連邦(UAE)は既に、ガザの行政と復興の監督、法と秩序の確保、密輸防止、そして抜本的な改革を実行したパレスチナ自治政府の下での「パレスチナ人による統治」に向けた暫定的取り決めへの参加を表明している。
ハマスの軍事力が破壊され、再建が不可能になりつつある今、ガザにおけるハマス支配に代わる選択肢が25年中に現実のものとなる可能性はある。そして弱体化したのはハマスだけではない。
イランの代理勢力として最も重要なヒズボラは、シリアでイランの遊撃部隊として行動し、イスラエルによるイランの核関連施設攻撃に対する抑止力として15万発のロケット弾を誇示してきた。だが、その抑止力も今や消滅したも同然だ。
イスラエルのヨアブ・ガラント前国防相によれば、ヒズボラはロケット弾のおよそ80%を失った。イスラエルはヒズボラ指導部の多くを殺害し、指揮管理系統を破壊し、通信手段を混乱させ、レバノン国内での立場を弱体化させた。
少なくともイラン主導の「抵抗の枢軸」は深刻な打撃を受けた、イスラエルによる防空・ミサイル防衛システムの破壊で痛手を被ったイラン本国も同様だ。そのため最高指導者アリ・ハメネイ師に助言する立場のカマル・ハラジ元外相など、イランの有力者の一部は抑止力強化のための核武装を口にし始めた。
だがトランプの政権復帰が決まった今、それは極めて危険だ。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は既に、イランの核開発計画についてトランプと話し、「完全な意見の一致」を見たと語っている。
トランプは戦争を終わらせるとアピールしている。そのためアメリカが直接関与するよりも、ネタニヤフにイランの核関連施設を破壊する許可を与え、必要な手段を提供することを選ぶのではないかと考える。
トランプの対イラン政策は「最大限の圧力」であり、目的は必ずしも体制変革ではなく行動を変えることだ。イスラエルの軍事力による威嚇とイラン産原油への制裁強化を通じて、新たな核合意の可能性を探るシナリオは十分にあり得る。イランとのディール(取引)は第2期政権の目標の1つだと、トランプは繰り返し発言している。
確かにトランプ政権1期目には、イランはトランプとの取引に応じる意思をほとんど見せなかった。トランプの最大限の圧力に、イランは最大限の抵抗で答えた。サウジアラビアの最も重要な石油施設を攻撃し、自国が支援するイエメンのイスラム教武装組織フーシ派にもサウジアラビアへのミサイル攻撃を実施させた。業を煮やしたトランプは、イラン革命防衛隊の精鋭部隊を率いるガセム・ソレイマニの殺害を命じた。
以後イランは慎重になり、1期目のトランプ政権が終わるまでは、核開発の推進や代理勢力を使ったイラクとシリアの駐留米軍への攻撃強化を見合わせた。そして2期目のトランプ政権が発足しようとしている今、イランの代理勢力はトランプ1期目と比べ大幅に弱体化している。
イランは2期目のトランプとの取引に応じるだろうか。ハメネイは常々アメリカはイランの譲歩だけでは満足せず、イランの現体制を倒そうとしていると述べているから、現時点では取引成立は望み薄なようだ。
だがハメネイが何より重視しているのはイランの現体制の存続であり、それが脅かされれば戦術的な調整も行う。それゆえイランがトランプと交渉を行うため、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に仲介を頼んだとしても、特段驚きはない。交渉が実現するか、実現しても実りのある内容になるかは分からないが、交渉が行われる可能性は排除できない。
たとえ交渉が実現しなくとも、「抵抗の枢軸」が弱まり、中東における力の均衡が変化しつつある今、この地域の国々および諸勢力の相互関係が変化する可能性はある。米中央軍(CENTCOM)は既に中東における防空・ミサイル防衛協力の枠組みづくりに成功している。この枠組みにはサウジアラビアを含むアメリカと同盟関係にある全てのアラブ諸国に加え、イスラエルも参加している。トランプ政権1期目には中東版NATOの創設案が議論されていたことも思い出してほしい。
地域の防衛協力強化の流れは今後も続くだろう。2期目のトランプ政権はより広範な経済協力の枠組み構築(1期目にトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーが主導していた構想だ)も推進するだろう。
トランプは、アブラハム合意の拡大にも意欲を見せている。これはUAEを皮切りにアラブ諸国などが次々にイスラエルと結んだ国交正常化の合意で、トランプはサウジアラビアにもイスラエルと国交を結ばせたいと考えている。
