民主的な手続きを排除した、民主党の大統領候補レース。

「トランプvs.ハリス」の行方
 先週末から始まったパリ夏季オリンピックが、連日盛り上がりを見せている。
 だがその間にも、アメリカでは激しい大統領選のデッドヒートが続いている。しかも、このところの動きがめまぐるしい。簡単に整理すると、以下の通りだ(いずれもアメリカ東部時間)。
6月27日: ジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領によるTV討論会で、バイデン大統領の「老化」が顕著になる
7月11日: バイデン大統領がNATO(北大西洋条約機構)首脳会議の関連で、ウクライナのウォイロディミル・ゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と紹介。続く会見では、カマラ・ハリス副大統領を「トランプ副大統領」と発言
13日: トランプ前大統領が撃たれる
15日~18日: 共和党大会開催
15日: 共和党がJ・D・バンス氏を副大統領候補に選出。同氏が受諾演説
18日: 共和党がトランプ氏を正式に選出。同氏が受諾演説
21日: バイデン大統領が選挙戦からの撤退を発表、ハリス副大統領を指名
22日: ハリス副大統領が民主党の大統領候補にほぼ内定
8月1日頃: 民主党がハリス氏を正式に大統領候補に決定
7日頃: ハリス氏が副大統領候補を指名
19日~22日: 民主党大会
9月10日: 2回目のテレビ討論会(トランプ氏vs.ハリス氏)
11月5日: 大統領選挙、連邦議会選挙
 この中で、私は二つの大きなポイントがあると見る。一つは、来月の上旬に、ハリス氏が誰を副大統領候補に選ぶかだ。
 これについて、ワシントンのある専門家に聞くと、こう明言した。
「ハリス副大統領は、ペンシルヴェニア州知事のジョシュ・シャピロ氏を、副大統領候補に指名するだろう。51歳の敬虔(けいけん)なユダヤ人だ。
 民主・共和の激戦州の出身であること、これまでの選挙戦で圧倒的な強さを見せていること、行政官としての実務能力の高さが折り紙付きなこと、そして何より、ハリス副大統領が深い信頼を寄せている政治家だからだ。ハリス副大統領とウマが合う政治家は、民主党内で意外に少ない。
 もしもシャピロ知事が副大統領に指名され、民主党が大統領選に勝利したら、ハリス政権というよりも、大統領と副大統領が一体となって国政を進める『ハリス&シャビロ政権』となるだろう。それどころか、事実上のシャピロ政権となるかもしれない。つまり、ハリス大統領は『お飾り大統領』ということだ」
 「お飾り副大統領」は数多いたが、「お飾り大統領」というのは、これまでのホワイトハウスではなかった概念ではないか。
 もう一つのポイントは、これまで約3年半、副大統領として実績に乏しいハリス氏が、11月までに、自らの「成長」をアピールできるかだ。つまり、いまでこそ「ご祝儀相場」で、国民の支持や選挙資金が集まっているが、3ヵ月後、本当にトランプ前大統領を打ち負かせるのかということだ。この専門家が続ける。
「正直言って、その点が最大のポイントとなってくる。百戦錬磨のトランプ氏は、次々に攻撃(『口撃』?)を仕掛けてくるだろう。共和党の39歳のバンス副大統領候補も未熟だが、ハリス氏は大統領候補なので、責任や注目度がまるで違う。
 結局、そこのところは、シャピロ氏がハリス氏をフォローするだろう。だが、シャピロ氏にとって、今回はゴールではない。狙っているのは、あくまでも2028年の大統領選だ。そのため、シャピロ氏がどんなパフォーマンスを見せるかは未知数だ」
 アメリカの各種世論調査によれば、大統領選まで3ヵ月あまりとなった現在、「トランプvs.ハリス」の支持率は、ほぼ拮抗している。調査によって、どちらかが数パーセントのリードがあったりするが、いずれも誤差の範囲内と言ってよい。つまり、すべては「ラスト3ヵ月」の勝負だ。

