トランプ氏の再選を心配する人たちは何を心配しているのか。

オバマ政権の失政
 トランプ・サンダース現象を考えるときに、日本ではオバマ政権時代の問題がよく理解されないままになっている。
 さまざまな統計をみれば、オバマ時代に格差が大きく広がり、中間層が崩壊し、労働分配率も著しく低下し……といったネオリベラル政策の悪い影響が一挙に噴出したのは明らかだ。2016年のポピュリズムの噴出のきっかけは、直前の時代の失政にあったことは疑いようもない。
 その失政のルーツをジョージ・W・ブッシュ時代最後に起きたリーマン危機、その危機のルーツをレーガン・クリントン時代に金融市場の規制を大幅に緩めたネオリベラルな政策に求めるのは、一般的な解釈だ。ただ、こうした実体経済と政策の因果関係は実際は相当複雑であろう。
 しかし、オバマ政権時代の失政は、ある意味で単純だ。政権発足(2009年1月)直前に起きたリーマン危機(2008年9月)で、それ以前から起きていた住宅ローン破綻が一挙に深刻化して中間層が崩壊するのが歴然としていた。それなのに、オバマ政権は民主党と癒着する金融資本の意向にとらわれて、救済措置を怠った。大失政であった。
 この問題は早くから有力誌『ニューリパブリック』記者の政権内議論を暴く調査報道で明らかにされた。さらにオバマ政権の人材配置と初期政策立案にかかわった「政権移行チーム」の幹部が内実を明らかにする本も書いており、アメリカの知識社会では常識化している。
 ごく最近では、民主党リベラル系のトップ・ジャーナリストの1人で多くの優れた著作を持つジョン・ジュディス(1941~)と、民主党系で人口動態による政治分析で知られるルイ・テシェイラによる共著『民主党はどこに行った』(2023年、Where Have All the Democrats Gone?:未邦訳)があらためて詳細を明らかにしている(オバマ政権の金融業界との関係とリーマン危機後の中間層救済放棄に関する初期の告発としてはThe New Republic 記者Noam Scheiber The Escape Artists: How Obama’s Team Fumbled the Recovery, Simon & Shuster,2011が、最近公刊された内部告発書としてはオバマ政権移行チームの幹部で元連邦通信委員会(FCC)委員長Reed HundtによるA Crisis Wasted: Barack Obama’s Defining Decisions, Rosetta Books, 2019がある。オバマ政権のリーマン危機失政についての以下記述は主として近刊John B. Judis and Ruy Teixeira, Where Have All the Democrats Gone?, Henry Holt & Co., 2023, Chapter Fourの記述に基づく)。

オバマ失政のあらまし
 うち、最も新しいジュディスらの著作に従って、オバマ政権のネオリベラルな失政を整理しておく。同書の第4章「オバマと失われた機会」はこの問題を詳述している。
 オバマは投資銀行リーマン・ブラザーズ破綻直後に政権を獲得した。大恐慌時代のフランクリン・ルーズベルトのように大危機の中で景気と雇用の回復を図って、民主党が金融業界の言いなりの政党でなく「普通の市民」の側にあることを示す絶好の機会を得たはずだった。
 しかし、それを実行せずに大きな機会を逃した。選挙に勝利すると、オバマはそれまでの金融業界批判をやめて、クリントン政権でおなじみのウォール街人脈を経済担当閣僚や高官に任命する。当時シティバンク会長になっていた元財務長官ロバート・ルービンの子飼いのような人物ばかりだ。明らかに、一連の金融危機に関して刑事事件になるような厳しい捜査などさせないという業界へのシグナルだった。
 その後、実際に大手保険会社AIGに1730億ドル(26兆円)もの救済資金を投入しながら、同社役員らがそこから1億6500万ドル(250億円)のボーナスをせしめたことが露見し、大きなスキャンダルとなってもおとがめなし。
 製造業の大手自動車ゼネラルモーターズ(GM)に対しては政府救済資金投入にあたって最高経営責任者の辞任を条件としたのに対し、シティグループやバンク・オブ・アメリカなど金融業界への救済資金は、そうした条件もなしに投入された。明らかに顧客を欺したようなケースがあっても、司法省はまったく手をつけていない(最終的に民事で決着が図られた)。
 リーマン破綻を受けて、オバマ政権発足時には、カリフォルニア大バークリー校教授から招いたクリスティーナ・ローマー大統領経済諮問委員会委員長が深刻な不況と失業を回避するため少なくとも1兆2000億~1兆8000億ドルの景気刺激策が必要だと主張していたのに、金融業界の意向を受けたローレンス・サマーズ国家経済会議委員長は財政赤字が投資家や市場に悪影響を及ぼすと強く主張。