サウジアラビアはバイデン政権に対しイスラエルとの国交正常化の条件として、自国とアメリカとの2国間防衛協定の締結と、パレスチナ国家樹立に向けて米政府が確実に道筋をつけることを挙げた。問題はトランプがこの要求を満たせるかだ。防衛協定の締結には議会の承認が必要だし、ネタニヤフは政権内の極右の反発を恐れ、パレスチナ国家との共存の可能性を頑強に拒否している。
いずれにせよサウジアラビアはガザ戦争が続いている限り、イスラエルとの関係を正常化しないだろう。イスラエル軍は残る人質の解放のためにも停戦交渉を進めたいようだ。ネタニヤフの考えは分からないが、トランプは自分が就任するまでに戦闘が終息していることを望むとネタニヤフに言い渡したので、停戦に向けて重い腰を上げるかもしれない。
要は、サウジアラビアとイスラエルが国交を正常化すれば、中東情勢は一変する、ということだ。バイデンが残された時間でその課題を達成できなければ、就任1年目にトランプが達成を目指すだろう。たとえ達成できなくとも、イスラエルがヒズボラとハマスを大幅に弱体化させ、イランの影響力も低下した今、和平の実現はともあれ、中東の安定化が進む条件は整っている。
トランプ政権がサウジアラビアとイスラエルの関係改善を仲介したいなら、ヨルダン川西岸の入植地建設を進め、パレスチナ自治政府の崩壊を狙うネタニヤフ政権内の極右の動きに待ったをかける必要がある。同時に、機能不全に陥っているパレスチナ自治政府に改革を進めるよう強く働きかける必要もある。今ならサウジアラビアやUAEも改革推進の圧力をかけてくれるだろう。
直感に反するにせよ、2025年は中東情勢は安定に向かう可能性がある。もちろん、そこは中東のこと。物事はたいがい裏目に出る。イランは地域大国の座を取り戻そうと、核保有を急ぐかもしれない。ガザ戦争は終わらないかもしれず、フーシ派は海賊行為を続けるかもしれない。悪いカードを探せばキリがないが、トランプ率いる次期政権には挑戦のチャンスが与えられている。
イランの影響力低下をテコに中東の安定化を推進できるかどうか。それがこの政権の外交力を試す初期の最大のテストの1つとなる>(以上「Newsweek」より引用)
パレスチナ自治区ガザとレバノンでの紛争、イスラエルとイランの直接的な武力の応酬を考えると、2025年の中東に明るい展望を思い描くのは難しいように思える。ドナルド・トランプのホワイトハウス復帰で不確実性は増すばかりだと、多くの観測筋は言う。だが私は、新しい前向きな連携が生まれる可能性を考えている。
パレスチナ人がガザで経験した壊滅的な損失や、ベイルート南部を含むレバノンの一部における破壊を否定したり無視したりするつもりはない。あるいはパレスチナのイスラム組織ハマスの奇襲テロ攻撃を受けた2023年10月7日のような弱みは二度と見せないというイスラエル(右派以外も含む)の決意をないがしろにするものでもない。
平和の創造に取り組むべき人々は今や信頼を失っている。それも当然だ。しかし、平和創造はおそらく2025年の目標としては現実的ではない。むしろ現在進行中の紛争の終結と、安定と安全保障のための基盤構築に焦点を絞るべきだ。
ハマスによる10月7日のテロ攻撃と、その翌日にレバノン南部のイスラム教シーア派組織ヒズボラがイスラエル北部に向けて発射した大量のロケット弾はイスラエルによる軍事行動の引き金となり、大きな損害を出したが、同時にハマスとヒズボラを一気に弱体化させた。両組織の最高指導者ヤヒヤ・シンワールとハッサン・ナスララ、そして幹部の大半が今はこの世にいない。
組織としてのハマスはまだ存在しているが、軍事力はもうない。まだ数千人が武器を持ち、2~3人の小集団が局地的な抵抗を見せる可能性はあるが、軍事力と軍事的インフラ(武器庫、研究所、生産施設)の大半は消滅した。地下トンネルの半分以上は破壊され、ガザの住民感情は反ハマスに傾いた。最近のある世論調査によれば、ハマスのガザ支配が続くことを望む声はわずか7%だ。
さらにガザにおけるイスラム法学の最高権威サルマン・アッダヤは、この壊滅的な戦争を引き起こしたハマスを批判するファトワ(宗教令)を出している。大量の死と破壊をもたらす可能性が高いことを知りながらテロ攻撃を実行したハマスは、「聖戦に関するイスラムの原則に違反した」と、アッダヤは指摘した。
ハマスに対する人々の怒りとアッダヤのファトワは、ガザ住民が戦争終結を望み、アラブ諸国も参加する国際的連合が監督する暫定統治を歓迎する可能性が高いことを示している。アラブ首長国連邦(UAE)は既に、ガザの行政と復興の監督、法と秩序の確保、密輸防止、そして抜本的な改革を実行したパレスチナ自治政府の下での「パレスチナ人による統治」に向けた暫定的取り決めへの参加を表明している。
ハマスの軍事力が破壊され、再建が不可能になりつつある今、ガザにおけるハマス支配に代わる選択肢が25年中に現実のものとなる可能性はある。そして弱体化したのはハマスだけではない。
