間もなくプーチンの戦争はプーチンの敗北で終わる。

「奇襲攻撃」の恐ろしさ
「奇襲」直後の8月9日付のロシア語の新聞「コメルサント」に掲載された地図(下)からわかるように、「奇襲攻撃」は広範囲におよぶ。ウクライナ軍に攻撃された範囲を狭くみせたいロシアだが、それでも下図からわかるように、クルスク州を中心に激しい戦闘が展開されたことがわかる。
 もっとも重要なことは、ウクライナ軍によって「奇襲攻撃」が行われた事実である(私は三度戦争保険に入り、現代の戦争を体験しているが、よほどことがないかぎり戦争そのものについては語らないようにしている)。
 リトアニア国営ラジオ & テレビが8月26日に公表した、ベン・ホッジズ元米欧軍司令官のインタビューを読めば、「奇襲」の意味合いがよくわかる。彼はつぎのように語っている。
「クルスク国境地域を車で通ってきたばかりだという人物と話をしたが、その人物によると、ロシア側には哀れな『ドラゴンの歯』(下の写真)と有刺鉄線があるだけで、他には何もなかったという。障害物は、背後に人がいなければ意味がない。そうでなければ、簡単に排除できる。
 実際、ウクライナ軍はそれをやってのけた。ウクライナ軍は防衛が手薄な場所を選んだ。クルスク、ハリコフ、ベラルーシ国境を含むこの北部地域の地図を見たロシア軍は、ウクライナ軍が攻撃してくることはないだろうと考えた」

「パールハーバー」(真珠湾攻撃)並みの「奇襲攻撃」
 つまり、ウクライナ軍は、かつて日本軍がアメリカのハワイ州の真珠湾にあった米海軍太平洋艦隊およびその基地を奇襲攻撃したのと同じように、敵たるロシアの油断に乗じて攻撃を行い、大成功を収めたことになる。
 ホッジズ自身、アメリカ史上、驚かされた例として、たとえば、真珠湾攻撃や1944年12月のドイツ軍の攻勢、あるいはベトナム戦争をあげたうえで、つぎのようにわかりやすく解説している。
「これらのケースではすべて、敵(日本、ドイツ、あるいは北ベトナム)が何かを計画している兆候があったが、我々の状況認識と一致していなかったため、予想外の出来事となった。今回のケースでは、ロシア参謀本部は何かを見て、何かを知っていたが、それが彼らの状況認識と一致しなかった。ウクライナが実際にこのようなことをするとは信じられなかったのだ」
 どうだろうか。まさに、ウクライナ軍による今回の「奇襲攻撃」は、「パールハーバー」並みの出来事なのである。

「ドーリットル空襲」並みの「奇襲」
 別の見方もある。ABCニュースの寄稿者で、CIAの準軍事将校や国防副次官補を務めたミック・マルロイは、「当初は真珠湾攻撃後のドーリットル空襲のような心理作戦を意図していたが、その成功を基にさらに展開した」と説明している。
 この「ドーリットル空襲」とは、ドーリットル中佐を指揮官とするB-25爆撃機16機が1942年4月の段階で、日本本土各地(東京、横須賀、名古屋、神戸など)に空襲を実施した作戦を意味している。真珠湾の奇襲に怒った米軍は、1年もたたないうちに復讐・報復を急いだのである。
 ロシアもまた、8月26日には、ウクライナの広範囲にわたって200発以上のミサイルと無人機を発射し、エネルギー施設に被害を与え、キエフの住民を地下や地下鉄に避難させた(下の写真)。ウラジミール・ゼレンスキー大統領は、この攻撃を30か月続く戦争における「最大級の攻撃」の一つと非難した(NYTを参照)。

