BRICs会議に現れた習近平氏の落日。
<■ 停滞気味の中国外交
「BRICS首脳会議で表情さえなかった習近平主席、北朝鮮兵士をウクライナ戦争の戦場に送り込むプーチンに怒り心頭か」近藤 大介(現代ビジネス副編集長)氏が書いた論評の題だ。北京のBRICs首脳会議の議長席に座った習近平氏の顔色が冴えなかったのは、多くのBRICs参加国が首脳ではなく、政府幹部を北京へ送り込んだからではないか。
何だかこのところ、中国外交がパッとしない。もしかしたら、中国経済の失速とともに、習近平政権の看板外交政策である「一帯一路」(中国とヨーロッパを陸路と海路で結ぶワンベルト・ワンロード)に翳(かげ)りが出ているからかもしれない。それとも、他に理由があるのか?
今週10月22日から24日まで、習近平主席が、ロシア中部の都市カザンを訪れた。16回目のBRICS(新興国グループ)首脳会議に出席するためだ。
BRICSはもともと、2008年にG20(主要国・地域)が始まったことを受けて、先進国グループのG7(主要先進国)に対抗するため、翌2009年にロシアが音頭を取って始めた組織だ。BRICSという言葉は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(南アは2010年より参加)の頭文字である。英語でレンガを表す「BRICK」に近いことから、そう呼ばれるようになった。
だがほどなく、ロシアから中国に主導権が移った。中国の経済規模は、他の4カ国の合計よりもはるかに大きいため、必然とも言えた。習近平主席は、2013年3月に国家主席に就任すると、同月に早速、南アフリカBRICS首脳会議に初見参。いとも易々と主導権を取ってしまった。その自信をもとに、同年秋、「一帯一路」を提唱したのだ。
最近のBRICSの傾向は、そうした中国の主導権によって、参加国を拡大していることだ。いわゆる「大金磚」(ダージンジュアン=Big BRICS)である。今年1月に、イラン、エジプト、UAE(アラブ首長国連邦)、エチオピアが正式に加わり、9カ国体制となった。
さらに、以下の13カ国が、パートナー国候補に挙がっていると報じられた。キューバ、ボリビア、インドネシア、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タイ、ベトナム、ナイジェリア、ウガンダ、トルコ、ベラルーシ、ベネズエラ。
中国は、西側諸国が「小圏子」(シアオチュアンズ=ミニグループ)をこしらえていると非難するが、中国が主導権を取る形で、「全球南方」(チュエンチウナンファン=グローバルサウス)をまとめようとしているのである。それはもちろん、アメリカおよびG7への対抗強化だ。
だが、そんな「壮大な野心」を抱いているにしては、今回の習近平主席は地味な存在に映った。以前のような「どの国もオレが唱える『一帯一路』について来い」という「覇気」が見られなかったのである。
まず22日の昼に、カザンの空港に降り立った時から、力なく見えた。むしろ後ろから連なってタラップを降りてきた蔡奇党中央弁公庁主任、王毅外相ら随行者の方が、元気いっぱいである。
まず22日の昼に、カザンの空港に降り立った時から、力なく見えた。むしろ後ろから連なってタラップを降りてきた蔡奇党中央弁公庁主任、王毅外相ら随行者の方が、元気いっぱいである。
■ 「北朝鮮兵士のロシア派遣」でウクライナ問題が東アジアにも飛び火
習主席は到着後すぐに、カザンのクレムリン宮殿で、ホスト国ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談に臨んだ。11年半に及ぶ「盟友」で、今回が45回目の首脳会談だ。 中国側の報道によれば、この会談で習近平主席が語ったのは、以下のようなことだ。今年が両国国交樹立75周年であり、75年にわたって両国は揺るぎない友好関係を築いてきた。来年は国連創設80周年であり、両国は国連安保理の常任理事国同士として、全面的な戦略的パートナーシップを深化させてきた。そして中ロの揺るぎない関係のもと、団結協力するBRICSが、グローバルサウスにさらに多くの機会を提供するだろう……。プーチン大統領も、似たような発言をしたと、中国側は報じている。
