選挙時の「米国ファースト」と現実政治の「米国ファースト」は異なる。

<トランプを支援したイーロン・マスク氏は電気自動車(EV)メーカー、テスラの最高経営責任者(CEO)で大株主だが、EV嫌いのトランプはバイデン政権のEV支援策を全て覆すとみられている。トランプ氏はマスク氏を「政府効率化省」のトップに起用すると発表している。
 米国の自動車産業の雇用を守るため、メキシコ、欧州産自動車の米国への輸出に高関税を課す可能性もある。実行されれば、影響はメキシコ工場を持つ日本メーカー4社を含め世界中のメーカーに及ぶ。米国の消費者も輸入車価格の上昇に直面する。

 トランプの選挙期間中の自動車市場に関連する発言は、主に二つのことについてだ。一つは関税だ。中国製EVに対しては現バイデン政権が100%の関税を課したが、トランプは、メキシコ、欧州製自動車に対しても関税を課すと発言している。
 もう一つは補助と規制だ。EVへの補助金と内燃機関自動車の排ガス規制見直しに触れた。米国ではEVの販売は鈍化しながら伸びているが、EVへの補助金を廃止し、さらに内燃機関自動車に関する排ガス規制を見直せばEV導入は減速する。
 もっとも、選挙期間中にマスクがトランプ支援を表明したことから、EV攻撃の手を少し緩めたが、現在のEV支援制度の廃止については考えを変えていないようだ。関税、環境規制緩和、EV補助金廃止、いずれも自動車市場に影響を与え、米国の輸入車市場で大きな地位を占める日本の自動車メーカーもやがて影響を受けるだろう。
 トランプ当選報道のあった先週1週間の株価の変動を見ると、選挙のあった火曜日を境にテスラ株は31%、米GM株は9%上昇。ドイツ・フォルクスワーゲン株は7%下落、中国のEVメーカーBYD株(米店頭取引)は、やはり7%下落している。
 既に影響が株価には現われているが、トランプ就任後世界の自動車産業はどうなるのだろうか。

共和党の政策綱領とEV
 大統領選挙の共和党の政策綱領は、民主党の政策綱領の約8分の1の字数と簡潔だが、その中に共和党大統領の下、上下院で多数派を形成した場合に実行される20の約束が書かれている。15番目には「EVの強制化の廃止、費用が掛かり負担となる規制の中止」とある。
 民主党の政策綱領は輸送部門からの温室効果ガスの排出が最も多いことに触れ、30年の新車販売台数の50%をEVにする目標、スクールバスの電動化などの具体策を掲げ環境問題の解説もある。両党の綱領は対照的だ。
 政策綱領は、両党の支持者のEVに対する評価の違いを反映している。今年6月の調査会社オートパシフィックの研究調査によると、EV保有者の54%は民主党支持、30%が共和党支持。EV購入を検討するとの回答者の内46%が民主党支持、28%が共和党支持、購入しないとの回答の内40%が共和党支持、28%が民主党支持だった。
 EVを購入しない理由(複数回答)の1位は、充電時間が長い(52%)、2位充電設備が自宅にも職場にもない(51%)、3位価格が高い(49%)だったが、政治的信条の違いも8%あった。

目の敵にされるメキシコ産自動車
 選挙キャンペーン期間中に、トランプはメキシコからの不法移民と貿易関係に触れている。もし、メキシコが不法移民の送り込みを止めなければ、全ての米国向け輸出品に25%の関税、それでも止まらなければ75%の関税を課すと発言している。
 自動車については、もっと高い税率にも触れている。中国の自動車メーカーがメキシコに工場を建設し米国向けにEVを輸出する計画があることを踏まえ、「国境のすぐ向こう側に工場を建設し、自動車を輸出することで、米国とデトロイトを破壊するのであれば、メキシコ産の自動車には200%の関税を課す」と表明している。
 当初は100%の関税と発言していたが、後半の演説では200%に上がった。演説中には500%という数字も出ている。この発言を文字通り解釈すると、EVだけではなく全てのメキシコ産自動車が関税の対象と取れる。
 メキシコには、早くから日産自動車が進出し、人気大衆車のサニーをベースにしたメキシコ仕様車「ツル」を販売していた。今でもメキシコでタクシーに乗ると「ツル」に出くわすことがある。
 日産だけでなく、トヨタ、ホンダ、マツダも工場を持っている。日本メーカーだけでなく、フォルクスワーゲンなどのドイツメーカーも工場を持つ。23年のメキシコから米国への輸出台数は250万台だ。
 24年1月から9月の米国向け自動車輸出額のトップはメキシコ、第2位が日本だ(図-1)。マスクは、昨年3月にギガファクトリー(大規模工場)をメキシコに建設すると発表したが、その後全く進展はない。様子を見ているのだろう。