イランの代理勢力として最も重要なヒズボラは、シリアでイランの遊撃部隊として行動し、イスラエルによるイランの核関連施設攻撃に対する抑止力として15万発のロケット弾を誇示してきた。だが、その抑止力も今や消滅したも同然だ。
イスラエルのヨアブ・ガラント前国防相によれば、ヒズボラはロケット弾のおよそ80%を失った。イスラエルはヒズボラ指導部の多くを殺害し、指揮管理系統を破壊し、通信手段を混乱させ、レバノン国内での立場を弱体化させた。
少なくともイラン主導の「抵抗の枢軸」は深刻な打撃を受けた、イスラエルによる防空・ミサイル防衛システムの破壊で痛手を被ったイラン本国も同様だ。そのため最高指導者アリ・ハメネイ師に助言する立場のカマル・ハラジ元外相など、イランの有力者の一部は抑止力強化のための核武装を口にし始めた。
だがトランプの政権復帰が決まった今、それは極めて危険だ。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は既に、イランの核開発計画についてトランプと話し、「完全な意見の一致」を見たと語っている。
トランプは戦争を終わらせるとアピールしている。そのためアメリカが直接関与するよりも、ネタニヤフにイランの核関連施設を破壊する許可を与え、必要な手段を提供することを選ぶのではないかと考える。
トランプの対イラン政策は「最大限の圧力」であり、目的は必ずしも体制変革ではなく行動を変えることだ。イスラエルの軍事力による威嚇とイラン産原油への制裁強化を通じて、新たな核合意の可能性を探るシナリオは十分にあり得る。イランとのディール(取引)は第2期政権の目標の1つだと、トランプは繰り返し発言している。
確かにトランプ政権1期目には、イランはトランプとの取引に応じる意思をほとんど見せなかった。トランプの最大限の圧力に、イランは最大限の抵抗で答えた。サウジアラビアの最も重要な石油施設を攻撃し、自国が支援するイエメンのイスラム教武装組織フーシ派にもサウジアラビアへのミサイル攻撃を実施させた。業を煮やしたトランプは、イラン革命防衛隊の精鋭部隊を率いるガセム・ソレイマニの殺害を命じた。
以後イランは慎重になり、1期目のトランプ政権が終わるまでは、核開発の推進や代理勢力を使ったイラクとシリアの駐留米軍への攻撃強化を見合わせた。そして2期目のトランプ政権が発足しようとしている今、イランの代理勢力はトランプ1期目と比べ大幅に弱体化している。
イランは2期目のトランプとの取引に応じるだろうか。ハメネイは常々アメリカはイランの譲歩だけでは満足せず、イランの現体制を倒そうとしていると述べているから、現時点では取引成立は望み薄なようだ。
だがハメネイが何より重視しているのはイランの現体制の存続であり、それが脅かされれば戦術的な調整も行う。それゆえイランがトランプと交渉を行うため、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に仲介を頼んだとしても、特段驚きはない。交渉が実現するか、実現しても実りのある内容になるかは分からないが、交渉が行われる可能性は排除できない。
たとえ交渉が実現しなくとも、「抵抗の枢軸」が弱まり、中東における力の均衡が変化しつつある今、この地域の国々および諸勢力の相互関係が変化する可能性はある。米中央軍(CENTCOM)は既に中東における防空・ミサイル防衛協力の枠組みづくりに成功している。この枠組みにはサウジアラビアを含むアメリカと同盟関係にある全てのアラブ諸国に加え、イスラエルも参加している。トランプ政権1期目には中東版NATOの創設案が議論されていたことも思い出してほしい。
地域の防衛協力強化の流れは今後も続くだろう。2期目のトランプ政権はより広範な経済協力の枠組み構築(1期目にトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーが主導していた構想だ)も推進するだろう。
トランプは、アブラハム合意の拡大にも意欲を見せている。これはUAEを皮切りにアラブ諸国などが次々にイスラエルと結んだ国交正常化の合意で、トランプはサウジアラビアにもイスラエルと国交を結ばせたいと考えている。
サウジアラビアはバイデン政権に対しイスラエルとの国交正常化の条件として、自国とアメリカとの2国間防衛協定の締結と、パレスチナ国家樹立に向けて米政府が確実に道筋をつけることを挙げた。問題はトランプがこの要求を満たせるかだ。防衛協定の締結には議会の承認が必要だし、ネタニヤフは政権内の極右の反発を恐れ、パレスチナ国家との共存の可能性を頑強に拒否している。