ハリスの対中政策はどうなるのか
 そんな中で、「中国ウォッチャー」の私が注視するのは、来年以降の米中関係だ。次期アメリカの政権が、どのような対中政策を取ってくるかは、当然ながら日本にも大きく影響してくる。
 トランプ氏の対中政策は、前回政権を担ったこともあり、ある程度予測がつく。大統領に就任して2年目の2018年3月から「対中貿易戦争」を仕掛け、習近平政権を大いに困らせた。2020年からは、新型コロナウイルスの発生源を巡って、「チャイナウイルス」と呼んで中国を叩いた。
 おそらく、来年から2期目の政権を担えば、さらに中国に対して強硬に出るだろう。習近平政権からすれば、戦々恐々の「恐(こわ)トラ」状態だ。
 それに対して、ハリス氏の対中政策が、よく見えてこない。大統領選まであと3ヵ月あまりであり、異例の事態だ。
 おそらく基本は、バイデン政権の外交政策の継続だろう。すなわち中国に対しては、「競争・対決・協調」の「3元外交」で臨むということだ。
 AI他、先端技術の開発などでは競争し、南シナ海や東シナ海、台湾海峡の領土・領海問題、香港・新疆(しんきょう)ウイグル・チベットなどの人権問題などでは対決し、地球温暖化問題などでは協調していくというものだ。
 だが、ハリス新政権になれば、バイデン政権で外交の主軸を担ってきたアントニー・ブリンケン国務長官が交代する可能性もある。新たな国務長官が、別の外交政策を模索するかもしれない。もしかしたらハリス氏本人も、中国とどう接していくのかについて、漠としているのかもしれない。
 7月22日、『ボイス・オブ・アメリカ』が、ハリス副大統領の過去の発言録を発表した。それによると、中国関連の主な発言は、以下の通りだ。
・「アメリカの(対中)政策は、デカップリング(中国との分断)ではない。デリスキング(リスク回避)だ」
・「中国が経済的に問題を起こしているのは、秘密のことではない」
・「安定を求める場合や、国際的なルールや規範が順守され、尊重される場所への投資を探す場合、中国は最良の選択肢ではないかもしれない。そのような理解が、ますます高まってきている」
・「われわれは、東シナ海と南シナ海で(中国の)不穏な行動を目撃しており、最近では台湾海峡を越えた挑発も目撃している」
・「中国は、国際ルールに基づく秩序の重要な要素を損なっている。中国は海洋の自由に挑戦している。中国は軍事力と経済力を駆使して近隣諸国を威圧し、威嚇(いかく)している。われわれは国際法が許す限り、いつでもどこでもひるむことなく、恐れることなく飛行し、航行し、活動し続ける」
・「南シナ海におけるフィリピンの利益に対するいわれのない(中国の)行動という点で、いま起きていることは重大だ。われわれはフィリピンを支持することを明確にしている」
 この他、『ボイス・オブ・アメリカ』によれば、2019年に共和党のマルコ・ルビオ上院議員が提出した「香港人権・民主主義法」の共同提案者になった。2020年に成立した「ウイグル人権政策法」も共同提案し、可決を促進した。
 その一方で、「賀錦麗」(フー・ジンリー)という中国名を自分で名乗り、全米最大の中華街を抱える地元カリフォルニア州などで、親中的な態度も見せてきた。また習近平主席とは、2022年11月のバンコクAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で初対面を果たし、笑顔で談笑している。
 一体ハリス副大統領は、「反中」なのか、それとも「親中」なのか? 前述のワシントンの専門家はこう語る。
「実際のところは、『反中』でも『親中』でもないのではないか。あえて言うなら、中国に対して無関心だ。
 トランプ氏の『アメリカ・ファースト』は有名だが、あれは諸外国との関係はアメリカの国益を第一に考えるということだ。外国との関係を活用してアメリカの国益を高めようというものであり、外国へは並々ならぬ関心を抱いている。
 それに対して、ハリス氏はそもそも内向き志向の政治家で、海外の諸事情に格別の関心がない。それは中国に限ったことではない。
 そのため、ハリス政権が発足したら、最も懸念されるのは、外交と安全保障問題だ。もちろん、表面上はバイデン政権の継続を謳うだろうが、ワシントンでは大統領の関心が薄い問題は進捗しないものだ」
 日本としては、アメリカで「親中政権」が発足するのも困るが、「対中無関心政権」が発足するのも困る。ハリス政権が発足したら、なかなか難しい外交を迫られることが予想される。