核兵器使用とハードルを下げた「奇襲攻撃」
 優れた専門家は、今回のウクライナ軍の暴挙が「奇襲攻撃」であり、それがとくにアメリカ人に「パールハーバー」を連想させることを知っている。ということは、今回、ロシアのプーチン大統領はウクライナに対して強い復讐心をいだいたことは間違いない。
 ここで思い出すべきなのは、アメリカ軍が2回も日本に核兵器を使用した際に、「パールハーバー」の奇襲を受けていたことに対する復讐という面から、核兵器の使用に対する躊躇(ちゅうちょ)という心理的障害を乗り越えた事実である。つまり、プーチン大統領は今回の「奇襲攻撃」を被ったことで、今後、ウクライナ戦争を終結させるために、あるいは、ロシア領土を防衛するために、核兵器をウクライナに対して使用する心理的ハードルが低くなったと感じているはずなのだ。
「パールハーバーの奇襲を受けたアメリカは、日本に対して2回も核兵器を使用したのだから、同じく奇襲を受けたロシアがウクライナに核兵器を使用して何が問題なのか」というロジックが成立するかもしれない。少なくとも、プーチンが核兵器を使用するかどうかのハードルは確実に下がったと推測できる。今回の「奇襲攻撃」は、ウクライナの独立記念日である8月24日を前に「成果」を示したいと思ったゼレンスキー大統領による「大失態」なのである。
 私と同じように、米政府の外交政略、すなわち民主主義を世界に広がるために戦争をいとわないリベラルデモクラシー戦略に反対しているジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授は、「ウクライナのロシア侵攻は何を意味するのか? ウクライナの(クルスクへの)侵攻は大きな戦略的失策であり、敗北を加速させるだろう」とはっきりと書いている。軍部が敗北を認めなければ、日本と同じように、核兵器が使用される可能性さえ出てきたのだ。
 さらに、別のサイト情報によると、彼は、「悪いことに、キーウはウクライナ東部の最前線から、そこでもっとも必要とされている一流の戦闘部隊を撤収させ、クルスク攻撃部隊の一部として編入した」として、「この動きにより、すでに圧倒的に不利な戦況がさらにロシア側に傾くことになる」と断定している。加えて、「クルスク侵攻がどれほど愚かな考えであったかを考えれば、ロシアが驚いたとしても不思議ではない」とまで書いている。

「奇襲攻撃」を「越境攻撃」と報道する日本のマスメディア
 最後に、日本の主要マスメディアは、この「奇襲攻撃」の重大性をよく知ったうえで、これを「越境攻撃」と表現することで、ウクライナ軍の愚かな行動を隠蔽しようと躍起になっているという話をしたい。
 たとえば、「毎日新聞」は8月10日付で「ウクライナの『想定外の奇襲』でロシアに衝撃 越境攻撃5日目」という記事を配信している。だが、その後は、「奇襲」という言葉を使わなくなっている。「朝日新聞」は8月15日に、「越境攻撃、ロシアを揺さぶる ウクライナの事前通告なし、米は容認」、同月25日に、「ウクライナ兵すら予期しなかった越境攻撃 彼らが考える「平和」とは」という記事を配信しながら、あえて「奇襲攻撃」という言葉を避けている。
 これに対して、アメリカでの報道は日本ほど徹底された情報統制下には置かれていない。たとえば、8月15日の段階で、NYTは、「ウクライナのロシア侵攻はプーチン大統領のシナリオを覆す」という記事では、 “surprise incursion into a sliver of Russia’s Kursk region”のように「ロシアのクルスク地方の一角への奇襲攻撃」という表現が使われている。
 同じ日にデヴィッド・フレンチというNYTのオピニオン・コラムニストが書いた長文記事には、「奇襲攻撃」を意味する“surprise offensive ”とか“surprise attack”といった単語はまったく用いられていない。あえてウクライナによる「奇襲攻撃」を隠蔽して、「ウクライナの攻撃を『侵略』と呼んではならない」と主張している。ウクライナを擁護するためには、「奇襲攻撃」とは書きにくいのだろう。何しろ、日本軍がかつてアメリカにやったことと同じことを、ウクライナ軍がロシアに行ったのだから。
 それでも、NYTは8月20日の記事「ゼレンスキー大統領、ロシアへの侵攻は西側のレッドラインが『甘い』ことを示していると発言」のなかで、“surprise offensive”、すなわち、「奇襲攻撃」という言葉が使われている。「The Economist」も22日に公表した記事において、“Ukraine’s surprise mini-invasion of Russia”( ウクライナのロシアへの奇襲ミニ侵攻)という表現を用いている。
 どうだろうか。日本の報道がいかに厳しい「情報統制」下にあることがわかってもらえただろうか。それだけ、日本政府は「奇襲攻撃」を隠したいのであろう。逆に、本稿はそれだけ今回のウクライナによるロシア侵攻の核心をついているものであると自負している。読者のみなさんはどうか、だまされないでほしい>(以上「現代ビジネス」より引用)




