「ドリル、ベイビー、ドリル!」のトランプ氏に軍配が上がる。

<米大統領選の民主党候補指名を正式に受諾したハリス副大統領の経済政策は、税控除や安価な処方薬に関する提案などを通じて、コストを引き下げ、低・中流階級の米国民の経済機会を高めることに重点を置いている。
 超党派の「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」の分析によると、大統領選でハリス氏が勝利すれば就任後100日間の政策を通じ、10年間で1兆7000億ドル(約247兆円)の赤字が増加することになるという。ハリス陣営は、米国の富裕層や大企業への増税によって、このプログラムのコストを打ち消すことができるとしている。
 ここでは、エコノミストたちがハリス氏の経済提案の主要部分をどのように評価しているかを検証する。

減税延長
 トランプ政権時代の2017年に成立した減税・雇用法(TCJA)はトランプ前大統領の代表的な法律で、企業とほとんどの米国民の税率を引き下げたが、2025年末に期限切れとなる。ハリス氏は、40万ドル未満の所得者には税率を維持し、高所得者には増税することを提案している。
 また、法人税率を現行の21%から28%へ引き上げることも主張している。この増税が米国の歳入を増やすという考えだ。
 しかし、TCJAの一部でも延長するのは「非常に高くつく」と、バイデン政権下で財務省高官として働いたキンバリー・クラウジング・カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロースクール教授(税法・政策)は言う。
 共和党の大統領候補であるトランプ氏は、 減税を全面的に延長し、法人税率のさらなる引き下げを実施したいと述べている。
 個人富裕層への増税は、子ども税額控除の拡大など、ハリス氏の他の経済政策の財源になり得るとクラウジング教授はみている。
子ども税額控除の拡大復活
  ハリス氏は、民主党が2021年に打ち出した「米国救済計画」に盛り込まれ、その後失効した子ども税額控除の拡大を復活させることを提案している。
 控除額は、対象となる扶養家族1人につき2000ドルから最大3600ドルに引き上げられ、新生児には新たに6000ドルの控除が設けられる。
 エコノミストらは、この制度がもたらす経済効果、特に子どもの貧困に与える影響を高く評価しているが、これはハリス氏の提案の中で最もコストのかかるものになると見積もっている。
 米国勢調査局によると、子どもの税額控除の拡大により、子どもの貧困率は2021年に過去最低の5.2%まで低下した。
 ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授は「貧困の中で育つ子どもたちは、生産性が低い。学校での成績も悪くなり、その後の人生もうまくいかなくなる」と話す。
「ほとんどのエコノミストは、価格統制は悪い政策であり、経済に悪影響を及ぼすと言う」
 
連邦政府による便乗値上げ禁止
 詳細はまだ漠然としているが、ハリス氏は食品や食料品の便乗値上げを禁止する連邦法の制定を求めている。
 同氏の提案によると、連邦取引委員会(FTC)やその他の機関が、価格つり上げに関する規則に違反した企業に新たな罰則を科し、食品業界の競争力強化に役立てるというものだ。
 この提案は、ハリス氏目標を具体的にどのように達成するのか疑問視する一部のエコノミストから批判を浴びている。
 ほとんどのエコノミストは、価格統制は悪い政策であり、経済に悪影響を及ぼすと言う。しかし、ムーディーズのチーフエコノミストであるマーク・ザンディ氏は、反トラスト(独占禁止)法や競争力強化政策は有益だとし、価格上限・操作の支持はしないが、競争慣行や価格設定慣行、業界に対する監視を強化することは良い政策だと考えている。
「市場が競争的であること、消費者が適切な購買決定を下すために必要な情報を全て持っていることを確認することに重点を置くべきだ」と同氏は論じる。業界の慣行は食品インフレのペースを遅らせる可能性がある一方で、物価の下落を引き起こす公算は小さいという。

新たな住宅所有者・建設会社優遇措置の創設
 ハリス氏は初めて住宅を購入する人への住宅ローンの頭金支援として最大2万5000ドルもの提供を提案している。
 また、そうした人々が購入するのに適したいわゆるスターターホームを手がける建設会社への税制優遇措置も提案し、住宅建設における技術革新に拍車をかけるため、400億ドルのイノベーション基金の創設を呼びかけている。
 スティグリッツ教授によれば、これらの措置は住宅不足を解消し、コストを引き下げる可能性がある。しかし、アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)の経済政策研究ディレクター、マイケル・ストレイン氏によると、このプログラムは需要を増加させ、逆に住宅価格の上昇につながる恐れがあるという。
「ハリス氏は初めて住宅を購入する人への住宅ローン頭金支援として、最大2万5000ドルもの提供を提案している」