私にも一つ、思い当たるフシがある。
 私はこの一年半ほど、フィリピンが実効支配していて中国も領有権を主張しているセカンド・トーマス礁に関して、取材を続けている。両国の争議が激烈になっているのは、周知の通りだ。
 そんな中、フィリピンは当然、同盟国のアメリカを頼っている。ところが、バイデン大統領はこの問題を、主にハリス副大統領に任せている。
 フィリピンのある関係者に言わせると、「ハリス副大統領の本気度が見えない」のだそうだ。この問題には、日本もだんだんと関係してきているが、日本の防衛関係者に聞いても、ハリス副大統領の前向きな評判は聞こえてこない。
 逆に、中国からすれば、ハリス氏のインド太平洋地域への「無関心」ぶりは、望むところだろう。実際、このところ中国のメディアには連日、ハリス副大統領の笑顔があふれている。それまでの「恐トラ」は、どこかへ吹き飛んでしまったかのようだ。

行間に透ける「ハリス頑張れ!」の声
 7月27日、新華社通信は、「ハリスとトランプの民意調査はどっこいどっこい」と題する記事を出した。
〈 最新のデータが示しているのは、すでに基本的に決まったと言える民主党の大統領候補者のハリス副大統領と、共和党候補者のトランプ前大統領の民意調査の結果は接近していて、膠着(こうちゃく)状態にあるということだ。(中略)
 6月末、民主党のバイデン大統領は、トランプ前大統領と行ったテレビ討論会で、アピールに失敗した。多方面から、健康状態と政権継続の将来性についての懸念が加わった。島内では選挙戦の撤退を迫る声が高まり続けた。
 今月21日、バイデンは政治家と世論の圧力を受けて、再選を目指す選挙戦からの撤退を宣言、ハリスを大統領候補者とすると唱えた。ハリスは22日、すでに民主党内の必要な支持を得ており、早期の正式指名を期待していると述べた。
 民主党の全国代表大会は8月19日から22日まで、シカゴで開催される。民主党はその前にオンライン投票を行い、(ハリス氏を)正式に党の大統領候補者として確定させる計画だ。今年のアメリカの大統領選挙の投票日は、11月5日だ 〉
 このように一見すると、事実を淡々と述べた記事だが、行間からは「ハリス頑張れ!」という声が聞こえてくるかのようだ。
 同日の『界面新聞』は、もっと露骨だ。「トランプは年寄りすぎると嫌われ、ハリスが民意調査で抜き始めた」と題した記事を掲載した。
〈 年齢は米共和党のドナルド・トランプ大統領候補がジョー・バイデン大統領を攻撃する時の武器にしていた。だが最新の民意調査によれば、現在59歳で副大統領のカマラ・ハリス民主党大統領候補が前面に出てきたため、年齢は「ブーメラン」となって、トランプを突き刺すべく向かっているのだ。
バイデンが撤退した後、ハリス候補が有権者との「蜜月期」を迎えている。ますます多くのマイノリティや若者の有権者たちが、ハリスに対して好感を抱き始めている。(以下略)〉
 新華社も同日、「ハリスはトランプと比べて『より付き合いやすい』わけではないとドイツの財務相が述べた」という記事を出した。
〈 ドイツのクリスチャン・リンドナー財務相は、基本的に確定した民主党の大統領候補者、カマラ・ハリス副大統領は、共和党の大統領候補者であるドナルド・トランプ前大統領と比べて、「より付き合いやすい」わけではないと述べた。
 これは、2022年5月20日、ドイツのフランクフルトで撮影されたG7財務相・中央銀行総裁会議の後に出席した記者会見での映像画面によるものだ。リンドナー財務相は、ハリスの方がトランプより順調に付き合えるだろうと問われて、「私はそうは思わない」と答えたのだ。(以下略)〉
 トランプ前大統領が、前回の大統領就任時に、NATO(北大西洋条約機構)からの撤退を言い出して、ヨーロッパ側を慌てさせたことは記憶に新しい。トランプ大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相が大ゲンカし、そこに安倍晋三首相が仲裁に割って入った「証拠写真」も残されている。
 そのため、ヨーロッパは一般に、「トランプ復活」を望んでいないという見方が支配的だ。だが、「ハリスになっても大変だぞ」と念を押した記事を、新華社がわざわざ出したのである。