 そんな中、トヨタがメキシコへの追加投資を行うと報道された。トランプの発言は必ずしも実行されるわけではないので、関税は課せられないとの判断だろうか。
 トランプは、キャンペーン中、欧州連合(EU)に対しても貿易が不均衡と不満をぶつけている。「EUが米国産農産物、自動車の輸入を増やさないのであれば、EUからの輸入品に10%の関税を掛ける」と発言している。


 図-2が米国での今年上半期の自動車メーカー別のシェアを示している。現在の自動車の課税率2.5%が大きく引き上げられ、仮に10%の関税が課せられるとすると、シェアが高い日本メーカーにも大きな影響がある。

EVが伸びる米国市場の今後は?
 バイデン政権は、米国製EV購入には最大7500ドル(約110万円)の税還付制度を導入している。さらに、充電ステーションの整備、EV製造、バッテリー製造も補助している。
 キャンペーン中にトランプは、就任一日目にEVへの補助を廃止すると述べており、インフレ抑制法のEVに係る部分の執行を停止する可能性が高い。
 米国のEV販売の伸びは鈍化しているが、9月の実績ではバッテリー稼働(BEV)のシェアが7.7%、プラグインハイブリット(PHEV)のシェアが2.0%、合計9.7%と、今年上期の実績合計9.1%よりわずかだが伸びている。ちなみにハイブリッドのシェアも上期の9.1%が9.6%に上昇している。
 税還付は販売に好影響を与えているだろうが、昨年EV購入時の補助金が打ち切られ、一時販売が大きく落ち込んだドイツではEV販売は回復している。
 BEVあるいはPHEVを好む消費者の多くは税還付制度にかかわらず、EVを購入すると思われるので、EV販売の落ち込みは短期間で終わるのではないだろうか。

イーロン・マスクの思惑は
 なぜマスクはEV推しではないトランプの支援に回ったのだろうか。トランプが大統領になればEVへの風当たりが強くなり、テスラの販売も影響を受けるはずだ。
 その状況でもテスラにはメリットがあるとの判断だろう。バイデン政権のEV支援のメリットを大きく受けたのは、EV専業メーカーのテスラよりも製造面の支援も受けたGMやフォードだった。
 米国でのEV販売台数が増えている中で、テスラの販売台数は頭打ちになりEV内のシェアは下落を続けている(図-3)。


 競合相手よりメリットが相対的に少ないのであれば、補助がなくなればテスラの相対的競争力は優位になり、販売の落ち込みが短期間で終われば、テスラにはプラスのはずだ。
 17年のトランプ政権が始まった時に、マスクはトランプ政権に助言する企業人の組織に呼ばれ参加した。しかし、半年後にトランプ政権が温暖化に関する国際協力であるパリ協定を離脱する意向を明らかにした際、「パリ協定を離脱するのであれば、俺はトランプ政権への助言から離脱する」とタンカを切り2つの組織を離れた。
 当時EV販売の大きな謳い文句は温暖化対策だった。トランプは温暖化懐疑論、マスクは温暖化しているとの立場だった。いま温暖化問題はEV購入のそれほど大きな動機ではないだろう。
 加えて、マスクがやはりCEOを務める宇宙企業、スペースXは政府から支援を受けている。政権に近づくメリットは大きい。マスクはビジネスに役立つかどうかの視点で判断しているのだろう。だが、今後の展開次第では17年当時と同じくケンカ別れするかもしれない。
 もう一つ、当時とマスクの立場が異なることがある。フォーブスによると、マスクは世界一の資産家で、その額は3040億ドル(約45兆円)だ。資産の内訳の主なものは、テスラ株が約1200億ドル(オプション権を含まず)、スペースX株が900億ドルだ。
 17年当時との比較では、株価と資産価値は大きく上昇した。トランプが勝利したのでテスラ株は3日間で約30%上昇した。マスクの得た額は、約300憶ドルだ。
 CNNは、マスクがトランプ支援に投じたとされる1億1900万ドルと資産上昇額を比較すると、とんでもなく効率が良い投資だと皮肉っぽく伝えている。

予見性のない市場で投資はできるのか
 米国では既に中国製EVには100%の関税が課せられ、中国製EVは税額控除の対象外になっている。EUも中国製EVに最大45%の関税を課す。
 テスラの主力工場の一つは中国上海だ。中国から米国あるいは欧州への輸出があれば競争力が損なわれるが、その可能性はないのだろうか。