だがCCTV(中国中央広播電視総台)の映像で見る限り、両首脳の間にほとんど笑顔は見られない。本人たちの音声が入っていないので発言内容は窺い知れないが、どちらも厳しい表情で主張し、渋い表情で聞いている。
習近平主席にしてみれば、「北朝鮮(朝鮮人民軍)をウクライナ戦争に参戦させるなど、何ということをしてくれたのだ」と、怒り心頭だったのではないか。それによって、「NATOのアジアへの拡大」や「アジア版NATO設立」(石破茂首相の持論)といった動きが起こることを、中国は警戒しているのだ。「ロシアとウクライナの問題を、東アジアに飛び火させるな」ということだ。
実際、北朝鮮の派兵が報じられる直前の10月14日、中国はロシアのアンドレイ・ベロウソフ国防相を、北京に呼びつけている。この日は、中国人民解放軍が、台湾周辺の6カ所で、空母「遼寧」と戦闘機など153機を繰り出して軍事演習を行ったことが、大々的に報じられた。だがその裏で、董軍国防相はベロウソフ国防相から一日かけて、「北朝鮮参戦問題」について事情聴取をしたのである。
一方で、プーチン大統領にも、習近平主席に対して不満がある。それはアメリカからの「二次制裁」を恐れる中国の大手銀行が、中ロ貿易に関わることに及び腰なことだ。そのため、中国海関(税関)総署の統計によれば、今年1月から9月までの中ロ貿易は、ドル換算で2.0%しか伸びていない(中→ロ2.4%増、ロ→中1.7%増)。
一方で、プーチン大統領にも、習近平主席に対して不満がある。それはアメリカからの「二次制裁」を恐れる中国の大手銀行が、中ロ貿易に関わることに及び腰なことだ。そのため、中国海関(税関)総署の統計によれば、今年1月から9月までの中ロ貿易は、ドル換算で2.0%しか伸びていない(中→ロ2.4%増、ロ→中1.7%増)。
これは、昨年の両国の貿易額が前年比26.3%(中→ロ46.9%増、ロ→中12.7%増)も伸びたことを鑑みれば、「停滞」と呼んでもいい。ロシアにしてみれば、米欧から強烈な経済制裁を受けている手前、中国との貿易がいわば「生命線」だ。それなのに、中国の態度は何事かというわけだ。
■ モディ首相に対する両首脳の態度の差
プーチン大統領は、続いて行ったインドのナレンドラ・モディ首相との会談では、「私たちは通訳を必要としないほど心が通じ合っている」と述べ、一転して満面の笑顔になった。 習近平主席も、翌23日にモディ首相と会談した。何と5年ぶりの「2ショット」だった。2020年に中印国境地域で両軍が衝突して以降、両首脳はプイと横を向いてしまった。ニューデリーでモディ首相が議長役を務めた昨年9月のG20(主要国・地域)サミットも、習主席はドタキャンした。
今回、ようやく「再会」を果たしたが、両首脳の間に寛いだ笑顔はなかった。中国側の報道によれば、習主席が述べたのは、両国は古代の文明国同士だとか、14億の人口大国同士だとか、だから協力とパートナー関係がふさわしいとかいったことだ。モディ首相も賛同したという。まるで「握手することが目的」の会談だったかのようだ。
両国は、10月21日に双方が国境地帯の係争地域から撤退することで合意。25日にインドのPTI通信は、実際に両軍の撤退が始まったと報じた。
■ グローバルサウス諸国で中国の政治体制や習近平思想に憧れ抱いている国はない
■ グローバルサウス諸国で中国の政治体制や習近平思想に憧れ抱いている国はない
習主席は23日、BRICS首脳会議で、「登高望遠、穿雲破霧 推動『大金磚』高質量発展」(高みに登って遠くを望み、雲を穿(うが)ちて霧を破る Big BRICSのハイクオリティ発展の推進)と題したスピーチを行った。
「われわれは『ピースBRICS』を作り、共同安全の保護者となる。『イノベーションBRICS』を作り、ハイクオリティ発展の先行者となる。『グリーンBRICS』を作り、持続的な発展の実践者となる。『公正BRICS』を作り、全世界の統治システム改革の牽引者となる。『人文BRICS』を作り、文明和合共生の提唱者となる。