オバマも同調して、刺激策は8000億ドル規模に縮小された。

 結果、刺激効果は出ず、失業率は10%まで上昇し、ローマーは再度大型刺激策を提案したが、今度は金融業界に配慮するティモシー・フランツ・ガイトナー財務長官らによって阻まれた。オバマも連邦予算の赤字削減ばかりにこだわった。
 景気は回復せず失業が増える中で、住宅ローン破産は急増し、その数は1000万件を超え、ローン返済中の全世帯の4分の1に及んだが、オバマ政権はローン破産救済策をまったくとらないままだった。破産宣告前の返済者についてとられた救済策も銀行側の消極姿勢でほとんど実行されなかった。
 当時の民主党は連邦議会でも上院で60議席と議事妨害を阻止できる多数を占め、下院でも圧倒的多数だったから、いくらでも景気刺激策や破産救済策を通すことができたのに、機会を逸した。そのためアメリカの中間層の崩壊を招き入れてしまう。

オバマケアは中間層から貧困層への再分配か
 日本では一般にオバマ政権の進歩派的な成果のようにみられている医療保険制度改革(通称オバマケア)も、実態は財政赤字問題や保険・医療・製薬各業界への配慮に縛られ、できあがった複雑な制度は必ずしも中間層に歓迎されなかった。
 無保険者が減る効果はあったが、中間層では保険料が上がるケースが多く出た。また新制度により老人医療保険予算が削減された。世論調査では市民の過半数がオバマケアについて「好ましくない」と答える状態が続いた。オバマケアは(富裕層でなく)中間層からむしり取って、貧困層に与える再分配だという印象が強まるだけであった。景気回復で失敗した穴を、医療保険制度改革で埋めようとしたが、これも保険会社などの利権に気を遣って達成できず、逆効果になったという構図だ。
 こうして中間層の崩壊が起きる一方で、AIGの事例のように税金で救済された大手金融機関の幹部らは莫大なボーナスをむさぼり、IT産業は規制のないまま稼ぎまくって、巨大な利益を得続けた。
 IT産業と民主党の強い結びつきがそうした野放図を許したとみられた。オバマ時代は格差が著しく広がり、沿岸部と内陸部の分断も顕著になっていった。
 2010年中間選挙で民主党が下院で63、上院で6と大量に議席を失ったのは、当然であった。白人労働者票や農村部票は前回選挙に比べ23~25ポイントも減らしている。2008年大統領選当時のオバマ熱は、2010年にはすっかり冷めた。2011年には『ニューリパブリック』記者の調査報道に基づく本で、金融業界優先のオバマ政権の体質が暴かれることになった。
 2011年秋にニューヨークで起きた「オキュパイ・ウォールストリート(ウォール街を占拠せよ)」運動は、まさにこうした状況(特に格差)への激しい市民(特に若者)の怒りの噴出であった。
 他方、主として共和党支持者の多い地域では、税金による大企業救済へのリバタリアン(自由至上主義)的な反発からティーパーティー運動が起きた。この運動は共和党の政治活動家らに取り込まれ、オバマ政権の縮小された景気刺激策に対しても「小さな政府」を求めて反対し、中間層としての自らの利益を損なうような倒錯した行動をとった。

これらの運動が、2016年の左右の激しいポピュリズム噴出につながっていく。
 トランプが「オバマは外国生まれだ(大統領になれる資格がない)」という主張(バーサリズム)を激しく唱え出すのも2011年ごろからだ。それが市民の間に広がる素地は、中間層の崩壊を招いたオバマへの市民の怒りにあったと考えられる。
 バーサリズムは元来、2008年大統領選の民主党大統領候補選びで、オバマと激しく争ったヒラリー・クリントンの支持者から始まった。それが、トランプによって復活させられ、共和党陣営に利用された。これも民主党・共和党の合作なのだということは忘れない方がいい(Ben Smith and Byron Tau “Birtherism: Where it All Begin,” Politico, Apr. 22, 2011.)。

