トランプ氏の再登板で「男が男らしく、女が女らしい社会」を目指すマノスフィアが支持を広げるか。

<アメリカ大統領選でトランプ当選のカギを握ったのは、若い男性のトランプ氏への投票だったとされる。そして、そんな投票行動に一定の影響力をもったとしていまアメリカで注目されているのが、「男性中心主義者」たちが集まるネットコミュニティ「マノスフィア」だ。

マノスフィアに「住んでいる」かのような…
 ジョー・ローガンやエイディン・ロスなどのマノスフィア的な人気配信者によるポッドキャストのきわめて重要な共通点は、一回のライブストリーミングが2〜4時間に及ぶことだ。
「ながら視聴」できるポッドキャストの特色を最大限に活かしているし、お金がない若者には、それだけの時間が無料でつぶせるというのも嬉しい。
 さらに、これらのポッドキャストを魅力的にしているのは、時間に縛られず台本なしで長時間対話することで、出演者の人間性がよくわかり親しみが高まることだ。嘘がなく、本心からしゃべっているように見える内容は、リアルさを求める若いZ世代にアピールする。
 オーディエンスとチャットしたり、生で電話をつないで会話するポッドキャスターもいる。リスナー同士のコミュニティも形成される。まるで「その世界に住んでいる」かのような気持ちになれるのだ。こうした側面から、ポッドキャストは、マノスフィアの「エコーチェンバー」(同じ意見が反響する部屋)になっているとも言われる。
 また、ジョー・ローガンのポッドキャストは、かつて地上波やケーブルテレビが担っていた情報番組の役割も果たしている。テレビを見なくなった世代は、既存のニュースメディアの代わりに、こうしたポッドキャストに、情報や知識を依存している。
 内容的には、「既存の常識」や「ポリティカル・コレクトネス」への不信が反映されたものが目立つ。伝統的なニュースメディアが信じられなくなった若者は、ここに来ることで「ようやく自分が聞きたかった番組に出会えた」と感じていることだろう。
 ただし既存のニュースとは違い、その内容はファクトチェックされることもない。編集を経ない「剥き出し」の内容も多く、フェイクニュースや陰謀論の温床になっているという批判もある。
 ジョー・ローガンがトランプを招いた回(10月25日)の配信は3時間近くに及んだが、冒頭からローガン自身が「あなたほどプロの政治家から組織的に攻撃された大統領はいませんよね」ときわめて好意的な姿勢を見せ、終始フレンドリーで批判的な態度は一切なかった。ほかのニュースを見ていなかったら、「トランプは正しいことをやろうして攻撃され続けている犠牲者」にしか見えなかっただろう。
 後日CNNは、このローガンの配信には、事実と違う内容が32ヶ所あったと指摘した。

なぜマノスフィアが人気を博す?
 このように男性性が誇張されたポッドキャストが、なぜ大統領選を左右するまで人気を博すのだろうか?
 マノスフィアの住人の多くは、男として生まれながら自分の男性性に自信が持てなかったり、自分がそんなふうに自信をもてずに弱気で生きなければならない現代社会に強い不信感を持っている。
 
その原因は女性だ……と彼らは考えているようだ。
 たとえば現在のアメリカでは、女性の大卒の割合は男性よりも高くなっている。社会でも女性リーダーが増え、その地位は確実に上がっている。しかし社会が問題視するのは、人工妊娠中絶の権利など女性の人権に関するものがほとんどだ。そうした中で自分は取り残されている——そんなふうに自分を「被害者」だと感じたり、そのためにフェミニズムへの反発を感じてたりしている者も多い。
 その一方で、一部の男性のあいだでは、そうした考え方とはまったく反対の「有害な男性性」という考え方も広がっている。「従来の男らしさは男性に押し付けられたもので、感情を抑え込んでメンタルを病んだり、支配的で攻撃的な行動につながる“有害なもの”」という考え方だ。
 しかし、当然ながらこうした傾向への反感や不満、不安も男性のあいだで広がる。そうした反感や不満を受け止めてくれるのも、マノスフィアのポッドキャストなのだ。
 こうした背景に加え、今回ハリスが女性候補だったこと、女性の権利として中絶擁護を前面に掲げていたことなどが、マノスフィアの男性を刺激したと見られている。トランプ当選は、この男女間の分断を、一面では映しているのかもしれない。
 振り返ってみれば、イーロン・マスク氏も次期副大統領のJD ヴァンスも、そして当のトランプ氏自身も、男らしさを前面に出すという部分でも、女性蔑視的な発言を繰り返すという意味でも、ある種の「マノスフィアの住人」と言えそうだ。
 2024年の大統領選は「マノスフィアの勝利」だったのかもしれない>(以上「現代ビジネス」より引用)




 シェリー めぐみ(ジャーナリスト・Z世代評論家)氏が「アメリカで「男性中心主義者たちの配信」が、若者世代に大人気になっている…その「意外な理由」」と題する論評を発表した。その中にマノスフィアという言葉がたびたび登場するが、簡単に説明しておく。
 マノスフィアとはフェミニズムの反対で、若い世代を中心として全員が男性という特徴を持つインフルエンサーの緩やかな集合体だ。彼らは細分化が進むオンライン社会における、単一的文化の担い手になっている。2024米国大統領選でトランプ氏勝利の一翼を担ったといわれている。

 マノスフィアが全米に広まったのはポッドキャスト(Podcast)だという。ポッドキャストとはApple社の携帯音楽プレイヤー「iPod」と放送を意味する英単語の「broadcast(ブロードキャスト)」が組み合わさった造語だ。つまりインターネットを通してiPodで聞けるラジオ放送を指していたが、現在ではインターネットを通じて配信される音声番組のこと、あるいは仕組み全体を指すようになっている。
 そうするとラジオ放送と異なり、何時でも何処でも聴ける。忙しい時には中断して、後から続きを聞くこともできる。しかもスマホやタブレット、パソコンに入っている専用アプリを使うことで、さまざまなジャンルのトークや音楽を聞くことができる。もっともポッドキャストを提供している事業者によっては無料で聞くことができる場合もあれば、有料の場合もあるが。ともあれ、ポッドキャストを介してマノスフィアが爆発的に広まった。

 米国では日本にいては想像できないくらい女性の社会進出が進んでいる。引用文中にあるように、大卒の過半数は女性になっているし、企業でも女性が上司というのは特殊なケースではなくなっている。そうした行動力のある女性の進出により、男性が男性らしく振舞うのが難しくなっている。
 今回の米大統領選ではトランプという男性らしい候補者が支持され、彼が指名した副大統領も男性らしい風貌と発言を繰り返している。トランプ氏が側近として持ち上げているマスク氏も男性らしい実業家だ。つまりホワイトハウスがまさにマノスフィアになる。

 だが、マノスフィアが女性蔑視ということではない。男性が男性らしくなると、女性に優しくなる。ただ単に乱暴なのはマノスフィアではなく、野蛮でしかない。
 米国がLGBTq活動家たちにより、社会で「性」の垣根が破壊されてきたが、それは動物としてのヒト社会では異常なことだ。米国民の70%が信仰するキリスト教の教えにも反する。国民から宗教という大きな箍が外れることによる社会的な影響を無視してはならない。それは道徳心の喪失であり、良心の欠落に通じるからだ。トランプ氏が福音派に支持されたこととマノスフィアに支持されたことに関係性があることも事実だろう。それは古き良き米国の社会へ回帰する精神性の表れかもしれない。

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