中国の「ハリス願望」の表れ
 7月28日、上海の『新民週刊』は、「ハリスが多くのライバルたちに電話をかけた」と題した長文の記事を出した。その結句は、以下の通りだ。
〈(前略)よく言われるのは、「大難をもって死なずば、後に必ず福が有る」ということだ。それならば、(暗殺未遂事件に遭った)トランプは、今回のアメリカ大統領選挙で福をもらえるのか?
 共和党所属のインド系の政治家、ニッキー・ヘイリーが2023年に言っていた発言が、いま再び取り沙汰されている。当時、サウスカロライナ州の知事だったヘイリーは、こう言っていたのだ。
「私の言葉を覚えておきなさい。もしもドナルド・トランプが(共和党候補に)指名されたなら、カマラ・ハリスが(民主党から)出てきて、アメリカの大統領になるだろう」
 ヘイリーはその後、アメリカ大統領選挙に出馬を表明した。共和党内部で、ヘイリーとトランプは不仲だとも言われている 〉
 わざわざヘイリー氏のこのような発言を出してくるところに、中国の「ハリス願望」が表れているとも言える。
 思えば、アメリカには約400万人の中国系アメリカ人が居住している。中国系は富裕層が多く、ユダヤ系に次いで、アメリカ政治に影響力を及ぼしているとも言われる。今後は彼らが、中国政府の意向を受けて、「ハリス支持」に回ることも考えられる。
 ともあれ、今回のアメリカ大統領選挙の結果が、日本を含むインド太平洋地域に多大な影響を及ぼしてくることは間違いない。パリのオリンピックも大事だが、アメリカ大統領選も要注視である>(以上「現代ビジネス」より引用)





カマラ・ハリスは本当にトランプに勝てるのか? そして、未だ明かされない「対中政策」はどう考えているのか?」と題して中国ウォッチャーの近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)氏が論評を出した。
 一読すると中共政府はトランプ氏よりハリス氏が2024米大統領選で勝利することを望んでいるようだ。ということは、米国の国益にとってはハリス氏よりトランプ氏勝利の方が良いということだ。

 米国民は国際情勢に鑑みて大統領選で投票するわけではない。あくまでも米国の大統領を誰にするか、を自らの投票で決める。その際、大きなポイントは米国国内政治と自分たちの暮らしを良くするのはトランプ氏かハリス氏か、ではないか。
 ハリス氏の内政の手腕は散々だろう。副大統領として唯一任された移民問題と国境問題は全くの無能だった。そのためバイデン政権下で約1,000万人もの不法移民が米国内に流入した。そして米国の納税者の負担によって彼らは主として青州に受け容れられている。

 バイデン氏は大統領に就任するや、トランプ氏が離脱したバリ協定に復帰して、シェールガスの新規開発を禁止し、アラスカから天然ガスを米国に輸送するパイプラインの建設工事を中止した。そのため米国内でガソリン価格が高騰した。
 2022年2月にはプーチンのウクライナ侵略戦争がはじまり、シーア派の海賊行為がスエズ運河を通過する船舶を脅かし海上輸送費の高騰を招いた。そうした社会コストの上昇がバイデン政権を相次いで見舞った。

 それ以前にも米軍のアフガン撤退はアフガニスタンをタリバンに譲っただけの結果に終わり、現在は中国がアフガニスタン支配を強めている。もちろんイスラエルに対するハマスのテロから始まったガザ地区の紛争もバイデン政権になって起きた。
 現在、トランプ氏とハリス氏の支持率は拮抗しているという。しかしハリス氏が「後継指名」によって突如として民主党の大統領候補になった高揚感と、御祝儀のアドバンテージがあることを忘れてはならない。そして大統領指名候補に同じ民主党(現在は「無所属」を余儀なくされている)のロバートケネディJRがいることを忘れてはならない。

 本来の大統領指名候補レースでは同一党内で大統領候補を目指す有力者たちが鎬を削って、党大会の投票結果で最終決定されるべきだ。ただ民主党はバイデン氏が現職だというだけで正式な大統領予備選に到る過程を飛び越えて、党大会前にバイデン氏を大統領候補にしていた。それは「手続き」を重視する民主主義の根幹に関わることではないのか。
 そして同様に、バイデン氏が「後継指名」したハリス氏を党大会前に民主党は2024大統領候補にしてしまった。これも8月に開催される民主党党大会を蔑ろにするものでしかない。それは果たして民主主義なのだろうか。民主党の有力者による談合政治ではないだろうか。

 11月の本選挙まで、短いようで長い。ハリス氏に吹いている高揚感の風は、間もなく止むだろう。そしてハリス氏の政治家としての棚卸が始まるだろう。そうした政治批評家たちの指弾に、ハリス氏は耐えられるだろうか。評論家たちの指摘に対して、ハリス氏は笑って誤魔化すことは出来ない。真摯に回答しなければならないが、ハリス氏にそうした用意があるだろうか。

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