「Qアノン」「ディープ・ステート」が映し出すもの
「オバマは外国生まれだ」というバーサリズムの前には、9・11テロはブッシュ政権が仕掛けたという陰謀論が広まる現象もあった。前者がオバマの中間層切り捨てに対する怒りの反映だとすれば、民主党支持者らが始めたとされる後者は無益な戦争に駆りだされる庶民の反発の投射だと考えていいだろう。
 とすれば、こうした陰謀論につらなってトランプ支持者の間ではびこるようになったQアノン現象や、そこで議論されるディープ・ステート(DS:闇の国家、国家内国家)も、ただバカげた話だと切り捨てるのでなく、それが何を反映しているのか考えてみるべきであろう。
 かつてニクソン大統領を支持した人々は「サイレント・マジョリティ」すなわち「物言わぬ多数派」と呼ばれた。
 ミシガン大学などで教えた社会学者の故ドナルド・ウォレン(Donald I. Warren[1935~97])は1970年代に「ものいわぬ多数派」にフィールドワークで分け入り、実態を知ろうと努めた。
 その結果、彼らは妊娠中絶など社会問題では保守的立場をとる一方で、社会保障や医療保険ではリベラル(進歩的)な政策を求め、単純に左右に分類できない存在であると分かった。彼らは70年代の混迷する経済や社会の価値観に翻弄されながら、生活を守ってほしいと願う人々だった。エリートに支配された政治に自分たちの声は届かず、政治から疎外されているとも感じていた。
 ウォレンは彼らが動員されれば、大きな政治変動が起きるとみて、ミドル・アメリカン・ラディカルズ(アメリカ中産階級過激派)と名付けた。頭文字をとってMARsという。ほとんど忘れ去られたウォレンのMARsの概念は、トランプ登場であらためて注目を浴びることになった。

「陰謀論」の底流にある「疎外」
 エリートに支配された政治に自分たちの声は届かず、政治から疎外されているというこのMARsの絶望こそ、裏返せば実際の権力はどこか隠されたところにあるというQアノンやDSのような陰謀論を生み出す温床であろう。
 実際アメリカでは、すでに1940年代、50年代から人民の意向とはかけ離れてエリートだけが政治を意のままにしているという問題提起はなされてきた。
『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』第2章で論じる戦前の代表的トロツキスト、ジェームズ・バーナム(James Burnham[1905~1987])の『経営者革命』(The Managerial Revolution[1941年])やC・W・ミルズの『パワー・エリート』(1956年)、少数の利権団体のみで政治が動かされていると論じたE・E・シャットシュナイダーの『半主権人民』による批判は、アメリカ民主主義の空洞化を鋭く突いたからこそ、大きな議論を巻き起こした。とすれば、ディープ・ステートのような陰謀論はエリート支配批判の一形態、庶民版とみることもできよう。
 アメリカの白人の中下層階級に起きている「絶望死」現象を見いだしたプリンストン大学のアン・ケース、アンガス・ディートン両教授は、政治力と財力が集中した政治環境の中で民主党も共和党も金持ちたちだけの政治しか行っていないと批判。白人労働者階級の大半は「選挙は富裕層や大企業によって操作されているので自分が投票しようがしまいが関係ない」と考えている実態を紹介し、2016年にトランプが大統領選で勝利したのはそうした点を考慮すれば「理解可能だ」と述べている(アン・ケース、アンガス・ディートン『絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの』松本裕訳、みすず書房、2021年、15頁)。

トランプ・サンダース現象とは疑似革命
 まさに不平等の末に、下層の人々は民主主義から疎外されていると感じている。選挙も恒常的にエリートが勝手に操作していると考えているのだから、「大統領選結果はフェイクだ」とトランプが声を挙げれば、むしろ「やっと本当のことをはっきりいってくれる政治家が現れた」と思っても不思議はない。
 実際、アメリカでは一部エリートによる支配が固定化して、民主主義は正常に機能しなくなっているということを示す優れた分析はバーナム、ミルズ……と先世紀後半からずっと続いてきたのだから、選挙はフェイクだというのは本質を突いたところさえあるのだ。
 格差問題を富裕層への減税が理由だと単純化する向きが日本には多いが、貧困問題研究などでノーベル経済学賞を得ているアンガス・ディートン教授らは「富裕層への厳しい課税は、貧困層にとってたいした救済にはならない」と断言している。問題の根源は不平等をつくりだす利権癒着、ロビー政治、市場支配力の悪用……といった「不公平なプロセス」である、という。まさに、それがオバマ政権で起きたことであろう。つまり構造的問題なのである。
 こうした不平等の構造は、場合によっては暴力を伴う革命的変革が起きなければ解決できないといわれる。トランプ・サンダース現象とは疑似革命といってよいのかもしれない。ただ、本当の革命ではないから、エリート支配構造は終わらない。異様な格差を生む不平等の構造が変わらない限り、支配される側の怒りと怨嗟の「ゴジラ」であるトランプは、いくどでもアメリカの政治に登場することになるのだ>(以上「東洋経済」より引用)