 テスラの工場別生産能力と販売台数を比較すると(図-4)、中国から米国、欧州に輸出される可能性は小さく当面影響を受けることはなさそうだ。ただし、欧州ベルリン工場はタイプYしか製造しておらず、他の車種については中国あるいは米国から輸出する必要がある。
 マスクは当然その計算もしたうえで、トランプを支援していると考えられるが、メキシコへの投資には躊躇している。
 自動車のように、大きな設備投資を必要とする産業では数年先までの市場が予見できなければ投資は困難だ。間違えるとメーカーは人員整理まで追い込まれる。最近もドイツと日本で判断を間違ったケースが表面化した。
 トランプの登場により当面市場の先行きは見えなくなった。トランプに近いマスクですら投資に踏み切れない時代だ。
 自動車メーカーはここで読み間違いをしないように、米国市場については慎重な行動が当面必要になってきたのではないか>(以上「Wedge」より引用)





【トランプとマスクが自動車市場を破壊する?】メキシコ産への高関税は日本車にも影響必須、補助金廃止でEV販売はどうなるのか」と山本隆三( 常葉大学名誉教授)氏が今後のトランプ政権下でマスク氏の存在がどのような影響を与えるのか推測している。
 確かにEVを製造しているマスク氏にとって、パリ協定を離脱しCO2温暖化説に立たないトランプ氏はEV企業にとってマイナスの存在ではないか。それなのに、マスク氏はトランプ氏を支持した。

 それは極めて短期的に大成功を収めた投資だった、とCNNは皮肉っている。なぜならマスクがトランプ支援に投じたとされる1億1900万ドルに対して、トランプ氏当選によりマスク氏が保有するテスラ株が約1200億ドル(オプション権を含まず)、スペースX株が900億ドルなどだが、トランプが勝利によりテスラ株は3日間で約30%上昇した。マスクの得た額は、約300憶ドルだという。
 マスク氏はトランプ支持により300億ドルもの利益を得たが、さらに何を目論んでいるのだろうか。トランプ氏は実業家マスク氏との関係が利益関係にならないように気を付けなければならない。なぜならトランプ氏同様に、マスク氏にも敵が大勢いるからだ。

 山本氏は自動車産業だけに焦点を当てて論述しているが、米国が世界各国と関係している世界戦略産業は他にもある。それは半導体で、現在中国と熾烈な貿易戦争を展開している。
 自動車よりも半導体の方が米国の未来に大きく関係している。自動車の一部でしかないEVを気にするよりも、半導体にこそ目を向けるべきではないか。

 たとえばNVIDEAは今後AIが進化し普及すると現在よりも一層巨大な企業になると予想されるが、NVIDEAは生産拠点をメキシコに移すべくメキシコ中部ハリスコ州グアダラハラに 全長450メートルの広大な工場を建設している。
 トランプ氏がメキシコから米国に輸入されるすべての工業製品に高関税を課すなら、NVIDEAは世界戦略の変更を強いられるだろう。なぜなら米国が世界最大の顧客であることに変わりないからだ。

 さらに米国は世界に散った半導体製造企業を米国に集約しようと国内投資を積極的に行っている。それによりTSMCも日本だけでなく、米国にも半導体工場の建設を発表した。
 トランプ政権はMAGA政策を強力に推進するために、半導体製造の世界一の国に米国をしなければならない。半導体戦略に米国の未来がかかっている。決してEVでも自動車でもない。中国が2nm半導体製造に乗り出そうとして、韓国企業から半導体製造機器を輸入しようとして米国の逆鱗に触れたことがある。親中派のバイデン政権ですら半導体に関しては中国に厳しい態度で臨んできた。トランプ政権になると、対中半導体規制は一層厳しいものになるだろう。

 しかし米国の半導体世界戦略にオランダと日本の協力は欠かせない。なぜなら半導体製造機械でオランダ企業が独占しているし、半導体製造に欠かせない部材や部品を日本企業が独占しているからだ。半導体製造で米国が優位を保っているのは半導体設計分野だ。
 米国は日本とオランダと協業してこそ、半導体製造で世界トップを保つことができる。トランプ氏が「米国ファースト」を貫くためには、国際的な協力関係が不可欠だという現実を受け入れる必要がある。つまりメキシコ産の工業製品に高関税を課すことが米国にとって必ずしも良い結果をもたらさないことを受け入れなければならないだろう。

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