中国はBRICSの各国とともに『Big BRICS協力』のハイクオリティの新局面を開拓していく。そして、さらに多くの『グローバルサウス』の国と手を携えて、共同で人類運命共同体の建設を推進していく」 CCTVは、習主席がカザンの空港へ向かう沿道に駆り出された「中国人留学生応援団」を大写しにした。彼らは「習主席、再見!」と歓声を上げ、「五星紅旗」(中国国旗)を振りまくった。だが、こうした大仰な演出や、中国が「Big BRICS」とアピールする割に、中国の存在がこじんまりした首脳会議だった。
思えば、グローバルサウスが憧れるのは、あくまでもチャイナ・マネーであって、中国の政治体制や、それを支える習近平思想などではない。そこがアメリカに対する憧れと異なるところだ。そのため、中国経済が悪化していけば、容易に「カネの切れ目が縁の切れ目」となってしまう。
中国が世界の「新しいリーダー」を目指すなら、まずは自国の経済をV字回復させるしかない。そのことを再認識したBRICS首脳会議だった>(以上「JB press」より引用)
「BRICS首脳会議で表情さえなかった習近平主席、北朝鮮兵士をウクライナ戦争の戦場に送り込むプーチンに怒り心頭か」近藤 大介(現代ビジネス副編集長)氏が書いた論評の題だ。北京のBRICs首脳会議の議長席に座った習近平氏の顔色が冴えなかったのは、多くのBRICs参加国が首脳ではなく、政府幹部を北京へ送り込んだからではないか。
習近平氏は中国内の政治主導権争いにBRICsを利用しようと考えていたようだが、集まった顔ぶれを見て落胆したようだ。一方、北京に馳せ参じたBRICs各国幹部たちもチャイナマネーが枯渇したのならワザワザ北京に来る必要などない、という胸算用がある。
習近平氏は中国経済を維持・発展させるためには先進自由主義諸国と良好な経済関係を維持する必要があることを理解している。しかし国内に向けては「毛沢東に匹敵する存在としての習近平」を演出する必要から西側諸国と対峙姿勢を見せなければならない。「戦狼外交」はそうした国内統治戦略として編み出されたものだが、それにより習近平氏は中国経済の凋落を招いた。
対ロ政策に関しても、中国内には背反する二つの立場がある。一つはロシアを助けて西側諸国と対峙する伝統的な共産主義革命路線を踏襲する立場と、もう一つは現実的にかつて奪われた沿海州や中央アジアの領土を取戻すためにロシア支援から手を退き、西側諸国と協力してプーチンの敗戦とロシア解体に向けて手を貸そうとする動きだ。
習近平氏はロシア支援の立場に立っていたが、プーチンは必ずしも中ロ同盟関係に則り、習近平氏と親密な関係を持続させようとしていない。むしろロシアの危機的な経済を維持するためなら「何でもアリ」で、中国と敵対関係にあるインドにも廉価な石油を輸出し、実質的に中国の支配下にある北朝鮮とも関係を深めている。
そうした動きは中国の安全保障に関してマイナスだ。ことに北朝鮮がロシアとの関係を深めて対中依存から脱却すれば、対韓外交政策を改善する必要が生じて来る。豆満江で接する中国北東部だけでなく、旧満州には朝鮮族や女真族の多くが暮らしている。彼らが反北京の動きを起こせば厄介な火種が中国内に増えかねない。
習近平氏は世界の覇権国家を夢見ていた。そのために「一帯一路」や「新シルクロード」策を推進して、莫大な「元」を進出諸国に投資し貸与してきた。そのためにAIIB投資銀行まで設立した。しかし、それらがすべて不良資産に成り果て、灰燼に帰そうとしている。
中国がBRICsの盟主となって西側諸国と対峙する構想も、ここに来て潰え去ろうとしている。習近平氏は自分が描いていた未来構想がすべて失敗に終わろうとしている現在、国内でも反・習近平派の動きが強まり、これまで反腐敗運動の名目で粛清して来た共産党幹部たちが勢いを盛り返している。ことに胡錦涛派の勢力は無視できないほどになっている。それに並んで江沢民の末裔たちの動きも無視できない。しかも軍部のすべてがも必ずしも習近平氏に忠誠を誓っているとはいえない状態だ。
経済崩壊と相俟って、中国政府内部から聞こえて来る不協和音は次第に強くなっている。中国民の貧困化も限度を超えようとしている。しかも中共政府は有効な経済政策を打つための原資は底を突き、超長期国債・50年物を発行する始末だ。近藤氏は「中国が世界の「新しいリーダー」を目指すなら、まずは自国の経済をV字回復させるしかない」と指摘しているが、経済をV字回復させるためには不良債権処理を断行するしかないが、そのための公的資金は既に払底している。