「オバマ政権の大失政」が生み出したトランプ現象告発された「金融業界癒着」「中間層救済放棄」」と題して、来るべきトランプ時代を会田弘継 ( ジャーナリスト・思想史家)氏が紐解いている。
 まずオバマ氏の大失政とは何か。ズバリそれは中間層の貧困化だ。オバマ氏はリーマンショックで苦しむ米国民よりも、米国金融機関や投資家たちの救済を優先した。そしてオバマケアで中間層から毟り取って貧困層に再配分した。

 ラストベルトの白人層にとってオバマ時代は暗黒時代だった。いやプアー白人だけでなく、貧困層の国人たちも「絶望死」を選択せざるを得ない者もいた。
 だからトランプ氏が熱狂的に迎えられた。2020年11月の選挙結果もトランプ氏がホワイトハウスの住人のはずだった。しかしバイデンジャンプやバイデン氏が登録選挙人を超える投票数を獲得するなど、明らかな不正選挙によりバイデン氏が政権を奪い取った。

 2024年の大統領選で各州の投・開票が公正に実施されるか、前回の不正選挙を反省して郵便投票なども改正されたのだろうか。ことに接戦州で選挙管理委員会を統括する総務長官は法律を遵守する人物が就任しているだろうか。
 引用論評が「アメリカでは一部エリートによる支配が固定化して、民主主義は正常に機能しなくなっているということを示す優れた分析はバーナム、ミルズ……と先世紀後半からずっと続いてきたのだから、選挙はフェイクだというのは本質を突いたところさえある」と指摘していることが、再び大統領選で起きないことを願うばかりだ。

 民主党政権がウォールストリートの住民たちによって操られていることは引用論評を一読すればだれにでも解るだろう。もちろんバイデン氏もそうだったし、バイデン氏の場合はオバマ氏と同様かそれ以上に中国に配慮して米国の威信を低下させた。それはすなわち中国の軍事的脅威を増強させることでもあり、日本の安全保障にとって好ましくない。
 トランプ氏が再選したならNATOや日本に防衛費負担増を要求するだろう、と警告する評論家がいるが、そうした事は大した問題ではない。むしろ世界の平和にとってプラスかマイナスかを心配すべきだ。少なくとも先のトランプ時代の方が、現在のバイデン時代よりも世界は平和だった。そして米国の影響力はトランプ自体の方が強かった。それがすべてではないだろうか。



<私事ながら>
 私の歴史小説「蒼穹の涯」を紙媒体の書籍化しようと、Campfireでクラウドファンディングをお願いしました。残念ながら目標額に達しなかったため、「蒼穹の涯」の書籍化を断念せざるを得ませんでした。多くの方々からご協力を頂きましたことに心からお礼申し上げます。
 「蒼穹の涯」は伊藤博文の誕生から明治四年に到るまでの半生を史料を基に脚色を出来るだけ排した伝記物として記述した作品です。伊藤博文は明治の新時代で日本憲法を制定し国会を開設し、日本の近代化に大きく寄与した偉人ですが、昨今の近隣諸国の捏造史観により業績や人格が矮小化され、棄損されています。そのため彼の実像を理解して頂きたいとの思いから史料を収集し記述したものです。
 「蒼穹の涯」は原稿用紙にして千枚を超える大作になったため、自費出版が困難になり、クラウドファンディングを試みたのですが目標額に到達しませんでした。ただ電子書籍としては既に公開していますのでこちらから検索して頂けたら幸甚に存じます。
 現実問題として、電子媒体の書籍は「市民権」が得られてないません。今のところ、私の作品はすべて電子媒体の中でしか存在していません。よって「作家・沖田秀仁」は現実世界のどこにも存在しませんが、願わくば一人でも多くの方が「蒼穹の涯」を検索されてご一読して頂きたいと思います。

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