いずれにせよサウジアラビアはガザ戦争が続いている限り、イスラエルとの関係を正常化しないだろう。イスラエル軍は残る人質の解放のためにも停戦交渉を進めたいようだ。ネタニヤフの考えは分からないが、トランプは自分が就任するまでに戦闘が終息していることを望むとネタニヤフに言い渡したので、停戦に向けて重い腰を上げるかもしれない。
要は、サウジアラビアとイスラエルが国交を正常化すれば、中東情勢は一変する、ということだ。バイデンが残された時間でその課題を達成できなければ、就任1年目にトランプが達成を目指すだろう。たとえ達成できなくとも、イスラエルがヒズボラとハマスを大幅に弱体化させ、イランの影響力も低下した今、和平の実現はともあれ、中東の安定化が進む条件は整っている。
トランプ政権がサウジアラビアとイスラエルの関係改善を仲介したいなら、ヨルダン川西岸の入植地建設を進め、パレスチナ自治政府の崩壊を狙うネタニヤフ政権内の極右の動きに待ったをかける必要がある。同時に、機能不全に陥っているパレスチナ自治政府に改革を進めるよう強く働きかける必要もある。今ならサウジアラビアやUAEも改革推進の圧力をかけてくれるだろう。
直感に反するにせよ、2025年は中東情勢は安定に向かう可能性がある。もちろん、そこは中東のこと。物事はたいがい裏目に出る。イランは地域大国の座を取り戻そうと、核保有を急ぐかもしれない。ガザ戦争は終わらないかもしれず、フーシ派は海賊行為を続けるかもしれない。悪いカードを探せばキリがないが、トランプ率いる次期政権には挑戦のチャンスが与えられている。
イランの影響力低下をテコに中東の安定化を推進できるかどうか。それがこの政権の外交力を試す初期の最大のテストの1つとなる>(以上「Newsweek」より引用)
「イランの弱体化でトランプは中東安定化の好機を生かせるか」と題してデニス・ロス(DENNIS ROSS)氏が論評を書いている。簡単にデニス・ロス(ワシントン中近東政策研究所)氏のことを紹介すると、彼はブッシュ(父)およびクリントン政権下で中東和平交渉を担当し、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)の中東・東南アジア特別顧問をしていた人物だ。つまり民主党政権で中東政策に関わってきた人だ。
だから当然というべきかトランプ氏に対しては批判的だ。題からして「イランの弱体化でトランプは中東安定化の好機を生かせるか」とは何事かと思わざるを得ない。中東の平和が壊れたのも、ロシアがウクライナへ侵略戦争を仕掛けたのもバイデン民主党政権下の事ではないか。決してトランプ氏が世界の火薬庫に火をつけたわけではない。
ハマスに対してイスラエルが地上軍を投入して徹底的に攻撃したため、ハマスには組織でイスラエルに攻撃する力は無くなったという。ただ無力化された戦闘員が数千人いることから、今後とも数人単位で自爆テロなどを仕掛けることは可能だという。
そうするとハマスの資金面と食糧面を支えた国連組織UNRWAを解体して、もう一度ぜゼロからガザ地区への支援体制を組み直す必要がある。往々にして国連機関が活動家の巣窟になっている場合がある。日本政府もただ黙って拠出金を支払うだけでなく、国連の運営に関しても嘴を挟まなければならない。
イランが弱体化したのはイランの支援を受けていたハマスとヒズボラをイスラエルが徹底的に叩いたからだ。当時マスメディアはイランが対イスラエル攻撃を本格化させ、核戦争の危機を迎えるなどとイスラエルに対イラン攻撃を控えるように論陣を張っていた。しかしそうはならないと私はマスメディアを批判した。なぜならイランは対岸の火事が望ましいのであって、自国に火が付けばハメネイ師はモスクの奥院で独裁者として暖衣飽食している暇がなくなるからだ。
果たしてイスラエルがイランへのミサイル攻撃を踏み切ると、イランは反撃を試みたものの核兵器を使うまでもなく弱体化した。そしてドミノ倒しのようにシリアのアサド独裁政権が崩壊した。
独裁者は対岸の火事が望ましい。自国に火の手が迫ると独裁者の地位が危うくなる。習近平氏も台湾進攻を叫んでいる間が彼にとって最も望ましい状態だ。実際に台湾海峡で戦争が勃発すると、習近平氏は台湾軍によってではなく、自国の軍部によって独裁者の地位から排除されるだろう。
独裁者は絶対的な権力を掌握しているようで、実は手の中に何も持ってはいない。彼もまた一人の人間でしかない。たった一発の銃弾で絶命する、という点において独裁者もまた一般的なヒトでしかない。しかもヒトの命は永遠ではない。健康も永遠ではない。実に脆い生命体でしかないヒトが独裁者の地位であり続けること自体に無理がある。ハメネイ師もイスラム教の信徒なら宗教の戒律に従って速やかに疑似・聖職者の地位から去るべきだ。そして政治を国民の手に委ねるべきだ。