 塩原俊彦(元高知大学大学院准教授・元新聞記者)氏は「奇襲攻撃」という言葉がよほどお気に入りのようだ。「「越境攻撃」と称される「ウクライナ版・真珠湾攻撃」……最後はロシアの核兵器を浴びるぞ」と題した論評を一読して、塩原氏の強い思い込みと、荒唐無稽な論理展開に驚いた。
 まず断っておくが「真珠湾攻撃」を「奇襲攻撃」だと評したのは「米国政府のプロパガンダ」だった。事前に開戦を駐米国大使に打電して、日本政府は米国政府に通告していた。残念ながら駐米大使館が手間取っている間に攻撃が開始されたが、米国政府は暗号解読によって真珠湾攻撃を知っていた。だから真珠湾に停泊していた太平洋艦隊を避難させ、遺物のような老朽戦艦だけを残した。

 ウクライナ軍がロシア領内へ進軍したのは奇襲でも何でもない。プーチンが始めた戦争でウクライナが反撃に出た作戦の一つでしかない。それもウクライナの地上軍が地続きの土地を移動して進入しただけだ。しかもプーチンがベラルーシ国境から首都キーウを目指して戦車を大量に侵攻させたのがウンライな侵略戦争の戦端を開く作戦だったことから、ウクライナ軍がロシア国境を越えて侵攻しても「パールハーバー」並みの奇襲作戦ということにはならない。
 ましてや原爆投下した当時と、現在とでは人種と人権意識がまるで異なる。1945年当時の世界は帝国主義国と植民地がアジアやアフリカをはじめ世界中にあった。しかも日米の戦争は有色人種が始めて白人国家に近代正規軍で戦争した出来事だった。しかしプーチンがウクライナに仕掛けた侵略戦争は全く異なる。現代世界に植民地は存在せず、人種的偏見はタブーとされている。

 塩原氏は時代感覚を有してないようだ。日本国民は原爆投下した米国を永遠に許さないし、日本が植民地解放のために戦った先の戦争の意義を現代史上では過小評価か、あるいは無視されているが、歴史的な見直しがされる日は必ず来るだろう。米国が日本に対して仕出かした東京大空襲など、全国各地の都市部を焼夷弾で焼き払い無辜の市民を大量虐殺したことも無かったことのように扱われているが、近い将来に歴史的な見直しは必ずされるだろう。
 プーチンがウクライナ侵略戦争で行ったウクライナの市街地攻撃と市民の虐殺は国際司法裁判所で裁かれ「有罪」になっている。世界を支配している「国連安保理常任理事国」の大統領が裁かれて「有罪」になっている。プーチンは悪逆非道な事とは無縁な顔をしているが、国際司法裁判所で戦争犯罪を問われ「有罪」とされた事実は重い。

 このブログに何度も書いたが、核兵器は「使えない」という意味で究極の防衛兵器であって、相手を殲滅するための攻撃兵器ではない。塩原氏は「最後はロシアの核兵器を浴びるぞ」とウクライナのみならず世界を脅しているが、たとえプーチンが自身の地位を守るために核使用に踏み切ったとしても、彼の側近若しくは軍部が「殿ご乱心」と叫んで阻止するだろう。今のところ戦争犯罪に問われているのはプーチン本人であって、側近や軍部はプーチンの指揮の下、作戦行動を実施しているに過ぎない。しかし核使用に同調すれば彼らも正常に「職務遂行」したとの言い逃れは通用しない。プーチンと同罪となり、歴史に悪名を刻むことになる。
 米国による世界支配は永遠ではない。先の大戦の歴史的見直しは必ず行われ、トルーマンや彼の側近、そして軍部で原爆投下作戦に関わった人たちを「人類に対する罪」で断罪される日は必ずやって来る。原爆投下が先の大戦の早期終結を決定づけた証拠は何もない。そのことは史料で明確に証明されている。たとえプーチンが核兵器を使っても、ウクライナは滅びない。その反対にプーチンは確実に滅びるだろう。核兵器を使用してかつての米国のように「勝利者」になることは許されない。1945年当時と現代は大きく変わっていることを、まず認識すべきだ。

 間もなくプーチンの戦争は、プーチンの敗北で終わる。侵略軍に勝利させては、国際社会が保てないから、西側諸国は一致団結してウクライナを支援する。たとえ今年11月にトランプ氏が勝利しようと、米国がウクライナ支援から手を退くことはあり得ない。なぜならかつて原爆を日本に投下したのが米国だからだ。

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