医療給付の拡大
 ハリス氏は全ての米国民を対象に、処方薬の自己負担額を年間2000ドルに制限することを提案している。また、インスリンの支払いを月35ドルに制限し、連邦政府関連の市場に関する保険への補助金を増やし、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)に薬価交渉を迅速化させることを望んでいる。
 スティグリッツ教授は、ハリス氏のプログラムは、特に処方薬やインスリンの支払いに依存している人々の生活費を削減する上で大きな意味を持つだろうと説明。
 ハーバード大学のデービッド・カトラー教授(経済学)は、自己負担額の上限を決めるにはもっと詳細な情報が必要だとしながらも、「恐らくそれほど高くつき過ぎることはないだろう」し、多くの米国人にとって必要不可欠な薬が安くなることでもたらされる利益は大きいかもしれないとの見方を示した。

チップに課す連邦税の廃止
 ハリス氏もトランプ氏も、チップに課す連邦税の廃止を提案しているが、エコノミストらはこの案に懐疑的だ。まじめな経済政策というよりは、選挙のための政治的な話題づくりと見られている。
 スティグリッツ教授は、接客業従事者の低賃金問題を解決するには、最低賃金を上げるのがもっと良い方法だと指摘。ストレイン氏は、この提案を「米国が非常に深刻な財政不均衡に陥っているタイミングでの連邦税収を減らす仕掛け」と呼んだ>(以上「Bloomberg」より引用)





 Bloomberg紙が「ハリス氏の経済政策、エコノミストらはどう見ているか」との見出しで、ハリス氏が発表した経済政策を批評した。
 いうまでもなく、ハリス氏の経済政策は一体何をどうしたいのか、目的と政策が全くかみ合っていない。経済原理からいうと、インフレを抑制するには「需要を抑制する」か「供給を増やすか」しかない。

 だがハリス氏が発表した経済政策は「新築住宅建設補助金を出す」とか、「消費者物価を抑制する」といったチンプンカンプンな政策だった。それらの政策は需要をさらに増加させ、インフレを促進するからだ。
 それに対してトランプ氏の政策は簡明だ。「ドリル、ベイビー、ドリル!」(掘って掘りまくれ!)とは、シェールオイルを新規に掘削して供給を増やせ、というスローガンだ。もちろん供給を増やせばガソリン価格は下落する。環境問題を重視するハリス氏に口が裂けても云えないが、先の任期で「パリ協定など糞喰らえ」として脱退したトランプ氏にとっては極めて当然のスローガンだ。

 チップ課税を廃止するのは「低所得者課税」を廃止することであって、需要の拡大とは言い難い。本来ならインフレ抑制時は増税が正しいが、低所得者向けには生活保障の面があって彼らの対して減税することは必要だ。
 しかしチップ課税廃止はトランプ氏のアイディアであって、ハリス氏のものではない。人のアイディアに賛意を示すと覇にはそれなりの作法が必要だ。つまり「トランプ氏の掲げたチップ課税廃止に、私(ハリス)も賛成だ」とか発言すれば視野の広い人として受け容れられるだろう。

 ただオバマケアーを引き継ぐ医療保険の拡充は社会保障としては良いが、そのための財源を示す必要がある。日本は国民皆保険として手厚いの医療保険制度を実施しているが、そのために総支出は20兆6,746億円だ。そのうち事業主負担は8兆7,299億円、被保険者は11兆9,447億円となっている。 その他は5兆2,183億円だが、そのうち患者負担は4兆9,161億円となっている。
 米国の人口は日本の約三倍だから、日本並みの医療保険を実施しようとすれば80兆円以上の財源を捻出しなければならなくなる。その場合、国民負担部分で「負担は応能で支給は一律」という社会保障のあり方に米国民が賛同するかどうか疑わしい。なぜなら米国民は1960年代まで共有していた「キリスト教徒の国」という共通認識が崩壊し、現在では新自由主義に近い「自己責任」の社会が色濃くなっているからだ。そうすると「個人責任」だから個々人が万一に備えて保険に入っているべきだ、ということになる。

 最後に、ハリス氏が簡単に消費者物価を下げる、と発言したのは問題だ。それは「統制国家」ということになり、「自由市場」を旨とする自由主義国家の本旨に反するからだ。政治とは社会を統制することではなく、国民の自由意思により社会統合することを目指さなければならない。
 つまり政策で消費者物価の高騰が沈静化するように誘導しなければならない。選択肢は「需要の抑制」か「供給の拡大」二者択一かあるいは両方かだ。そうした政策により消費者物価の沈静化を市場原理を通して実現するのが政治だ。ハリス氏は政治が分かっているのだろうか。

 熱狂的なハリス旋風が去って、やがて冷静な政治論争を展開しなければならなくなる。その最初の関門がテレビ討論だが、六月のテレビ討論ではバイデン氏の認知症が露わになって大統領選から撤退を余儀なくされた。9月に予定されているテレビ討論ではハリス氏は大口を開けて大笑いして済ますことは出来ない。さらに、拍手喝采を浴びせてくれる聴衆もテレビスタジオにはいない。
 ハリス氏は彼女にとって経験のない冷静な政策論争を展開しなければならない。しかもバイデン政権の大きな失政「不法難民を大量に招き入れた」ことに対する弁明も用意しなければならない。おそらく、米国民はトランプ氏に軍配を上げる結果になりはしないだろうか。

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